兄の決心
彼女の姿に見惚れているあちらの神々の中で、それに逸早く反応したのはこちらの神々の予想通り大地神だった。
「イリィがこんなに美しくなるなんて…流石はリーナ殿ですね。
今度は、他の人達にも施して貰いたい位ですよ。…特に、ウォルが美しくなった姿を見てみたいものですね。」
悪戯半分に言われたらしい言葉に名を上げられた当の本人は慌て、提案されたリルナリーナは悪乗りをする。
「でしょ?イリィって元が良いから、こんなに綺麗になれるのよ。
…ウォルも元が良いから、やり甲斐がありそう♪機会があったら……今日のお昼…ううん、ちょっと準備がしたいから、夜の内にやってもいいかも♪」
交わされる会話を止めようとするウォルトアの肩に、ウェーニスの手が掛かる。
「リーナもああ言ってるから、付き合ってあげて。
大丈夫、男性らしく着飾らせてくれるから、何も心配しなくていいよ。」
告げられた言葉に納得した彼は、この事を承諾する。そして、これは直ぐに実行される事となった。
そんな遣り取りが行われている時、未だ妹に見惚れている兄へ妹から声が掛かる。
「お兄様…何か…変?似合わない??」
心配そうに尋ねる妹に兄は我に返り、照れくさそうに告げる。
「いや…変じゃあない…寧ろ…凄く…綺麗だ…。」
美しく着飾った妹の姿に見惚れた己を叱咤しながら、エルシアはイリーシアを見つめる。そんな彼へルシェルドが声を掛ける。
「余りにもイリィが綺麗になったからって、見惚れ過ぎだぞ。」
失笑を含んだ言葉に、ああ、そうだなと重い口を開く。
「その内…イリィも恋する誰かの為に、あんな恰好をするのだろうな…。」
兄が妹を手放す時の事を示したと思われる呟きに、何れはそうなるだろとルシェルドは答える。その返答を受けたエルシアから、何か、物悲しさを感じた彼は一言付け足す。
「妹のイリィが兄であるエルから奪われるのではなく、弟が一人増えると思えば良いと思うが…如何だろうか?」
意外な言葉にエルシアは驚き、そういう考えもあるのか…と再び小さな呟きの声を上げる。
「そうか…そう考えれば寂しくないし、弟だったら…ファレみたいな感じになるんだろうな…。」
嬉しそうに告げるエルシアに、多分そうだとルシェルドも頷く。だが…一言、多かった。
「でもな、イリィを幸せにしない奴には、嫁にやれないからな!!」
安定の、妹馬鹿の言葉が聞こえたらしいリルナリーナとリシェアオーガの二人は、誰かを思い出したらしく、御互いに肩を震わせて忍び笑いをしている様だった。
こちらの世界の他の神々も笑っている様子だったが、数人程、頷く神々もいた。カーシェイク以下、妹を持つと思われる彼等はエルシアと同じ意見のようだ。
「エル、やっと普段通りに戻ったな。序でに、このルシフの人々と祭りを楽しもう。」
ルシェルドの提案でエルシアは頷き、イリーシアやカルミラ達と共に祭りの喧騒の中へと入って行った。




