第三十七話:グレースの憂鬱
ノーランは忙しそうだった。
毎日、あちこちの工房の親方が入れ替わり立ち代り、ノーランを訪ねてくる。
まずは鋼の剛性やしなやかさを生むための技術を教えなくてはならない。
訪ねて来た親方には基本的な説明をし、後日、職人たちを含めて大規模な合同説明会を行う様だ。
カイルは「どこから手を付けたもんかなあ」と、いつもの思案顔で考え事をしていた。
北の脅威は去ったが、武器の開発以外にも民生品の開発や今まで作って来た武具を量産化するための仕様変更も必要だった。
ノーランやタティスのレベルでそのまま他の工房に作らせるのはかなり困難と思われた。
ノーラン武器工房の製品のクオリティの80%程度の品質なら量産化も可能だと考えた。
カイルはペンを、鼻と上唇にはさんで天井を見上げていたかと思うと、閃き顔になってペンを走らせる。
また、鼻と上唇にはさんで天井を見上げる、を繰り返していた。
その頃、グレースは王宮で魔法使いの民からの報告を聞いていた。
その魔法使いの民は、魚群探知機の役割で漁師の船に乗って東の海に出ていたそうだ。
漁師たちに釣り針を落とす場所を指示していた際に、東の海から猛烈なエネルギー体の衝突を感じた、と語っていた。
遠く離れた東の島国からではないか?というのが、その魔法使いの民の推測だった。
グレースは腕組みをし、魔法使いの民の話をじっと聞いていた。
エネルギー体の衝突?大陸のプホルスがそんな島国に行く理由は思いつかなかった。
何者?
答えは見つからなかった。
グレースは、まずは自らの目でそのエネルギー体を確認しようと考えた。
漁師の船に乗せてもらい、エネルギー体を見た魔法使いの民に、その場所まで連れて行って貰った。
その日は、エネルギー体の衝突はなかなか起こらなかった。
船に初めて乗ったグレースは船酔いしていた。
気持ち悪い…。
今日はそろそろ引き返しましょうか、と言おうとした瞬間だった。
グレースの魔力探知能力が、そのエネルギー体の衝突を感知した。
実際には無音だが、グレースの脳内にはドオオオオオオン!!!という轟音が鳴り響いていた。
レールガンの様な物理的エネルギーとして鋼の弾丸を飛ばした衝撃波とは全く異質なエネルギー体だった。
魔法対魔法のぶつかり合う衝撃波だと理解した。
なんて大きさなの…。
グレースは呆然とした。
この国で最も高度な魔法使いだと自負していたグレースだったが、この衝撃波には戦慄していた。
この衝撃波に、もしロサーナ王国が攻撃されたら…。
想像したくないシーンだったが、明確なイメージとしてグレースの脳内に浮かび上がる。
「全滅だわ…」
呆然としていたグレースだったが、我に返った。
この状況でまず何をすべきか…。
カイルの顔が浮かんだ。
あの子の「神の目」で見てもらうしかないわ。
グレースは、魔法で船を港まで滑らせていった。
港から馬車に乗り換え、ノーラン武器工房まで早駆けで向かった。
カイルはターナー商会の荷車をベースにした「自動車」のアイデアを思い付き、図面を引いていた。
馬の脚力ではなく「魔力」を封じたキャパシタを動力源にして走る様にすれば、運べる荷物や人間の数も増やせる。
そうだ、ターナーさんに相談してみようかな…あれからお父さんとターナーさんは意気投合して仲良しだから。
ターナーさんの技術なら、軽くて「燃費」?いや「魔費」?の良い自動車を開発出来るはずだ。
我ながらナイスアイデアだ、とカイルが悦に入っていると、工房の前に王宮の馬車が停まった。
ん?誰だ?エドガーさんとハンナが帰ってきたのかな?
カイルは工房の前に歩いて行った。
馬車から降りてきたのはグレースだった。
「カイル!お願い!見て欲しいものがあるの!」
グレースに手を引かれ、カイルは馬車に乗り込む。
御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。
初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。
常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。
「エタりません、完結までは。」
最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。




