8.
改訂しました。しかし、書きたい内容が上手く纏まっていないというか、読みにくいというか…。分かり難かったら教えてください。
あー
しまった
これは逃げられないかもしれない
私の頭の中では『絶望』の二文字が踊っている。
まいったな、これは。どう逃げるべきなのか。その逃げる方法すらすでに思いつかないほど追いつめられている気がする。
いやいやいや。諦めるな、私!!何とかなるよ、何とかしないと本気でまずい。
私がこんな風に思ってしまったのは、タイガー王太子に嵌められたと気づいたから・・・。
何が『一度だけ付き合って』だ!これじゃあ、タイガー王太子が許してくれるまで、延々と付き合うしかないではないか!!
言葉の裏に隠された意味について、もう少し深く考えておくべきだったと、今ならわかる。そう、今なら・・・。
私は、目の前の紹介された女性を見ながら、そんなことを思っていた。
今、私は、我がアストランダム王国の隣国、シーリス王国の王宮に居ます。
普段、伯爵領に引き籠っていて、王都くらいしか出かけたことのなかった私には、いきなりの国越えは過酷でした。延々と馬車に乗るとか辛い。
しかも、王太子は一向に目的について教えてくれず、嫌な予感だけは日々大きく膨れ上がっていたのです。
一介の伯爵令嬢の私には、一生縁がないはずの場所、隣国の王宮になぜ居るのか・・・。
その原因は、1週間前にさかのぼります。
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タイガー王太子殿下が、アルドロワ伯爵邸に来た日。なぜか私は、タイガー王太子の用意した馬車にメイドのサーシャと一緒に詰め込まれていました。
用意されていた馬車は5台。私とサーシャの乗った馬車を真ん中にして、前から順に護衛の騎士、王太子殿下、私とサーシャ、私のお供、私と王太子殿下の荷物(なぜか既に用意されていたもの。解せぬ)の順に馬車が続きます。そして、更にその周りには、馬に乗った騎士たちがいるのです。何このおおごと!
しかも、馬車にはアストランダム王家の紋が入っています。
幾らなんでも大げさすぎではないでしょうか?国事か!
私たちはすることもなく、外の景色を眺めていました。
「・・・ねえ、サーシャ。私たちはどこへ向かっているのかしらね?」
「さて、どちらでしょうか?お嬢様は、旦那様から聞いていらっしゃらないのですか?」
「ええ。お父様は結局教えてくださらなかったわ。ただ、道中気を付けなさいと、それはそれは憎々しげに仰っていたわ。多分、納得されていないのでしょうね・・・」
「しかし、この道は・・・。やはり・・・」
「どうしたの、サーシャ?何かわかった?」
「この馬車は、シーリス王国へ向かっているかもしれません。」
「シーリス王国へ?・・・なぜ?」
「先ほど、橋を渡りましたね。アンドロワ伯爵領から王都へ行くためには橋は渡りません。橋を渡る必要があるのは・・・」
「シーリス王国ね・・・。嫌だわ、私。恐ろしいことに気付いてしまったわ!まさか、王太子殿下は・・・。いいえ、言うのはやめましょう。本当になってしまうと困るわ・・・。ねえ、サーシャ。シーリス王国へはどれくらいで着くのかしら?」
「恐らく、このペースですと1週間ほどかと・・・」
「やはり、そうよね・・・」
そう会話した日からきっかり1週間。私たちは馬車の窓から、シーリス王国の王宮へ続く正門を見上げていました。そして、王宮に到着したと思った途端、ここに連れてこられたのです。
「さあ、どうぞ。お飲みになって?」
そう言う美人の声にああ、また現実逃避をしていたのだな、と慌てて気を引き締めました。
「まさか、タイガーがこんな素敵なお嬢さんを連れてくるなんて思わなかったもわ。わたくしは、シーリス王国王妃、リドリア・エル・シーリスよ。タイガーの母なの」
にっこり笑って死刑宣告。まあ、顔立ちも似ているし、そうかなーとかちょっと考えたけど、いきなり母親とかないよねー?ないない。と、自己完結していた私には衝撃が強すぎだよ、王太子・・・。
「お目にかかれまして、光栄です。わたくし、隣国アストランダム王国で伯爵位を戴いております、アレックス・アルドロワの娘、エリーズ・アルドロワと申します」
何とか挨拶出来た自分を褒めたい。表情筋を無理やり駆使したせいで、少し引きつっているかもしれないけれど。
「ええ、ええ。アルドロワ伯爵の噂は良くお聞きしますわ。王国一の剣の使い手であられるとか」
「そのように仰っていただけて、父も喜びますでしょう。お言葉を戴いたと父にも報告致しますわ」
「ふふふ。そんな固くならなくても良いのよ。ここは私の秘密のお庭なのだから」
暗に私的な場だと伝えてくれる王妃に、私はほっと息を吐いた。
自国の王族と話すこともあまりなかった私が、いきなり隣国の王妃と話せとか何たるハードル!高すぎて下をくぐるか、横に避けるしかない。
「母上」
ここで、今まで無言だった王太子殿下が、王妃様に声を掛ける。
それにしても、この二人、親子と言うよりは姉弟だと言っても良いくらいではないだろうか?こんな大きな子供持つ母には見えない!
「私は、こちらのエリーズ・アルドロワ様と結婚したいと思っております」
美形を前に目の保養・・・と気を抜いていた私は、王太子の言葉で、口に含んだ紅茶を吐き出しそうになった。いや、レディとして吐き出しはしなかったけれどね。
「もしかしてそうかも」から、「やはり」になり、私は内心頭を抱えた。ここで、そんな紹介をされてしまえば、今後はそういう対応を取られるに決まっている。
解消するまでは、パートナーとして隣に居続けねばならないのだ。。。
そして、王族との婚約を解消することは、私にとってとても不利益を被る。
いけ好かなくても、そこは王族。しかも、将来の王である。
そんな人と婚約しておいて、解消とか結婚を諦めろと言われているも同然である。
王族に婚約を解消されるとか、どんな問題児なのか・・・と、ただでさえ評判の悪い私の評判が更に悪くなること必見である。
何とか話を止めなければ・・・と思うのだが、先ほど吐き出しかけた紅茶が、器官に入って噎せた私は、親子の会話を止められない。
「まあまあまあっ!何て事でしょう!!母も、そうかしら?と思っていたのよ!だって、貴方。今までいくら母や陛下がお嬢様方を紹介しても乗り気ではなかったものねえ!」
「ええ。彼女は今まで出会ったご令嬢方にはない魅力がありましたので」
「貴女を隣国へ向かわせて良かったわ!こんな素敵なお嬢様を見つけてくるなんて!さっそく陛下にお話しなくてはいけないわね!」
そう言った王妃様は私の手を握り締めて、「貴女がわたくしの娘になってくださるなんて嬉しいわ!」と満面の笑顔で仰った後、「後は二人でゆっくりしてらして」と、言い置いて踵を返された。
恐らく先ほど言っていた陛下・・・つまり王太子の父であり、王妃の夫である人に伝えに行くのだろう。
私はやっと落ち着いた呼吸を整えながら、横に座る男に言った。
「早く撤回してください」
王太子はにっこりと胡散臭い笑顔を私に向けて、王妃が手ずから入れた紅茶の香りを楽しみながら一口含み、飲み込んだ。そして
「まあ、そう怒るな。しばらく我慢してくれるだけで良い」
と、のたまってきた。
曰く、
最近隣国(こちらから見れば自国)のユリウス王太子が婚約を発表し、結婚まで秒読みである。それを知ったタイガー王太子の両親が、お前も早く決めろと急かしてきた。
しかし、自分はまだ結婚する気などない。
自国の有力者の娘たちとはほぼ顔合わせを終えたが、特に好きになりそうな娘も居なかったことから、隣国へ旅行という名の逃亡を図った。
そこで、適当に…と言っても、本気で恋をされては迷惑なので、その心配がなさそうな娘を見繕い、両親に報告。
婚約は口約束のみとし、書面等も残さないので、別れたとしても特に私の経歴に傷はつかない。しばらく婚約者のフリをしてくれれば、すぐにアストランダム王国へ返す。
という内容だった。
ねえ、これ私殴っても良くない?この目の前に居る男と、ユリウス殿下を!!
というのも、この話を考えたのは、この二人の王太子だけらしい。ふざけんな!
私を隠れ蓑に自分たちだけ利益を得ようというコイツらの考えが許せない!
この面倒くさい話と、私が街で働いていることを隠すことが同等だと!?
しかし、ここは隣国。私の味方は連れてきた数人の供しかいない!
とりあえず、サーシャにこの話を聞いてもらおう!