訳アリ……ですね?
(ええっ。……これだけ?)
姫君の荷はあまりにも少なかった。それがまたしてもやイアルの胸をざわつかせる。
(普通。女性が旅する時の荷って、もっと嵩があるものじゃあ……?)
少なくとも、軽く荷馬車一杯分くらいは。
昨夜は二台ともにほぼ空だったのか? 貴婦人なら、ドレスだけで幾箱にもなるはずだ。それが衣装箱一つきりって。何だよ? いったいどういうことだ?
(尋常じゃないだろ。どういう訳アリなんだ?)
運んだ箱の軽さで、イアルはわかってしまった。とにかく所持品が少な過ぎだ。
シャールの方はそそくさと帰ってしまったが、手を借りるまでもなかった。
「これだけ――ですか」
整理を手伝いましょうと申し出たゼフィネさんも、当惑してすぐに手が止まってしまった。
「これだけです」
姫君は屈託なく笑う。「元々少ないのです。修道院に居ましたし」
あ。……やっぱり?
それで――灰色の服。中途半端な伸びかけの髪。少な過ぎる持ち物―身を飾るものはリボン一つお持ちでなかった。
またしても、イアルの心臓がズキンと痛む。
修道院という単語が、余計にイアルの胸を締め付けたのだ。
修道院。
それはあまり幸せな響きではない。そこには嬉しい楽しい匂いはしなかった。
世を捨てたおっさんとかじいさんとか、食い詰めた放蕩者だとか。それに貧乏貴族や騎士の家を継げない下の方の息子達。世に修道士になる男がいくらいようが別に何とも思わないのに、若い娘さんが修道院に行くだの修道女になるだの聞くと、途端に痛ましい気持ちでいっぱいになるのは何故なのだろう。
そこはかとなく幸薄い気配がしてしまう。
わかっている。偏見だ。
修道院は人生の墓場でも不幸な女性の捨て場でもない。うら若い良家のお嬢さん達が、花嫁修業のために入ったりもしている。格式高いところなら、奥方教育もしてくれるそうじゃないか。
薄幸。不遇。可哀想、そんな決めつけや先入観は修道院や修道女に対して失礼な話だと、充分わかってはいた。むこうだって安い同情なんてされたくないだろう。
あれだよな。落ち目の公国の、バカ新大公がやらかしたせいだ。
ポッと出の浮気相手と一緒になるために、何の落ち度もない婚約者を無惨に捨てたあの暴挙。剰えその婚約者を修道院へと追い遣ったあの非道。一方的に婚約破棄した上に、輪を掛けた一連の酷い仕打ちは、大いに世を騒がした。到底人としてあるまじき行いの数々。あれですっかり俺等は刷り込まれてるんだ。
「それに、身許のわかるようなものは既に処分していただいたと思うので」
姫君がさらりと言う。うわ、また心臓に悪いことを。
(――やっぱ、超訳アリだ)
どこまで訳アリなんだろうか。
『ほんと、心臓に悪いからよ』
ラウルの言葉が鮮やかに蘇る。しかし本当に心臓に悪いのは、ここからなのだった。




