17.明日も一緒に遊ぼうよ
「いやー、今回も良質素材が大量だな! ありがとうよ、エイト!」
「どうもです、ソード先輩。もっとも、戦闘では役立たずですが」
今回の戦闘内容を振り返ってもいろいろ反省点が山積みだ。
小型モンスターへの対処とか、モンスターへのDPS増加とか。
「そうかね? 道中の小型モンスターにこそ苦戦しているが、大型モンスターやボスにはある程度ダメージを与えているのだから、問題ないのではないかね?」
「いやー、装備がかなりいいものを使っているのに、あの程度のダメージしか与えられないんじゃ……」
「そういえば、エイト君の装備って気になってたんだ。ねえ、その刀、なにでできてるの?」
レイが興味津々といった様子で俺の刀を覗き込んでいる。
服の素材は教えているんだし、こっちも教えて構わないか。
「ブラックワイバーンの爪から作った刀だよ。『黒飛蜥蜴の打刀』が正式名称だ」
「ふむ。『飛蜥蜴』の名前が入るということは、強化前かな?」
「ええ。強化すれば『黒亜飛竜の打刀』ですね。ザコ以外で使う機会はないと思っていたので、鍛えてませんでした」
「さもありなん。私たちが連れ出さなければ、君はいつまでもあそこで武器を作っていそうだからね」
「否定はできませんね。工房に篭もって物作りをするのがいまの日課ですから」
顧客からの依頼をこなしているときもそうだけど、依頼以外の装備を作るのも楽しいものである。
そんな感じで、余った素材を使いいろいろ作っていった結果が、いまの工房なのだが。
「うーん、モンスター狩りも楽しいよ? これからはもっと戦闘に出る機会を増やそうよ?」
「レイ、あまり無理強いをするものではないよ」
「だって……せっかくゲームでも会えたのに、別々なんて寂しいじゃないですか」
寂しい、か。
そんなこと、あまり考えたことなかったかな。
そもそも、俺の知り合いは全員生産廃人だから、初期こそ素材を求めて戦闘をしていたけど、戦闘レベル10になるころには戦闘を卒業して生産一本に絞ってきた者ばかりだ。
それくらいになれば運転資金もある程度貯まっているし、元手になる素材もそれなりにある。
あとは、商品を市場に流して売り、素材を市場から買う。
この繰り返しでお金を稼ぎつつスキルを育て、生産スキルをレベルアップさせていくのが主流だった。
そうすれば、フィールドに出る機会はほぼなくて構わないし、影蜥蜴のローブが出回ってからはフィールド採取も安全になった。
そんなわけで、ゲーム内ヒキコモリをやっていたわけであるが……。
「うん、そうだな。たまになら外で活動するのも悪くないかもな」
「うんうん、そうだよね! 明日はどこへ行こうか?」
このお嬢さんは話を聞いていたのだろうか?
「明日は工房に篭もるよ。作りたいものもあるし、発注したい装備も出てきた」
「そんなー。せっかくのお休みなのに……じゃあ明後日は?」
「明後日はまだ決めてないけど、さすがに依頼が入っていると思うぞ」
俺宛の依頼は、普段だと仲介人、というかある程度の規模を持った職人集団からの紹介という形で依頼が来る。
俺の場合、基本的な条件は『素材全持ち込み』『料金支払いは前後どちらでも可』『レベル40以上の装備』といった条件だ。
俺が仲介してもらっている職人集団も、身内の職人を育てるためにそっちに依頼を優先的に回している。
だが、さばききれない依頼が俺のほうに回ってくる、そんな感じだ。
実際、レベル45以上の装備を作れる職人というのは、本当にわずかだし仕方がないことだ。
全体の力量と質を上げるために、仕事を共有しないと回らないのだから。
……問題は、この輪の中に入っていない生産者をどうするかってことになるんだけどね。
「むぅ……高校初の連休はゲーム三昧と決め込んでいたのに」
「それならブレンを誘ったらどうだ? 戦闘レベル的にも近いだろ?」
「ブレン君はもう誘ってあるの、ねえ?」
「ああ、まあな。もうすでにロックオンされてるよ」
……手を回すのが早いことで。
ただ、少なくとも、明日の作業時間は譲ることができないかな。
「少なくとも、明日は無理だ。いろいろと作らなくちゃいけないからな。明後日は……時間ができそうなら連絡する。それでいいだろ?」
「うんうん! これで皆で遊べるね!」
レイは小躍りしながらはしゃぎ回っている。
なにがそんなに嬉しいんだか。
「悪いな、エイト。妹の我が儘に付き合わせて」
「いや、そんなことないですよ、ソード先輩。ただ、どの程度仕事が回ってくるかわからないので、確約はできませんが」
「それで構わないさ。妹も忙しいのなら納得するだろう」
「それならいいんですが」
よくわからないけど、納得してくれたならなによりだ。
依頼、ある程度は請けないとサイクルが破綻するからな。
最近だと、赤妖精素材がNPCに高値で売れるせいで、金回り『だけ』はよくなったみたいだし。
お金だけあふれ始めて、素材や製品が足りないのは本当によろしくないよ。
まだゲームが始まって半年、いきなりインフレは避けたい。
そのためにも、素材はじゃんじゃんこっちに回して欲しいんだけどね……。
「そういえば、依頼ってどの程度あるものなんだ?」
「最近だと、一週間に十件くらいが多いですかね。そのほか飛び込み依頼が数件」
「なるほど。それで、儲けは出ているのかね?」
「うちは素材持ち込み制なので。余った素材をもらうこともありますし、普通にGで支払いをしてもらうこともあります。持ちだしがほとんどないので、依頼を受ければ受けただけ儲けが出ますよ」
ホント、これだけ聞くと悪代官みたいだよな。
「それじゃあ、もっとたくさん依頼を受けたほうがいいんじゃないの?」
「俺のところに依頼が偏ると、ほかの鍛冶士プレイヤーが育たないからな。なるべく、適正な依頼を適正な生産者に振り分けている人たちがいるんだよ」
「そうなんだ。生産者も大変だね」
「そうそう。だから、上級のモンスターや採取素材はNPCじゃなく市場に流すように頼むよ。中級を卒業するころの生産者が、トレーニング用の素材がなくて困ってるんだ。NPCより高く売れる保証はないけど、巡り巡って自分たちに返ってくるわけだから、よろしくな」
定例会で聞いた話だけど、中級生産者の素材不足は本当に深刻らしい。
中級生産者だと、素材全持ち込みを指定するのもはばかられ、かといって市場で素材が揃わないため、スキルトレーニングも売り物もできないという悪循環にはまっているそうだ。
俺たちのような、現在トップクラスの生産者はそうなる前に中級のトレーニングを終えたから問題なかったけど、いまは大問題に発展しているらしい。
総長殿が掲示板などでもNPC売りしないで市場に流してくれるように誘導すると言っていたが、どの程度の効果があるんだろうな。
中級生産職も、いまは春休みで新規に始めたプレイヤーが多くて懐が潤うけど、しばらくすれば自分の作れない装備に乗り換えを要求されることがある。
そうなる前に、スキルレベルを上げたいのは皆一緒なわけで……難しいな。
さて、つらつらといろいろ考えながら歩いているが……ゲートまではもう少しといったところかな。
「あ、ゲートの光が見えてきたよ!」
「ふむ、それでは今日は帰ってこれで解散だな。皆、お疲れ様だった」
「おつかれさまー。エイト君、ステキな装備をありがとうね」
「ホント助かったぜ、エイト。また新しい装備を作るときはよろしくな」
「楽しかったな、エイト。……それで、後で相談があるんだけど」
「わかった。工房に戻ったら聞く……よ?」
「あ、なんで疑問形?」
「いや、なんだあいつら?」
俺たちの目の前には、道を塞ぐように三人のプレイヤーが並んでいる。
そして、背後でも俺たちの行く手を遮るように五人ほどのプレイヤーが茂みの中から出てきた。
「……やれやれ、このシータサーバーなら安心かと思っていたが、思っていたよりも物騒だね」
「お前たちが噂の赤妖精パーティか。待ち伏せした甲斐があったぜ」
「赤妖精パーティね。言い得て妙だが、とりあえずそちらの用件を窺おうか」
「見りゃわかるだろ? 俺たちはPKグループだよ。さあ、有り金と素材をおいて消えてもらうぜ!」
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