表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第三章 吸血鬼異変
58/149

第六話 紅魔 ~ Scarlet Aggressor




 斬撃波が紅魔館の門番を襲う。

 逃げようとしなかった彼女は、それに真っ向から立ちはだかった。


「セィヤッ!!」


 甲高い気合いの一声。

 彼女から全方位へと放たれた衝撃波が、私の斬撃波を弾き飛ばした。


 おそらく気術の一種だ。

 気術とは大陸由来のもの。

 彼女は大陸の妖怪なのだろう。

 中華風の容姿はそのためか。


「続け」

「はい。綾蔵様」


 空を蹴る。

 同時にミラージュに援護を要請する。

 彼女は妖力を出した直後、大きく回り込むように飛行進路を取った。

 疑心操作能力を使ったのだろう。

 今のミラージュは門番からは視認されていない。


 刀を振りかぶり、門番の女に近づく。

 私の接近に気付いた彼女。

 拳を構え、それを私へと撃ち放ってくる。

 対抗すべく刀を叩きつけた。


「タァッ!」

「っ……」


 拳と刀が交わる。

 妖力と気の波動が激突し、轟音が響く。


 だが力量差は歴然だった。

 門番の拳は思い切り弾かれ、私の刀の進行を許した。

 咄嗟に身を反らす彼女。

 切っ先は彼女の首筋を掠めた。


 間髪入れずに二撃目を仕掛ける。

 素早く構え直した刀を斜め上から振り下ろした。


「ッ……」


 門番はそれを、交差させた両腕で受け止める。

 刃が僅かに腕へ食い込むが、気術に阻まれそれ以上進めない。

 素手と刀の鍔迫り合い。

 膠着状態に陥ったかと思われたが。


「ぐッ!?」


 突然悲鳴をあげる門番。

 その横腹に、禍々しい大斧がめり込んでいた。

 邪斧(アルマーズ)

 ミラージュの得物だ。


「綾蔵様に……触れないで」


 邪斧を握る紫髪紫眼の少女が呟く。

 瞬間、斧が振り抜かれ、門番は斜め下方向へと吹き飛ばされた。

 轟音と共に舞い上がる土煙。

 地面に墜落したようだ。


(れい)

「分かっています、よ……!」


 後方に控える零に指示を出す。

 彼女は空を蹴り、天高く上昇していく。

 その先にあるのは、吸血鬼の気配。

 門番の相手を私とミラージュで行い、その間に零を吸血鬼のもとへと送り込んだのだ。


「ぐはァ……待て、通さない……!」


 地を這う門番が、離れ行く零を見上げて吠える。

 彼女は素早く起き上がると、上空めがけ大きく跳躍した。


「はァァーッ、ゼァ!!」


 門番の拳から気弾が放たれた。

 零へと向かったその攻撃を、ミラージュが射線上に割り込み受け止める。

 被弾反動で軽く飛ばされるミラージュ。

 相当な質量攻撃だったらしい。


「どけ! 悪党めッ!!」


 その隙に門番は私へと接近してきた。

 刀を振るうが、彼女はそれを宙返りで回避する。

 同時に私の右手を蹴りあげ、刀を宙へと飛ばして見せた。


 門番は宙返りを終えるやいなや、凄まじい速度で殴りかかってくる。

 近接武器を失った私は、仕方なくそれを素手で受け止めた。


 左手で彼女の拳を掴み止める。

 右足で蹴りを阻止する。

 互いに攻撃できなくなり、睨みあう形となった。


「さて。悪党はどちらだろうな、小娘」


 膠着したまま話しかける。


「小娘ではない! 紅美鈴(ホンメイリン)だッ!!」


 彼女は怒鳴る。

 紅い炎のような長髪を背景に、青褐色の瞳が燃えていた。


 紅美鈴、大陸の名前だ。

 やはり中華系の妖怪なのだろう。

 なぜ西洋の妖怪である吸血鬼に仕えているのかは甚だ疑問だが……。


 ……まあいい。

 私には関係のないことだ。


「ハッ!」


 美鈴が気の波動を放つ。

 私はすぐさま距離を取り、波動の射程外に逃れた。


 入れ違いにミラージュの攻撃が飛来する。

 邪斧からばらまかれる、帯状弾幕の波状攻撃だ。

 美鈴は波動を連発し、それらを弾いてみせる。


「飲み殺せ。『暗黒物質』」


 だが、私の弾幕には耐えきれるだろうか。


 大量の闇霧を放出する。

 それらは途中で大小様々な光弾に変化し、弾幕となって美鈴を襲った。


 彼女は波動で私の弾幕を防ごうとする。

 しかし、波動が連発攻撃なのに対し、私の弾幕は継続攻撃。

 波動は次第に押し込まれていく。


「ッ、く……うあッ!?」


 美鈴が弾幕に飲まれる。

 私はトドメとばかりに、さらに光弾を撃ち込んだ。

 炸裂音が何度も響く。

 さすがに防御しきれなかったようだ。


「! …………」


 美鈴が煙を曳いて墜落していく。

 その身体からは、もはや僅かな妖力しか感じられない。

 無力化できたようだ。


「やめろ。殺す必要は無い」

「……はい」


 追い討ちをかけようとしたミラージュを制す。

 ミラージュは振りかぶった邪斧を下ろした。


「館内に突入する。来い」


 墜ち行く美鈴に背を向け、空を蹴る。

 ミラージュは慌てて私の後を追った。


「中で陽動しろ。私は魔法結界の発動者を潰す」

「了解、綾蔵様」


 彼女が返事をする。

 同時にこちらを見て、私に妖力をかけた。

 “疑心透魔(ぎしんとうま)”。

 先ほどミラージュが自身にかけたのと同じ、疑心操作能力による不可視の術だ。

 これで私はミラージュ以外の者から視認されなくなったのだ。


「ありがとう。さあ、暴れてこい」

「……お気をつけて、綾蔵様」


 ミラージュが僅かに心配顔をする。

 その不安を拭うべく、私は笑みを返した。


「……たあっ!」


 ミラージュが前方へ邪斧を投げつける。

 斧は紅魔館の扉に直撃し、それを粉々に破壊した。


 ミラージュに続き館内に突入する。

 いきなりの侵入者に、中にいた悪魔や妖精は狼狽していた。

 ミラージュはそれらを冷たく一瞥すると、妖力を解放した。


「『疑心暗鬼』……!」


 彼女から弾幕が放たれる。

 だが、敵の疑心を操作したうえでの攻撃だ。

 この悪魔や妖精どもの目には、実際の何十倍もの光弾が映っていることだろう。

 案の定、彼らは恐怖のあまり動くことすらできないでいた。


 私はその隙に、彼らの脇を飛行してすり抜ける。

 気付かれた様子はない。

 ミラージュの能力のお陰だ。


 魔力の出てくる方へと進み続ける。

 目指すは、魔法結界を操る魔法使いだ。




 * * * 




 紅魔館地下 大図書館




 ミラージュと別れてから数分後。

 私は魔力を辿り、紅魔館の地下へと侵入した。


 そこにあったのは、巨大な図書館だった。

 見たこともない大きさの本棚が果てなく並ぶ。

 そしてそれを埋め尽くす大量の本。

 壮観である。


 本の多くは魔導書だ。

 ここが魔法使いの拠点らしい。


 さて、どこかにその魔法使いがいるはずだが……。


「!」


 気配を感じ、空中で静止する。

 前方を注意深く眺めてみる。

 図書館の奥に現れた、少し開けた空間。

 気配と魔力の元凶はそこにいた。


 宙に浮かぶ巨大な魔結晶。

 その横でなにやら作業をする、ひとりの少女。


 ……見つけた。


「灯台もと暗し、だ。魔法使い」


 少女に呼び掛ける。

 彼女は少し驚いた様子で振り向いた。


「……どうやって侵入したの、ネズミ」


 薄紫と白のゆったりとした服を身に纏う少女。

 手に持つのは数冊の魔導書。

 紫の長髪の横から、淀んだ紫眼が睨む。


「魔法結界と門と扉を圧し通っただけだ」

「そうじゃなくて、どうやって気づかれずに図書館(ここ)まで……いえ、もういいわ。邪魔だから出ていって」


 少女は面倒そうに追求を打ち切る。

 私に背を向けると、追い払うように手を振った。


「邪魔なのは貴様らだ。幻想郷を滅ぼさんとする愚者共めが」


 だが、今の私が大人しく従うわけはない。

 その背中に刀を向ける。


「この世界から、出ていけ」


 声と切っ先で少女を威圧する。

 魔法使いは苦い顔をした。


 次の瞬間私は妖力を放出し、図書館内を闇霧で満たす。


「無粋な真似をするな、魔女。貴様は私を魔法結界に閉じ込め、外との連絡を絶った。同じ事をされても文句は言うまい」

「…………」


 魔法使いは悔しそうに瞑目した。


 この闇霧は、あらゆる光や力を遮断する。

 彼女が魔力で図書館の外へ連絡を取ろうとしたため、それを阻止したのだ。


 私の侵入を知るのは、ミラージュとこの魔法使いだけ。

 ミラージュに攻撃を集中させ、手薄となったこいつを人知れず始末する。

 そのためには、魔法使いに増援など呼ばれてはたまらないからだ。


「く……美鈴とサクヤは何をしていたのよ……」


 悪態を吐きつつこちらを向く少女。

 彼女のもとへと、魔力と魔導書が集結し始める。


 美鈴とはあの門番のことだが、“サクヤ”とは一体。

 紅魔館にはまだ一人、強力な防衛要員がいるということだろうか。


「ミラージュ、まだ強敵がいる。名は“サクヤ”だ」

『了解。綾蔵様』


 陽動戦闘中のミラージュに心通信を送る。

 心通信とは、私やミラージュなど暗鬼同士でのみ使える能力だ。

 この闇霧の中で唯一使える通信手段である。

 暗鬼の特権だ。


「……卑怯な。貴方だけ通信できるなんて」


 魔法使いが睨む。

 私は軽く首を傾げる。


「卑怯? 面白いことを言う。私は通信遮断(貴様と同じこと)をやり返しただけで、“闇霧(ここ)では平等に戦おう”などと言った覚えはないぞ。有利な状況で攻撃を仕掛けるのは戦術の基本だ」


 そうまくし立て、薄ら笑いを浮かべる。

 対する彼女は軽蔑の表情だ。


「なるほど、そうでもしないと勝つ自信が無いのね」


 開かれた魔導書から、膨大な魔力があふれる。

 巨大な魔方陣が彼女の周りに展開する。


 妖力壁を生み出し、刀を片手で構える。

 妖力と魔力が音もなく衝突し、火花が散った。




「大魔法使い、パチュリー・ノーレッジの前にくたばるがいいわ。黒く汚いネズミ」

「无月綾蔵というネズミを侮らないほうがいいぞ。魔女」




 * * * 




 紅魔館内




 綾蔵様と別れてからもう何分後か。

 わたし、ミラージュ・ナイトメアは、紅魔館の中でずっと暴れまわっていた。


 次から次へと涌いてくる悪魔剣士。

 倒しても倒しても復活してくるメイド服の妖精たち。


 キリがない。

 どれだけ戦っても意味がないように感じる。

 陽動という主目的こそ果たせているものの、これでは焼け石に水だ。


 追ってくる悪魔たちを振り返る。

 数は数十。

 手には刺突剣(レイピア)が握られている。


「……しつこい、っ」


 邪斧(アルマーズ)に妖力を注ぎ、彼らへと大振りする。

 現れた巨大な斬撃波が悪魔たちに迫る。

 彼らは回避を試みるが、努力虚しく四散した。


「はぁ……」


 ため息を吐き、周りを見る。

 残る悪魔はわずか数体。

 戦意は低く、接近してくる個体はいない。


 やっと一息つける。

 そう思った矢先。


『ミラージュ、まだ強敵がいる。名は“サクヤ”だ』


 綾蔵様からの心通信が入った。

 ニューターゲットの情報だ。


「了解。綾蔵様」


 淡々と受領する。

 サクヤ……和名だろうか。


 綾蔵様も零も、吸血鬼は西洋の妖怪だと言っていた。

 なのに、あの門番は英名ではなかったし、サクヤというのは日本名だ。

 主人は西洋出身なのに、眷属は東洋出身なのか。

 よく分からない。


 とはいえ、日本で()()()()わたしは英名だ。

 名付け親はもちろん、創造主である綾蔵様。

 綾蔵様は日本の妖怪だが、なぜかわたしには英名をつけた。

 美鈴もサクヤも似たようなものかもしれない。

 どこで生まれたかではなく、誰が名付けたかが重要なのだ。


 さて、サクヤとやらはどこにいるのか。

 雑魚が退いたこの状況。

 現れるのなら今だが……。


「!!」


 背後に殺気。

 振り向き様にアルマーズを振るう。


 そこにいたのは、ひとりの女。

 後ろへステップを踏んだその身体を、アルマーズの切っ先がかすめた。

 瞬間。


「な……」


 女の姿が消えた。

 何の前触れもなく、忽然と。


 代わりに現れたのは、何十本ものナイフ。

 何の前触れもなく、瞬間的に。

 わたしを囲うよう、逃げ場なく。


「っ……」


 咄嗟に妖力壁を展開した。

 それとほぼ同時に、ナイフが妖力壁に突き刺さる。

 ギリギリ間に合ったようだ。


 ただの刃物とはいえ、これだけ食らえば流石に大損害だろう。

 腕の一本か二本は一時的に吹き飛んでいたかもしれない。


「あら、初手で撃破とはいきませんか。さすが、我々に挑んでくるだけのことはあります」


 右上方に現れた女。

 瞬間移動でもしているのかのような神出鬼没ぶりだ。


「……当然。単機突入だって自信あってのこと。悪魔の群れも魔法結界も門番も、大妖怪たるわたしの前には無力」


 欺瞞(ぎまん)情報を吐きつつ女を見る。


 青と白のメイド服。

 髪は銀色で、瞳は青だ。

 手には数本のナイフが握られている。


 纏う魔力は、妖怪のそれとは大きく違う。

 身体も妖怪ほど強くないように見える。

 まさかとは思うが……こいつ、人間か。


「暗鬼ごときが大妖怪を自称するだなんて、幻想郷はよっぽど狭い世界なのですねえ。困りました、それではお嬢様には物足りないかもしれません」


 飄々と語る人間らしき女。

 服装や言動からして、吸血鬼の直属の部下だろう。

 おそらく名は、サクヤ。

 綾蔵様が教えてくれた、もうひとりの防衛要員だ。


 しかし、なぜ人間を?

 吸血鬼に限らず、人間を重役に起用する妖怪なんて聞いたことがない。


「その暗鬼に、あなたたちは防衛網を突破されている。無能な部下をかき集める無能な吸血鬼。暗鬼にすら勝てない無能な吸血鬼。その程度で幻想郷を支配しようなんて……笑える」

「黙れ。お嬢様を愚弄するのは許しません」


 済まし顔を歪ませ、怒りをあらわにする女。


 まあでも、やはり人間というのは総じて甘いものだ。

 この程度で余裕を失うとは。


「黙るのはサクヤ、あなた。人間のくせに生意気。わきまえるべき」

「っ!? ……私の名前をどこで知ったのです」

「教えない」

「言いなさい……!」

「嫌」


 心の乱れは要らぬ疑心を生む。

 要らぬ疑心を持った者は、疑心を操るわたしを相手に戦うとき、大変な劣勢を強いられる。

 わたしの術中に嵌まっているとも知らず、哀れなものだ。


「そんなことよりどいて。わたしはこの館を制圧して、吸血鬼も倒さなきゃならないの。邪魔しないで」

「冗談きついわ。この十六夜咲夜(いざよいさくや)、絶対に通しません。お嬢様は守りきってみせます」


 立ちはだかるメイド服の女。

 わたしは失笑し、アルマーズを握り直した。


「笑わせないで。人間ごときでわたしは倒せない」

「ただの人間とは桁が違います。悪魔のメイドを見くびらないことです」


 サクヤが魔力を纏う。

 現れた西洋時計のような魔方陣が、赤白く美しい光を放つ。


 ……見くびってなどいない。

 瞬間移動、動作の見えない攻撃、人間にしては異様な態度と立場。

 この人間は、間違いなく大きな脅威だ。

 再生能力に長けた暗鬼(わたし)とて、下手をうてば命が危ないだろう。


「……ミラージュ・ナイトメア、圧し通る」


 妖力を纏う。

 アルマーズにも妖力を流し込み、それを両手で構えた。




「何も理解できないまま死ね、暗鬼」

「疑心に沈んで死ね、人間」




 * * * 




 紅魔館上空




 彼女は、緋色月下に浮かんでいた。

 大きな蝙蝠の翼をひろげる、幼き少女。

 天に掲げたその小さな両手から、膨大な魔力が放たれていた。

 それは幻想郷中へと撒き散らされていく。


 従属化魔法。

 やはり吸血鬼(彼女)が元凶だったか。

 させない。


 吸血鬼に掌を向け。


「正せ」


 能力を発動した。


「っ……?」


 彼女が一瞬混乱する。

 それもそのはず。

 従属化魔法が消え去ったからだ。

 彼女は再び魔力を放とうと首を捻るが、どれだけ試行しても無意味だった。


 不意に吸血鬼が私に気付く。

 不快そうな視線だ。

 私から放たれる力が、従属化魔法に干渉していることを察したようである。


「……いい度胸ね。わたしが何者か、解っていて邪魔をしているのかしら」


 私を威圧する幼い声色。

 蝙蝠翼がなければ、わがままな子供そのものだ。

 しかし、幼く見えても吸血鬼。

 甘く見るのは禁物だ。


「勿論解っていますよ。貴女こそ私が何者か解っていますか? もっとも、貴女に真っ向から挑む妖怪なんて私以外にはそういないでしょうが」


 当然、油断なんてするはずがない。

 失敗を()()()()()()ほど、私は愚かではない。


「……? 何処かで会ったかしら」


 小首を傾げる吸血鬼。

 残念ながら、彼女は私のことを覚えていないようだ。


「正義の月光、照月零です。西洋ではよくもやってくれましたね。まさか忘れたとは言わせませんよ……」


 左手で吸血鬼を指差す。

 碧眼を冷たく開き、睨み付けた。


「……紅き悪魔、レミリア・スカーレット!」


 紅眼を見開く吸血鬼。

 彼女は驚嘆の表情で視線を彷徨わせ、記憶を探り始める。


 レミリア・スカーレット。

 数百年前に私を倒した吸血鬼、スカーレット伯爵の娘だ。

 伯爵の死後は娘であるレミリアが当主となり、眷属を連れて異界に渡ったと聞いていた。


 もう復讐の機会は得られないと思っていたが、こんな辺鄙な世界で再開することになるとは。

 それも、“元いた世界の平行世界にある異世界の過去”などという、複雑で遠いこの世界で。

 平行世界の別人というわけでもないらしい。

 運命とは分からないものである。


「ふ……うふふ、思い出した……思い出したわ……!」


 不意に笑うレミリア。


「お父様にこてんぱんにやられた、あの哀れな白服じゃない。久しぶりね」


 一転、愉しそうな表情で私を見据えた。

 紅い瞳が煌めき、水色の髪が揺れる。


「……ええ、お久しぶりです。伯爵には世話になりました。威厳の無さは相変わらずですね、ご令嬢」

「“レイ”って和名だったのね。てっきり“レイチェル”とかの愛称かと思ってたわ。なに、その容姿で極東生まれなの?」


 私の煽りも聞かず、マイペースに話すレミリア。

 相変わらず威厳より幼さのほうが目立つ。

 吸血鬼といえどもまだ幼子、そして妖怪としても若い部類だ。

 当然といえば当然だが。


「私の生まれなどどうでもいいでしょう……」


 ため息混じりにあしらう。




 私の生い立ち、か。

 レミリアごときには話すまい。

 そうでなくとも他者に話すつもりは無い。

 明かしても構わないような、信頼できる者がいないからだ。


 ……信頼できる者。

 一瞬、綾蔵の顔が脳裏をよぎった。

 今までならすぐさま思考から追い出したであろう相容れぬ存在、それが彼だ。


 だが、私は彼の評価を改めざるを得ないのが現状だ。

 彼の野望を妨害したのに、彼の大切な従者に大怪我を負わせたのに、彼はもう怒っていない。

 それどころか、この世界でまたも挑んできた私を彼は殺さず、怪我もさせず、傀儡にもせず、仲間として迎え入れた。

 綾蔵は私を戦力の足しにしたいと言ったが、彼の実力ならそんなものは不要なはずだ。

 “同郷”というだけで彼は非常に寛大な態度を取り、結果として私は未だ生きている。


 先程にしたってそうだ。

 彼は自分の身体と従者を盾にしてまで、私を門番の攻撃から逃した。

 “一時的に協力しているだけの仇敵”にそこまでするだろうか。


 孤独だった私にとっての初めての“仲間”。

 それが无月綾蔵という男だ。

 信頼に一番近いのは彼なのかも知れない。




「それより、この悪行は見過ごせませんよ、レミリア。幻想郷を滅ぼす気ですか」


 思考を打ち切り、本題に入る。

 レミリアはゆらりと表情を変えた。


「弱者は強者に支配される、それが世界のあるべき姿よ。わたしは支配者役を買ってあげてるの」

「不要です。強者は……既に居ます。貴女ではありません。」


 持論を展開するレミリア。

 私はそれを真っ向から否定した。


「…………それは、アヤクラという妖怪のことかしら?」

「っ……?」


 唐突に綾蔵の名を口にした彼女。


 背筋に冷たいものが走った。

 動揺した私の内心を知ってか知らずか、レミリアはニヤリと笑う。


「この世界に突然降り立ち、ここに己の存在価値を見いだそうとしている、数奇で歪な運命の妖怪。あなたも同じ。そしてあなたは、彼と運命を共にするほうに賭けた。それもまた、あなたの運命として定められていたこと」


 紅眼が私を見据える。

 それはまるで、全てを見通す魔眼のごとく。


「ねえ、零。あなた達はどこから来たの? その運命の跡は、吸血鬼(私達)を追ってきたようには見えないの。まるでこの世界へ先回りしていたように、この世界の歴史を知っていたかのように、図ったタイミングで運命の跡が現れている」


 憶測のように、だが的確に、時空逆抗者(私たち)の存在を見抜いて見せた。

 抽象的に、だがはっきりと、時空逆抗(禁忌)の事実に近付いてきた。


 “運命を見通す悪魔”。

 それが彼女のもうひとつの通り名。

 私はたった今、その本当の意味を思い知った。


「だとしたら何なのです。貴女が何を想像しているのか知りませんが、私達のやるべきことは変わりません。この幻想郷を脅かす侵略者を倒す、それだけです」


 平静を取り繕って答える。

 己の言葉で動揺を踏み潰す。


 時空逆抗。

 綾蔵と八雲紫が成した禁忌。

 本人達は勿論、私もミラージュも、その策があったからこそ未だ生きている。


 禁忌を犯した罪の糾弾。

 それをカードに使われては、私達時空逆抗者に勝ち目はない。

 少なくとも、私達の存在が幻想郷の歴史に刻まれるまでは。

 こんなところで罪を暴かれるなど、絶対にあってはならないのだ。


 レミリアの実力は幻想郷において最強クラス。

 綾蔵にも匹敵するだろう。

 だが、幸いレミリアはまだ全てを知らない。

 だからこそ、今ここで叩く必要があるのだ。

 レミリアが幻想郷を手に入れ、全てを知る権利を得てしまう前に。


「侵略者はあなた達ではなくて? 正義や大義を盾に邪魔者を消し、幻想郷を支配しようとしているじゃない」


 彼女が私を指さす。


 正義を盾に、か。

 確かに今の私は、正義という言葉を利用している。

 絶対正義の具現として誉められた行いでは無いだろう。

 だとしても。


「そう、私達には正義があります。しかし貴女の行いに正義はありません。正義が私達にある限り、貴女に勝利は巡り来ないでしょう」


 勝たねばならないのだ。

 なんとしても。


「正義無き侵略者め。ここから出ていきなさい」


 例えそれが絶対正義でなくとも。

 これは、私達(時空逆抗者)の生存手段なのだから。


 月光の力を集め、聖槍を造成する。

 両手でそれを握り、レミリアの幼い面に向けた。


「ここは私の城よ。出ていくのはあなただわ」


 レミリアが翼を大きく広げる。

 紅い光が集結し、深紅の槍となって具現化した。


「あなたの家ではありません。この館に住民はいないのです」

「いないのなら別に良いじゃない。外の世界でも流行ってるでしょ、空き家の有効利用ってやつよ」


 楽しそうに笑いながら、レミリアは槍を手に取る。

 私は警戒したまま地槍を構え直した。


「外の世界ではそれを不法侵入と呼び、為政者が罰します」

「なら私は無罪ね。ここの為政者はわたし自身なんだもの」


 軽い口調とは裏腹に、凄まじい魔力を放つレミリア。

 

 きっとこれでもまだ本気では無いのだろう。

 これが吸血鬼という妖怪の実力だ。

 私では……勝てない。


 だが私は時間稼ぎ、そして陽動担当だ。

 私が破れても、綾蔵や八雲紫が必ず勝つ。

 そんな、刺し違える運命だとしても。

 私は構わない。




「この世界から出ていきなさい。レミリア・スカーレット」

「この世から出ていってくれるかしら。照月零」







 名前:(ホン) 美鈴(メイリン)

 初登場:三章第六話 紅魔 ~ Scarlet Aggressor

 種族:妖怪

 性別:女

 年齢:不明

 身長:高

 髪の長さ:腰

 髪の色:赤

 瞳の色:青褐色

 能力:気を使う程度の能力


 紅魔館の門番を任されている妖怪。

 気術と体術に長けた格闘戦の達人である。

 特段強い妖怪ではないがこれといった弱点もないため、門番としては向いている。

 

 服装は緑色の中華風衣装。

 頭には「龍」の文字が取り付けられた帽子を被っている。


 紅魔館に反攻作戦を仕掛けた綾蔵たちを止めるため、紅魔館正門で戦闘を行う。

 が、数と力の両面で敵わず、彼らの侵入を許してしまう。




 名前:パチュリー・ノーレッジ

 初登場:三章第六話 紅魔 ~ Scarlet Aggressor

 種族:魔法使い

 性別:女

 年齢:不明

 身長:普通

 髪の長さ:背

 髪の色:紫

 瞳の色:紫

 能力:属性魔法を使う程度の能力


 紅魔館地下の大図書館の主。

 属性魔法を自在に操ることができる。

 魔法使いのなかでもかなりの実力者に位置する。


 薄紫のゆったりとした服を纏っており、落ち着いた印象。

 実際活動も活発ではなく、図書館から出ることはもちろん本人が戦闘を行うことすら珍しい。


 紅魔館防衛用の強大な魔法結界を展開している。

 結界解除のため大図書館に侵入した綾蔵に見つかり、戦闘を仕掛けられる。




 名前:十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)

 初登場:三章第六話 紅魔 ~ Scarlet Aggressor

 種族:人間

 性別:女

 年齢:不明

 身長:高

 髪の長さ:肩(ボブカット・三つ編み)

 髪の色:銀

 瞳の色:青

 能力:時間を操る程度の能力


 紅魔館のメイド長をしている人間。

 なぜ吸血鬼の館に人間がいて、しかも重役を任されているのかは不明である。

 なんらかの方法で時を止める事ができ、その間に移動したり攻撃を行ったりするという、人間離れした技を見せる。


 服装は青と白を基調としたメイド服。

 頭にはカチューシャを着けている。

 投げナイフを大量に隠し持っており、攻撃に使用する。


 紅魔館内に侵入したミラージュを排除するため、彼女の前に姿を現す。




 名前:レミリア・スカーレット

 初登場:三章第六話 紅魔 ~ Scarlet Aggressor

 種族:吸血鬼

 性別:女

 年齢:500歳程度

 身長:やや低

 髪の長さ:肩

 髪の色:水色

 瞳の色:紅

 能力:運命を操る程度の能力


 紅魔館の主。

 西洋で猛威を振るった吸血鬼スカーレット家、その当主である。

 運命を見通し運命を操る能力を持つ。

 眷属を多数従え、圧倒的物量を以て敵対するモノを征服する。


 姿は、蝙蝠の羽が生えた幼い女の子。

 白いスカートの洋服に帽をかぶる。

 武器としてグングニルという魔力槍を生み出し扱う。


 館ごと世界転移を二度行い、幻想郷にたどり着いた。

 幻想郷征服を目論み、悪魔やゾンビを用いて里に総攻撃を仕掛ける。

 彼女ひとりの影響で幻想郷中のほとんどの弱小妖怪は自我を奪われ、暴走している。

 それを止めに来た照月零と戦闘となった。


 零とは過去に面識があるらしい。

 平行世界の別人でないことや、綾蔵を筆頭に転移してきたことにも気付いているようだが……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ