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弐拾四つ目の記録 蛻の川 ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 第二機動部隊が下流へ向けて足早と逃げている最中、オリヴィアは背から蝙蝠の翼を広げ、その体を浮かばせ青い合羽を着ている腕の長い何かに触れた。


「……ディーデリック、これが何か分かるかしら」


 オリヴィアはそれを河原にまで持って行くと、それは突然頭を上げ獣の様な咆哮を発した。


 だが、ディーデリックは冷静に懐から旧型銃を取り出し、祈りを込めた銀の弾丸をそれの眉間に打ち込んだ。


 悲鳴も発さず、それは死に絶えた。


「悪魔にしては妙な気配、しかし元人間の様にも見える。本当に何でしょうか」

「貴方も分からないの? それなら、これは一体何なのかしら」

「……恐らく、元々は人間でしょう。何故こんな姿に成り代わったのかは分かりませんが」

「……ディーデリック、これを解明したら、御主人様に褒めて貰えるかしら」

「彼は成果に関しては正当かつ公平に判断する方ですから。それに、今回は光さんも被害に会っています。感謝の意として相当な願いは聞いてくれるはずです」

「やっぱりそうよね」

「……今更ですが、何故御主人様と?」


 オリヴィアは一時だけ驚愕した様に目を見開いたが、瞼を優しく閉じると、恍惚とした目付きでディーデリックに語り掛けた。


 そこには、何時か忘れた恋する乙女としての恋慕があった。


「わたくしの全てを押し倒し征服し凌辱し奴隷の様に人権なんて踏み躙る勢いで、最早生物とも思わず玩具として自らの男を解消する為にわたくしの意思さえも無視して抵抗にさえも目を逸らし殴り付け痣を残し彼の彼だけの彼の暴力性を全て全部余すこと無く、使って欲しいからよ。さあ行くわよディーデリック! 御主人様の為に!」

「何処までも、着いて行きましょう」


 オリヴィアとディーデリックは罪深くも、その先へ向かってしまった。


「……しかし、おかしな川ですね」

「そう? 何の変哲も無い川の様にしか見えないけれど」

「日本で言う所の土地神でしょうか。それがいないのです。確か……蛻の殻、と言いましたか?」

「……当たり前な気がするけれど」

「日本では当たり前では無いのですよ。宗教観が真反対とも言えるので」

「……ああ、そう言うこと」


 二人は川の上流に向かって歩みを進めた。


 オリヴィアはそこまででは無かったが、ディーデリックの心情は徐々に疲弊していっていた。


 額には脂汗が浮かび上がっており、若干の息の荒さが目立つ様になって来た。


「……暑いですね」


 ディーデリックは額の汗を腕で拭いながらそう言った。


「今、49°Fよ?」

「……まさか。こんなに、暑いと、言うのに、50°F近くのはずが……?」

「……ディーデリック、貴方何か可怪しいわ」

「……ええ……そうですね……ああ、可怪しい……」

「落ち着いて、まず深呼吸をするのよ」

「……ええ……分かっています……」


 オリヴィアの言葉が届いていないのか、ディーデリックの呼吸は更に荒くなっていた。


「いる。違う、あれは、違う。違う。何だ、あれ。違う。悪魔、違う。土地神、違う。違う。違う。なら、何。違う。ああ、あれ、違う。何だ、あれ」


 ぽつりぽつりと呟いている抑揚も感情も無い言葉の羅列は、徐々に怒りが滲んで来た。


 冬に近い気温なのにも関わらず、彼の発汗は更に酷い物になっており、その視線は虚ろで何処を向いているのかも分からなかった。


「違う、違う違う違う。あれは違う。私は知らない。あれはこの国の神では無い。悪魔でも無い。妖怪、いや、精霊、違う。あれは、何だ。分からない。分かりたくない」

「ディーデリック! 今すぐ戻るわよ! ここは何か不味いわ!」


 それでも歩みを続けるディーデリックの手首を掴むと、力強く振り払った。


「ああ……! 違う! ああ……ああぁ……!! オリヴィア……! 違う……! 貴方を傷付ける気は……!! あぁぁぁ……!! ……ち、違う!!」


 ディーデリックは頭を抱え、その場で蹲り呻き始めた。


「うー……うぅぅー……!! あぁ……何……何だ……!! 嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァ……こんな……」


 植物の葉を擦り抜けた陽の光がディーデリックを照らした。植物の枝が風で揺れざわざわと騒いでいる。


 やがてディーデリックは突然笑い始めた。


 狂った様に大きく、数秒程笑うと、今度はその場の土を素手で掘り返し始めた。


 爪が剥がれ指先が剥れ血が滲んでも、ずっとその場の土を掘り返していた。


 やがて拳程の大きさの石を掘り返し、それを持ち上げ近くの木に投げ付けた。


 そしてまた蹲り、呻き始めた。


「……オリヴィア、ああ、母よ……主を裏切り……母を求め……あぁぁ……いやだァ……」


 オリヴィアは無理矢理ディーデリックを担ぎ上げ、その卓越した身体能力を存分に使い素早く下流へ向かい走り始めた。


「大丈夫よディーデリック……!! 大丈夫……!! ご免なさい……!!」


 ディーデリックは白目を向きながら、口から泡を吹いて気を失っていた。


 ようやく機動部隊と合流すると、オリヴィアはディーデリックをその場に降ろし、涙を流しながら懇願した。


「教会! いいえ、日本には少ないから……神社! そこでならこの子が……だから……!! お願い……!」


 彼女は自らの不注意を悔いていた。


 真二は一度だけ頷くと、即座にディーデリックを担ぎ上げ人外の速度で山を走り降りた。


 それに続いて、機動部隊も危機を察知して山を降りた。


 これ以上ここにいることは出来なかった。ディーデリックは人に害する数多の超常存在を殺し続けた半人半魔であり、その彼が何も出来ないまま気を失うことは異常とも言えるからだ。


 そして、即座に八重に連絡を入れた。


 それと同時に早苗は昴にも連絡を入れた。


『……もしもし』


 彼の声は暗い物だった。


「あー昴はん? 光はんの様子はどうや?」

『……さあ。……分かりません』

「……その、な? ちょっと僕達だけだと難しそうなんや。昴はんだけでも――」

『断る』

「……報酬は充分に払えると思うで?」

『……光が重体なんです。……ここから、離れたく無いんです……だから、断ります』


 昴の口調は不思議と落ち着いており、丁寧な口調だった。


 そして、一方的に連絡を断ち切られた。


「駄目や切られた。そっちはどうや」

「すぐに来てくれるみたい」


 美愛はそう言ったが、何処か落ち込んだ表情だった。


「……ただ、『力になれるか分かりません』だって」

「八重はんがそれを言うって相当やな」

「……私達が無事なのは、やっぱりこの指輪のお陰だと思う」


 美愛はそう言いながら右手の中指に嵌めてある指輪を見詰めた。


「……これで、助かってる。……早く逃げないと」

「……どうした美愛はん。汗、かいとるで」

「……え?」


 美愛の額には汗が浮かんでいた。


「……大丈夫」

「明らかに大丈夫や無さそうやで」

「……そう? 確かに、何だか暑いわね……。それに……風も熱いし」

「風なんて、吹いてないで」

「……あれ?」

「……ちょっと走ろうや。すぐに降りんとヤバいわ、ここ」


 早苗は自分の額に浮かんでいる汗を拭いながらそう言った。


 美愛の背筋には、何か細い木の枝の様な物で撫でられている感覚がしていた。後ろを振り向いても、そんな悪巫山戯をしている人はいない。


 それを気の所為にして、荒くなる呼吸さえも無視をして、彼女は恐怖に支配され形振り構わず走り出した。


 市街地に出ると、ようやく彼女は落ち着きを取り戻し、その場で膝を抱え泣き出してしまった。


 彼女の背を友歌が撫でたが、今度は小さな嗚咽と共に白いスライムの様に凝り固まった唾液を口から吐き出した。


 数分程その状態が続くと、美愛の溶体は少しずつ回復していった。


「……うぅぅ……は、は、はぁ……」

「もう大丈夫か?」

「……少しだけ、すっきりして来た。ありがとう」

「……耐性が無いのか、それとも狙ったのか……兎に角だ。俺達は超常的存在対策機動部隊なんて言う大層な名前が付いてるが、化け物退治に関しては完全なド素人だ。そう思わないか? 集治?」


 額の汗を手拭いで拭っている集治に顔を向け、友歌がそう言った。


「……ええ、同感です。何よりも、力が足りない。私達はそれが何なのかさえも、分かる技術が存在しないのですから」

「それに耐性もだ。あの山がPoP発生地域だとするなら、俺達があそこに入って無事で居られる時間は限られているんだろう。美愛がこうなってるんだからな。精々数時間程度だ」

「最悪、死ぬ可能性さえも入れなければ」

「……どうにか、正しい死に方をする星の下に産まれたことを祈るしか無いな」

「中々にお洒落な言い回しですね」

「口癖だ」


 友歌は煙草を咥え、ライターで火を点けながらそう答えた。


「兎に角、俺達は実力不足だ」

「ここが不味いと言う可能性は? 祓魔師のディーデリックさんさえも、ああなってしまったのですよ」

「……ああ、それもそうか」


 すると、友歌が突然ばっと振り返った。


「……誰か俺を呼んだか?」


 第二機動部隊と第六機動部隊、それに第一機動部隊の全員が互いを見詰め合った。その様子から、誰も友歌を呼んでいないことが分かった。


「……もう一度誰か俺を呼んだな」

「突然怖いこと言わんでくれや友歌はん!」

「……早苗、手、繋げ」

「何でや!?」


 見ると、煙草を咥える唇が震えていた。


「……今、マジで怖いんだ。異様に暑いし異様に煩い。こんなに、人の気配で有り触れているのに、怖い。頼むから、繋いでくれ。次の酒の席で俺が奢ってやるから」

「……分かったで」


 早苗は壊れ物を扱う様な手付きで友歌の手を繋いが。


「……駄目だ。ずっと俺を呼んでやがる」

「……あーやだやだ。僕も暑くなってきたわ。今何度や」

「大体九度だ」

「うっそやろ。こんなに夏みたいに暑いのに」

「……だから言ってるだろ。暑いんだ」

「……あー、友歌はん、疲れとるんかな、僕」


 早苗は曇り空を眺めながら、目を手で覆い隠していた。目の前で起こっている事象を、直視したく無かったからだ。


 だが、早苗は前に顔を向け、指の隙間からそれを見詰めた。


「……そこに、何かおるやろ?」

「……クッソ。見えやがった」


 二人の視界の先には、何の変哲も無い人間がそこにはいた。だが、その人間から発せられている気配は、明らかに人のそれでは無い。


 とても、暑い。あの人間が此方に一歩踏み出すと、まるで活火山の火口の近くで吹き荒れている熱風の様な空気が襲って来た。


 ただ、おかしいのだ。それが見えているのは、様子を見る限り二人だけだった。

 その人間は、町中で見ても違和感の無い自然な服装をしていたが、何故か濡れており歩く度にぴちゃぴちゃと水滴が落ちる音が聞こえて来た。

 まるで怨嗟を発している様に険しく口を開けている表情からは、大凡正気の沙汰とは思えなかった。


「アァ……ヤバいわ……!! 本当にヤバい奴やあれ……!!」


 友歌は、早苗の様に言葉でそれを表すことが出来なかった。ずっと脳内であれの実在性を証明しようと必死に神経細胞に電気信号を流していた。


 その度に、あれの存在を恐怖から否定しようとしている雑音が響き始めた。


 あれは、最初からいない。あれが見えているのは余りの恐怖から自分の視界が写している錯覚だと。


 だが、目の前で起こっていることが真実だ。


 友歌は煙草を唇から落としてしまった。唇はがたがたと震え、言葉を紡ぐことも出来なかった。


「早苗! 友歌! 何が見えるの! 早く教えなさい!」


 美愛が調子を取り戻した直後にそう叫ぶと、早苗が切羽詰まった表情で叫んだ。


「だから! 女! 女性! ほら前! おるやろ!」

「誰もいないわよ!」

「はぁ!? あー多分物理的干渉受けない存在や!!」


 早苗と友歌の握る手が自然と強まった。


 此方に一歩ずつ近付いている女性は、まだ相当な距離がある。200か、300mか、まだそれ程の距離がある。逃げるなら今の内だ。それが、出来るのなら。


 もう超常存在にも慣れた早苗でも感じる、彼女の異質さ。超常存在に何度も出会ったことが無い友歌の肌に突き刺さる、彼女の恐ろしさ。


 その全てが、二人の体を凍り付かせる。正常な判断を鈍らせる。


 二人は更に繋ぐ手の力を強めた。


 そして、それ以外の機動部隊の彼等彼女等は、まず姿が見えない所為か危機感が二人より遅れている様だ。


「……嫌だ……」


 友歌がぽつりと呟いた。


「嫌だ嫌だ……!! 俺じゃ無い!! 俺は関係無いんだ……!! アァァ……! うぅぅ……何で……違う……違う違う……!」


 今度は早苗が何が可笑しいのか笑い声を吹き出しながら、意味不明の言葉の羅列を呟いていた。


「南無が始まり彼は許して……ははッ……! お代官様は天へと下り京の都に殺し合い……彼女と彼女に彼氏が観音開きで大笑い……へひッ……ひひッ……!! 徐々に海を泳いではペットのペンギンがインターネットして転げ回る日々……」


 そんな早苗の頭を集治は叩いた。


 すると、頭を抑えて早苗が叫んだ。


「いってぇー!? 何するんや!」

「早苗、落ち着いて下さい。何が見えているのは分かりませんが、冷静に」

「……そうやな。何か変だったわ」

「さあ、早くここから離れますよ。その女性は何方に?」

「向こうや」

「なら逆方向に逃げましょう」


 集治の冷静な判断により、機動部隊達はそこから更に離れた。


 待機していたIOSPの車両に乗り込み、すぐに道路を走らせた。


「……はぁー……」


 早苗は未だに友歌との手を離せずにいた。その状態で大きくため息を吐いた後に、頭を抱えた。


「……友歌はん、今は大丈夫か?」

「……あぁ……大丈夫だ。気分が楽になった。……不味いことになったな」

「……PoP発生地域が広がったってことやろ?」

「ああ、それだ。……済まない早苗、俺の胸ポケットに煙草の箱があるはずだ。それを取ってくれ。手が震えて真艫に動かせない」

「ああはいはい。……ん、胸?」

「……どうした。早く取ってくれ」

「僕に頼むのはどうかと思うで……」


 早苗は目を逸らしながら、決して服の下にある膨らみに触れない様に胸ポケットの煙草の箱を取り出した。


 そこから一本の煙草を掴み、友歌の突き出した唇に挟ませた。


 次いでにライターも早苗が取り出し、友歌が咥えている煙草の先に火を点けた。


 煙が、車両内に充満した。


 ゆらゆらと、揺らめいている。その煙を眺めながら気分を落ち着かせていると、自然と混乱が解けていった。


 すると、美愛が切り出した。


「PoP発生地域が山から川、そして近隣町内に広がったと仮定すれば、前代未聞の事態です。そんな報告は今の所……実証不足と言えば、それまでですけど」

「だから不味いんだ。俺達が対処出来ない」


 友歌は煙草の煙を口角から吐き出しそう言った。


「所詮俺達は人間。あの悪魔みたいに特別な存在と関わって化け物地味た力がある訳でも無ければ、神の下で生まれ育って加護がある訳でも無い。俺達にあるのは、ルーン文字が刻まれた銃とこの陳腐な指輪だけ」

「昴さんが作った指輪を陳腐だと?」

「深華、お前はまた話が面倒臭い。お前はどう言う訳かそう言う力がある。恐らくただの人間じゃ無い。多分牟田神東斎とかの例外の領域にいる人間だ」

「話を逸らすな硝子の脚。昴さんの指輪を陳腐だと言ったのか?」


 深華はこんな状況だと言うのに、友歌との間に険悪な雰囲気を発していた。


「……大変、機能性に優れ、シンプル・イズ・ベストだと、思います」

「良いでしょう」

「……どうにも反りが合わないんだよな此奴……」

「おや、そんなことで貴方と同じ意見になるとは思いませんでしたよ? 仲良くなれそうですね」

「皮肉が過ぎるぞ」


 少しすると、それぞれの緊張感が完璧に解けた。


「……あぁ、今度こそ死ぬかと思ったで。ボーナス無いとやってけんわこんな仕事」


 十三時四分。安倍八重が到着。


「……済みません。これは、無理です。私一人で解決出来る事象ではありません」


 IOSP日本支部は、周辺地域に避難勧告を通達。近隣住民及び警察組織には、「硫化水素の発生」と言う架空の事象を配布しました。


 十五時三十九分。立花光の状態が回復したことにより、五常昴が現着。及びミューレン・ルミエール・エルディーが今回の事象の解決の為に協力することを表明。


「……良かったのかミューレン」

「そっくりそのままお返しするわ」

「……まあ、無視したら光に怒られそうだからな」

「私はあくまで調査の為。出来れば解決よ。調査の為に、私はここにいるの」

「……やっぱり狂ってるな」

「狂ってないとあんなことを信じて調査をする訳無いでしょう?」


 昴が運転する大型バイクの後ろに乗っているミューレンはクスクスと笑っていた。


「光みたいな笑い方をするんだな」

「そうかしら? 特に意識はしてなかったけれど……」

「……急ごう。さっさと終わらせて光の傍にいたい」


 ……私が彼に隠し事をしているのと同じ、彼も私に何かを隠している。


 何かを隠していても、友情と言うのは育まれる。私が黒恵に色々なことを隠していても、親友でいられるのがそれを証明している。


 ただ、どうしても知りたいことが一つある。その好奇心が、罪悪感と一緒に私の中で煮え滾っている。


 それは、青夜のことだ。私は彼を知らない。それがおかしいのだ。


 私は昴、五常昴と小学校が同じだった。彼に双子が、五常青夜と言う弟がいることなんて知らなかった。別の小学校に通っていたのなら分かるが、それは余り考えられない。


「……ねえ、昴」

「……何だ」

「貴方の実家は何処にあるの?」


 私は東京の外れの小学校に通っていた。そこには私の叔父の家があり、そこで幼少期の私は暮らしていた。


 そして、昴の答えは僅かに風に遮られたが確かに聞き取れた。


「……島根だ」


 ……ああ、やっぱり。彼は、まだ幼い小学生の頃に一人になってしまった。いや、正確には夏日と二人だろうか。


 ただ、その夏日も当時の昴からすればただの他人。


 小学生の頃、彼から感じる孤独感はそれが原因なのだろう。


「……何で、そんなことを?」

「……気になっただけよ」

「黒恵みたいなことを言うんだな」

「……何故かしら。凄い馬鹿にされた気がするわ」

「それはそれで黒恵を馬鹿にしてるだろ」

「良いのよ少しくらい馬鹿にしても。変人なのは確かなのよ」

「親友であるミューレンがそう言うのか……相当だな」

「親友だからよ」


 私達は当該地域に着いた。


 そこには、八重さんと、透緒子さんと、確か……亜津美さんだったろうか。その三人がいた。


「ひぃ婆に婆にねぇまで……!? と言うか婆とねぇはどうやって来たんだよ!」

「五月蝿いぞ昴の坊。今は一刻を争う。母上から呼ばれて"扉"を通ってやって来たのじゃ」

「便利だなぁ"扉"……瞬間移動当たり前の様に出来るんだから」

「便利じゃぞ。何せ全国津々浦々何処へでも何時でも行けるんじゃからの」

「そこまで来ると何でもありだな……いやまあ黒恵の使い方でもう分かってたが」


 すると、八重さんが話を切り出した。


「私から連絡をして二人に来て貰ったのです。今回の事件を解決する為には、昴と私の二人で……恐らく最低限です。いや、それにさえ届かない可能性も充分に残っているでしょう」


 八重さんがそこまで言うなんて……。八重さんは元現人神の神仏妖魔存在だ。そして昴は……まあ、もう色々規格外の何方かと言うと人間では無い存在。


 それで、最低限。


「……不幸中の幸いか、呪いの範囲は一定以上広がらない様です。とは言っても町一つを丸々と覆い尽くす程ですが」

「問題は山積みじゃ。まずこの騒動の原因の見当が付かん。神か妖怪か、将又怪異か、もしくは儂等と同じ鬼神や(まじな)いを扱う何者か。何方にしても、この地は呪われてしまった」

「……どうしましょうか。恐らくあの山の堰堤が原因でしょうが……その場に辿り着けるか」


 どんどんと暗い言葉が出て来る。本当に私が来て大丈夫だったのだろうか。


「……ごめん婆」


 亜津美さんがそう呟いた。


「何か、暑くない……?」

「そうですか? ……ああ、確かに若干……」

「若干? 相当暑くなって来たと思うけど」

「まさか」


 そう言いながらも、八重さんは不安そうな顔で辺りを見渡していた。丁度私の方を向いた時だろうか。目付きが険しい物に変わった。


 その目の奥には警戒心と僅かな恐怖を光らせ、遥か昔に存在していた野生動物を狩る狩人はこう言う目付きをしていたのだろうと思う鋭い眼光だった。


 その目は、私の後ろを睨んでいる。


「……透緒子、亜津美、刀を。どうやら元凶は山から下りていた様です」


 八重さんは手を合わせると、その指を隙間から桜の花弁が数枚舞い落ちた。


 手を離し、服の袖に腕を入れるとそこから更に桜の花弁が何百も舞い落ちた。腕を袖から出すと、その手には日を反射する太刀が握られていた。


 透緒子さんが右手を背中に回し、ゆっくりと何かを引き抜く様に動かした。


 その手には日を反射する太刀が握られていた。


 亜津美さんが両手の親指と人差し指で長方形を作ると、手を素早く広げた。作り上げられた小さな窓程の大きさの空間には、別の景色が広がっていた。


 その景色の中に手を入れ、引き出すと、その手には日を反射する太刀が握られていた。


 同時に、私の体中に汗が一瞬で浮かんだ。頭が痛い。


 私は咄嗟に後ろを振り向いた。更に頭の痛みが強まった。


 水に濡れた服を着ている女性が、そこにはいた。服から水滴がぴちゃぴちゃと落ち、黒く濡れた髪が肩から垂れている。

 そして、あの顔。見覚えがある。生気を感じさせない程に虚ろで引き込まれる目、あれは、見たことがある。


 あの女性が一歩ずつゆっくりと此方に歩くと、更に私の体から汗が吹き出す。頭が痛い。


 ……おかしい。何かおかしい。あれが人間では無いことなんて、簡単に分かる。にも関わらず、私の頭はあの女性を()()だと認識している。


 あの女性は、人間だ。正真正銘の人間だ。神仏妖魔存在でも無い。怪異存在でも無い。幽霊存在でも無い。あの人は、人間。


 そんな訳無い! そんな……訳無いはずなのに。


 息が、上手く出来ない。まるで水中にいる様に、どれだけ口を開けて吸い込んでも空気では無い別の何かが私の肺に入り込んでしまう。


 暑い。暑い暑い暑い。


 兎に角暑い。今すぐ逃げ出したい。


 ……逃げ出したい? 何で?


 すると、私の横にいた昴が一瞬で女性との距離を詰めた。


 拳を握り女性の頭部に向けて力強く腕を振ったが、その拳は頭部を擦り抜け空を切った。


 その直後に、女性の横に亜津美さんが現れた。身を低く屈んで、手に持っていた太刀を躊躇無く首を狙い横に薙ぎ払った。


 だが、その刃さえも擦り抜け、空を切った。


 余程力を込めていたのか、その後の亜津美さんの体勢が僅かに崩れた。


 驚いた様な表情を浮かべると同時に女性との距離を取ると、太刀を女性に向けたまま警戒心を顕にしていた。まるで威嚇している狐の様だ。


 その女性はぐるりと眼球を回し、ぴたりと止まったと思えば私の方を見詰めた。


 恐ろしくも無い。むしろ、とても優しい目付きだ。それがとても、奇妙で異質だ。


 私を見詰める目付きが徐々に母親の様に恐ろしい物に変わって行くと、私の頭痛が更に酷くなっていった。


 それに何より、暑い。暑くて暑くて仕方が無い。


 女性が此方に手を差し伸べると、妙に心が苛ついてしまう。沸々と怒りが湧いて来る。


 ……ああ、駄目だ。私の中から彼女が出て来る。駄目だ。それだけは不味い。ずっと、彼女は、私の奥に追い遣らないと。


 その女性は私を抱き締め、耳元で囁いた。


『……延原桐馬(のぶはらとうま)……』

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


延原桐馬、お前を殺す。デデンッ!!


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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