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戦闘芸術女神フィナ  作者: 如月いさみ


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1/6

コードネーム『女神』

2012年・・・人類は消滅する。

マヤの暦を発端に終末思想に似た憶測が広がっていた。


核戦争による第三次世界大戦。

地殻の崩壊による地軸異変。

関連した映画も多く作成され、多く放映もされた。


が、しかし。

憶測とは別に人類は2012年の後の2013年を極々普通に迎え数年が経っていた。



■ 戦闘芸術女神フィナ



晴れ渡った青空に流れていく雲。

大阪府の北に位置する北摂地域には20からの中学が存在する。

秋月太一はその19番目に作られた19中に通っていた。


将来の夢は漫画家。

目下、部活で精力的に活動中である。


「妄想は正義!」

と彼は校門を潜ると同時に呟き

「けど、今度のコミストどーしよ」

とぼやいた。


注意書きをつけるならば、コミストとはコミックストリートという同人誌即売会だ。

自分で本を作って本を売るという場所である。


彼は話のネタという妄想を巡らせながら

「やっぱ、セイバー恋愛もんがええか。昨日もフィナ姫の夢見たし」

気分がノッてるのを書くべきだよな~

と呟いた。


気分の乗らないものを書くと必ず行き詰る。

そういうものだ。


彼が自らを納得させようとウンウンと頷き「よし!」と決めかけた瞬間に、背後から声が響いた。

「たいっちゃん!!」

第19中学の学則違反を完璧に犯しているバイクの後ろから飛び降り、漣響夏がドーンとぶつかってきた。


どんぐりのような大きな猫目に色素が薄く細い髪。

身体は華奢だが、行動は大胆だ。

しかも男女共に人気があり

「漫画なら主役級キャラ」

と太一が称する幼馴染である。


漣響夏はバイクの相手に

「ほな!」

と手を振ると太一の横に並び

「昨日、部活行ったら誰もおらへんかったで」

なんでなん?

と開口一番に不満そうに問いかけた。


そう、男女共に人気のあるこの幼馴染は何故か自分と常に一緒に帰りたがる。

部活があれば、部室まで押しかけてきて待っているのだ。


だいたい彼が声をかけなくても彼と一緒に帰りたがる人間はいるのに・・・不思議である。


太一は視線を前に向けたまま

「しゃーないやん、コミスト近いからみんな修羅ってんねん」

部活は休みや

と答えかけて、はっと目を見開いた。


彼に言うのをうっかり忘れていたことに気付いたのである。

約束はしていないものの、いつも部活に迎えに来ることを知っている以上…自分のうっかりミスである。


やっちまった。という感じである。


太一は罰が悪そうにチラリと横の響夏を見ると

「あ、悪い」

といい

「言うん忘れとったわ」

と軽く頬を掻いた。


響夏はそれに唇を尖らせ

「そうなんや、解ったわ。せやったら教室で待っといてや。一緒に帰るさかいにな」

絶対やで!

と決めつけると、下足室へと飛び込んでパタパタと走り去った。


「えー!!」

と太一が反論するよりも早くに彼は姿を消したのである。


付け加えるように

「いやや~、原稿~」

とぼやいたものの後の祭り。


消え去った相手に届くわけもなく太一は靴を脱ぐと

「ほんま、しゃーないなぁ」

と上履きと履き替え、溜息を零した。


下足室ではあちらこちらで談笑が広がり、笑い声が流れていく。

極々普通の学校の風景である。

その中でもいつも幼馴染の響夏の回りには人が多く集まって明るく際立っている。


今もきっとそうだろう。


太一はそれを想像しながら息を吐き出すと

「なんでや?なんで自分なん?」

とぼやいた。


別に幼馴染が嫌いな訳ではない。

色々と役に立ってもらっていることも多々ある。


だけど・・・自分とは正反対なのだ。

趣味も。

人脈も。

性格もだ。


太一はトボトボと一人廊下を歩きながら

「けど、もう、しゃーないわ。放って帰ったら家でどやされるさかい」

それよりも

「話の続きを考えよ」

とクロッキー帳を取り出すと、視線をそれに集中させた。


そこに彼が作ったキャラクターが描かれている。

赤銀色の長い髪をした秀麗の美少女。

フィナ姫というキャラクターだ。


そして。

オレンジ色の短い跳ねたの少女戦士マリナ。


現在、彼が一番熱を入れて考えている話の主人公達だ。

即売会で出そうと思っている本のキャラクターである。


太一は廊下の真ん中を行きながら

「う~ん、やっぱりこの二人のラブストがええか」

話は最後まで決まってるし

「よし!」

と、またまた決めかけた瞬間に、今度はドンッと正面から人影とぶつかった。


手にしていたクロッキー帳は派手吹っ飛び、バラバラと中に挟んでいた紙が散らばった。

色々と落書きをしているコピー用紙である。


「げっ、えーー!」

太一が叫んだと同時に英語が覆うように被さった。


「oh!CoolJapan!」

萌え~!

と、散らばった紙を見つめ金髪碧眼の少女が叫んだのである。


彼女は慌ててかき集める太一と共に散らばった紙の一枚を拾い、一瞬だけ目を細めたものの直ぐに笑顔を浮かべると

「私の名前はマギー」

彼女は?

と拾った絵を見せた。


「…え?と、フィナ姫?です」

と太一は答え

「普通は、自分は?って俺の名前を尋ねへん?」

とぼやいた。


マギーと名乗った少女は

「ソーリー、貴方は?」

とニッコリ笑って返した。


そうそう、普通はそっちが先や!

と太一は心で突っ込んだものの、絵を受け取りながら

「秋月、太一」

と返した。


彼女はニッコリ笑うと

「秋月、太一・・・ね」

と反芻し、紙を返すと手を軽く上げて

「バイ」

と太一を追い越して立ち去った。


漫画好きの外国人。

しかも可愛い。


太一は呆然と彼女を見送り

「転入生やろか?」

と考えかけたものの、背後から彼を呼ぶ声が思考を断ち切った。


「太一!」

「秋ちゃん!」

同級生であり、同じ漫画部の部員である友人達だ。


彼は振り向くと

「今、外国人がおってん」

クールジャパンやて!

と少々興奮しながら言い、彼等と合流すると教室へと向かった。


外国人の転校生は実はかなり珍しい。

というか、ここ数年外国からの来日者の情報が皆無であった。


少し前までは観光客が年間何人などテレビで流れていたが…今ではそんな欠片も流れない。

そんな中で更に漫画好きとなると太一は今まで出会ったことなどなかった。


マギーは廊下を歩きながら背後から聞こえるその声にニッと笑うと

「ふ~ん、しょっぱなから手掛かりを手に入れるって」

僕ってラッキーだよね

と独り言をぼやくと、職員室に向かった。


そして、その日のホームルームで太一はマギーと早すぎる再会をしたのである。

『転校生』と『クラスメイト』として。


彼女は黒板の前に立つと

「初めまして、アメリカから越してきたマギー・ジョーンズです!よろしくお願いします」

と頭を下げた。


誰もがざわめく中、太一は呆然と彼女を見入りコクリと固唾を飲み込んだ。


そう。

「もしかして…これって漫画やったら運命の出会い?」

教室の真ん中で妄想をめぐらせる太一であった。



■■■



外国からの転入生が波乱を呼んだホームルームが終り、太陽が西の空で巨大化する頃。

秋月太一は教室の隅で鈴木一真と田中一郎の二人と駄弁っていた。


二人は同じクラブの部員で非常に仲が良かった。

つまりは。

部活は休みなので簡単な打ち合わせであった。


「俺さぁ、マヤの予言どおりに人類が災厄に襲われた後の話にしようと思ってんだ。2012年に人類の大半が失われ廃墟となった後の世界の話?」

どないやろ?

と鈴木一真が絵を見せながら告げた。


彼はSFスキーだ。


田中は絵を描きながら

「俺は…まだ決まってない!うがー!」

とペンで紙をぐりぐりしてぼやいた。


そうとう溜まっているようである。


太一はフィナ姫とマリナの絵を見ながら

「俺は、この二人の話かなぁ」

とぼやいた。


構想もある程度できている。

姫と戦闘員の許されない愛の悲恋ものだ。


鈴木はニッと笑うと

「ええんちゃうん?結構、太一の話し人気あるし」

と答えると、視線を戸口に向けた。


そこに響夏が立っていたのである。


二人は響夏に手を振り

「漣くん、どうぞ」

と呼びかけた。

毎日毎日、部活に迎えに来ているだけに顔なじみである。


響夏はヘヘッと笑うと三人の元に足を進めた。

「部活あらへんいうてたのに」

教室でしてるやん

言われ、鈴木が笑いながら

「ほんまやな~」

と答え

「漣くん、またモデルやってな」

と返した。


「今度は2012年に世界が壊滅した後の話やねん」

その主役の友達キャラ


それに響夏は頷くと

「ええで、今度な」

と言い、太一の隣に立つと

「ほな、かえろ」

と告げた。


太一はフゥと息を吐き出すと

「しゃーないなぁ」

というと立ち上がって歩き出した。


鈴木と田中は二人に手を振ると夕暮れ時の赤に染まっていく彼等を見送った。


太一は校舎を出ると不意に立ち止まり

「そういえば…今日、マギーっていうアメリカ人が転入してきてん」

話しが合いそうで

「漫画部にさそってみよう思うてんねん。ゆっくり話したいんや」

と告げた。


響夏は少し気の無い返事で

「ふ~ん…そう」

というと、大きく赤く赤く光る太陽を眩しそうに見つめた。


太一の家は簡素な住宅街の一軒家。

極普通の家庭環境である。


響夏はその手前に来ると

「ほな、ここで」

と手を振った。


響夏の家は色々と事情が深く、様々な理由から太一の家族からは良く思われていない。


太一は立ち止まり

「前はよう遊びに来とったのに・・・母さんやったら気にせんでええねんで?」

別に親同士のことやねんから

「お茶くらい飲んでいったらええねん」

と笑った。


しかし、響夏は首を振ると

「ええねん。たいっちゃんは原稿せなあかんねんやろ?ほな、また明日学校で」

と踵を返して四つ角のもう一方の角へと駆け出した。


太一の父親は響夏の親が取締役をしている製薬会社の下っ端。

ただ、二人の母親は幼馴染であった。

どうやら、複雑な人間関係の衝突があったらしい。


太一は息を吐き出すと

「たったこれだけで待たすんも悪いから・・・ええちゅうてんのに」

ま、ええか

というと、家の門を潜った。


その様子を近くに止まっていた車からマギーと一人の男が興味深そうに見つめていたのである。


「彼が描いた絵が女神に似ていたと?」

男性が言うとマギーは少し笑って

「似てたんじゃなくて…彼女だったんだ」

と答え

「危険だけど、真実を確かめたい」

日本の謎を

と告げた。


この時、太陽はゆっくりと西の地平に沈み…夜の闇が日本をゆっくり取り巻こうとしていた。

もう一つの日本が目覚めようとしていたのである。



■ 戦闘芸術女神フィナ



2015年初頭。

この日、アメリカのFBIが入手したDVDは誰の想像をも超えるものであった。


電灯の落とされた部屋の壁に映像が浮かび上がる。

ネオンに照らし出された道頓堀の光景だ。


「OsakaCtiy?」

見ていた一人がそう問いかけると、DVDを再生した人物が頷いた。


そこに男が一人映った。


アメリカFBIのメンバーである。

彼は映像の中で周囲を見回し、目を見開いている。


「Is Here OsakaCity? It is unbelievable」

叫ぶように言い、一瞬画像に影が走ると男性の姿が掻き消えた。


同時にカメラマンの悲鳴が上がり画像が酷く揺れ・・・先ほどの男が力なく手前で転がっていた。

そして、尻餅を付くカメラマンと彼を守るように立っている女性が画面の端に映り込んでいたのである。


女性独特の美しいフォルムに赤銀色の長い髪。

服は和服を動きやすくアレンジしたもので、その手には大きく鋭い鎌が握られていた。


『ここは貴方のいる場所ではない。戻りなさい…そう、死にたくなければ』

日本はもう変わってしまっているのだから


彼等が見ているDVDこそ。

彼女に助けられて命からがらアメリカへ帰り着いたカメラマンが手にしていた2012年のある時点以降の最初で最後の日本の映像であった。



■■■



彼女は闇の落ちた通りの一角で車の中からジッと太一の部屋を見つめていた。

マギー・ジョーンズ。

FBIの諜報部員である。


彼女は鋭い瞳で漏れてくる光を睨みながら

「FBIのカメラマンが持って帰ってきたDVDに映りこんでいた女性につけたコードネームが『女神』。彼女とそっくりな『フィナ姫』を彼が描いていた」

とにかく

「女神がフィナ姫と関連していたら・・・日本で起きた事を解明できる糸口になる」

言い、不意に感じた気配に視線を上に向けた。


男も同時に視線を向けると、目を大きく見開いた。


「やばい!!」

叫んだ瞬間に大きな剣が車を割り、緑色に太った巨大な生物が男に切りかかった。


夜の闇に振り上げられた巨大な剣。

不気味な刃の光に視線を囚われる。


男は喉を引きつらせながら

「こ・・・これがあのDVDの影か!?」

やらせるか!!

と叫び、銃を構えると引き金に手をかけた。


しかし、緑の生物は打ち込まれた銃弾をポニュンと受け止めると何もなかったように男の肩に剣を走らせた。

CGではない。

決して、映像ではない。


現実なのだ。


マギーは息を飲み込み

「Oh! This is the relity?」

まさか!

と肩を押さえて蹲る男の元に走った。


緑の生物は彼女が男を庇うように間に立っても襲撃の手を休めることなく剣を振り上げた。

大きく鋭い剣。

鈍い光が街頭に照らされて輝く。


マギーは息を止めて見つめた。

いや、見つめるしかできなかったのだ。


まさにB級のSFホラーだ。

そして、自分達はB級ホラーの被害者役だ。


そんな風に思った瞬間に目の前で大鎌が剣を弾き飛ばしたのである。


闇の中で光る赤銀色の長い髪。

すらりとした女性独特のフォルムに凛とした後姿。


マギーは斬りつけられ肩を押さえる男性を抱きしめながら

「フィナ…姫?」

いや

「もしかして、秋月太一?」

と呼びかけた。


やはり、服装から全てあの絵の女性だ。


それに『女神』は振り返ると

「・・・っちゃんが・・・あんなこと言うから」

助けるけど

「夜は出歩かん方がええのは知ってたんやろ?」

前に映像を持って帰ったやつおったやん

と顔を歪めていうと、追従するように現れたごつい体格をした戦闘兵士に微笑みかけた。


「この二人はアメリカのFBIの偵察部隊です。無事に帝国ホテルへ・・・男性も手当てをすれば命に別状ありません」

そう告げた。


マギーは兵士に抱えられ、慌てて『女神』に手を伸ばした。

「女神!!貴方は誰だ!?秋月太一じゃないのか!?教えて欲しいんだ!!あんたは…この状態を!日本が2012年のあの時にどうなったのかを知っているんだろ!!」

そう叫んだ。


だが、それに『女神』は一瞥をくれただけで答えることも。そして、振り返ることもなかった。

2012年以降・・・海外にとって日本は未知なる魔境と化していたのである。



■ 戦闘芸術女神フィナ



2012年12月24日の深夜。

殆どの人間が深い深い眠りについていた。


日本政府はアメリカから極秘入手していた情報を非公開にし・・・極秘に家族と共に海外へと逃亡していた。


偽の報道を繰り返すマスコミ。

真実を伝えようとした人間も闇のうちに殺害され、ネットの情報も通信障害という作られたトラブルで封じられた。

疑惑を持つ人間も少なくなかったが、だからといって行動するには金も何もなかった。


知らないままにその時を待つしかなかったのだ。


ただ、真の極秘計画が数年も前から進行していたことを政府ではなく、一部の軍の人間だけが知っていた。


数年前に建設された関西直下の防衛省ビルの最上階。

その窓際に立ち、一人の男性が立っていた。

 

背後には自衛隊の中でも選りすぐりの人間が数名と、大阪府警のレスキュー隊が敬礼をして控えていた。


男は僅かに震え、隣に立つ親子を一瞥して頷くと男達の方に振り返った。


「恐れるな、とは言わん」

人間とはそういう生き物だ


・・・だが、我々だけは事実から目をさらすわけにはいかん・・・

「あと、10分」


誰もが深く息を吸い込んだ。

ヒタリと汗を浮かべ、落ちていく。


静寂が支配し、誰もが己の心音と呼吸音だけに耳を傾けた瞬間に・・・その時は訪れた。

太平洋に隕石が姿を見せ、それにアメリカ軍の原子力母艦が核を放った。

 

光とエネルギーが太平洋の一角に広がった。

それは太平洋でもアジア地域の一部も飲み込んだ。


日本はただ一国だけ・・・全土が飲み込まれたのである。


その瞬間は地獄であった。

網膜すらも麻痺させる強い光と衝撃。

そして・・・死にゆく恐怖。


悲鳴すらも駆け抜ける波動に飲み込まれ、四散していく。

それが諸外国に逃げ出した日本政府の決めた日本人の未来であった。


彼等は日本を捨て去ったのである。


全ての衝撃が消え去った後に残ったものは空一面を覆うドス黒く厚い雲と水蒸気で作られた深い深い霧に覆われた日本の国土と・・・何一つ変わりになく眠り続ける人々の姿であった。


真実を知るのは選ばれた各地の自衛官と警視庁の選ばれたレスキュー隊と。

この極秘計画を実行した罪深き人間達だけであった。


秋月太一は目を覚ますと小さな欠伸を漏らして、上半身を起こした。

横手の窓から明るい陽光が流れ込んでくる。

爽やかな朝だ。


彼は三角座りをして両足を抱きしめ

「・・・やっぱ、フィナ姫ネタにしよう」

赤い髪の女神

「せや、相手はマリナやな。オレンジの髪の可愛い系の女戦士」

と呟き、暫しジッと虚を見つめた。


何故だろう。

何故だろう。

脳裏を横切る思考。


アノ 夢 ニ 現 レル フィナ姫 ハ ?


世界が崩壊するといわれた2012年。

だが今、彼の頭上には以前と変わらなく見える太陽が燦々と輝いていた。



■■■



人間の中には安全バイアスというものが存在する。

自らの精神の安定を保つために異常でも正常と思わせてしまう思考回路のことだ。


秋月太一は朝食を終えると何時ものように自室に戻り鞄を手にした。

窓の向こうには何時もと同じ街の光景が広がっている。


「変なところ・・・あらへんよな」

昨日の続きの今日があって

「明日も今日の続きに決まってる・・・せやろ?」

独り言のように呟き、息を吸い込んで首を振ると背を向けて部屋を後にした。



■戦闘芸術女神フィナ



朝の中でマギーは大阪の中心街に近い場所にある帝国ホテルで目を覚ますとベッドで眠っている男性に目を向けた。

昨夜のことは俄かには信じられない事実であった。


彼女は部屋の戸を叩くと開いた扉の向こう側に立っている自衛官に視線を向け

「あの隕石を各国が核弾頭で破壊した瞬間に日本で何が起きていたのか・・・それを知りたい」

あなたは知っているんですよね?

と告げた。


自衛官は彼女の問いかけに表情一つ変えず

「我々は事実を受け入れただけで・・・何が起こったのかはお話できません」

またお話する力もありません

と告げた。


「我々は日本国を守るためだけに存在している。また、そのための組織に所属している」

ただ、それだけです。


自衛官はそういうと口を閉ざし、マギーに室内に戻るように誘い

「まだ、夜明けまでに少し時間が必要です。どうぞ、お部屋に」

と告げた。


夜明けが訪れると日本は2012年までの日本と同じ姿に戻る。

極普通の。

極当たり前の。

これまでの姿が甦る。


だが、それまではまだ・・・悪夢のような。

そう、それまではまだ・・・異世界のような異常の世界が広がっているのだ。

 

これが漫画や。小説や。ドラマだったら…。

こんな状況でもエンディングは何時か訪れるだろう。


誰かが救われ。

誰かが地獄に落ちる。


それすらも決まった筋書きに描かれたままに紡がれて、ハッピーエンドやアンハッピーエンドという終焉をそれぞれが迎える。


だが。

現実のエンディングは誰であっても、どんな運命であっても『死』という唯一つのエンディングしかない。


それが訪れるまで終りは無いのだ。

しかも、どのような死を何処の誰が何時迎えるのかも決まってはいない。


赤い髪の女神は明けて行こうとする空を見上げ

「現実の世界にはラスボスも正義の味方もおらへん」

やのに

「地獄のような世界が・・・厳然とここにある」

と呟き、自らの手を見つめた。


「それを創った罪を」

俺は背負っていかなあかんのか?


女神は唇を噛み締めると、そのまま浄化されて正常に戻っていく世界の中に足を踏み入れた。


・・・たいっちゃん。たいっちゃんだけは俺を見捨てんとって・・・


ずっと。

ずっと。


・・・自分にはもう、たいっちゃんしかおらへんねん・・・


■■■


「あの映像がSFフェッチな妄想でないことは間違いない」

ただ

「何故、この状況になったのか」

マギー・ジョーンズは完全な朝を迎えた大阪の街をビルの一角から見つめ呟いた。


眼下の通りでは出勤途中の女性や通学途中の学生が2012年頃の日本の光景と全く同じ様子で行き交っている。

昨夜とはまさに別世界だ。


彼女は息を吐き出しベッドで身体を休める男性に向いた。

「とにかく、僕は学校へ行くよ」

女神はまちがなく

「秋月太一と関係してる」

彼かもしれない

「そして、何よりこの状況についても知っている」

と告げた。


「アメリカ政府のみならず」

各国は

「日本の状況を知りたがっている」


彼女はニッと笑い

「まさかB級SF世界になってるとは思ってないだろうけどね」

と呟いた。


太陽は変わらず降り注ぎ、明るく世界を照らしている。

が、しかし。

「それは…あの時飲み込まれた区域では日本の大地だけや」

漣響夏は呟き、後ろに立っている人物に

「マギー・ジョーンズやアメリカ政府は運が良かった」

それだけや

と告げた。


「自分達が救えるのは目の前の一握りの存在だけや、それだけしかできへん」

国中に害を広めれるのに笑いしかあらへんな

「せやろ?武藤大佐」


武藤は皮肉を込めた言葉に目を伏せることで答え、直ぐに響夏に視線を戻すと

「響夏様、学校へは」

と話を切り替えた。

響夏は彼の後ろのバイクに乗り

「行くに決まってるわ」

たいっちゃんも元に戻っとうし

「マギー・ジョーンズも気になるさかいにな」

と応えた。


近隣諸国や欧州の幾つかの国の諜報員も確かに日本にきた。

大陸に近い幾つかの地域に。

だが…見つかった時には死体となっていた。


大阪でも。

東京でも。

他の区域でも。

その当時はまだ体制が整っていなかったのだ。


もちろん丁重に葬ったが…自国に返す事はしなかった。

被害を増やさない為と、こちらの人間が外部でどうなるか…まだ誰もわからないからだ。


響夏は武藤のバイクに乗りながら

「今はまだ…誰も知らへん」

半分の自分達を

「その間にどないかせな」

あかんのや

と呟き目を閉じた。


そう…国を捨てた政府高官達のいるふりをして日本を回している各地の精鋭部隊の仮面が剥がれる前に。

誰かが真実を確かめるために動き出す…その前に。


しかし、このカオスをどうしたらいいのか。

その答えを持っている人間は誰もいなかったのである。



■ 戦闘芸術女神フィナ




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