40、参加権を得るための試験
『12時50分の予約の方』
アナウンスが聞こえた瞬間、ユキナさんの姿は消え、試験場へと移動した。強制転移だ。
どうやら、予約時間は5分刻みになっているようだ。そして予約の順番は、帰還者迷宮の番号順。今日というか夜中の0時から始まったらしい。
夜中にやっていた試験は、何度もこの試験に落ちた帰還者だという。2ヶ月に一度、3階層以上を育てた、初級者の説明会があるそうだ。
この試験で生き残らなければ、説明会に出られないらしい。説明会ではどんな要求をされるのかと、不安になってくる。
「おっ、やっぱりユキナは、無茶しよるな」
「相手を倒しても、次の相手が出てくるんですね。3分間の耐久試験か」
ユキナさんは、空中に大量の機関銃のようなものを浮かべて、ひたすら打ちまくっている。おそらく試験時間が3分間というのは、迷宮を襲撃されたときの耐久力を試しているのだろう。
迷宮に来る新人潰しは、撃退するのに最低でも3分以上はかかる。戦い続ける力の有無を調べているのか。
『12時55分の予約の方』
そのアナウンスで、ユウジさんが試験場に移動した。
試験が終わったユキナさんは、大きな部屋のバルコニーっぽい所から、僕に手を振っている。僕も振り返したけど、試験前のユウジさんが何か怒鳴ってた。
ユキナさんは嫌そうな顔をして、彼にも手を振っている。
(仲良いよな)
試験が始まると、ユウジさんは、バリアか結界を張って……あくびをしている。思いっきり相手をバカにしているように見えるが、おそらく手の内を見せたくないのだろう。
魔導士が途中で交代した。魔力切れだろうな。何人かが交代で、参加希望者の相手をしている。
(あっ! 野口くんだ)
カナさんとよく一緒にいる後輩くんが出てきた。そして、ユウジさんのバリアを壊した!
(やっぱ、すごいね)
鼻をほじっていたユウジさんが慌てて剣を抜き、構えたところで3分が経過したようだ。
『13時00分の予約の方』
(あっ、僕だ)
そう思った瞬間、試験場へと移動していた。
『3分間生き残ってください。敗れた場合は、ご自分の迷宮で復活していただくことになります。それでは、始め!』
(いきなり始まるんだな)
僕は、まだ剣を持っていない。腰に装備しておけばよかったと、冷や汗が出てくる。しかも、相手には野口くんもいるんだよな。
(おわっ!?)
野口くんが、いきなり炎魔法を打ってきた。闘技場内が、騒がしくなる。今までの魔導士は、始めからこんな魔法は使わなかったもんな。
(しまったな)
アイテムボックスを開ける時間はない。僕はポケットから串刺し珍味を取り出すと、両手に持つ。
そして、炎を纏わせた。
ドロップ品の袋はすぐに焼けて消えたから、串刺し珍味の串を剣として使う。ブワンと振って、野口くんの炎魔法を切り裂いた。
辺りには、香ばしい醤油と珍味の香りが広がってしまったが、仕方ない。
僕が使える剣技で、長く伸ばせる属性は、炎と氷だけだ。串刺し珍味に氷を纏わせたら、野口くんの炎魔法に負けて折れそうだったから、これしか手段はなかった。
『異空間収納! 剣!』
彼らが香ばしい匂いに動揺している間に、アイテムボックスを表示して、2つを目線で指定した。僕の両手には、無事に2本の剣が現れる。
(よし、助かった)
僕が両手に剣を握った直後、剣士風の人と騎士風の人が、切りかかってきた。
キン!
僕は、適当に受け流す。別に倒す必要はない。3分間生き残ればいいだけだ。
(おっと)
後方から魔弾も飛んでくる。野口くんは、楽しんでいるみたいだな。彼の魔弾は、全部、切り落としておいた。
『終了。合格です。あちらの通路へお進みください』
「はい、ありがとうございました!」
僕が通路へと向かっていると、野口くんが駆け寄ってきた。
「五十嵐さん、最初のアレって、ドロップ品を使ったんですか? めちゃくちゃ良い匂いが残ってますけど」
「あぁ、すみません。剣を装備してなかったので、焦って竹串を使いました」
「あははは、カナ先輩が聞いたら怒りますよね。あの珍味が、丸こげになったから」
「カナちゃんには、内緒でお願いします」
「ぷぷぷ、了解です。楽しかったです。お疲れ様でした」
そう言うと、野口くんは次の試験に戻っていった。この屋台の焼きイカのような匂いは……このままで、いっか。
◇◇◇
「ケント、さっきの美味そうな匂いは何や? 腹減ったやんけ」
バルコニーまで移動すると、試験を見ていたユウジさんが、本当にくぅ〜っと、お腹を鳴らしていた。
「剣を装備してなかったから、咄嗟にある物でしのぎました。めちゃくちゃ焦りましたよ」
「ケントさん、なぜ、こんな匂いのものをポケットに入れていたの? 醤油のようなイカのくんせいのような……」
「ドロップ品なんですよ。まだ、まともなドロップ品がなくて」
「ドロップ品? なんだか祭の屋台のようね」
「どちらかといえば、駄菓子なんですが」
「はぁ? おまえのダンジョンは天然水屋ちゃうんか? 駄菓子屋か?」
(天然水屋って……)
ユウジさんにどう返せばいいか、わからない。関西人と言い争っても、勝てる気がしないんだよな。
「勇者ユウジ、そんなことより、私もお腹が減ったわ。説明会は14時からだし、3人で食堂に行きましょう」
「ユキナさん、僕まだお金持ってなくて……。お借りしてもいいですか?」
「それくらい私が出すわよ」
「ユキナ、俺にもおごってくれるんやな」
「は? 冗談は顔だけにして」
ズコーッと転けそうなフリをするユウジさん。新喜劇のノリだよな。この二人と一緒だと、やっぱ楽しい。
僕達は、ユキナさんのおごりで、ハンバーガーを食べた。某有名店の物ではないし、食料事情が悪いから、あまり美味しいとは思えない。でも、久しぶりのハンバーガーは、嬉しかった。
「イマイチやな。まぁ、しゃーないけど」
「僕の迷宮に、美味しいハンバーガー屋も作りたいです。だけど、そもそもパンって入手困難ですよね」
「何? ケントさんの迷宮に入居者が殺到した理由って、それなのかしら? すごい弁当を売る店があると聞いたわ」
「あぁ、魚の弁当ですね。まだ全く目処さえ立たないのですが、最終的には、僕は迷宮内にコンビニを作りたいんですよ」




