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第二十九話:訪れる平和と緊張

魔法使いの民の街を取り囲んでいた大きな壁が、取り壊されることになった。


もちろん、魔封石を身に付ける義務もなくなる。


それを祝って、ささやかな祭りが開催されることになった。


グレースとカイルは、その祭りに招待されていた。


王宮の馬車に2人で揺られながら、カイルはグレースの横顔を見ていた。


不安げな表情だった。


せっかく、長年の想いが実現したのに。


カイルに話しかけた男が実はプホルスだった、と後で聞いた。


30年前、プホルスを封じたのは、まだ少女だった頃のグレース。


玉座の横の部屋から入札会を見ていたグレースは、微弱なエネルギー体を捉えていた。


微弱過ぎてどの人物か特定できなかった。


微弱が故に、まさかプホルスとは考えなかった。


そして、会場にいる人の数が減ってきて初めて気付いた。


カイルの真ん前にいた。


「カイルが殺される!」


グレースは夢中で駆け寄った。


カイルが、無事で良かった。


微弱ながら魔力を感じていたのに対処が遅れたことを悔いた。


もう絶対にカイルを危険に晒してはいけない。


そう誓っていた。


魔法使いの民たちはカイルとグレースを大歓迎してくれた。


ハンターは、カイルの顔を見た瞬間、大粒の涙を流していた。


カイルを、抱き締めた。


そして「ありがとう」と、静かな声で言った。


お祭りの屋台では、料理を煮たり焼いたりは皆、魔法でやっていた。


火加減の調整も上手いものだった。


魔法のチカラを取り戻した人々は、年配者からその使い方を習っていた。


平和な、のどかな晴れ空だった。


その時、グレースが目を見開いた。


椅子から立ち上がった。


「アイツだ…」


グレースの魔法感知能力が、王宮に突然、最大規模の魔力が現れたことを知らせていた。




ベッツは、いつもの様に王宮の中庭で花壇の花を見ていた。


のどかな晴れ空だった。


「気持ちいいなあ」


思わず、言葉にしたくなるくらい、爽やかな空気だった。


先日、カイルと夢中で話した内容を思い出していた。


カイルは本をたくさん読んで勉強したって言ってたなあ…。


私も、本をたくさん読みたいなあ…。


「よお、ベッツ、元気そうだな」


後ろを振り返ると、プホルスがいた。


「プホルス!」


ベッツは駆け寄った。


プホルスは、ベッツを抱き締めた。


「どうだ?ここの暮らしは」


「うん、みんな良くしてくれるよ!」


「そうか、そりゃ良かったな」


「カイルくんとも、友達になったよ!」


「ほぉ…」


「本をたくさん読んだんだって!」


「なるほどなあ…」


「カイルくんに、図書館に連れてってって頼んでるんだあ」


「そうか、そりゃ楽しみだな」


「でも、カイルくんはいつも忙しそうだから…」


「でも、たまには会ってくれるんだろ?」


「そうだね、忙しいのに来てくれる」


「それじゃあワガママ言えないな」


「そうだね」


「今日は、コイツを持ってきたんだ」


プホルスはポケットから包みを取り出した。


「ああ、私の大好物!」


それは、カウフマン帝国でしか採れないナッツを炒ったモノだった。


「みやげだ」


「じゃあな、ベッツ、また来る」


「もう行っちゃうの?」


「俺も忙しいんだ、カイルみたいに」


「分かった!また来てね!」


ベッツは、プホルスの姿が建物の影に隠れるまで手を振っていた。


プホルスは、魔封石で作った帷子を全て外していた。


グレースとカイルが王宮に居ないことは知っていた。


今、ここには俺が魔法使いだと感知出来る人間はいないはずだ。


グレースが慌ててここに戻ってくるまで、ロサーナ王国の王宮を見学させて貰おう。


プホルスは自分の周りに魔法で結界を張っていた。


人間には、俺の姿は見えないはずだ。


目の前を、王宮職人が横切っていく。


タバコを咥え、指先に灯した魔法の火に近付けた瞬間だった。


「お前は誰だ!!!」


突然、後ろから怒声が響いた。


ロサーナ騎士団の制服を着たレイラだった。


剣を抜いている。


しかし…剣の構えが変だ。


ああ…なるほど…剣に俺の姿が映ってるのか…。


あの剣は普通の剣じゃないな。


にしても、最初は気配だけで俺に気付いたはずだ。


大したもんだ。


ベッツと大して歳も変わらないだろうこの少女、しかも魔法使いではない。


「なぜ分かった」


プホルスがわざと声を発した瞬間、レイラは素早く踏み込み剣を横に払った。


プホルスは虚を突かれた。


間一髪でかわした。


あっぶねぇ…声だけで…しかも、俺がカラダをかわす方向までヤマ張ってたか…。


「カイルくんに会いにきたんだ」


プホルスは嘘をついた。


カイルが今日、ここにいないことは知っていた。


今度は深く踏み込んで突いてきた。


プホルスは相手の女の子が「上級者」だと理解したので、今度は上手くかわした。


「カイルくんはどこだい?」


今度は上段からだ。


「どこを狙っている」


また、横に払ってくる。


そろそろお開きにするか。


「カイルに伝えてくれ」


レイラは動きを止めた。


「ありがとうってな」


その後、気配が消えた。




























御覧頂いた皆様に心より御礼申し上げます。

初回投稿から毎日投稿を続けておりますが、最終話まで毎日投稿で走り切るつもりです。

常時、原稿ストックを40本以上キープして公開を続けます。

「エタりません、完結までは。」

最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


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