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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
第三章 訳アリの姫君

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訳アリ……ですね?


 (ええっ。……これだけ?)


 姫君の荷はあまりにも少なかった。それがまたしてもやイアルの胸をざわつかせる。


(普通。女性が旅する時の荷って、もっと嵩があるものじゃあ……?)


 少なくとも、軽く荷馬車一杯分くらいは。

 昨夜は二台ともにほぼ空だったのか? 貴婦人なら、ドレスだけで幾箱にもなるはずだ。それが衣装箱一つきりって。何だよ? いったいどういうことだ? 


(尋常じゃないだろ。どういう訳アリなんだ?)


 運んだ箱の軽さで、イアルはわかってしまった。とにかく所持品が少な過ぎだ。

シャールの方はそそくさと帰ってしまったが、手を借りるまでもなかった。


「これだけ――ですか」


 整理を手伝いましょうと申し出たゼフィネさんも、当惑してすぐに手が止まってしまった。


「これだけです」


 姫君は屈託なく笑う。「元々少ないのです。修道院に居ましたし」


 あ。……やっぱり? 

 それで――灰色の服。中途半端な伸びかけの髪。少な過ぎる持ち物―身を飾るものはリボン一つお持ちでなかった。


 またしても、イアルの心臓がズキンと痛む。

修道院という単語が、余計にイアルの胸を締め付けたのだ。


 修道院。

 それはあまり幸せな響きではない。そこには嬉しい楽しい匂いはしなかった。

世を捨てたおっさんとかじいさんとか、食い詰めた放蕩者だとか。それに貧乏貴族や騎士の家を継げない下の方の息子達。世に修道士になる男がいくらいようが別に何とも思わないのに、若い娘さんが修道院に行くだの修道女になるだの聞くと、途端に痛ましい気持ちでいっぱいになるのは何故なのだろう。


 そこはかとなく幸薄い気配がしてしまう。


 わかっている。偏見だ。

 修道院は人生の墓場でも不幸な女性の捨て場でもない。うら若い良家のお嬢さん達が、花嫁修業のために入ったりもしている。格式高いところなら、奥方教育もしてくれるそうじゃないか。

 薄幸。不遇。可哀想、そんな決めつけや先入観は修道院や修道女に対して失礼な話だと、充分わかってはいた。むこうだって安い同情なんてされたくないだろう。


 あれだよな。落ち目の公国の、バカ新大公がやらかしたせいだ。

ポッと出の浮気相手と一緒になるために、何の落ち度もない婚約者を無惨に捨てたあの暴挙。剰えその婚約者を修道院へと追い遣ったあの非道。一方的に婚約破棄した上に、輪を掛けた一連の酷い仕打ちは、大いに世を騒がした。到底人としてあるまじき行いの数々。あれですっかり俺等は刷り込まれてるんだ。


「それに、身許のわかるようなものは既に処分していただいたと思うので」


 姫君がさらりと言う。うわ、また心臓に悪いことを。


 (――やっぱ、超訳アリだ)


 どこまで訳アリなんだろうか。


『ほんと、心臓に悪いからよ』


 ラウルの言葉が鮮やかに蘇る。しかし本当に心臓に悪いのは、ここからなのだった。


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