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レイクス戦記  作者: ゆう
第6章「光の守り手」

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第3話「北部防衛線」

第3話「北部防衛線」


 KR251年初頭。女帝陛下から正式にエルディナ北部の防衛を任された私は、今、アルディア王国との国境に近い、ハルバート伯爵領の街道にいます。

 けれど、私の目の前には、あからさまに不機嫌そうな顔をした一人の騎士様が立っていました。

「……陛下も乱心されたか。このような子供、それも冒険者の集まりに、アルディアに隣接する北辺の防衛を任せるとは」

 鼻を鳴らしたのは、エルディナ第二騎士団の団長、ゼオ・ハルバート様。

 北辺領を治める領主でもあり、現実主義者として知られる彼は、私の後ろに控えるレナさんやナツキ、クロエ、エリカを冷ややかな目で見据えています。

「……ゼオ様。私たちは冒険者だからこそ、騎士団が動けない隙間を埋められます。一緒にやりましょう! 私たちは、国境沿いの村々の細かな異変にだってすぐ動けます!」

 私が真っ直ぐに視線を返すと、ゼオ様は深いため息をつきました。

「……いいだろう。だが、足手まといになるようなら即座に後方に下がる。わかったな。……試させてもらうぞ、ヴァルトニアの娘」

 それからの数日間、私たちはゼオ様の第二騎士団と共に、アルカディア方面から流れてくる脅威に備え、北部の村々を巡回しました。

 私は村に着くたびに、村長さんや子供たちのところへ駆け寄りました。

「どこが危なくて、どこに人が多いか、困っていることはないか……全部教えてください!」

 騎士団が「防衛拠点」を構築する横で、私たちは「生活の不安」を拾い上げます。

 アルカディアからの避難民がどれくらい通ったか。森の獣たちが怯えて南へ逃げていないか。

 そうした情報を集めてはゼオ様に報告し、騎士の配置を微調整してもらいました。

 そして、ついにその時がやってきます。

 北のアルカディア戦線から漏れ出した、ゴブリンの先遣隊が国境を越え、村へと牙を剥いたのです。

「来た! 騎士団の皆さんは正面の盾列で防衛線を死守してください! レナさん、ナツキ、クロエは遊撃! エリカは後方から魔法支援を!」

 私の指示に、最初は渋っていた騎士団員たちも、実戦の緊張感からか動き出します。

 第二騎士団が誇る「鉄壁の守り」の横で、ベテラン騎士のレナさんが巨大な盾で敵の突進を止め、ナツキがロングソードで鮮やかに斬り伏める。クロエは双剣で敵の側面を撹乱し、エリカの火魔法が後衛を焼き払います。

「光よ、戦う者たちに癒しと勇気を! 『純粋なる祝福ピュア・ブレス』!」

 私が杖を掲げると、前線の騎士たちを温かな光が包み込みました。

 切り傷は瞬時に塞がり、疲労が抜けていく。その光景を後方で見ていたゼオ様が、目を見開きました。

「……信じられん。治癒魔法の即効性もさることながら、これほどの広範囲に……。これが、ヴァルトニアの娘の力か」

 戦闘が終わった後の静かな夕暮れ。

 ゼオ様が、剣を拭いながら私に歩み寄ってきました。

「……ヴィーナ殿。一つ聞きたい。なぜ、お前はここまで動く? ヴァルトニア伯の養女ならば、館で守られていればいいはずだ」

「困っている人がいるから。それだけです。……私を拾ってくれたお父さんも、きっと昔はそうだったと思うから」

 ゼオ様は長い沈黙の後、小さく鼻を鳴らして背を向けました。

「……そうか。だが、死ぬなよ。死なれたら、あの恐ろしい伯爵に私が消される」

 その言葉の裏に、少しだけ認められたような響きを感じて、私は嬉しくなりました。

 その夜、私たちは焚き火を囲んで夜営をしていました。

「ヴィーナの魔法、前より効果範囲が広くなってる気がするよ」

 クロエが犬耳をピコピコと動かしながら言いました。

 確かに、今日使った聖魔法は、以前よりもずっと深く、身体の奥から力が満ち溢れてくるような感覚がありました。

「……うん、なんか力が満ちてる感じがするんだ。守りたいって思うほど、熱くなる感じ」

 胸元の髪飾りに刻まれた微細な黒雷の文様が、焚き火の光を受けて、ほんの一瞬だけ脈動したことに、私はまだ気づいていませんでした。

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