アンジェラ先生の授業①
悩んでいた。
私が村の施設を立てるにあたってその出資者は誰とするかという問題だ。
その辺の石ころでさえ私の手にかかれば金銀宝石になるので、資産はいくらでもある。
だけどそんなの公にするわけにはいかない。
誰を代役にしたらいいのか──
第一候補のポンさんは、外国人であるため問題があるらしい。
私は鶏舎の掃除をしながら、ルシファーたちの抜けた黒い羽を拾う。
「そっか。アンジェラにお願いしてみよう」
今日は週に一度、市場が休みの日なので出荷作業もお休みだ。
とはいっても鶏舎の掃除や卵の回収、野菜の手入れなど毎日やらなきゃいけないことはあるが、カルロが鶏たちの世話以外はやってくれるようになったので時間に余裕がある。
その日にアンジェラに来てもらってジェイクと一緒に授業を受けるという話になっていた。
ジェイクが馬に乗ってやってきた。
今日は集荷がないのに馬に荷台をつけている。
「ユリィ、おはよう!これいつものパンと、お母さんが料理いろいろお裾分けって。あとモンスター図鑑も僕の分読んじゃったから、交換しよう」
「わっ、いっぱい!ありがとう」
私はおいしそうな食べ物の匂いを胸に吸い込む。甘い匂いにつられてひとつの包みをあけると、まだ暖かい黒糖の蒸しパンが入っていた。
ああ、これは完璧に決まった。
私はいけない人のように、包みに口を当ててスーハースーハーしてしまう。
「ユリィは読み終わった?あっちの10冊」
「うーん、夜読むと眠くなっちゃってなかなか…」
「そうだよね、ユリィは忙しいから。僕が全部覚えるから大丈夫だよ」
「覚えたの?」
「うん、必要かなって」
ジェイクは嘘をつくような子じゃない。だから本当なのだろう。
とはいえあれだけの情報を頭に詰め込むのはかなりの努力だと予想できる。
「ジェイク…ありがとう」
「僕はユリィほど強くないけど、このくらいはできるから…。ほかにもいっぱい覚えなきゃね」
はにかむジェイクは少しだけ頬を染めている。
ジェイクといるといつも胸が温かくなる。
家で食べてきたジェイクにミルと遊んでもらっている間に、私とお父さんとカルロは朝食を済ませた。
ミルはすっかり大きくなって、後ろ足で立ち上がるとジェイクの肩に前足が届くほどになっている。
良質な炎をたくさん食べたせいか、灰色だった毛は銀色に輝き、白い襟巻きはよりゴージャスになった。
だけどミルはまだまだ仔犬気分で、ちぎれんばかりに尻尾を振って家の周りをジェイクと追いかけっこをしている。
そんな風景を眺めていたら、装飾の豪華な馬車に乗ってアンジェラがやってきた。彫刻めいた美青年の御者のエスコートによって優雅に降り立つアンジェラは、相変わらず黒ずくめに赤いルビーのアクセサリーが光る、魔女のような出で立ちだ。
「はーい子供たち、元気にしてたかしら?」
「はーい!」
ジェイクが戦隊ショーの子供のように元気にお返事する。
「えっ、聖女アンジェラ?!」
隣にいたカルロが驚きの声を出す。
「聖女?」
あまりにミスマッチな響きに私まで驚いてしまう。
「アンジェラとは聞いてたけど、まさか王都で有名な聖女アンジェラが来るとは思わなかった…
恵まれない子供のために私設弧児院を建てたり、学校を建てたり、すごい人だよ」
「そうだったんだ……」
私はアンジェラへの評価を大きく改めた。
アンジェラは怪しげな錬金術で作った薬を貴族に売って儲けているだけじゃなかったんだ。
「うふふっ、素敵な坊やも増えてたのね~。どう?坊やも私の特別授業、受けたいかしら?」
アンジェラが赤い唇に人差し指をつけて、カルロを上目遣いで見つめる。
「いえ、俺は…大丈夫です」
カルロは兵隊の行進のように、くるっと方向転換して畑へ駆け出してしまう。もしかして照れているんだろうか?
面白いのでアンジェラがお父さんよりずっと歳上だってことは黙っておこうと思う。
多分知らないはずだ。
今日は天気もいいので、外にテーブルと椅子を出しておいた。青空教室といった感じだ。
「今日は記念すべき第一回、アンジェラ先生の特別授業よ~!気になることはなーんでも、質問してね!」
普段から子供に教えているせいか、アンジェラは教育番組のお姉さんのように言葉に合わせてジェスチャーをする。
その度に黒いレース越しに見える胸の膨らみがぷるぷる震えているのが気になってしまう。
何を食べたらそうなるのか聞けばいいのかな?
「先生、質問です」
ジェイクが早速聞こうとしている。
誤字報告ありがとうございます。
そろそろ前の投稿分を直さなきゃと思いながら勢いで進めています。
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