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東方無明録 〜 The Unrealistic Utopia.  作者: やみぃ。
第二章 時空逆抗
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第六話 仇敵




无月(むつき)綾蔵(あやくら)、私と勝負なさい。次は貴方を倒す……!」


 白き聖槍、地槍(ゲイボルグ)を私に向け、宣戦布告する女。

 照月(てるづき)(れい)

 絶対正義の化身を名乗る、月光の妖怪だ。


「断る。今戦っても、互いを窮地に追い込むだけだ」


 ため息混じりに淡々と言い返す。

 こちらに戦う気など全く無いというのにこいつは……懲りない奴だ。


 ミラージュの“敵討ち”は、あの時すでに果たした。

 零と敵対する理由は、明無夜軍(あかりなきよいくさ)が終わったことにより消えた。

 これ以上何を争おうというのか。


「話をしよう、零。お前に教えねばならんことが山ほどある」

「黙りなさい。話し合う余地などありません」


 零は(かたく)なに敵対しようとする。

 愛想も是々非々もありはしない。


「お前はここがどこなのか、自分がどうなったのかすら分からないのだろう。私を倒すかどうかは、それを聞いてから決めれば良い」


 彼女もミラージュと同じく、時空逆抗(じくうぎゃっこう)のことは知らない。

 零も自分の今の状況が分からず、内心混乱しているはずだ。


「問答無用。そんな時間稼ぎには乗りません……」


 しかし、それでも彼女は首を縦に振ろうとしない。

 その槍をこちらに向けて構えるのみだ。


 ……通じないか、ならば仕方あるまい。


「无月綾蔵、いざ尋常に……」

「この愚か者が!!」


 声を張り、片手を零に向ける。

 一瞬怯んだ零の周囲を、闇色の煙で覆い尽くす。

 慌てて妖力を解放しようとする彼女より先に、闇霧は彼女の四肢に絡み付き、その自由を奪った。


「ミラージュ、手出し無用だ」

「……しかし」


 すぐさま連携攻撃を仕掛けようとしたミラージュを止める。

 確かに通常であればその行動は助かるのだが。


「倒してしまったら意味がない。それに、他の妖怪に気付かれると厄介だ」


 “変革までは、目立つ行動をするな”。

 紫からの忠告のひとつだ。

 妖力を撒き散らして他者に見つかったりでもしたら困る。


 それに私は、変革の為の戦いで零を敵に回したくない。

 零だけではない。

 同じあの現世から来たミラージュは勿論、同志である紫も、紫が保護したという妖怪や人間とも、できれば同じ陣営で変革を迎えたいと思っている。


 勝手にこの世界へと連れてきてしまった以上、私には同郷の者全員の存在を保証してやる義務がある。

 喪うなどもってのほかだ。

 例えそれが、(仇敵)であったとしても。


 拘束した零をそばまで下ろす。

 身を捩りながら唸る彼女と目があった。


「っ、離しなさい! こんな真似で勝とうなど、恥を知りなさい!!」


 睨み殺さんとする勢いで噛みついてくる零。

 露骨に顔をしかめたミラージュを再び制し、口を開いた。


「恥を知るべきは零、お前だ。敵対の意思の無い者を、自分の勝手で敵と見なし倒そうとするとは。最早お前は正義でも何でもない。ただの自己中心的な暴力者だ」


 はっきりと言い放つ。

 私に睨み付けられた碧眼が、動揺からか僅かに震えた。


「せ、世界を暴力で滅ぼさんと()()貴方にだけは言われたくない言葉ですね」

「滅ぼす? いいや、塗り変えようと()()だけだ。それも自己の為ではなく妖怪の為だった。……まあ、もう不可能かつ不要な野望だがな」


 零との会話が若干噛み合わない。

 案の定、彼女は明無夜軍が今も進行中であると思っているようだ。


「不可能……? 一体どういう……」


 首を傾げる零。

 私は頷くと、彼女を縛る闇霧を苦にならない程度まで弛めた。


「それをまさに説明しようとしていたのだ。……零、私の話、聞いてくれるな?」

「…………」


 彼女は口を閉じ、視線を落とす。

 が、しばし黙した後、何も言わずに顔を上げた。


 待ってみても反論は無い。

 私はそれを肯定の意思として受け取った。




 * * * 




 八雲紫の一団の出現、私とミラージュの敗北。

 明無夜軍の終焉、幻想郷の崩壊、打開策として紫が提示した“時空逆抗”。

 そして、それによって我々が辿り着いた、ここ“過去の幻想郷”の概要。

 先刻ミラージュに話した内容を、零にも理解できるよう修正と追加をし、誤解の無いよう丁寧に説明した。


 零は初めこそ黙って聞いていたが、話が予想外に大きかった為か、彼女はそれなりに困惑し動揺した。

 そして、今の状況下で無用な争いは避けたい、他者に見つからぬよう大人しくしていてほしい、と伝えると、彼女はようやく自分が拘束された理由を知り、平静に戻ったのだった。


「……状況は解りました。取り敢えず、一時休戦は約束しましょう」

「信じるぞ。零」


 そう言うが早いか、私は闇霧を霧散させた。

 拘束の解けた零の身体が、重力に従って地に落ちる。

 咄嗟に立つことが出来なかった彼女は、芝生に膝をついた。


 瞬間、彼女に邪斧(アルマーズ)を向けるミラージュ。

 私は零から目を離し、ミラージュを睨み付ける。


「得物を仕舞え。手出し無用と言ったはずだ」

「しかし綾蔵様! わたしはレイに……」

「騙し討ちされたことは知っているし、闇討ちされたのも見た。だが、それはそれ、これはこれだ。こいつは馬鹿ではない。私の話は理解しているはずだ……」


 そうだろう? と言って零を振り返る。

 彼女はうつむいたまま、小さく頷いた。


「で、でも……綾蔵様にもしものことがあったら……」


 一方ミラージュはいまだ不満げだ。

 表情に滲む色は、焦燥か葛藤か、それとも恐怖か。


「利害が一致している間だけでいい、零を信じろ。私だってそうだし、零もそのつもりのはずだ。八雲紫も同じだろう」

「…………わかり、ました。綾蔵様がそう仰るのであれば」


 どうにかミラージュを説得する。

 彼女はまだ何か言いたそうにしていたが、武器は下ろしていた。


「心配してくれたのだな。ありがとう」

「……いえ」


 語気を静め、礼を言う。

 ミラージュは申し訳なさそうに目をそらした。


 そもそも生き物であれば、自分以外は最初から敵である。

 その中で、争う必要が無い者とは争わない、争う必要が無くなったのなら争わない、後々争うとしても今は争わない……。

 そうして無駄な争いを避けることが、殺伐とした生物界で生き残る(すべ)のひとつだ。

 永く生きる妖怪ならば尚更重要である。


 若く未熟なミラージュや、敵を作りたがる零には、早かれ遅かれこれを分かってもらいたいものだ。


「綾蔵。その八雲紫という大妖怪の言葉を信じるなら、私達は“変革”の戦いに参じなければならない……ということですね」

「ああ、参じたほうが身のためだろうな」


 膝をついたままの零が、私を見上げて問うてくる。

 露骨に見下ろさぬよう、しゃがみこんで言葉を交わす。


「敵は誰ですか。紫ですか」

「まさか。紫を相手にやりあうのはもう御免だ。同志である以上、私は必ず紫の側につく。……敵が誰なのか、私の憶測で良ければ、聞くか?」


 尋ねると、目を据わらせてしっかりと頷く零。

 見ると、ミラージュも続きの言葉を待っていた。

 一呼吸置いてから口を開く。


「今の幻想郷では、どういうわけか妖怪達に士気が無く、弱体化している。この状況に、圧倒的な力を持つ妖怪が突然現れたら……」

「……その強き妖怪に、弱体化している他の妖怪が一斉になびく、ということですね」


 零が私の言葉を遮った。

 だが、彼女の予想は当たっている。


「その通りだ。よくわかったな」

「現世で人類の歴史を見ていましたから。弱者は正義よりも力を信じ、強者になびくものです。例えその強者が、正義など微塵も持たない愚者だとしても」


 持論を述べる零。

 その口調には、少しばかり怒りが滲んでいた。


「仕方あるまい……それが弱者の生存戦略だ。力なき正義など、何の役にも立たないのだからな」

「そして同時に、力ある者ほど正義を忘れ、愚に堕ちるものです。……私が一時消滅したのも、幻想郷に送られたのも、そうして現世から“正義”が消えていったからなのかもしれませんね……」


 達観のため息をつく零。

 私は同情するように、目を閉じて頷いた。




 現世の人間達を例にとってもその通りだ。

 例えば、約百年前。

 人類が後に「大戦」と呼ぶ、あの史上最大の戦争でもそうだった。


 あのころ力を持っていた列強国は、弱小国家を次々に屈服させ植民地としていた。

 圧倒的な軍事力を以て、弱者を奴隷としたのだ。

 そこに正義など有るわけもない。

 有ったのは、強奪と競争を伴う醜い欲だけだった。


 抗う国も現れた。

 彼らは列強の植民地に攻め込み、それらの地を次々に解放していった。

 現地人からすれば、まさに救世主だったろう。


 しかし、その国は力を重んじすぎた。

 代償として資源は枯渇し、軽視された人命は死んでいき、自国の王すら意のままに操った。

 その国がやがて破滅したのは言うまでもない。


 だが、その国を滅ぼした列強国もまた、力を信じすぎた。

 過ぎた軍事力はおろか、禁忌とされる核兵器(神の火)の力までも振りかざし、世界の覇権を握った。

 それだけでは飽きたらず、世界中で紛争を引き起こし、資源や利権を意のままにした。

 そこに有るのは、正義無き力だけだ。


 この世に正義など無い。

 世界は“力”で回る。

 人類はその真実を、おびただしい量の血と涙を以て知ったのだった。

 彼女の言うとおり、“正義”が幻想となったのは必然だろう。




「話を戻す。我々の主敵となるであろう妖怪について、いくつか心当たりがある。考えられるのは、統率力と強大な力を兼ね備えた者。かつ、幻想郷にいない、もしくはいない扱いとなっている者だ」


 そう言って、試すように二人を見る。

 様々な妖怪を知っているであろう零は、記憶を思い出すように考え込む。

 若すぎるミラージュは、僅かな知識の中から該当する者を探し始めた。


「天狗と河童は既に幻想郷(ここ)にいるのでしょう? なら、鬼、狐、狸あたりですか」


 大して時間も掛けず、すらすらと名前を挙げたのは零だ。

 流石と言ったところか。

 世界中で戦い回っていただけはある。


「消去法でいこう。まず、狸はない。奴らの頭領が統率できるのはあくまで狸だけだ。雑妖怪を束ねる力など無いだろう」


 化け狸。

 妖狐と並んで有名な妖怪の種である。

 確か佐渡に奴等の頭領がいたはずだ。

 無論、れっきとした大妖怪である。


「狐と鬼も有り得ないな。それぞれの最強の個体が、既に紫と深く結び付いている。むしろ味方となるだろう」


 妖狐の頂点、金毛九尾(きんもうきゅうび)は、紫の式神。

 異端の鬼、酒天童子(しゅてんどうじ)は、紫の友人。

 よほどのことがない限り、少なくとも味方として会えるはずだ。


「統率力、強大、いない扱い……。あの、それって……紫や綾蔵様のことでは……?」


 ミラージュが私の顔色を伺いながらおずおずと述べる。

 そこに気が付くとはなかなか鋭い。


「良い読みだが、恐らく違う。私が独断で事を起こすつもりは無いし、紫が起こすのだとしても、私はそれに味方するのだから問題にはならん」

「そ、そうですよね。すみません……」


 何故か謝るミラージュ。

 私は首を傾げた後、気にするな、とだけ返した。


「東洋の妖怪ではないということですね。だとすると、西洋の大妖怪、かつ統率力の……ある……者…………っ!?」


 背後で零が戦慄する。

 ようやく思い当たったようだ。


「……まさか、吸血鬼(ヴァンパイア)……ですか」


 振り向き、彼女に笑いかけた。


「おや、一致したな。私もそう思う」


 吸血鬼(ヴァンパイア)

 ドラキュラやヴラドに代表される、西洋の有名な妖怪だ。

 豪速や怪力、異常な回復力は勿論、身体を蝙蝠(コウモリ)の群れとして霧散させたり、街を一晩でゾンビ街にする等、凶悪かつ強力な存在である。


 一方で吸血鬼は高いカリスマも持ち合わせており、その眷属(けんぞく)の多さには定評がある。

 正義の無い雑妖怪共をなびかせる程度、造作も無いはずだ。


 外の世界でどれだけの個体が生き残っているのかは不明だが、一体でも現れれば幻想郷は支配できるだろう。

 それほどまでに吸血鬼という種は危険なのだ。


「だとすると厄介ですね、数で圧倒的に不利となります。……あれは数名でどうにかなる規模ではありません」

「ほう、吸血鬼とまみえたことがあるのか」


 見たことがあるかのような口ぶりで話す零。

 やはり戦闘経験があるようだ。


「一度だけ。一対多を強いられ、勝負と言えないほど惨めな結果となりましたが」

「吸血鬼に立ち向かっただけでも勲章ものだ。それでいて生きているのだから、惨めだなんて思う必要は無いだろう」


 自嘲気味に目を伏せた彼女を慰める。


 客観的な感想を言わせてもらえば、単独で吸血鬼を敵に回すなど愚の骨頂だが……。

 それを言うと彼女の気に障るだろうから止めておく。


「ふん。貴方も単独では勝てないでしょうに」


 残念、既に機嫌を損ねてしまったようだ。

 慰めを受け取られることもなく、冷たくあしらわれた。


「……どうだろうな」


 “強者は賢者にのみ勝てない”。

 紫の言葉が甦る。

 強者というのが私のことであれば、吸血鬼に負けることは無いということだ。


 だが、その強者というのが吸血鬼を指すのなら。

 私は吸血鬼に負ける運命だということになる。

 紫はそれを望んでいるのか?

 あり得る話かもしれないが……。


「……まあ、紫と私が組むのだ、吸血鬼ごときに敗けはしまい」


 自分の言葉で、底なしの思考を断ち切った。

 私が強者であるということも、主敵が吸血鬼であることも、まだ不確定要素だ。

 過ぎた憶測は要らぬ疑心を生む。

 これ以上はやめておこう。


 しかし、吸血鬼……か。

 大したことはないだろう。


 八雲紫に比べれば。




「そういうわけだ、零」


 未だに膝を突いたままの彼女に語りかける。


「私と共に戦ってくれないか」


 本題だ。

 零とミラージュを率いて紫に味方し、変革の戦いに勝利するのが私の望みである。

 だが命懸けになるのだ、無理強いはできない。

 それに、私や紫に味方するかどうかは彼女次第だ。


「貴方に力があることは認めます。ですが……」


 即答を避ける零。

 彼女は顔を上げ、私を睨み付ける。


「貴方に“正義”は、ありますか」


 そうきたか。

 正義が無いのなら味方する価値は無い、と。


「私が信じるのは現実的な理想と自分の力だけだ。そこに正義など無い。……だが」


 一旦言葉を切る。

 方眉を上げた零を、真っ向から見つめた。


「変革の戦いに勝てば私は……いや、我々は、この世界の正義となれる」

「……!」


 息を飲む零。

 信条に障ったのか彼女は何か言い返そうとするが、そのどれもが言葉とならずに終わる。


「今の幻想郷には正義も秩序も法もない。我々がその先駆けとなるのだ。自分が正義として存在できる世界を勝ち取る……それが、禁忌(時空逆抗)を犯した我々の生き延びる道だ」


 はっきりと持論を告げておく。

 何も彼女に押し付けようというのではない。

 私の信条に付いてくるか、そうしないかの選択を与えているのだ。


「…………」


 零は考え込む。

 葛藤しているように見えた。


 これは正義を勝ち取るための戦い。

 つまり、今の我々に正義はないということだ。

 正義を戦う理由としてきた彼女にとって、それは信条から外れたことなのだろう。

 さらには実質的に私や紫の指揮下である。

 孤高を貫く彼女の性とも相容れない。


「……分かりました」


 ぽつりと聞こえた了承の言葉。

 俯いていた顔がこちらを向き、閉じていた碧眼が私を見る。

 その金髪が月光を弾き煌めいた。


「貴方に協力します。共に正義を勝ち取りましょう」


 声にも瞳にも迷いの色は無い。

 その真っ直ぐな言葉に、思わず笑みが溢れた。


「……そう言ってくれると信じていた」


 右手を差し出す。

 彼女は一瞬躊躇した後、その手を取った。


 瞬間、握力を込めて引っ張り上げる。

 立ち上がらざるを得なかった彼女の顔が、目の前まで迫り止まった。


「ありがとう。頼りにしてるぞ、零」

「っ……!」


 礼を言った途端、顔を強ばらせる零。

 私の手を素早く振りほどくと、一歩ほど後ろへ距離を取った。


「い、いつまでも協力し続けるつもりはありませんからね。変革が終わった後は……」

「勿論だ。好きにするといい」


 至極当然の答えを返す。

 当たり前です、とだけ彼女は吐き捨て、私から顔を背けた。


 元から変革が終わるまでの協力体制のつもりだ。

 変革を乗り越え、存在さえ保障できれば、あとはどう動こうが問題にはならないだろう。

 勿論、私自身も自由に行動させてもらうつもりだ。


 それはミラージュも言える。

 ミラージュ・ナイトメア、彼女は私が創り出した妖怪であり、私の従者だ。

 だがいつまでもその肩書きを貼り続けるつもりはない。

 私のそばに居続けても学べることはすぐに頭打ちになるし、視野も世界も狭いままだからだ。

 いずれは彼女にも、ひとりの妖怪として自立してもらわねばならない。

 彼女自身の意向にもよるが、どちらにしろ早かれ遅かれその時は来るだろう。


「それで綾蔵様。変革の戦いというのはいつ始まるのですか」


 零をちらちらと睨みながらミラージュが訊ねてくる。

 その視線の先は、零の右手。

 どうやら私の手を無理矢理振りほどいたのが気に障ったらしい。


 視線に気付いた零が不快そうに睨み返す。

 ミラージュはそれを、すました顔でぷいと無視して見せた。


「さあな。数週間後か、何ヵ月も先か……はたまた明日か。すぐだとは言っていたが、具体的な時期までは教えてくれなかった」


 私の返答に零は、ふうん、と怪訝そうに頷いた。

 ミラージュは不満げな顔で、そうですか、と呟く。


「……八雲紫とやら、随分と胡散臭いですね。本当に信用できるのですか」

「紫、やっぱり怪しい……綾蔵様を騙そうとしているのかも……」


 口々に言う零とミラージュ。

 この二人、ここにきて初めて発言の方向性が一致したのではないか。


 ……紫、私の配下からの信用は無いらしいぞ。

 私は精一杯擁護したつもりだから、これはお前自身の責任だ。

 士気に関わるので是非とも猛省してもらいたい。


「そう言うな。奴の頭脳には誰も勝てん……疑ったって無駄だ」


 眉をひそめる彼女達をたしなめる。

 二人は揃ってため息を吐くと、疑心の思考を止めたようだった。


 私にだって、紫の考えは読めない。

 嵌められている可能性も十分にある。


 だが、そうだとしても。

 我々は右も左も分からない。

 我々が頼れるのは、紫だけだ。


「盲目的に信じ、歩み続けるしかあるまい。今すべきは……」


 それに私は。

 私に愛すべきものを壊されてもなお、理想を貫こうとする彼女を信じたい。

 時空逆抗、これは私と紫が手を携えたからこそ実現できた理想だ。

 紫も私を信じている……私はそう信じている。




「……静かに時を待つことだけだ」




 夜空を見上げる。

 満月がひとつ、狂おしく浮かんでいた。







 名前:照月(てるづき) (れい)

 初登場:一章第十六話 聖槍

 種族:妖怪

 性別:女

 年齢:不明

 身長:高

 髪の長さ:腰

 髪の色:金

 瞳の色:青

 能力:正す程度の能力


 月の光や絶対正義の具現として生まれたとされる妖怪。

 この物語における、いわゆる正義の味方キャラ。


 ロングスカートの白いドレスを身に纏っている。

 妖力で構成された、地槍(ゲイボルグ)という名の純白の聖槍を扱う。

 正義感が強く、秩序を乱すモノを許さない、厳しい性格。

 誰に対しても敬語を使うが、性格ゆえか優しく感じられることは少ない。


 現世が人類科学文明に支配された時代、夜を照らす電灯などにより月光が忘れられた。

 また、度重なる戦乱などにより絶対正義も忘れ去られた。

 存在意義を失った彼女は次第に実体を保てなくなっていき、100年前には自我すら失った。


 第一章では、綾蔵による明無夜軍が始まると同時に、望まず復活を果たした。

 綾蔵やその従者ミラージュ及び暗鬼が世界秩序を乱していると判断し敵視、その排除に動く。

 ニューヨークにてミラージュを撃退後、綾蔵を倒すべく東京へと向かうが、規格外の大妖怪たる彼には全く歯が立たず、戦闘不能となる。

 直後に現れた八雲紫らによって綾蔵とミラージュが苦戦を強いられているのを見た彼女は、残された力を振り絞り、ミラージュに奇襲をかけて重傷を負わせることに成功する。

 しかしそれが綾蔵を激怒させてしまい、報復攻撃により致命傷を負う。

 彼女は行動不能のまま八雲紫によって異空間に引きずり込まれ、意識を失った。




 【地槍(ゲイボルグ)


 照月零が扱う、妖力で構成された聖槍。

 読みは「じそう」もしくは「ゲイボルグ」。


 邪を祓い、地を統べ、天を掴むと云われる。

 その云われ故に、邪斧や天槍とはそれぞれ対となる槍である。

 高い貫通力のほか、レーザーを放ったり飛刃を飛ばしたりと、多彩で強力な攻撃を行える優れもの。


 ※【ゲイ・ボルグ】アイルランドの説話に登場する、クー・フーリンが扱う槍の名。




邪斧(アルマーズ)


 ミラージュ・ナイトメアが扱う、妖力で構成された大斧。

 読みは「じゃふ」もしくは「アルマーズ」。


 混沌と破壊を振り撒くと云われる。

 その云われ故に、聖槍とは対となる武器である。

 膨大な妖力を溜め込んでおり、振り回すだけで辺りを爆撃できる。

 また、凄まじい重量と質量を誇るため、降り下ろされた場所には何も残らない。


 ※【アルマーズ】とあるゲームで、邪悪な属性を持つとされる斧。

 ※【アルマース】ロシア語で「ダイヤモンド」あるいは「ダイヤモンド原石」という意の名詞。




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