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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第四章 紅霧異変
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第三話 湖上のエルフ




 霧の湖 上空




 向かって来た光弾の一団をかわす。

 同時にその発射点を探しだす。


 いた。

 湖面のすぐ上、妖精の群れだ。

 数が多い。

 いちいち撃っていてはキリがないだろう。


「霊夢」

「分かってるわよ」


 少し離れたところを飛ぶ博麗巫女に援護を要請する。

 彼女の両手に集まった霊力が、多数の御札となって現れる。

 それらは独りでに空中に飛び出し、まるで意思を持つかのように妖精目掛けて飛翔していった。


 俺も同時に誘導攻撃を放つ。

 緑色の細長い光弾が8発ほど前方へ飛び出す。

 指定した生命体に向かって進むよう妖術を込めてある。

 何気に最近一番苦労した新技だ。


 俺の誘導弾と霊夢の御札は、ほぼ同時に妖精の群れへと着弾した。

 小妖精程度の知能では回避などできるはずもない。

 全弾が命中し、群れは壊滅した。

 撃ち漏らしは霊夢の霊弾の餌食となっていく。


「?」


 だが違和感に気づいた。

 一匹、動きの素早い奴がいる。

 今の誘導攻撃を避けきったのか?


 背格好からして小妖精ではない。

 人間の子供ほど……これは大妖精クラスだ。


「……妖精のくせに」


 霊夢が面倒そうな声を上げた。

 再び撃ち出される誘導御札の群れ。

 だが。


「━━!」


 その大妖精がふわりと瞬間移動した。

 同時に大量の光弾をばらまいてくる。

 目標を失った誘導御札は迷走し、虚しく湖面へ刺さった。


「なんなのよっ!?」


 霊夢の苛立ちの声。

 俺はそれに流されず、冷静にあたりの気配を探る。


 春告精(リリーホワイト)をはじめ、俺は何故か妖精に懐かれる。

 過ごす時間も増えてきているため、彼女たちの気配の特徴は掴んでいるのだ。

 それに、攻撃と同時に瞬間移動するのは大妖精クラスの常套手段。

 さして驚くことでもない。


「!」


 いた。

 右後方斜め上。

 ノールックで妖術陣をそちらに向け、妖弾を撃ち込んだ。


 遅れて視線もそちらに向ける。

 俺の猛攻に耐える女の子の姿が目に入った。

 強風を纏い、妖弾を逸らせようとしている。

 ……なるほど、風精か。

 そりゃしぶといわけだ。


 霊夢が援護射撃を始めた。

 霊力弾の群れが風精に着弾する、その刹那。


「雹符『ヘイルストーム』!」


 別方向から少女の声。

 同時に、風精との間を大量の(ひょう)が通過した。

 俺と霊夢の攻撃が相殺されたのは言うまでもない。


 風精はその隙に瞬間移動を行う。

 気配が再び戻ってくることは無かった。


「邪魔しないでくれるかしら」

「こっちの台詞! あたいの庭を荒らしまわってくれちゃって、生きて帰れると思うなよ!」


 霊夢と邪魔者が言いあっている。

 邪魔者もまた大妖精クラスだった。

 青いワンピースに水色のショートヘアの女の子。

 生意気そうな碧眼がこちらを睨む。

 色と属性からして、こいつは氷精。


 春告精(リリーホワイト)から聞いている。

 幻想郷の妖精のなかでは最強の個体。

 名前は、チルノ。

 この湖の実質的な主だ。


「先に仕掛けてきたのは君たちだろう? 俺たちは紅魔館に向かいたいだけなんだ。通してくれ」

「ここで会ったが百年目! 氷の中で死ぬがよい!」

「初対面なんだが……おっと」


 対話も糞もない。

 彼女はそのまま攻撃を再開した。


 ばらまかれる氷の弾幕。

 能のない全方位攻撃だが、密度はそれなりのものだ。

 迂闊に近づくのは危険だろう。


「ファランクス起動」


 左右に展開してある妖術陣に妖力を通す。

 回転し始めた六芒星形の円盤から、緑の小光弾が大量に連射される。

 最初に俺が使えるようになった射撃技、“妖術ガトリング”の改良型だ。


 妖術ガトリングは右手だけで扱う単銃口の機関銃だったが、ファランクスは違う。

 空中に展開でき、俺を護衛するように付いてまわり、銃口が増えて投射量が上がっており、さらには誘導弾妖術の応用により敵を自動捕捉する。

 これが二基だ。

 単純比較で投射量は四倍以上、そして両手がフリーとなり回避や防御に集中できるようになった。

 それなりの妖力を消費する技だが、左腕の手甲の宝石に妖力を溜めてあるうえ、術式もこれに記憶させてあるため、戦闘中は負担とならない。


「……!」


 左前方を霊夢が高速で飛んでいく。

 チルノの弾幕を掻い潜って接近するつもりのようだ。

 ポテンシャルの高い彼女だからこそできる攻め方である。

 俺が霊夢と組む場合、こうして強行突破と援護射撃で役割を分担している。


「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」


 突然、チルノが二枚目のスペル宣言を行う。

 接近してくる霊夢を恐れたようだ。


 チルノから色とりどりの弾幕が放射される。

 霊夢はその場で急速反転し、それらを紙一重で回避する。


「え」


 次の瞬間、その弾幕が“凍った”。

 比喩ではない。

 一瞬で空間に冷気が走り、彼女の弾幕がその場でぴたりと凍りついたのである。


 思考まで凍った隙を突き、チルノは光弾を大量に撃ち出す。

 動かぬ障害物群と化した弾幕の間を移動し、それらの光弾の射線から飛び退く。

 通りすぎたのを確認し、反撃態勢を整えようとして。


「……うげ」


 中止した。

 凍りついていた弾幕が一斉に“融けた”からだ。

 射出方向も重力も関係の無いそれらは、それぞれがてんでバラバラの方向へと滑り出す。

 一発一発が不規則に動く。

 これほど避けにくい弾幕は無い。


「っ、『拒絶障壁』!」


 案の定、不意に死角から飛び込んでくる弾。

 回避する余裕の無かった俺は、咄嗟に全方位障壁を展開した。

 自分を包んだ緑の障壁に光弾が直撃する。

 ダメージは感じなかったが、被弾反動で大きく引き離されてしまった。


 小賢しい。

 氷精と言えど所詮妖精、そう思っていたが。

 見立てが甘かったな……流石は最強の妖精。

 面白くなってきたじゃないか。


 霊夢はまだ飛んでいた。

 被弾こそしていないが、かなりいっぱいいっぱいのようだ。


 仕方ない。

 こちらもカードを切ろう。

 

「拒符、」


 両手を近づけ、掌と掌の間に妖力を凝縮する。

 それが複数の小さな緑の球体となった。


「……『障壁真空爆弾』」


 宣言と同時に球体を巨大化させる。

 外気を“拒み”つつ急速に体積の増えた物体。

 内部は真空に近くなる。


 チルノが再び色とりどりの弾幕を放つ。

 その直前、俺は真空爆弾たちを彼女へと投げつけた。

 爆弾は彼女の弾幕を跳ね返しながら接近していき。


「解除!」


 弾幕の密度が最も濃いタイミングを見計らい、爆弾の構造体を消した。

 真空だった空間を大気が一瞬で埋め、爆発音と衝撃波が生まれる。

 チルノの弾幕は大半が掻き消され、彼女自身も轟音と爆発に怯む。


 障壁真空爆弾。

 吸血鬼異変の時にも活躍した、俺の範囲攻撃である。


 霊夢はその隙を見逃さなかった。

 一気に距離を詰め、陰陽玉から御札を連射し始めた。

 俺もファランクスを全開にして火力支援を行う。

 チルノが攻撃どころでなくなったのは言うまでもない。


「うぐぐ……雪符、『ダイアモンドブリザード』!!」


 苦し紛れに聞こえたスペル宣言。

 彼女の周りに大量の氷塊が現れ、次々に爆ぜた。

 氷の破片を撒き散らす攻撃のようだ。


 瞬く間に破片が空間を埋めた。

 光を反射し煌めきながら、氷は弾幕となって押し寄せる。

 すれすれで身をかわしてそれらを回避する。

 かなりの密度だ。

 少しでも気を抜けば食らってしまうだろう。


 氷の塊を割り続ける、か。

 最小のコストで最大の効果を見込める攻撃……スペルカードルールには最適だ。

 こいつ、妖精のくせに案外賢いじゃないか。


「撃ち続けて」

「あいよ」


 冷徹な霊夢の声が響く。

 陰陽玉から連射される大量の御札が、チルノのいるあたりに撃ち込まれ続けていた。

 俺も妖術陣(ファランクス)の出力を最大にして彼女に(なら)う。

 赤い霊力を纏う御札と、緑の妖力に輝く光弾。

 氷の吹雪を切り裂き、その向こうの氷精へとなだれ込む。


「たあぁあぁ~っ!!」


 チルノが吠えた。

 とはいえ声が幼いので迫力が無いが。


 一際多くの破砕音が響く。

 氷の密度が急激に上がった。

 攻撃をファランクスの自動攻撃に任せ、意識は回避に集中する。


 頬を掠める鋭い破片。

 食らえば大怪我間違いなし。

 ひきつる頬。

 生温い汗が眉間を滑り落ちる。


 “楽しい”。

 そう感じていた。

 スペルカードルール。

 それが幻想郷(この世界)のスポーツ。

 最高の娯楽。


 中学からやってきた卓球を思い出す。

 高校の部活ではチームキャプテンも務めていた。

 台越しに睨み合う、殺意にも似た一対の闘志。

 40ミリの球体に魂を込め、コンマ数秒おきに互いへ叩きつける。

 一瞬の判断が勝敗を決める極限の世界。


 あの感覚に、ちょっぴり命の危険を追加したような気分だ。

 またあの“勝負の世界”に戻れた気がする。

 俺の数少ない居場所だった、あの世界に。


「……」


 氷片の動きがスローモーションの如く見える。

 被弾の可能性が少ない氷片が見えなくなる。

 目の前の戦場と直近の未来予測だけが五感を支配する。


 極限集中状態(ゾーン)

 ある程度のレベルまでスポーツをやった者なら、誰もが経験する感覚。

 自覚した時、己の真の実力を知ることができる。

 まさか幻想郷で同じ感覚を味わえるとはな。

 懐かしい。


「!」


 押し寄せる弾幕の中に“道”が見えた。

 半ば無意識にそこへ身を投げる。

 被弾が無いまま前進する。


 弾幕の向こうにチルノの姿があった。

 ここまで近づけたのならこっちのもの。

 俺はファランクスの照準を絞り、彼女一点に火力を集中する。


「うぐぐぐぐ……!?」


 チルノが唸り、弾幕が弱まる。

 瞬間、霊夢からの火力が上がった。

 一斉に押し寄せる御札。


「っ、うわああっ!?」


 響く悲鳴。

 チルノの姿が閃光の向こうに消えた。


「霊夢」

「なに!」

「もういい」

「……」


 呆れながら指摘すると、彼女はようやく攻撃を止めた。

 俺のファランクスはとっくに目標を失い、停止している。


 煙を引きながら落下していくチルノが見えた。

 どう見てもボロボロだ。

 大怪我だろう。

 まあ妖精なのですぐ治るのだろうが。


 基本、妖精に死の概念は無い。

 怪我もあっという間に治る。

 だから彼女たちはかなり無鉄砲で、無謀な真似をしてくる。

 普段は大人しいが、ひとたび強い妖怪が現れれば感化されてめくらめっぽう攻撃してくるのだ。

 死を恐れない特攻は、死を嫌う俺たち人間にとって脅威である。


「とんだ邪魔が入ったものね」

「湖は迂回すべきだったかな」

「ちゃんと防寒してくるんだったわ」

「そっちかい」


 霊夢は心底面倒そうな口調で言う。

 彼女は寒がりだそうだ。

 春と夏しか幻想郷を経験していないのでどれほどの寒さなのか不明だが。


 ちなみに俺は冬のほうが……寒いほうが好きだ。

 如月(真冬)生まれだからかもしれない。


「あの館ね。行くわよ」


 霊夢が湖の畔を指した。

 霧と紅霧に霞む洋館。

 趣味の悪い真っ赤な塗装。

 一際強く漂う魔力。

 この異変の発生源、紅魔館だ。


「ああ」


 返事をし、霊夢の背中を追う。

 季節外れの冷気から遠ざかっていく。

 湖面の霧は次第に薄れ、赤い霧が濃くなっていく。


 さあ勝負だ、吸血鬼。

 この手でお前を倒してやる。

 異変解決のため? もちろんそれもそうだ。


「まだ許してねえからな……」


 だが、最大の目的は。




「……レミリア・スカーレット」


 吸血鬼異変を償わせることだ。







 名前:チルノ

 初登場:四章第三話 湖上のエルフ

 種族:妖精

 性別:女

 年齢:不明

 身長:低

 髪の長さ:肩

 髪の色:水

 瞳の色:青

 能力:冷気を操る程度の能力


 氷の大妖精、氷精の女の子。

 暖気や陽気や植物生命力の具現である妖精種にしては珍しい個体である。

 幻想郷一の面積を誇る“霧の湖”の実質的な支配者でもあり、湖面の一部を凍らせてそこに住んでいるという。


 服装は青を基調としたワンピースと白いシャツ。

 髪、リボン、瞳等も青系統の寒色である。

 実力は意外と高く、妖精の中では幻想郷最強と言っても過言ではない。

 が、それでも人間の実力者や妖怪には一歩及ばない。

 また、頭のレベルは普通に妖精並のようである。


 霊夢と衛が霧の湖を横切った際、異変によって興奮状態にあった妖精達が彼らを攻撃してしまう。

 結果、チルノの居住エリア上空で戦闘が始まってしまい、半ば自衛戦闘という形でスペルカード決闘を挑んだ。

 頭のレベルは低くとも戦闘経験は多いため、妖精とは思えないほど多彩で強力な攻撃を扱う。




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