声は響くよどこまでも
「確かに私は木綿の服しか着ていない。でもこれは裸縛りだから」
「は、裸縛り?!」
「あっ……」
しまった。つい前世のゲーマー魂が炸裂してしまった。
「あっ、裸縛りっていうのはねカルロ?聞いて違うの」
カルロが激しく眉根を寄せている。
「なんかもう聞きたくない」
「だから、本当は防具あるんだけど裸と同じくらい防御力を下げた状態に自分を縛ることが裸縛りなの!!文字通りの意味じゃないの!」
「……」
やれやれといった感じで首を振るカルロ。
やれやれ系主人公か?興味ないって?
「いるんだよなあお前みたいなやつ…今度、姉ちゃんに頼んでみるわ」
「なんで?」
「姉ちゃん……ていうかソニアは王都でモンスター素材を加工する工房に勤めてるから、ユリィに合う防具を相談しよう。ついでに柵に電気流す加工もなんとかなると思う」
「お姉さんすごい!それは!柵のことは是非お願いしたいです」
「お前って……」
カルロはとうとう肩まですくめる。
「まあいいや。ところで、この牛モンスターの情報ってどうやって手に入れたんだ?」
「ああ、それは──」
カルロのお姉さんへの期待で浮き足立っていた私は軽い気持ちでカルロを自室に招いた。
「これこれ」
私が指差すモンスター図鑑、10冊は私の質素な部屋に似つかわしくない豪華な装丁でカルロが再びやれやれとジェスチャーまでつけてしまうのに十分だった。
「ユリィさぁ…」
金縁のついた図鑑の裏表紙を開き、蔵書印を確認したカルロはため息をつく。
「王立図書館の本なんてどうやって盗んだ?」
「盗んでない!管理人の許可は取ってるよ。説明すると長くなるけど」
私はアミルと出会って、ポンさんを紹介されて、ポンさんに王立図書館の管理人さんを紹介してもらったなどなど簡単に説明した。
「外国人まで絡んでるのか……」
カルロは頭を抱えてしまった。目を瞑っている。周囲に人がいないか警戒しているようだ。
「ユリィ、俺じゃ…俺くらいじゃかばいきれないことになってる。ひとりで大型モンスターを倒せるお前が外国人の手引きで王の持ち物を盗み、情報を持ち出しているなんてどこからどう見ても国を潰そうとしてるテロリストだ」
「そう言われたらそうね……」
私は頷くしかない。牧場を大きくしたいだけなのにどうしてこうなったのだろう?
「頭痛くなってきた…」
頭を押さえるカルロを見て、随分巻き込んでしまったなあと思う。話さない方がよかっただろうか?
カルロだってまだ17歳の少年なのに。7歳の体の私から見るといつも見上げる形になるから、つい頼ってしまっていた。
本当は私の方が大人なのに。
うつむく私の頭に、大きなカルロの手が優しく触れた。
「え?!」
「悪い、ちょっと混乱しただけ。そんな落ち込むなって。泣くのか?」
「わ、私が泣くわけないでしょ」
「ふーん」
カルロの瞳は何か言いたげだ。
実際には幼少期に泣かされた。
私が最初にカルロにいたずらしたとき、あまりの剣幕で怒るものだから私は泣いて逃げ帰った。幼い体は涙のコントロールが効かないせいだと思う。
それでも泣かされた屈辱で、私はしつこくカルロにちょっかいをかけたのだった。
「……本当、何回危ないって怒っても聞かないやつだからな、ユリィは」
「う、うーん」
「俺も覚悟決めるか」
「え?」
「よし、国家転覆させるんだろ!俺も手伝うぞ」
「そんなの目標じゃない!!!」
少し勘違いがあるようだけど、カルロが意外と少年らしい無謀な結論を出したのでなんだか私も元気が出てしまった。
◆
◆
◆
茜色の雲が広がる夕方、私は牛たちの見回りに来た。今日の分の種蒔きが終わったカルロは家に帰ってもらった。
カラコロカラコロ
ハンドベルを鳴らすと律儀に姿を現してくれる。
数えると12頭、ちゃんと柵の中にいるようだ。
柵の中に入りその中で一番体の大きな雄牛に近づく。
最初にベルを鳴らしたときに突進してきたのも彼だったので恐らくリーダーと思われる。
距離が狭まるにつれ、彼は不安になってしまったのかまた巨大で尖った角を向けて突進してきた。
「もう」
しゃれじゃないけどひとりで笑いながら私は腰を落とし彼を受け止める。足が埋まり、少し後退してからやっと止まった。
「もういっちょやる?」
私が少し離れて手を叩くと彼は素直に飛び込んでくる。牛と相撲──自分が金太郎みたいに思えてしまって私はまた笑った。人目がなくて良かった。
「ベル!君の名前は今日からベルね」
ベルを鳴らすと出てくるのもあるけど、ルシファーの右腕であるという悪魔ベルゼブブから取った。どんなに中二なネーミングにしてもこの世界ではバレないからいいと思っている。
疲れた私とベルは相撲をやめてなでなでタイムに移行した。ベルの角はよく見ると、細かな傷がたくさんある。たくさんの戦いの歴史がそこに刻まれていた。
「ここ、気に入ってくれた?ずーっとここにいていいんだからね!もうご飯の心配もいらないし、危ないこともない。怖いモンスターが来ても、私がやっつけるから」
ベルの大きな黒い眼球に私の影が映っている。
ベルはピンクの舌をペロッと出して自分の顔を舐めた。そして私の傍を少し離れる。
「ん?」
ベルは顔を空に向ける。
ブモォォォォ
すると周りの牛たちも呼応するように鳴き始めた。
ブモォォオオ
ブモォオオオオ
「あ…なんか足りないと思ったらこれだったんだ」
柵が完成したときにロック爺とカルロと見た、牧草地と牛の牧歌的な眺め。だけどベルたちは一回も鳴いていなかった。
体が大きくて立派な角があるのに、透明になるほど臆病な彼らが、ついに安心してくれたんだと思う。
ベルたちは村中に響くほどの大声量で、久しぶりの声を出してのコミュニケーションを楽しんでいるように見える。
正確なところはわからないけど。
「あれ、カルロ?忘れものかな?」
カルロが走って来るのが見えた。
「ハアッ…何をやったんだ?あと…すごくうるさい」
息を切らして膝に手をついている。
「え、ぶつかり稽古第二段?」
「……大丈夫なんだな?!」
「うん。私が君たちを守るよって言ったら安心して鳴いてるだけ。特に意味はないみたい」
「意味はあるぞ」
「牛語わかるの?」
「そうじゃなくて!こんな強いモンスターが12頭も鳴いてれば守りの鐘の代わりになるってこと!」
「おおー…」
「俺にとっては慣れるまでうるさいけどな」




