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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第四章 紅霧異変
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第四話 紅魔館 ~ Tsepes Blood




 紅魔館 門前




「華符『セラギネラ9』!」


 女の声が高らかに響いた。

 直後視界を埋める弾幕。

 華のように広がった鮮やかな攻撃が、あっという間に眼前まで迫る。

 あわてて身体を真横に移動させ、光弾を避けた。


 しっかりしろ俺。

 見とれている場合か。


 ファランクスに妖力を通し、攻撃を開始する。

 相手が動く様子は無く、ひたすら全方位攻撃を行っている。

 こちらが被弾さえしなければ圧し勝てそうだ。


 紅魔館に近づくや否や妨害してきたこの女。

 おそらく館の門番か何かだろう。

 今のスペルカードもそうだが、何かと鮮やかな弾幕が多い。

 実用性を意識したチルノとは対極的に、美しさを重視しているようだ。

 尤も、純粋に弾幕密度が濃いため、強さで言えばこの門番のほうが上だが。


「っ、くっ」


 女が苦しげに唸り、スペルカードを止めた。

 彼女は後方へステップを踏むと、辺りを見回し身を翻す。


「背水の陣だ……」


 そんな捨て台詞が聞こえた。

 彼女独りで“陣”なのか。

 難儀な話だ。


「衛、新手よ」


 霊夢の警告。

 見ると、門番を庇うように飛び出してくる多数の妖精が。

 身長は妖精らしからず皆けっこう高く、服装もメイド服としっかりしている。


 なんだ、味方がいたとは。

 逃すものか。


「ここは任せるぞ」

「しょうがないわね」


 霊夢に戦線を頼むと、彼女はため息混じりに承諾した。

 彼女は誘導攻撃が上手く、雑魚処理能力に長ける。

 俺がやるより早いだろう。


「ありがと、よっと」


 空を蹴って飛び出した。

 ワンテンポ遅れて妖精達が飛刃をばらまいてくる。

 急加速して前方へ突っ切ると、飛刃は両脇をすり抜けていった。


 雑魚に構ってる暇はないんだ。

 門番はどこに…………いた。

 正面を飛行している。


 彼女がこちらを振り向く。

 舌打ちしたように見えた。

 彼女は逃げながら迎撃体勢を整え、妖力を放つ。

 渦巻く赤い弾幕花火だ。


 ファランクスによる攻撃の手を一切緩めず弾幕に飛び込む。

 この程度、こけおどしにもならない時間稼ぎだ。

 危なげなく弾幕を突破し、さらに飛行速度を上げる。


「っ……虹符『彩虹の風鈴』」


 彼女は一瞬面倒そうな顔をしたが、すぐに次の手を打ってきた。

 妖力に加え、“気”のような何かを解放して弾幕を放ってくる。

 水色を基調とする鮮やかな弾幕が、渦を巻いて現れた。

 宣言も聞こえたし、スペルカードだろう。


 弾幕密度はそれなりに高いが、避けきれないほどではない。

 しかし回避行動に意識を回せば、彼女に引き離されてしまうだろう。

 少々強引に突破するか。


「盾符、」


 姿勢を安定させ、球体障壁で自身を覆う。

 後方に一枚の妖力盾を生み出し、それを思いっきり前方に動かせば。


「……『障壁カタパルト』ッ!」


 俺ごと球体障壁を弾き飛ばす妖力盾。

 衝撃の直後、体が前方へと吹っ飛ばされた。


 猛スピードで空に飛び出す荒業。

 その名も障壁カタパルト。

 空母の航空機射出基(カタパルト)を参考に編み出したものだ。


 弾幕を真っ直ぐ突っ切って門番へと迫る。

 彼女は意表を突かれたようだった。


「……!!」


 が、避けようとしない。

 それどころか立ち塞がり、拳を腰だめに構えている。

 ゆらりと広がる赤い長髪。

 見開いた瞼の向こうで燃える青褐色の瞳。


 まさか、正拳突きだと。

 この速度を止めるつもりなのか。


「━━っタァ!!」


 気合の一声。

 俺が球体障壁で体当たりするのと同時に、彼女は真っ向から拳を叩きつけた。

 走る緑の電。

 一瞬止まった彼女の拳と(弾体)


「っぐ!?」


 刹那、轟音と共に視界が反転した。

 衝撃で悲鳴が漏れる。

 打ち返されたのだと理解するのにたっぷり数秒かかった。


 自身に展開するタイプの球体障壁は、その基点を自分の体に設定してある。

 ダメージは拒めたとしても質量はまともに食らってしまうのだ。

 尤も、今回は速度と質量で圧し勝てるつもりだったのだが……。


「痛ってぇ…………、っ!!」


 視線を戻し、絶句した。

 高速の気弾を放つ門番と、いつの間にか現れ飛刃をばらまく妖精メイド達。

 追撃に加え増援部隊だと……。


 攻撃はすぐに俺まで到達するだろう。

 だが、球体障壁はもう壊れかけていた。

 妖力を多く使った直後のため修復も再展開も不可能。


 回避するには少々密度が濃すぎるが、他に手は無さそうだ。

 一か八かやるしかない。

 怪我で済めば良いが。


 迫る気弾幕と飛刃。

 俺は意を決して斜め後方に飛び退き……。




「『カスケード』っ!」


 突然視界が水色に染まる。

 上方から大量の水が落下してきたのだ。

 まるで(Cascade)のように。

 気弾と飛刃は濁流に飲まれて消えた。

 

「『ホーミングアミュレット』」


 その両脇を通りすぎる誘導御札。

 妖精メイドと同じ数のそれらは、正確に妖精に突き刺さっては爆ぜる。

 あっという間に増援部隊は消滅した。


「『マジックミサイル』!」


 狼狽する門番が連爆に飲まれる。

 高威力の魔法弾攻撃だ。

 門番はたまらず後方へと逃げる。


 一瞬の出来事だった。


「大丈夫? お兄ちゃん」


 “滝”の上方から降りてくる見慣れた人影。

 俺の妹、東雲明(しののめあかり)だった。


「お陰様で。なんだ来てたのか」

「あったり前じゃん」


 彼女は明るく振る舞いつつ、右手をひらりと払う。

 滝は跡形もなく霧散した。

 貫通妖術のほか、彼女は水属性魔法の扱いに長けている。

 水のカーテンを生み出して俺を守ってくれたのだ。


 身に纏うのは俺と同じく術師服。

 彼女のはセーラー服に似た意匠で水色のラインが入っている。

 肩からかけているのは木製の魔法銃。

 魔法使いを兼ねた妖術師である。

 

「結局あんたも来ることになるのね、魔理沙」

「あったり前だろ。霊夢(おまえ)の一人勝ちなんてさせないぜ」


 いつものようにやいのやいの言い合いながら寄ってきたのは霊夢と魔理沙だ。

 さっきの誘導御札は霊夢からの、魔法弾は魔理沙からの支援攻撃だろう。

 皆に迷惑をかけてしまった形か。


「悪い、助かっ……いて」


 頭を下げようとすると、額に小さな痛みが走る。

 明のデコピンだった。


「そういうのは後。ほら、戻ってきたよ」


 明はしかめっ面で紅魔館のほうを指さす。

 見ると、門番が戦線に復帰してきたところだった。


「巫女に魔女に妖術師兄妹、か。ふふ、相手にとって不足なし……」


 彼女はニヤリと笑った。

 緑色の中華服と帽子。

 燃えるような長い赤髪が風になびく。


「進みたければ、この(ホン)美鈴(メイリン)を倒してみせよ! 人間ごとき、何人でもかかってこい!!」


 彼女を青いオーラのようなものが包む。

 強い妖力……いや、これは気力か。


「妖怪ごとき、何体だろうが圧し通るわ」


 霊夢が言い返し、先頭に歩み出る。

 魔理沙がその横につき、俺と明が反対側に並ぶ。

 美鈴(メイリン)と名乗った門番の女は、それを見てニヤリと笑い。


「━━幻符『華想夢葛』!!」


 スペルカードを切った。


 気の波動が彼女を包む。

 それは青い弾幕となって全方位に爆散し始めた。


「散れ!」


 俺の声を合図に全員が散開する。

 明は右へ、魔理沙は左へ、霊夢は回避機動しつつ前方へ向かう。

 俺は少し後ろに下がり、ファランクスによる火力支援を再開する。


 美鈴の弾幕がそばを掠めた。

 気の弾というだけあってか、形容しがたい圧のようなものを感じる。

 食らわなくとも厄介だ。


「魔理ちゃん!」

「よし! 今だ!」


 明と魔理沙がタイミングを合わせてレーザーを放った。

 回避しつつ断続的に連続照射され、うち何発かが美鈴を直撃する。

 彼女の移動が止まった。

 その直後。


「『陰陽弾』!」


 霊夢が急上昇をかけ、上空から陰陽玉をいくつか投げ落とした。

 美鈴への直撃コースだ。


 美鈴は素早くスペルカードを終了し、身を翻す。

 同時に大量の飛刃をばらまいた。

 陰陽玉に次々と突き刺さり、破壊していく。


「!!」


 その破片の合間をすり抜けて現れた霊夢。

 手には盾のように構えた大きな陰陽玉。

 特攻を仕掛けた形だ。


「ハァッ!!」


 美鈴が気合いの一声。

 打ち出された拳が気弾を放射し、陰陽玉もろとも霊夢を吹き飛ばして見せた。


「ふ……彩符『彩光乱舞』!」


 そのまま次のスペルカードを発動する美鈴。

 霊夢はまだ姿勢を建て直せていない。


 美鈴から全方向に放たれる色とりどりの弾幕。

 一気にばらまき、彼女は移動をかける。

 魔理沙と明の光線攻撃は敢えなく外れた。


 霊夢に弾幕が迫る。

 その瞳が無感情に俺を睨む。

 意図を理解した俺は、掌に妖力をたぎらせ、それを広げた。


「『拒絶障壁』」


 前方に妖術の盾を生み出す。

 同時に少し後ろに下がった。


「━━!」


 次の瞬間、目の前に霊夢が現れた。

 音も気配も一切なく。

 まさに瞬間移動だ。

 霊夢は移動先の安全地帯を求め、俺にアイコンタクトを取ったのである。


 盾が弾幕を防御する。

 何度も何度も弾幕のラッシュが押し寄せるが、盾はびくともしない。

 これが俺の“拒む程度の能力”の力だ。


 その隙に反撃を行う。

 俺は妖力を、霊夢は霊力を、それぞれ解放した。

 現れたのは赤い誘導御札と緑のミサイル。

 盾を迂回し、美鈴に向かって空を翔ける。


 美鈴は弾幕を放っては移動を繰り返していた。

 そのせいで明と魔理沙の攻撃は外れている。

 だが、誘導攻撃なら確実に命中する。


「! ぐぁっ!?」


 美鈴に誘導弾たちが雪崩れ込んだ。

 動きが止まった隙に、魔理沙と明の光魔法が直撃する。


「彩符『極彩颱風』!!」


 だが、美鈴は切り返してみせた。

 スペルカード宣言が聞こえたかと思うと、彼女が再び七色の弾幕を纏った。

 凄まじい密度、かつ全方位で、攻撃の切れ目もない。

 各自、密度が薄くなるまで距離を取り、回避行動を取り始めた。


 俺は比較的後方にいるため、余裕を持って回避を行う。

 ゆえに敵の状況を観察することができた。

 彩光の中心で弾幕を放ち続ける美鈴。

 大規模弾幕の代償か、彼女は動いていなかった。


「奴の動きは止まってる! 撃ち続けろ!」


 三人に指示を出す。

 返事をする余裕はないようだったが、各自回避行動をしつつ攻撃態勢を整える。

 霊夢は随伴する陰陽玉たちから霊弾を、魔理沙は左右の八卦炉から魔法弾を、明は手に持つ魔法銃から貫通弾を、それぞれ連射し始めた。

 俺も再びファランクスを起動する。

 緑、赤、黄、水色の火筋が美鈴に殺到した。


「━━━━ッ!!」


 彩光と閃光の向こうで美鈴が吠える。

 心臓を押し返すような気の波動が押し寄せる。


 怯むな。

 スポーツは精神(メンタル)が七割。

 気で負けた時が勝負に敗ける時だ。


 鮮やかな視界に目を凝らす。

 冷えきった頭で光弾をいなす。

 継続する着弾音。

 徐々に揺らぎ始める弾幕。


「ぐ……っ……」


 美鈴の気が乱れる。

 弾幕の射出が止まる。

 次の瞬間、彼女は轟音と共に光に包まれた。




 * * * 




「大口叩いておいてこれ?」

「すぺかワンパターンすぎ。つまんない」

「の割にはしぶとかったな」

「……ぐすん」


 美鈴を囲んで好き放題言いまくる霊夢たち。

 小山座りする美鈴は凹んでいた。


「おーい、あんまいじめんなよ」


 一応宥めておく。

 妖怪とはいえ、話してみれば普通の女性であった。

 オーバーキルは可哀想である。


「で、美鈴さん。吸血鬼はどちらに?」


 だが、聞き出せることは聞き出しておきたい。

 半ば尋問のような形で彼女に問う。

 彼女は俺を見上げて睨んできた。


「だ、誰がお嬢様の居場所など……」

「話したくなるようにしてあげてもいいんだよー?」

「ひっ!?」


 が、明の脅しですぐさま矛を引っ込めた。

 ……妖怪が人間に怯えるって大丈夫なのだろうか。


「ほらほら、指先から順番に体がめるとだうーん」

「ままってまって知らないんですほんとですやめてくだあぁっあぁ!?」


 魔法銃からちょろちょろと水を滴らせる明。

 結界で動けない美鈴の手の甲が濡れていく。

 ただの水魔法だと信じたい。


「かか館内のどこかにいらっしゃるはずですので! それ以上は知りませんので!」

「にゃるほどーつまり腕が無くなってもいいと」

「ほんとに知らないんだってば!?」


 いよいよ半泣きになってきた美鈴。

 俺はため息混じりに明を止めた。


「手分けして館内を探そう。この程度の家なら逃げ隠れはできないはずだ」


 明は頷くと、魔法銃の銃口を空に向けた。

 へっ命拾いしたな、二度目はねえぞ、などと吐き捨てている。

 言いたかっただけだろ。


「俺は霊夢と行く。魔理沙」

「ん。妹は任されたぜ」

「助かる」


 サムズアップしてみせた魔理沙に礼を言う。

 明もなぜかサムズアップ。

 おいその親指を取り下げろお前は被保護者だ。


吸血鬼(レミリア)は見つけ次第始末しろ。スペルカードルールで来てくれるはずだが、いずれにしろ注意しろよ。大妖怪だからな」

「お兄ちゃんこそヘマしないでよ」

「わかってるって。じゃな」


 明と魔理沙にそれだけ伝え、手を振る。

 ふたりは紅魔館の玄関……ではなく、裏口か何かを探すように去っていった。




「いくわよ」


 霊夢が面倒そうに俺を呼ぶ。

 俺は継続して彼女についていこう。

 彼女の勘は信用できる。


「はいよ」


 先行した彼女の背中に返事をする。

 その向こうには、堂々と佇む紅魔館の正面玄関があった。








 名前:(ホン) 美鈴(メイリン)

 初登場:三章第六話 紅魔 ~ Scarlet Aggressor

 種族:妖怪

 性別:女

 年齢:不明

 身長:高

 髪の長さ:腰

 髪の色:赤

 瞳の色:青褐色

 能力:気を使う程度の能力


 紅魔館の門番を任されている妖怪。

 気術と体術に長けた格闘戦の達人である。

 特段強い妖怪ではないがこれといった弱点もないため、門番としては向いている。 

 服装は緑色の中華風衣装。

 頭には「龍」の文字が取り付けられた帽子を被っている。


 吸血鬼異変の際、幻想郷の妖怪による紅魔館攻撃に対し、門番として最初に戦闘を行ったのが彼女である。




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