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第15話 告白

 〇〇柊七緒視点〇〇



「おはよー柊くん! 昨日は色々迷惑かけてごめんね」


 朝、教室に入るなり七月さんが俺を待っていたかのように手を振りながら近付いてくる。


「おはよう七月さん。えっと……迷惑って?」


 昨日は一緒に配信したけど別に迷惑をかけられた覚えはない。


 首を傾げると、七月さんは片方の手を口元に添えたので、俺は反射的に少しだけ七月さんの方に身体を傾け耳を差し出す。


「昨日の配信の事だよ」


 いつもの元気でハキハキとした声とは違い、静かで艶やかな囁き声に耳がくすぐったくなる。


 俺は自然を装いながら少し距離を取り「あぁ全然大丈夫だよ」と返し、自分の席に鞄を置いて心を落ち着かせる。


 なんでこうナチュラルにこんな事してくるかな! 女子とあんまり話してこなかった俺には少し刺激が強過ぎて頬が熱くなる。


「あれ? なんか顔赤い? 熱ある? 体調悪いの? 大丈夫?」


 ヤンデレが「いつどこで誰と何してたの?」って聞いてくる勢いと同じだと頭の片隅で思いながら体調不良を否定すると「そう? ならいいんだけど」と微笑みを向けられ、俺は気まずくなり目を逸らす。


 ごめん、こんないい子なのに一瞬でもヤンデレみたいって思っちゃって。


「あ、そうそう。昨日あの後ランク行ったんだけどさ、負けちゃってシルバーに下がっちゃった……」


「あぁうん、見てたよ」


「見てたの?! なんか恥ずかしいな、私の下手なプレイを柊くんに見られてたなんて……」


「今更じゃない?」


 200人もの人に見られてても気にはしないのか……?


「そこは下手じゃないよって否定する所じゃん!」


「えぇ……」


 変なところで怒られて女心は分からんなと思っていると「だからランク一緒に行けなくなちゃった……」と少し悲しそうな表情を見せる。


「俺とそんなに一緒にやりたいの?」


 少し意地の悪い質問をしてみると「うん」と即答された。


 俺の思惑は全く伝わっておらずその素直な返答に思わず動揺してしまい一瞬の沈黙が訪れる。



「な、なんで?」


「え? だって一緒にしてて楽しいから! それに柊くん強いし?」


 にへらと子供の様に無邪気な笑顔を向けられ俺は目を瞑ってそれ以上その顔を見ないようにした。


 そうしないと惚れてしまいそうだったから。


 その不自然な行動を七月さんに悟られないように俺は腕を組み、わざとらしく大きく頷き「ほぅ、そっかそっかぁ」と呟く。


「なんかウザい」


 言った後に恥ずかしくなったのか七月さんは照れ隠しをするように少し笑いながらその言葉を口にした後、不安そうな表情に変わる。


 口元を袖で隠し、眉をハの字にしてか細い声で言葉を発する。


「……ねぇ、もしかして柊くんは私としてて楽しくない?」


「えいや、えっとその……た、楽しいよ」


「そう……?」


 楽しくないわけがない。女の子と一緒にゲームするというだけでも凄い嬉しい事なのに、その可愛い声を聞きながらワイワイ楽しく時には褒めてくれたりしてくれる。負けても全然雰囲気悪くならないし、寧ろ滅茶苦茶ゲームを楽しんでるのが伝わってきて一緒にやってる俺も釣られて楽しくなる。


 そう思ってるのに直ぐに「楽しいよ」とハッキリ七月さんに言えなかった。


 そう正直に答えるのが何だか恥ずかしくて。


 でもそのせいで、俺が気を遣って言ったみたいになってしまった。七月さんがそう受け取っても仕方がないような反応を見せてしまった。


「私弱いから無理して一緒にやってくれなくても大丈夫だからね?!」


 少し暗くなってしまった空気感を変えようと無理して七月さんは明るい声を出し、笑顔で次に誘った時に俺が断りやすいようにそんなことを言ってくれた。


 俺はそれが悲しくて、その言葉を無理して作った笑顔で七月さんに言わせてしまった自分に腹が立つ。


 ここでちゃんと伝えないと、もう二度と一緒に楽しくゲームを出来ない予感がした。

 そんなのは嫌だ。


 俺は恥ずかしい気持ちを押し殺してポツリポツリと本音を告げる。


「…………た……い、よ……」


「え?」


「……楽しいよ。七月さんと一緒にゲームするの滅茶苦茶楽しいよ。凄い明るくて可愛い声で元気貰えるし、負けてても雰囲気良くて、褒めてくれて凄い嬉しいし。楽しくないわけないじゃん」


 そこまで言い切って顔を上げると、七月さんは目を見開いて口をぽかんと開けていたかと思えば俺が言った言葉を咀嚼しきったのか徐々に口角が上がって頬も赤くなっていく。


「あと、稀に見せるアホなプレイとかがめちゃ面白いし」


「なっ!」


 七月さんは直ぐに調子に乗るタイプで少し褒めたら「もう一回言って、もう一回言って!」としつこかったりするので俺は牽制にアホを強調して言葉を付け加える。


 まぁ、俺も照れ隠ししないとやってられない。こんな本音をもう一回言ってとか言われたり、今後からかわれたりするのを想像すると恥ずかしくてたまったもんじゃない。

 そんなことになるくらいなら、ヴァルで野良の人に寒い一発ギャグを披露した方がマシだと思う。


「てか、ランクは一緒に出来ないかもだけどランク以外のモードでやれば良くない? それにヴァルじゃなくても他のゲームでもいいし」


 俺がアホと言ったのに反応して怒りそうだった七月さんを先制して元の話に戻る。


「あぁ、確かに!? そうじゃん」


「あぁやっぱりアh」


「アホって言うな!」


「いだっ!?」


 言い切る前、まさかのタイミングの速さで俺は避ける事が出来ずにもろに頭に手刀を喰らってしまった。


 結構痛いけど、グーじゃないだけまだマシか……。


「でも私頑張ってランク上げて柊くんに追いつくね! あ、でもでも他のゲームも一緒にやろうね」


「はいはい、じゃあ俺は追い付かれないように頑張るね」


「ねぇぇぇっ! 意地悪っ」


 頬を少し膨らませながら下から睨みつけられるがその表情と「意地悪」という言葉の合わせに不覚にもドキッと心臓が跳ね上がる。


「ご、ごめんごめん。まぁ頑張れ」


 ドキッとした事が悟られないように俺は苦笑しながら頭を掻き、謝りながら目を泳がせる。


「てか思ったんだけどさ?」


「うん、なになに?」


「他の人と一緒にやるのもいいんじゃない? ほら、コラボとかでさ」


 最後の方を小さな声で言うと七月さんは「勿論、他の人ともやりますとも!」とそんなのちゃんと考えてますよ、舐めないでと言いそうなくらいドヤ顔でサムズアップした腕を体の前に持ってきて胸を張る。


「そっか、それなら安心した」


「安心?」


 俺の言葉に引っかかりを覚えた七月さんは小首を傾げ眉を顰めた。


「いや最近俺とのコラボばっかりだったからさ。あんまり異性の俺とずっとコラボしてると勘繰る人とか厄介な人とか出てくるんじゃないかなって思ってたから」


「あぁぁぁー…………そゆことね……。確かにそれはあるかもしれない。気付かせてくれてありがとね柊くん。でも、柊くんそんな感情私に抱いてないでしょ? だから大丈夫だよ。気にせずこれからもいっぱい遊ぼ! ね!」


「う、うん」


 俺は七月さんの勢いに首を縦に振ることしかできなかった。



 例えそういう感情を抱いていなかったり、彼氏彼女の恋人関係じゃなかったとしても、だ。


 それでも難癖つけて何か言われたり、ありもしない噂を流されたり、配信の発言とかを悪意のある切り抜き方をされたりとかでどうとでもなってしまう可能性は大いにある。


 だが七月さんがそこまで考えていないはずもない。だって七月さんはアホな所はあるけど真面目で確か頭もいいはずだ。


 前、七月さんの友達が『ここ分からん~教えて~』と頼っていたのを見た事がある。

 去年のテストでも200人以上いる中で2桁台だったと鼻を高くしていて友達を煽っていた。


 七月さんは俺に気を遣わせないために「気にしないで」と言ったんだろうけどそうはいかないよな……。

 いやでも、やましい事なんて一つもないし意外と大丈夫なのか……?



「おはよー明奈」


「あっおはよー優衣(ゆい)!」


 七月さんは挨拶を友達の渡辺(わたなべ)さんに返すと「じゃ、またね!」と柔らかい笑顔を向けて手を振ってくるので俺も恥ずかしながらも小さく手を振り返す。

 それを見て満足したのか七月さんは渡辺さんの方に駆け寄って行き勢い良く抱き着き嫌がられていた。


「ちょっと汗かいて気持ち悪いから抱き着いて来ないで」


「えーん!」





 その光景を眺めているとふいに両肩に手をポンと置かれる。左右を見ると、そこには光と海がいた。


「いやぁ朝から見せつけてくれるね」


「それなー? まじ羨ましいんですけど」


「いや前も言ったけど、そんな関係じゃないからね?」


 どうやら二人も既に来ていたが空気を読んで話しかけて来なかったらしい。


「てか、話聞いてて思ったんだけどさ……」


「え?」


 光が少し苦笑いして呟くから、俺は配信の事バレたのかと心臓の鼓動が加速する。勿論配信の話とか関係する単語は周りに聞こえないように小さな声で話していた。でも必ずしも聞こえていないとは限らない。


 まさか光って地獄耳だったのか……?


 光の口から次に出てくる言葉が何なのか緊張して息が止まる。


「なんかあれだよなあれ……」


「あーなんだろう、なんて言えばいいんだろうね?」


 海も同じ事を思っていたのか、二人して目を合わせると次の瞬間光の口から飛び出してきた言葉に思わず耳を疑った。


「告白みたいだった」


「そう! それだ! それ!」


 光の言葉に俺は「は? え?」と困惑を隠せないでいた。


 どこが? どの辺が? 告白? 俺がいつした? 俺がするわけない。


 必死に七月さんとの会話を思い出す。


「ほら、七月さんと一緒にゲームするの滅茶苦茶楽しいよーって」


「そうそう。で、その後明るくて可愛い声で元気貰える~とか褒めてくれるし~とか。楽しくないわけないじゃんって言ってたところだよ~」


 光は単純に思い出すのを手伝ってくれたのが分かったが、その後便乗した海が凄くウザかった。ニヤニヤしながら茶化すように少し俺の声音に寄せて言ってきて俺は思わず顔を手で覆う。


「そんなところまでしっかり聞かれてたのかよ……。うわぁ……マジで、恥ずかし過ぎて生きていけないわもう……」


 女子との会話って聞かれるの恥ずかしくない? 俺だけ? なんか少し良い人ぶろうとしてる所とか無意識にカッコつけてそうで恥ずかしい。


 てかまじで何で海はそんな細かい所まで覚えてんだよ……。


「ま、まぁ聞いててこっちも恥ずかしく感じたのはその部分だけだったぞ?」


「うん、あとは何話してるかあんまり聞くのは気が引けたしねー。まぁ聞こえなかっただけだけど……」


 俺が恥ずかし過ぎて机に突っ伏していると流石に申し訳なくなったのか光がフォローしてくれる。


 海も一応補足で他は聞こえてないと言ってくれたが、お前は聞こえてたら全部聞こうとしてただろうなと最後ボソッと呟いたので確信した。


 熱くなった顔を上げ息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出し心を落ち着かせる。


「まぁあの会話が聞こえてない周りの人からみたら普通に仲良い友達みたいな感じに見えると思うぞ」


「いいや恋人に見えるね。羨ましいから取り敢えず死ね!」


「いやおい、直球過ぎん?」



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