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第42話 桃沢さんは意外と優しい

 〇中村海視点〇


 女子が多いけど、昔みたいに普通に話せるようになりたくて七緒の誘いを受けてボーリングをしに来たのだが、荷物を置いて靴を履いている間に置いて行かれた。


 顔を上げたら七緒の姿が無く、代わりに鞄の中を整理している桃沢さんがいた。


 桃沢さんとは全然話したこともなく、清楚系ギャルでちょっと怖い。こういうギャル程オタクとかを「キモイ」とか心の中で思ってそうなタイプの人だから。


 小野さんだったらまだ少しはマシだったのかもしれないが……。


 今すぐ逃げ出したいところだが、何も言わずにここを離れるのは流石に失礼かと思い、緊張で喉が閉まりながら恐る恐る言葉を発する。


「あ、お、俺飲み物買ってきます」


「あー待って、あたしも行く」


「あ、はい……」


 なんでぇ?! そこは「おっけー」とか軽く流してくれよ! 俺と一緒に行こうとしないでよ! もしかして二人きりになった今、面と向かって罵倒されるのか?

「お前キモイ目であたしらの事見んなよ」とか睨まれながら言われたりするのかな……。


 これから起こるかもしれない状況に恐怖していると桃沢さんがいつの間にか先に行き始めていて、着いて来ない俺を不思議に思ったのか振り返って淡々と声を掛けて来た。


「ん? どした? 行かないの?」


「あ、いや……」


 俺は怖さから桃沢さんと少し距離を開け自動販売機に向かう。


 会話は無く、気まずい空気のまま自販機の前まで来て立ち止まる。


 早く皆の元に帰りたくて何を買おうかと顔を上げた瞬間、隣に立っている桃沢さんが顔を向けて来た。


「ねぇ、あたしの事嫌いなの?」


「え、いやそういう訳では……」


「じゃあ怖い?」


「う、うん」


「そんな怖がんなくてもいいじゃん、ちょっと傷付く」


 ちらりと顔を伺うと何故か桃沢さんは晴れない表情をしていた。


 その顔を見た俺は申し訳ない気持ちに襲われ、慌てて弁明しようとしどろもどろに言葉を紡いだ。


「えっとその、違くて……桃沢さんが怖い訳じゃないんだ。いや、えっと怖いのは怖いんだけど、そうじゃなくて……」


 俺の言葉を聞いて桃沢さんはキョトンと首を傾げる。


「中村くんってもしかしてさ、女子と話すの苦手なの?」


「あ、えっと、うん、そう……」


「そゆことね。あたしだけじゃなくて、女子全般が怖いって言いたかったわけか」


 俺が言いたかった事を理解してくれたので、力強く頷くと「そかそか」と柔らかい笑みを浮かべながら桃沢さんはお金を入れボタンを押してジュースを買った。


「確かに教室とかで中村くんが女子と話してる所見た事ないね。それなのに今日来たの?」


 桃沢さんは「あっえっと今のは別に悪気はなくて、なんて言えばいいかな……」と直ぐに自分の発言を思い直し、俺の事を気遣ってくれた。その様子を見た俺はいつの間にか緊張が少しだけ和らいでクスッと笑みが零れていた。


「女子とも普通に話せるようになりたくて……」


 桃沢さんに初めて目を合わせ今日来た理由を述べると、桃沢さんは今まで俺が目線を合わせていなかったからか目を見開いて驚くと「そかそか」と優しく笑いかけてくれた。


「頑張ってて偉いじゃん」


「え、あ、ありがとう」


 俺はその笑顔と言葉にドキリとさせられその場に固まるが、頭を振って冷静になる。


 桃沢さんは屈んで取り出し口からジュースを取ると、俺が買いやすいように横に避けてくれた。


 少しだが桃沢さんと話してみて、意外と優しい人だということが分かった。


 裏があるかどうかなんて分からない。でも、『頑張ってて偉いじゃん』と言ってくれた時の桃沢さんの表情は本当にそう思っているように見えた。

 結局、本心で思ってくれてるかどうかなんて俺には分からない。けど、あの表情を見たらもう少し女子の言葉も信じてみてもいいのかなと思えた。



 桃沢さんは買ったジュースを開け、自分たちのレーンの方を見ながら一口飲むと「げ」と小さく声を漏らした。


「あいつらあたし達の事待たずに始めてる……。ほら、あたし達も行こ……ってまだ買ってなかったの?!」


「あ、待って直ぐ買うから」


「ふふ、いいよゆっくりで。どうせあたし達の順番来ても時間制限とかないからさ」


「そっか、ありがとう」


 桃沢さんの言葉で俺は焦りを落ち着かせ、それでも皆を待たせないように急いでジュースを買って取り出しその間待っててくれた桃沢さんに「お待たせ」と声を掛ける。


「待っててくれてありがと」


「ん」


 桃沢さんはそんなの何てこと無いとでも言うように適当に相槌を打つと既に盛り上がり始めている自分たちのレーンに歩を進めた。


 置いて行かれないように俺も桃沢さんの後ろを付いていき席に戻ると一投目を投げ終わった七緒が「大丈夫だった?」と心配してくれた。


「大丈夫だった」


「そっか、ならよかった。無理すんなよ」


「うん」


 七緒は光の事を心配性とか世話焼きとか言うけど、七緒も大概だろと心の中で思ったがその気遣いが俺にとっては凄くありがたかった。

 もしかしたらそう遠くない未来、俺は女の子と昔みたいに普通に話せるようになるのかもしれない。


 まぁそれは俺の努力次第でもあるけど。


 桃沢さんと話せただけでも大分成長したし、それだけで今日来た甲斐があった。



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