生誕祭初日
翌日…生誕祭の一日目。
白亜の王宮兼神殿を背に、ルシフ王・オルガと闇の騎士を中心に神々の姿が集っていた。
厳粛な雰囲気な中で舞台を挟む様にして、ルシフの王と神官達、神々が王宮側に、それに向かい合う様にして、人々と向こうの神々が屋台側に集まっている。
見た所ルシフ王と闇の騎士の二人の服装以外は、神々の正式な服装と判るが、この二人の服装は何時もの物と違っていた。
ルシフ王の服装は、光の神と同じ白地の騎士服に銀色の月と金色の太陽が裾を飾っていて、片や闇の騎士の服装は、闇の神と同じ黒字の騎士服に銀色の月と金色の星が裾を飾っている。
其々が光と闇を表している服を纏い、その手には其々竪琴の存在があった。
ルシフ王の手には白い竪琴が、闇の騎士には黒い竪琴があり、それが神々の御業の物と向こうの神々は気が付く。
ルシェルド以下、リシェアオーガに関わった者は、王の手にあるのが光の竪琴だと言う事を知っていたが、闇の騎士のそれは、彼の服装で闇の竪琴ではないのかと想像出来た。
対照的な衣装の二人の騎士が神々を背にして、用意されている舞台へと上がり、竪琴を奏で始める。
遥かな昔 一つの意思 無の闇だけの世界に目覚めり
かの意思 孤独なり
自らの他 生ける者 この世界に無し
故にかの意思 他の世界を手本とし 七つの命を創りき
七つの命こそ 最初の神々なり
空の神・クリフラール 時の神・フェーニス 闇の神・アークリダ 光の神・ジェスク
大地の神・リュース 水の神・ウェーニス 炎の神・フレィリー
この七神を以てして 神々の始まりなり
以前、リシェアオーガが奏で詠った時よりも、今の演奏の方が一層不思議な感覚を齎した。
後ろにいる筈の神々の幻影が現れ、詩に合わせ、その光景を演じるかの様な動きを見せる。まるで神々の誕生を目の当たりにしている様な光景に、向こうの神々も息を飲み、目を離せない。
彼等の詩が終わると、三人分の声が響く。
「「「これにて、神々の生誕祭を始める。皆の者、楽しんでくれ。」」」
光の神と空の神、そしてルシフの王の声が重なり、向こうの神々を迎えた神々の生誕祭の幕が上がる。
これを合図に人々が思い思いに屋台や舞台に散らばり、辺りが賑やかになる。しかし、不思議な現象を目の当たりにした向こうの神々は、驚いたままでその場に佇んでいた。
彼等の様子を見て、こちらの世界の神々は微笑み、声を掛ける。
「今のに驚いたらしいな。
オルガの光の竪琴とアレィの闇の竪琴は、竪琴に選ばれた者同士が共演すると今の様な現象が起こるんだ。」
楽しそうに説明する空の神・クリフラールの言葉に、カルミラが反応する。
「もしかして、アレィの竪琴も神の御業なのですか?」
興味深そうに訊く彼へ、こちらの神々の頷きが返る。そして、クリフラールの説明が続く。
光の竪琴はジェスリム・ハーヴァナムと言い、光の神であるジェスク神の創る輝石製であり、闇の竪琴はアークレィア・ハーヴァナムと言い、闇の神であるアークリダの創る輝石製だと告げる。
カーシェイクから教えられていた事柄であったが、神の御業が主を自ら選び、その選ばれた者達が特に神話を共演すると、その場面が再現される事は知らなかった様だ。
簡単な説明が終わると、神々の中から金色の髪の少女神が前に出て来た。白い薔薇と白い百合とで飾られた少女は、そのまま向こうの世界の太陽神の前まで歩み寄る。
「やっぱり来たのね、御馬鹿さん。全く…妹離れが出来ないのも問題ね。」
リシェアオーガに似た高い女性らしい声に、向こうの世界の神々が注目する。
向こうの世界にいた時より多い装飾品と、神聖な気配…清楚な装いをした、こちらの美と愛の神に向こうの神々は息を飲む。
厳しい眼差しと呆れ返った表情の彼女は、向こうの世界の太陽神へ視線を向けたまま、その可憐な唇を再び開く。
「これで貴方も、家族が行方不明になった人達の想いを判ったでしょう?
彼等の、そして…私が祝福を与えた…自分の愛し子を、突然奪われた事への悲しみが…判ったでしょう?」
神々が祝福を与えた者が、その相手である神々の愛し子となる事を彼等は、まだ教えられていない。
祝福を与えた神は、その愛し子の成長と歩んで行く人生を見守り、この過程を見る事を楽しみにしている。
それを無断で奪われ、然もその命さえ奪われたとあっては、祝福を与えた神は、その奪った者に対して強い怒りを覚える。
それが今までのリルナリーナの心境であったが、今回は己の半身までも奪われようとした事で、その怒りは最大の物となっている。
心の内に秘めた怒りを解消する為に彼女は、今回の事を進めた。
兄弟がいる神々の内、最も溺愛している相手を対象に同じ気持ちを体験させる。
本当なら、リシェアオーガを巫女に選んだ風神を標的にする予定だったが、こちらの風の神のエアファンが既に、かの神へが大打撃を受ける様な事を仕出かした為、急遽標的が変更となった。
妹を溺愛している太陽神。
正体を知らないにしろ半身を蔑にしていた事に加え、歴代の巫女に対しての対応は、余り褒められた物では無かったと巫女達の魂の記憶から知っていた。
序でに言えば、この生誕祭で自分の予てからの目的をも果たす事も出来ると考え、この計画を実行したのだ。
思惑通り太陽神の心への衝撃が強いと感じると、彼女の厳しい瞳が憐みを帯びて行く。
「エルシアだったわね、これでオーガと巫女達への無体は、許してあげる。
私の趣味に付き合ってくれたイリィに免じて、一応、これまでにしてあげるわ。…イリィに感謝してね。」
妹を出汁にされたエルシアは、面食らった顔となったが、それを確認したリルナリーナは、自分の後ろに振り向き、優雅な仕草で後方へいる者へと手を差し伸べる。
その手を取り、ゆっくりと現れてくる人物に向こうの世界の神々は、息を飲んだ。
あちらの世界の月神・イリーシア…。
こちらの美と愛の神の手で着飾られた彼女は、本来持つ物と共に加えられたそれで、美しさに更なる磨きを掛けていたのだ。
彼女の姿に兄である太陽神は、只、見とれる事しか出来なかった。




