ザンディーラの石②
「俺もユリィも、何のために毎日畑を耕して種を蒔いてるんだよ。せめて秋まで、秋の収穫まで我慢できたら……」
「……うん」
カルロの必死な声に私は頷く。
そうだ、カルロに毎日こんなに手伝ってもらってるのに台無しになんてできない。
カルロの言う通りグラソー男爵からの許可も下り、男爵領のほとんどの農地に種を植えた。ほかにも高齢化によって放棄されていた村内の農地には手伝いを行った。
「考えてみろよ、たった二人で王都の半分の人間を食わせるくらいに小麦を納められそうなんだぞ、捕まえるなんて馬鹿なことしないだろ。この国は2年前の疫病からまだ立て直してる最中で、食糧は慢性的に不足してるんだ」
「そっか。なんか、色々考えてもらってありがとう。私これからはがんばって大人しくする」
「!」
今度はカルロが極限まで目を見開き、信じられないものを見たような表情になる。
「そんなこと言って、あとで暴れるんだろ?」
「大丈夫、完全に納得した」
まだ疑っているカルロに私は胸を張る。
「あのね、私は日々成長してるの。もう私は今までの私じゃない」
「さっき成長してねーって思ったばっかりだけど俺は」
私はなるべく優しく笑う。挑発にはもう乗らない。
秋まで我慢してみせようじゃない。
「ところで監視にはどうやって気付いたんだ?」
「ああ、昨日の夜ザンディーラっていう蛇を倒したら出てきた石の効果で、匂いに敏感になったの。そしたら家の外にすっごい臭いやつがいたから」
カルロは僅かに身じろぎをして私との距離を空ける。匂いに敏感になったと言われたら気になる気持ちはわかる。
「大丈夫、今は石の効果出てないから!」
私は嘘をつく。
「まあ……あんまり使いすぎないようにな」
そのあとザンディーラの素材が欲しいとカルロが言うので、一緒に洞窟まで行き、一部を回収してあとは埋めてお墓を作り、鉱石等も回収して入り口を岩石で塞いだ。
昨夜行けなかった左の道と右の道の探索は色々な問題が解決してからにしよう。
すっかり夕方になってしまった。
私は自室で、貝の養殖場、作業小屋、チーズの発酵倉、紡績工場の建設のたたき台を書いていた。
実際にこれを詰めるのはポンさんやジェイクであり、あとは専門の業者の人なのだが概要は書けていると思う。
予定より少し早いが村の工事を増やす予定だ。現在、村には大工が2人、宿屋に1人、食堂に2人と計5人外部から人が来ているがまだまだ少なすぎる。
宿屋に泊まっているのは大工2人だけ。おそらくそれが問題で、監視の男は宿屋を利用できないのだ。目立ちすぎる。
それで野宿して、お風呂にも入れない為あんなにひどい匂いなのだろう。なぜ私がよく知らない男のお風呂事情まで考慮しなければいけないのかとも思うけど。
村にひとつしかない雑貨屋もテコ入れをして商品を増やして、人も増やしてもらおう。
それから────。
グラソー男爵にも一応お伺いの手紙を書く。高級な便箋、封筒、封蝋セットは買ってきてもらっている。
貴族の手紙の形式は良くわからないが、子供だから許されると思って適当に書き上げてしまう。
私は書類をまとめて入れている箱の一番下から、何度も書き直して真っ黒になった便箋を取り出した。
アミルへの手紙は、もうずっと直し続けていて未だに完成しない。
「アミルからも手紙来ないしね……」
こんなに色々な計画が立てられるのは、全てアミルが紹介してくれたポンさんが宝石を買い取ってくれて、計画も直してくれるからなのだけど、そう書くとポンさんがすごいみたいになってしまう。
確かにポンさんはすごいけど、そもそもアミルが倒れてる私を見つけてくれたから、と書くのも変だ。
アミルが何度も言っていた言葉を思い出す。
『ユリィが宝石を出せるから色々してるわけじゃない』
私もアミルが良くしてくれたから手紙を書いてるわけじゃない。確かに感謝の気持ちは伝えたいけど。
「また一緒に遊びたいねって、簡単に書けたらいいのに」
私はどうしてもそれが書けないでいる。




