祭りの意味と新たなる決意
これを皮切りに、昨日と同じく人々は露店や舞台の周りに集まる。リシェアオーガ達が下りた舞台では、舞踊家達が自分達の芸を披露する準備を始めていた。
彼等を背にしたリシェアオーガは、向こうの神々へと歩み寄る。
「まだ、我の神話を知らない様だが先程の劇はその一部でしかない。
このルシフで起こった真実の一部…まあ、降臨祭の前振りの為だけに行われる物だがな。」
戦の神としての装いのまま告げる彼に、周りの者達がその時関わった人物だと気付く。彼等がそのまま、この劇を演じていると言う事は、この降臨祭が何を意味しているのかも察したようだ。
「オーガ…もしかして、この降臨祭は、ルシフ王が戦の神である事を知らしめる為か?」
ルシェルドの質問に彼は頷き、その理由を説明する。
前任者の後、後継者となる者がこのルシフへと来る事が無かった為、王としての資質があるリシェアオーガが前任者と神々の頼まれ、次なる王がこの地を踏むまで後を継いだ事。
しかし、次なる王が未だこの地へと訪れる事が無い為、人間が務める以上の年月を彼が兼任する羽目になっている事。
この為、ルシフ王になれば永遠の若さが保てると変な誤解を生み、力付くでこの地を占領しようとする愚か者が出てしまった事。
リシェアオーガ自身、そんな馬鹿者の相手を一々するのが面倒な為、ルシフ王が戦の神である事を知らしめる降臨祭を思い付いた事。
「只、毎年するには向かない祭り故に、人々が忘れてしまう年月位…50年に一度に開催する事になった。
まあ、今回だけは特別で来年も開催するのだが…な。」
向こうの神々が来る事で本来知るべき王族を招待出来無い為、来年の開催を決めたと教えられる。
加えて、その通達で来年参加したいと言う客が既に申し込んでいて、今回の祭りが終わり次第、選定作業になるのだと告げる。
この説明にルシェルドは、何十年かに一度の祭りでは仕方ないのだろうなと思い、それ程重要視される祭りなのだと感じてしまった。
王族に取って、脅威となりえる国の存在は知っておいた方が身の為だし、ましてや、この世界で一番厳しいであろう目の前の神の怒りを買う事は、人型の生き物に取って恐ろしい事だと思う。
自ら破壊の神とも名乗る戦の神であるが、保護する対象と認識されれば手厚い慈悲を受ける事となる。
それを知っているルシェルドは、この祭りの隠された意味を悟った。
神々が保護する対象であるか、無いか…それをも確認する為に行われているのではないのかと。しかし、この場で尋ねる事は出来無い為に後で聞く事にしたルシェルドは、他の神々へ祭りに参加するよう促す。
昨日と同じ様に祭りの喧騒へと向かうとする彼等をルシェルドは、温かい瞳で見つめていた。彼の様子にこちらの神々は、満足そうな顔をして彼へと話し掛ける。
「ルド、如何やらお前も守護神らしくなったな。
リシェがちゃんと教えているみたいだし、お前もちゃんと身に着けている様で何よりだ。」
空の神・クリフラールの言葉に驚いたルシェルドだったが、それを上回る言葉まで光の神・ジェスクから掛けられる。
「本当に我等の罰を真面目に受け止め、役目を自覚している様だ。
リシェアと同じ境遇を経ているのならば、リシェアの様に己の世界を護る資質が備わっている。故に、それを自覚する事が出来たルドだからこそ、守護神たる者として相応しいのだぞ。」
二人の守護神の言葉が聞こえたらしく、未だ屋台の方へと行っていないカルミラとファレルア、ウォルトアが頷いている。その内の一人、カルミラが口を開く。
「ジェス殿やラール殿のおっしゃる通りですよ。ルドは守護神として、これからずっと君臨するのですから、もう少し自信を持った方が宜しいですよ。
それにファレやエル、レムも、貴方の協力者になる筈ですから…ね。」
最も、まだ頼りないですけどと付け足す辺り、地神の毒は楽しい祭りの最中でも抑えられる事を知らなかった。
カルミラの言い草に微笑みながら、そうだなと返事を返す。
今はまだ未熟だが、守護神としての歩みを確実に進んでいる…そう思うとルシェルドの微笑は耐える事が無かった。
これから先、己が破壊の力を受け入れ、守護神として生きて行く…己の世界を護れると言う事は、彼にとって嬉しい事であり、最も望む事であった。
それを完全に自覚したルシェルドは、カルミラ達と共に祭りの喧騒の中へと紛れて行く。
人々の温もりを感じれる事の出来る祭りは次の日の夜明けまで続き、向こうの神々は最後まで祭りを楽しんだ。
その後、各々が修業を始め、こちらの世界の地の神の勉強会と言う名の御説教も始まる。
勿論、ルシェルドやアルフィート、アルトアも、リシェアオーガの許で修業を始める為に暫くルシフに滞在した。偶に他の精霊騎士達も参加した修業もルシェルドの著しい成長により、終わりを告げる。
そして…彼等は再び、自分達の世界へと帰る。
鍛練したくなったら、此方へ来いと言うリシェアオーガの贐の言葉を受け、彼等は自分の世界を護るという何時起きるか判らない戦いへと身と投じて行く…。
再びこの地を踏むのは己の力量を伸ばす為、若しくはこの世界の神々に会いたくなった時のみ。何時でも会える彼等へ別れという悲しみは無い。
それは人間である者が【死】と言う永遠の別れを迎えるまで続いていた…。
この生誕祭と降臨祭の思い出は、向こうの神々の更なる成長を促す起因となった。
特にルシェルドは、己の最後の生贄の巫女である、リシェアオーガから誘われたこの祭りで、己の考えを揺るぎ無い物とした。
自分は破壊神では無く、世界の守護神である。
そして、一人だけで世界を護る為に戦うのでは無く、他の神々と共に己の世界を護る、己を慕ってくれる人々を護って見せる。
そう思うと共に、このルシフの人々の様に、自分を慕ってくれる人々に感謝したいと考える様になる。後にそれは、ルシェルドの神殿で行われる、守護神の降臨祭として人々に知られる事となる。
今はまだ、向こうの世界の神々は未熟であるが、この世界に関わった一つの世界の神々により、成長を促され、彼等が一人前に自分達の世界を維持できるようになる時代は、そんな遠い未来でも無い。
そして…ルシェルドが、守護神として一人前になる日も、左程遠く無い。




