04
一面の雪景色の中、そこだけは白くなく、黒に染まっていた。
「なんだ……これ……」
柵越しに見える黒い世界は明らかに異常だ。しかし、どうしてそうなったのか、何が起きているのかが全くわからない。ロドルフォにはただ「なんだこれ」と呟くことしか出来なかった。
「おいジェラルド」
「なーに、おっちゃん」
「これ見て何か思い出さないか?」
雪で遊び始めたジェラルドにロドルフォは問う。ジェラルドはロドルフォの質問を理解できなかったらしく、「どれー?」と首をかしげさせながらロドルフォの方へ小走りで近寄った。その両手で作った雪玉は決して手離さずに。
「柵の外。見えるか?」
「みえる! まっくろだな!」
ジェラルドはそれしか言わなかった。思い出す素振りすら見せない。もしネージュがジェラルドの記憶を操作したのだとしたら、相当強い術をかけたのだろう。現場を見ても思い出さないレベルだ。
「……ヤバそうなのは確かだな」
考えれば考えるほど不安は増していく。しかし託児所状態の今、自分が動くことはできない。そんな歯がゆさを噛み締めながら、ロドルフォは子供たちの安全を最優先することにした。外が危険な状態であるのなら、子供たちを外にいさせてはいけない。
「さみーし中に入るぞ。ほら、雪遊びは後だ」
「えー」
「ここにいたらラヴィーナが見つかってもすぐに会えないぞ?」
「わかった!」
ラヴィーナという一言で素直に言うことを聞くジェラルドに苦笑しつつ、ロドルフォは三人の子供を連れて建物の中へ入っていった。そして歩きながら、自分が今できることを考える。
「やっぱスケールモデルは必要だな」
何か起きたとき、指示を迅速に出すことができるだろう。そう結論付けると、ロドルフォはスケールモデルを取りに基地内の自室へ向かった。
ロドルフォの自室には大量のスケールモデルがある。それはトリパエーゼの町だけではなく、フィネティア中心部や隣国シャンテシャルム中心部など様々だ。ロドルフォの趣味で、ロドルフォが訪れたことのある土地のものは全て作られている。その精巧さは見たもの全てを驚かせる程だ。ロドルフォはその精巧なスケールモデルをよく戦の作戦指示等に活用していた。本人いわく、有効活用しただけだそうだ。精巧なスケールモデルとロドルフォの編み出す策はフィネティア騎士団の中でも群を抜くものであり、今では一目おかれる存在となっている。ロドルフォに『スケールモデルの鬼士』なんて少し恥ずかしい二つ名がついたのはそのせいだ。
「この辺りか」
そう呟いてロドルフォはスケールモデルの一部に黒い布を置いた。騎士団基地の西側だ。
塀を跨いだ向こう側は真っ黒だった。しかし、塀からこちら側はなにも起きていない。基地の敷地内だけが無事なのだろうか。東側、南側、北側はどうなっているのだろうか。やはり西側と同じように黒くなっているのだろうか。
スケールモデルを見つめながらロドルフォはそんなことを考える。そして、一刻も早く情報が欲しいと思った。
「動けねえしなぁ……」
目を輝かせてスケールモデルを眺めるジェラルド、背中でスヤスヤと寝息をたてているブランテ、ロドルフォの髪の毛を引っ張ったり噛んだりするネロの三人を見ながらロドルフォはため息をついた。
「副団長!」
さて、どうしたものかとロドルフォが考えていると、一人の騎士が勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた。その音に驚いたのかぐずり出してしまったブランテをあやしつつ、ロドルフォは騎士の話を聞く。
「どうした?」
「あっ、申し訳ありません……。その、基地内に次々と人が運び込まれまして」
「人?」
ロドルフォが聞き返すと騎士は困惑の表情を浮かべた。どうやら状況の説明に困ることが起きたらしい。そうロドルフォは理解して「どこに?」と質問を変えた。
「広間です。黒いものから突然人が現れまして……その、怪我人もいて」
「黒いもの?」
歩きながら問答を続ける。
人を運び込んでいる犯人はネージュだなと確信を抱きつつ、ロドルフォは広間へ向かう足取りを速めた。




