正しい魅了の使い方【ニセ番】
あら、プランダ様ではありませんか。
尊き竜王子ジュレマイア殿下の番様が、どうしてこんな……卑しき囚人の塔に?
私を嘲笑いに来た?
そんなことをして、なんの意味がございますの?
私、侯爵令嬢フランシスは番を偽った最低最悪の罪人で、貴女はだれからも愛されている殿下の真実の番様ではありませんか。
ほら、鉄の扉で隔たれているとはいえ、本来なら牢番は絶対に牢の前から離れません。
少しでも離れたら、役目を果たせなかったとして罰を受けるのですもの。
にもかかわらず、貴女にお願いされたら会話が聞こえないように距離を置いてくれるほど、貴女はだれからも愛されているのではありませんか。
その愛を噛み締めていらっしゃればよろしいのですわ。
私はもうすぐ処刑されます。二度とお目汚しをすることはございません。貴女に対しても、殿下に対しても……
殿下の伯父様のことをお聞きになったとおっしゃいますの?
あの方と殿下は違いますわ。
伯父様は婚約破棄して国外追放した本来の婚約者のほうが真実の番で、彼を惑わした女性こそがニセ番でした。
でも貴女は本物なのでしょう?
確かに貴女がいつも指から外さないその指輪……薔薇を模ったその指輪は、伯父様を騙した女性が持っていたという魅了の魔道具に似ているようです。
だけど、貴女はそれをジュレマイア殿下からいただいたのでしょう?
自分を魅了するための魔道具を他人に与えるなんてこと、するわけがないじゃありませんの。
そうですわね。
殿下はニセ番だとわかる前から私を厭うていらっしゃいました。
私ったら愚かにも、殿下は男性で恋愛への興味が薄いから、番と面したときに生じる高揚感を受け入れられないだけなのだと思っておりましたわ。
そんなわけありませんものね。
殿下が番を見誤るなんてあり得ません。
だって殿下は、空も飛べたと言われる伝説時代の龍人族の先祖返りだと噂されるほど強い魔力を持ってらっしゃるのですから。
殿下はきっと最初から私がニセ番だと気づいてらして、それで厭うていらしたのです。
あの聡明な方が間違いなど犯すはずがありませんもの。
あら、ごめんなさい。
殿下の伯父様のお話でしたわね。
そうそう、伯父様も殿下と同じように伝説時代の龍人族の先祖返りだと言われていたそうですの。
ほら、王都のすぐ近くに湖があるでしょう?
昔、ほんの二十年ほど前までは、あちらが王都だったのですわ。
国外追放した元婚約者が新しく愛する方と出会って、結ばれて番の絆が切れたとき、暴走した伯父様の魔力が王都を滅ぼし大穴を開けたのです。
ふふふ、ご存じなかった?
そうでしょうね。
このことは王家と高位貴族だけの秘密ですもの。
貴女は殿下の婚約者ですから知ってしまったこと自体は問題ありません。
……ですが、ほかの方には教えてはいけませんわよ?
あの穴は、空から落ちてきた大岩によって開いたのです。
まあ、伯父様の魔力暴走で破壊されて舞い上がった地面の塊が降り注いだせいでできたのですから、市井で言われていることも嘘ではないのですけれどね。
もし……もし殿下が暴走なさったらどうなるか?
再び王都の場所が変わるのではないですか?
ああ、でも殿下は、伯父様よりも魔力が強いという話ですわね。もしかしたら、この王国の場所までも変わってしまうかもしれません。……消えて無くなってしまうかも。
なにを震えていらっしゃるの?
嘲笑いに来たとおっしゃいながら、貴女は最初から怯えていらっしゃる。
魔力を封じる結界を張られた牢に閉じ込められた私など、恐れることはないでしょう?
殿下を奪った罪悪感を覚える必要もございませんわ。
だって私はニセ番で、貴女は殿下の真実の番であらせられるのですもの。
違う? その指輪は魅了の魔道具?
番を厭うた殿下が、自分自身を魅了させて番を求める心を誤魔化している?
あらあら、本当に殿下がそこまでなさったのだとしたら、私はどこまで厭われていたのでしょうか。
でもそんなことはありませんわ。
私はニセ番です。だから、私の心にある殿下への想いは番の本能ではなくて、私自身が選んだ大切な気持ちなのです。
もし今貴女がおっしゃったことが本当だとしたら、魅了されている間の殿下は暴走しないのだから良いではありませんか。
はい?
魅了を発動するにはとてつもない量の魔力が吸収されている?
そういえば……貴女、少しお痩せになったようですわね。
外そうとしても指輪が外せない? こんなはずじゃなかった? 身分の高い男性にチヤホヤされたかっただけ?
あらまあ、殿下に魅了の耐性がつきつつあるみたいなんですの?
命じられて魅了の威力を上げると、指輪に吸収される魔力量も増えるから、苦しくて苦しくてたまらない?
落ち着いてくださいな。
大丈夫ですわ。ええ、大丈夫。
私が処刑されるまでは、殿下が暴走されることは絶対にありませんもの。だからそれまで、殿下を魅了し続けてあげてくださいませね。私をニセ番だということにしてさえ、私の愛が番の本能に過ぎないと思い込んでいらっしゃる、愚かな殿下を。
<終>




