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ザンディーラの石

おもむろにやって来るカルロに、私は苛ついてしまう。

「大体わかったから満足?でももう私、何でも聞かれるの耐えられない!あの石返してくれる?」


そもそも村の警護の為にカルロに持ってもらっていたが、今はそれほど必要なくなっている。

カルロが漸く軒下に到着して不敵に笑う。


「いいぜ、取り返してみろよ」

「……もしかして、今も下半身の服に縫いつけてるの?」

私の脳裏にズボンを脱ごうとしていたカルロの姿がよぎる。


「そう。よく覚えてるな」

「き、汚い!!」

「ちゃんと二交代制で洗濯してる」

「そういうことじゃない!」


カルロ相手でも、力ずくで奪い返すのは私にとっては簡単だ。だけどそんなところをまさぐりたくない。


「くっ……ジェイク!!お願い取り返して」


「う…うん」


「へぇ、困ったらまたジェイクにやらせるのか?成長しないなあ」


カルロが嘲笑う。完全に悪役みたいな表情になっている。


「なあジェイク、お前いっつもユリィの言いなりで大変そうだな」

「そんなことないよ…」

ジェイクはカルロににじり寄る。


「お前には男らしさが足りない。ほら来いよ、お前に軍隊式の『男』ってやつを教えてやるよ」

カルロの側から、ジェイクの手首を取り何かさせようとしている。


「やっぱりやだ!!だめジェイク!やめて!!」


私は耐えられず叫んでしまう。


「ごめんねジェイク……私…」


「ユリィ、僕は大丈夫だから」


「勝手にやってろガキが」


捨て台詞を残してカルロは畑に行ってしまう。

カルロ怒りすぎじゃない?



しかし出荷はしなければならないので無事仕事を済ませ、カルロはきっちり賄いまで食べて帰っていった。

あまりカルロと口を利きたくなかったが、空気を全く読まないお父さんがいたのでなんとか間が持った。

というかお父さんは何も気づいていない。



お昼過ぎ、私は自分の部屋でザンディーラの石と向き合っていた。この石は持っているだけでは未だに効果がわからない。

カルロが返してくれないドッディの石と同じく、効果が発動するトリガーがあるはずだ。

ドッディの石は、ドッディがモグラに似て目が退化していたので目を瞑ると聴覚が鋭敏になった。


「ザンディーラは蛇──蛇って言ったら?とぐろを巻くとか?」


とぐろを巻くのは無理なので腹這いになったり前世の記憶でヨガの蛇のポーズをとったりしてみたが何も変化を感じない。


「あとは舌が二股に割れてて……でもスプリットタンにはしたくないな」

部屋にひとりなので舌を出してふざけたその瞬間、空気に味がついたように感じた。

ベッドの布の味、机の木の味、小さな窓から侵入する雨の日の味。

いや味ではなく正確には匂いなのだが、口に入れて味わっているのかと錯覚する程に濃厚な匂いを感知した。

──ザンディーラの石は嗅覚を鋭敏にするものだった。そのトリガーは、舌を出すことなので使いづらいし格好いいものではないけど。

そういえば蛇は舌に特別な器官があって、それで匂いを判別していると前世で読んだことがある。


それにしても嗅覚が鋭くなるのは、劇的な効果だ。今現在私の目に映っていないものも、匂いの輪郭が見えてくる。見えると言うのは正しくないけど、空気の動きで別室にいるお父さんやミルが何をしているかイメージできてしまう。


「?」


戸外に知らない人の匂いがある。男性。どうしてこんなところにいるのだろう?

いつお風呂に入ったのかわからない最低な匂いがする。私は雨の日用のフード付きケープを羽織り、外に出た。匂いの方向に視線を送ると、家の陰に黒っぽい人が一瞬見えて、私は慌てて目をそらした。


お化けより、モンスターより、人間が一番怖い。

力では勝てるとわかっていてもどうしようもない気味の悪さがある。

畑の見回りを装って匂いを嗅ぐ。姿を見なくても匂いだけでわかるのは便利だ。男は、じっと動かずにいる。──やや緊張しているようだ。


絶対に村の人ではない。心当たりといえば、私への監視だろう。私は危険人物として国にマークされている。子供であることが幸いして今のところは手を出されていないが。

しかしカルロはこのことを予期していて、それもあって私はドッディの石を貸していた。監視が来ているのにどうして教えてくれなかったのか──

ずっとこんな男がいたなんて、気持ち悪い。


私は怒りに任せて歩きだした。カルロに文句を言いにいくつもりだ。



カルロの家に近づくと、カルロと、ロック爺が家の中に居るのが匂いでわかった。絶対に居留守なんかさせない。

ドアを壊さないよう堪えてノックする。


「何の用?」


やや間があってカルロがドアを開ける。私の到着をノックより前に、音で感知していたくせに。

私は無言で顎をしゃくる。おめーちょっと来いよ、のポーズである。カルロは黙ってついてくる。


監視の男もずっとついてきているので、私は走り出した。雨で道がぬかるみ、泥の匂いが濃くなる。

ずっと私のご飯を食べて身体強化しているカルロがついてこれない訳がないので、私はそのまま振り返らずに北の山の方向に走り、途中から森に入って背の高い巨木に登った。


もう監視の男の嫌な匂いはしない。雨に濡れた森の香りを吸い込んでいると、カルロが登ってきた。


「監視は撒けたみたいね?」


「……気づいたのか」


「どうして言ってくれなかったの?」


「それは……」


カルロは言いたくなさそうに口を引き結ぶ。


「ユリィはやるなって言うと絶対やるからどうしたらいいかわかんなくて」


「は?」


「あんな気持ち悪い男、何日も我慢できるのか?ボコボコにするだろ?そしたらいくら子供でも捕まるぞ」


「………」


カルロの私への評価はなかなか的確だ。

図星を刺されて言葉がない私にカルロは続ける。

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