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閑話(タイガー視点)

最初に彼女を見かけたのは好奇心から立ち寄った伯爵領の街だった。


俺とユリウスは、同じ年代、互いに王太子という身分、さらに隣国同士ということもあって、幼いころからよく顔を会わせていた。

会話の内容は、主にお互いの苦労話。これが、盛り上がる、盛り上がる。

お互いが王太子から立太子したら、今後も友好国だな、なんて笑いながら話が出来るくらい、俺たちは長い年月をかけて友情を育んできた。

お互いの国に招いてパーティーを開き、その招待客の中の令嬢を選り好みしたり、大人には言えないようなことをこっそり王都でやったりもした。

そう、王太子とはいえ、昔はただの外面が良い悪ガキだった。まあ、今もそんなに変わらないけれど、あまり馬鹿は出来なくなったな。子供じゃなくなったから。


そんなユリウスが婚約したという話を聞いた。

相手は、隣国一の美女。太陽の光を閉じ込めたかのような金髪に、澄んだ紫の瞳。たおやかで儚げな雰囲気を持ち、スタイル抜群であり、頭も良く、親切な令嬢だそうだ。

そう聞いて、そんな女が居るはずがないと鼻で笑った俺は悪くない。

両親から、お前も早く相手を見つけろとうるさく言われるようになっていたこともあって、旅行と称してその噂の令嬢を見てやろうと、隣国-ユリウスの住む王宮-へ向かうことにしたんだ。

途中、シリウス-俺の護衛を任されているうちの一人-が、どうやら噂の令嬢は伯爵領に向かっているらしいという情報を掴んできたので、シリウスを王宮に向かわせて、俺は伯爵領へ行くことにした。

元々、アルドロワ伯爵は俺の国でも有名で、彼の采配は素晴らしいと聞いていたため、一度見てみたかったこともあり、一石二鳥だと思ったからな。


伯爵領は、何というか賑わっていた。大通りには観光客向けの店が立ち並び、大きな声で客引きをしている店もある。売り手と買い手の熱気で、熱いくらいだ。

それに、どこを見ても暗い顔をしている人間は居ない。みんな前を向いて明るく朗らかに暮らしているようだった。


「すごいな・・・」


ポツリとそれだけが心に浮かんだ。こんな風に俺も国民を笑顔にしたい、そう思った。


そんな時、彼女を見かけたんだ。


目の前を茶色の髪の少女が横切って行った。ふと香るエランジュの香り。

今の少女だろうか…?一瞬だった。町娘は絶対使わない高級品である。

なぜ今の少女から…?気になった俺は彼女を追いかけることにした。


彼女は大通りを1本入った八百屋らしき店に入っていく。

客かと思ったが、どうやらそこで働いているらしい。野菜を売り始めた。

俺はじっくり少女の顔を観察した。どこにでもいそうな茶色い髪と茶色の瞳。

それだけなら特に気にならなかったかもしれないが、肌が白いのが気になった。不健康というわけではない。だが、横の男と比べると町娘にしては日に焼けていないような気がする。

他にも何かないかと観察していると、ちらりちらりとこちらを意識しているようなそぶりを見せた。

俺は店内が見える細い路地に影と同化するようにしていた。普通の町娘なら、気付かれるはずがないと思っていた。

だがしかし、彼女はこちらを気にしている。ちょっと気になり始めた。


そこの店で野菜をもらったのか、籠に野菜を入れて少女は出てきた。家に帰るのだろうか?そう思って付いて行くと、今度は大通りの店に入って行った。

出て来ないので、中に入ってみる。ちょっと後悔した。

そこは、女物の小物を取り扱っている店だったからだ。店内を見回すと、少女はカウンターの中で何かを作っているようだった。

何を作っているのかふと覗くと、コサージュだった。

器用なものだ…と見ていると、指が恐ろしく綺麗なことに気が付いた。

横に座っている少女の手も汚いわけではなかったが、何というか水仕事をしていない手…というのだろうか?綺麗な指をしていた。


あまり店内に居ても、迷惑だろうと思い、店の外に出る。ここから人々の顔でも観察しようか・・・。そう思って見ていると、少女が店から出てきた。

会釈だけして通り過ぎていく少女に、今度こそ家に帰るかと思い、ついて行くことにした。

それからは、裏通りをぐるぐる回る少女にくっついて同じようにぐるぐるまわるはめになった。さっさと家に帰れと言ったのに、一向に帰ろうとしない。

周りはだんだん薄暗くなってくるし、こんなところで少女一人歩かせるわけにはいかない。

その義務感から、彼女の後ろをついて行った。


とうとう彼女は靴屋に入って行った。しかも裏口から。ここが彼女の家か…。そう思って踵を返そうとしたが、中から「お邪魔します」と聞こえてきた。なんだ、ここも違うのか。

大人しく彼女が出てくるのを待っていたが、一向に出て来ない。

そして、そのまましばらくしても出て来なかったので、待ちくたびれた俺は、裏口を部下に見張らせて、表へ回ることにした。客として店内をうろついてみようかと考えたのだ。

すると、金髪のポニーテールの女が歩いて行くのを見かけた。後に残る香りはエランジュのもの。

まさかと思って、後姿を確認すると、身長と体型は先ほどの町娘とほぼ同じように見えた。

これは、ユリウスと淑女を選り好みしていたときに得た特技で、服の上からでもなんとなく体型がわかるという、ある意味便利なものだ。

これで、例えば本物の胸か偽物の胸かがわかったりして、結構重宝していたりする。


俺は興味を持った。

先ほどは茶髪だったが、今は金髪であり、着ていた服も先ほどとは全く違う。

一体コイツはここまでして何を隠しているのか、と。


辻馬車を拾ったのを見届けて、馬に乗って後を追った。

辿り着いたのは伯爵邸。ここまで馬車で10分程度の距離だが、コイツはわざわざ馬車を乗り換えたり、大回りしたりして無駄にぐるぐるしていた。おかげで既に真っ暗だ。

それにしても、馬車から飛び降りてまで、目的地が伯爵邸だと知られたくないのはなぜだろう?

ちなみに、俺は自国で軍に所属しているため、夜目が効く。もし普通の人間なら、馬車の扉が開いたことも、中から出てきた少女が黒髪だったことも見えなかっただろう。


正門ではなく、裏門に回った少女はそのまま中に入っていく。

良いのか?とこっそり伺っていると、メイド服を来た同じ年のころの少女と話をしているのが聞こえた。


「サーシャ、ごめん。お待たせ!」


サーシャというのが、メイドの名前か・・・。そう思った俺の耳に次いで聞こえてきた言葉。


「お嬢様!!こんなに遅くなられるなんて・・・何かあったのですか!?」


お嬢様、だと!?おいおいおい、伯爵家のお嬢様は確か・・・そう思いながら頭の中の貴族名鑑を探す。

アルドロワ伯爵家には令嬢は2人。1人は絶世の美女。ユリウスの婚約者となった長女、アンネマリア。彼女は金髪で紫の瞳であり、まだこの伯爵領に到着していないはずだ。

ということは、次女のエリーズということか?

黒髪黒目の姉兄とは全く色彩の違う末娘。王都の噂だと、病弱であり、家族に溺愛されているため伯爵領から出て来ないとのことだったが、


あれが、病弱・・・?


野菜売ってたぞ?元気に。しかも、コサージュ作ってたぞ?器用に。

挙句の果てに、変装して馬車乗り継いで、陰に隠れるようにして帰ってきてたが・・・?

噂は当てにならないと再認識した夜だった。


呆然と伯爵邸から馬を歩かせようとしたところで、王宮へ使いにやったシリウスが戻って来たと報告を受けた。

どうやら、明日の朝、ユリウスは伯爵邸を訪れることにしたらしい。そこで婚約者と会わせるから、今日は伯爵邸へ行くなと釘を刺された。

仕方ない。明日まで、街で宿を取ることにしよう。そう決めて、馬の首を街へ向ける。こんな活気のある街だ。宿の部屋が空いていることを期待しよう。


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