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女王と難民




「こ、殺される……」




 なんとも不吉な呟きと共にへたりこむ。フワフワとした草が体を受け止めポカポカとした日差しが降り注ぐ。まさにお昼寝日和。

 クタクタになっている体は逆らうことなく地面に吸い込まれる。あー…もう嫌だー…。




「サイシャってば容赦ねぇ…もう暫く文字見たくない…」




 私、水樹 花はこの世界の国であるカレー共和国の代表だ。

 世に言う異世界トリップした人間で、この世界では知識を与える、といった意味で女神扱いされている…らしい。恭しくされたことないけど。


 なんやかんやあって、共和国作って王様みたいなことをやっている。政に関してはサイシャがオッケーといった書類にサインするだけでいいんだが、共和国の特産物とされる『辛味』は違う。

 私が発端者であるもんだから試作やら指示やら説明やらで世に出回るまでのことを全て監察しなければならない。サイシャが特にヤル気満々なお陰でここ三日間机にかじりつきっぱなしだったのだ。疲れたわ…。


 しかしようやく市場に出せる準備が整った。特許みたいにしたいが私は辛い食事がしたいわけで。沢山の人に色々調理してもらいたい。作り方や調味料も最初から販売しよーって言ったらもめたもめた。利益はあるって。なんせ辛味のレシピは私の頭の中やら資料やらだからね。利益以前にスパイスの確保でしょう。

 こっちの世界にはスパイスって言っても胡椒があるくらいだし、私の世界からスパイスを持ってきて似たようなものを食べ比べたり。唐辛子っぽいのとか山葵っぽいのか、植物だったり魔物だったりと大変だ。こっちを特許にしたり内緒にした方がいいかもね。スパイス自体の価値が上がるし。

 いやはや、国運営って大変なんだなぁ。資金は勿論国民の声だって聞かないといけないし。しかも国が二つの代表。



 …代表、と言えば。共和国になった時に各国の代表…つまり国王と挨拶することになったんだけど、やっぱり急な話で集まってくれたのが代理人が多かったんだよね。まぁ後日改めて場を設ける話も出たけど丁重に断った。忙しい人を呼び出すのは気が引ける。しかもあんな堅苦しいの何回もやりたくない。挨拶だって難しいの用意されたり長くて噛みやすい名前の王様達を覚えないといけなかったり…。代表になった時点で避けられないとは分かっていたけど、嫌なものは嫌なんだよぅ。




「はぁ…」




 なんかなぁ…やること一杯で遣り甲斐はあるにはあるけどギチギチ過ぎて辛い。一息入れたいと思うのは私の我が儘なんだろうか?

 ラスナグだってなぁ…せっかく私の側近になってくれたのに、よく視察やらなんやらでアスナと一緒に出かけちゃうし。こ、恋人になってから日が浅いのに側にいる事も稀な状況。


 ぬぅ…ストライキだって起こしたくなるって話だ。


 まぁでも本気で怒らせると後が怖いので、ここでまったりランチタイムを楽しんだら帰ろう。



 フフフ…今日のランチは塩鮭のおむすび!魔法瓶に入れた豆腐の味噌汁!そして買ってきておいた柴漬け~あー有難や日本食。甘味だらけのこの世界で濃い塩味は幸福の一品だ。

 やっぱり普及してきてるって言っても一部だし、基本この世界の住人の食事は甘いまま。キッチンを借りて自給自足の毎日です。いやだって私の体は私の世界仕様なのでカロリーは蓄積するんだよ。初めての帰宅時の体重計はもう二度とお目にかかりたくもない。


 とりあえず日当たりの日向は確保。さて、いざランチターイム…






 ぎゅるるるるる…






 …今のは私じゃない。お腹すいてるとはいえここまで異常な音はしない。


 じゃあ誰の?



 答え=行き倒れ



 ……行き倒れ?!




「えっちょ…君っ!!」




 慌てて駆け寄る。うつ伏せで顔は見えないが私と同じくらいの身長でありながら覗く手足は痩せほそっていてガリガリなくらいだ。長い薄紫の髪が地面に広がりまるでホラー。ゆっくりと仰向けにすれば、窶れているが綺麗な男の子の顔があった。




「大丈夫?」

「…ぅ…」




 ぐぎゅるるる…



 …お腹がすいているのは充分分かった。


 私は水筒を空けると味噌汁を蓋に入れる。少しだけ冷ましてから彼の頭を膝枕し上にすると口元へと運んだ。




「ほら味噌汁…スープだよ。飲みなさいな」

「いや…だ。いらな…」




 何故か嫌だと首を振る少年。お腹がすいてないはずはないのだ。他人からは食べ物受け取れないってか?ええぃ、こんな行き倒れてんのに選んでる場合か!




「うら飲めっ」

「ぐぶっ?!」




 いやいや、言葉は乱暴だけど酷いことはしてませんとも。とりあえず蓋を傾け彼の口へと味噌汁を飲み込める量だけ流し込む。驚いた彼が噎せそうになったが、何故か動きが止まった。ど、どうした?まさか食べ物受け付けれない体だったとか?

 不安になった瞬間、持っていた水筒が消えた。そして膝に頭を預けていた少年の姿も消えた。



 は?



 キョトンとして目の前の光景を見る。まるでスポーツマンが水を欲してイッキ飲みしている姿と同じように、彼が水筒を勢いよく傾け味噌汁をイッキ飲みしている。や、火傷しないかい?

 私の心配を余所に彼は飲み干した様子だ。ああ…私の味噌汁…。まぁいいか。人命救助に役立ったのなら。


 しかしまだ物足りないのか。すがるような目を向けられたのでおむすびを差し出してみる。あ、この人髪の毛を一房青く染めてる。てことは水の守護があるんだ。目は…ラスナグと違って深い藍色。おお、魔力濃いんだ。

 おむすびを受け取り変わった形状を見て恐る恐る口に運んだが、一口食べれば後は一緒。味噌汁同様米粒残さず食べきった。ああ…私の(以下同文)。




「…こんな旨いもの、生まれて初めてだ」




 染々と言われた。まともなものを食べたことなかったんだろうか。体ガリガリだしなぁ…。でも私の世界料理を旨いと評されて嬉しくないはずがない。食べ物の恨みは忘れることにしてニコリと微笑んだ。




「口に合ったようで何よりだわ」

「お前が作ったのか?」

「もち。まぁ試作も兼ねてだけどね」

「試作?」

「カレー共和国の特産物として辛いもの、甘くないものをテーマにして私の国のメニューをこっちでアレンジしてるのよ」

「ああ、だから見たことないものばかり…もしやお前、共和国の王か?」




 バレた。共和国のトップが異世界人であることは誰もが知っている。初めて見るメニューで私が作ったとなれば答えに行き着くわな。

 特に内緒にしているわけではないので素直に頷く。




「そうだよ。王様じゃなくて代表だけど。あんまり政はしてないし国と国との接着剤みたいなものだから。まぁ私のような一般人がトップのもおかしな話かもしれないけどね」

「異世界人が何を…確かに顔と形は人間と変わらないな」




 はっはっは。なんで皆して人外扱いするかな?


 染々と言った彼は「ではこれは異世界の料理で、他にも作れるのはお前だけなのか」と質問してきたので再び頷く。




「いつかは普及させたいけどねー。この世界の食べ物ってみんな甘いでしょ?甘いのが嫌いなわけじゃないんだけど…そればっかりじゃ…」




 太るし。いや、多分新陳代謝が違う私だけだけどね。

 フフフと遠い目をしていると両手を捕まれた。顔を向ければキラキラと輝く少年の青い瞳。






「お前、オレの妻になれ!」

「は?」







 なんでそうなった?






第二部、スタートします!恋愛要素濃くやっていくのでよろしくお願いします。やっぱり斜め上王道で頑張ります。

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