第66話 気付いていても
その後も三人でランクを回しまくった結果、最初はタケさんの動きについていけなかった俺も自然とついていけるようになった。
ついていくので精一杯だったあきななも今ではしっかり戦闘に参加できるレベルになって、目に見えて三人の連携力は上がっていた。
ランクも俺はダイヤに上がる事ができ、あきななもゴールドに上がっていた。
因みにタケさんの最高ランクはマスターで、現在ダイヤ2の強者だ。
でもどうやら今回のカスタムにはプレデターという最上位ランクの人も参加するらしい。
まぁランク毎に指定のポイントが付けられていて、チーム三人で合計30ポイントを超えないようにパーティを組むという対策はされている。
そうじゃないと、プレデターとかマスター三人パーティとか作られたらランクが低いチームは蹂躙されて終わって楽しめないからね。
プレデターは桁外れで強いけどエーテックスは三人一組のチームゲームで尚且つバトルロイヤル。
戦況や連携によっては全然勝てないわけではない。
逆に言えば、3vs1の人数有利でも油断すれば普通に負けてしまう可能性も孕んでいてとても面白い。
ゲーム性は多少違えど、ヴァルもそんな感じだ。
この大きなカスタムに出れるだけでも充分なのに、どうやら3位以内に入ると何か賞品が貰える可能性もあるのだ。
だから余計にみんなやる気いっぱい。
まだまだ練習したかったが、流石に連日エテをやり過ぎたせいか疲れも溜まっておりパフォーマンスが落ちてきた。時間も0時を回り良い感じなので今日は終わる事に。
明日もまた三人で集まってエテ配信をするし、これからカスタム本番まではその予定の事を見てくれている人達にも告げ配信を終えた。
二人に挨拶をしてから通話から抜け、いつも通り良いプレイの箇所を切り抜いたりしたら1時過ぎになっていた。
そろそろ寝るかと横になり、スマホを掲げてSNSをチェックしていると突然スマホに電話がかかって来た。
「んえぇ!? いでぇ゛っ!」
こんな深夜にかかってくるとは思っておらず、驚いた俺は顔面にスマホを落とした。
少し避けたのでほっぺに落ちたが十分痛い。
ジンジンと痛みを我慢しながら俺は誰からの着信だろうとスマホを見るとそこには【明奈】と表示されていた。
何だろうと思いつつ、咳払いを一つしてから応答ボタンを押しゆっくりと耳にスマホを近づける。
『もしもし?』
いつもコラボ配信や学校で声を聞いていて、今さっきも聞いていたはずの声なのに不思議と新鮮な気持ちが湧いてきた。
マイクとは違いどうしてもスマホの音声は少し音質が劣るがそれが原因だろうか。
『もしもーし? あれ? 聞こえてる?』
「あぁごめん、聞えてるよ」
不安そうに伺う声に俺は慌てて反応すると七月さんは『ふふ、よかった』と静かに笑った。
深夜と言う事もあり声を抑えているのか囁くような話し方で耳がくすぐったい。
喋る前の息を吸う音や笑った時の吐息がはっきりと耳に届くせいで少し色っぽく聞こえる。
「どうしたの?」
『んー? まだ起きてるかなーって』
七月さんもベッドに入っているのかゴソゴソと衣擦れの音が聞こえてきて、まるで一緒のベッドにいるかのような錯覚に陥る。
「今から寝ようとしてたとこ」
『そっか、私も』
『んふふ』と妙に嬉しそうな七月さんの様子を不思議に思いながら、体制を横に変えると再度尋ねてみた。
「それでどうしたの?」
『いや、ほら……最近あんまり話せなかったから』
「配信では話したじゃん」
『そうだけど、プライベートでだよ』
「まぁそうだね」
配信でできる話は限られているし、確かに七月さんの言う通りこうして二人で話すのは久しぶりな気がした。
『元気になってよかった』
「その件はご迷惑をおかけしました」
『ううん、私の方こそごめんね』
「いや全然、七月さんは悪くないよ。何も知らなかっただけだし」
このやり取り学校でもした気がする。なんでそんなに自分が悪いって思うんだろう。俺自身の問題でしかないのに。
すると、七月さんは俺の心を読んだかのごとくタイミングで自分の胸の内を話し始めた。
『何も知らなかったからで済ませたくないの……。逆に言えば、私が柊くんの事を何も知ろうとしてなかったからでもあるから』
言っている意味がいまいち理解できずに俺は言葉の続きを静かに待つ。
『私ね、何となく分かってたの。柊くんが何か抱えてるんだろうなって事は、接している時何となく。何か私と似てる感じもしたし…………でも私はそれに気付いても何もしなかった。知ろうとしなかった。……だって触れたら折角仲良くなったのに嫌われちゃうかもしれなくて、怖くて』
『だから――だから、ごめんね』
あぁそういう事か……。でも俺にはそれが謝る理由になるとは思えなかった。だって、そういうものだろう。明らかに聞いたら面倒臭い事になるのが分かっているのにそれをわざわざ聞こうなんて思わないのが普通だ。
分かっていても見て見ぬふりをして過ごすのが当たり前だ。何も悪い事じゃない。
でもそれを口に出すことはせず俺は「うん」と謝罪を受け入れた。
それは俺も同じだから。七月さんもきっと何かを抱えている。だけど俺もそれを聞こうとはしていない。知ろうとしていない。
「ありがとね」
『え? 何が?』
「ううん、俺の事そんなに考えていてくれてたとは思ってなかったから。なんか、嬉しい」
いつもなら絶対こんな気持ちを伝える事はしないのに、スマホ越しで伝染する不思議な雰囲気に当てられてか素直になってしまった。
『あはは、なにそれ。こっちこそありがとっ』
笑わせるつもりはなかったんだが、七月さんの気持ちはスッキリしたみたいでよかったということにしよう。
『じゃあそろそろ切るね……。ごめんね! こんな遅くに電話して』
「ううん、大丈夫。それじゃおやすみ」
『うん、おやすみ』
名残惜しそうな声の後、一泊置いてから通話を切ると緊張で硬くなっていた身体が一気に緩むのが分かる。
大きく息を吸い、早くなった鼓動を落ち着かせながら俺は暗い天井を見上げる。
俺ももっと七月さんの事を知るべきなのか……? 渡辺さんやさっきの七月さんの「何か私と似てる感じもしたし」という言葉から過去に何かあったのはもう明白だった。
でもそれに触れていいのか、今の俺には判断出来なかった。普通に楽しく元気に暮らしているし、それでいいんじゃないかと。
俺に過去の話を聞いて欲しい……とか……? もっと自分の事を知ってほしいのだろうか……? だとしたら何で俺に……?
考えても答えなど出ない問いに見切りをつけ、俺は眠りにつくことにした。




