第33話 浮気扱いされた
「おはよ」
「おはよう女たらしさん」
七月さんに挨拶をしただけなのに教室で誤解されそうな言葉をそこそこ大きい声で言われて俺は困惑する。
「え?」
「昨日は女の子とお楽しみだったみたいですねー」
七月さんはやや棘のある言い方でからかうように細めた目を向けてくる。
昨日というと、レイさんと日和さんと一緒にエテをやっていたことを指しているのだろう。
「浮気ですかー?」
「いや違うが?」
「鼻の下伸ばしちゃってさー?」
「確かに二人とも可愛くはあったけどさ」
日和さんもレイさんも魅力的な女性で鼻の下を伸ばしていた瞬間があったのも事実。
それを認めると七月さんは「ふーんそっか」と何故か少しだけ唇を尖らせた。
「……でもまぁ気は遣うし、七月さんとする方が楽しいよ」
あきななと一緒にやっている時は実際楽しいし、そんなに気を遣わなくてもいいので楽という気持ちも込めて正直に伝えると「ふ、ふーんそっか……?」と先程と言葉は同じだが、声のトーンが少し高くなり目を逸らしニヤつきそうなのを我慢しているのが分かった。
「もしかして照れた?」
俺は思い付きで日和さんの真似をして逸らされた目を合わせに行く。
「て、照れてないから。あ、ちょっと私トイレッ!」
七月さんは目を泳がせると、椅子から勢いよく立ち上がり廊下に向かって走って行った。
発言してから思ったが現実で「照れた?」とか言うの我ながらキモ過ぎないか? 女の子が言うならまだしも俺が言ったらキモ過ぎないか?
「もしかして照れた?」と言っている自分を俯瞰して改めて思い返してみると完全にイタい人で遅効性の攻撃を受けた。
「なぁ、なんかさっき女たらしとかって聞こえた気がしたんだけど」
「それな? なんか浮気とかいう単語も聞こえたし何事?!」
自分の言動を思い返し悶え苦しんでいるとそれに追い打ちを掛けるように光と海が問い詰めに来た。
「聞き間違いじゃない?」
「いや、聞き間違いだとしても何かあったでしょ!」
「七緒ってやっぱり七月さんと付き合ってたんだな」
俺は分かってたぞと知ったような顔をする光に「え?! まじか?!」と衝撃を受け、目を見開く海に俺は頭を抱えた。
「いや違う、付き合ってない」
「本当に?」
「嘘だ嘘だ、やっぱり付き合ってたんだ!」
「取り敢えず海、お前うるさい。ちょっと声のボリューム落として」
「ごめん」
俺の口から言っても信じて貰えないことは何となく分かっていたので、俺は二人の誤解を解くために1から丁寧に説明することにした。
ゲームを他のネットの女の子と一緒にやったこと、そしてそれを七月さんが冗談で浮気だと言った事を伝えると海が真面目な顔つきに変わった。
「いやそれは浮気だよ七緒。七月さんというものがありながら他の女の子と一緒にするなんてあり得ない」
「いや、え……? てか普通に聞かれたら誤解されそうな言い方本当やめてね」
俺の説明を聞いて分かってくれたのか光は呆れた目線を俺ではなく、海に向けていた。
「海、お前女子とゲーム出来てる七緒が羨ましいだけだろ」
「そうですけどぉぉお?! 七月さんともゲームして他の女の子ともゲームするなんて羨まし過ぎるんですけど?! 紹介しろよおい!」
光の指摘は図星だったようで海がやけくそに自分の欲望を口にした。
「うるさいし、紹介しない」
俺が切り捨てるように淡々と告げると海は「なんで?!」と声を荒げる。
教室にいる人の視線が集まるのを感じ、俺と光は「シーッ」と人差し指を口の前で立て海を静かにさせる。
だって紹介しようもんなら俺と七月さんが配信者だということがバレるかもしれないからな。俺が知ってる女の子って配信関係の女子しかいないし。
それにツニッターで繋がってるからその人を教えたらいずれ俺や七月さんにたどり着いてしまう可能性も低くないからだ。
そこから学校の人に広がり、色んな人に広がりでもすれば俺はまだいいのだが女の子の七月さんが危ない。
あきななは人気が出始めたばかりだが、ストーカーされることだって放課後襲われる可能性だって誘拐される可能性だってある。
それほど彼女はネット上でも学校でも魅力的な人だから。
そんな危険に晒す可能性があるので友達だからと言ってそう気軽に教えられるものではない。
「じゃぁどうやって知り合ってるかだけでも教えてくれよぉー!」
「普通にネットでだよ」
「普通にネットしてても知り合えねぇよぉ?!」
「ゲームの募集とかで……」
ゲームの募集ツニートとかで反応して一緒にゲームをしてそこから仲良くなったりしてーみたいな感じだとは思う。
でもまぁネットには変な人が多いから、女性の人は結構警戒してて海みたいな出会い目的の人は厳しいのかもしれない。
その点俺は配信活動をしているからどんな人かはツニートとか日頃の配信アーカイブを見たりすれば分かるし、変な事はしないって思われてるから女性活動者と知り合えて一緒にゲーム出来ている節はあるかもしれない。
俺も配信していなかったらネット上で女の子と知り合って一緒にゲームする事なんて一生無かったかもしれないなと今思った。
「光ぅぅ! どうやればネットの女の子と仲良くなれるのおぉ!」
海は俺に愛想をつかしたのか今度は光に泣きつき始めた。
「知らん、てかネットよりクラスの女子と仲良くなる方が簡単だろ」
「………………確かに。……いやいやコミュ障の俺に出来ると思ってるの?! 鬼、悪魔、光!」
光に正論を投げつけられ海は一瞬フリーズして納得したかと思えば無理だと否定の言葉を吐き捨てる。
最後のは普通に光の名前呼んだだけじゃん……とツッコミたくなるのを我慢して俺はふと考える。
果たして本当に海はコミュ障なのか。
だって、俺達とは普通に話せているしなんなら最初は海の方から話しかけてきた。会話も普通だったし、そんなにコミュ障とは思えない。ただまぁ女子とだけは何故か極端に喋らなくなるのは明らかだ。
「海、お前自分の事コミュ障って思いこんでるだけじゃないのか?」
「え?」
思っていた事を光が代弁すると、海が俺に意見を求めるような目を向けてきたので頷くと目が点になっていた。
そこでチャイムが鳴ったので一時解散に。この話はまた後ですることになった。




