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6.小奈多の異世界生活はまだまだ続く

最終話です。

 

「小奈多ぁ・・・」

 線香の日が消えると同時に、白狐石と呼ばれた白い石の光も消えた。

 白狐石を抱きしめながら母親の日向(ひなた)は涙を流す。娘の小奈多の無事とその元気な声に安堵をしながらも、大きな喪失感に襲われていた。

「日向」

 哲夫が日向の肩を叩く、涙でぐしゃぐしゃの顔を見て強く抱き寄せる。


「小奈多が言っていた。今日が最後じゃない、また小奈多と話せるんだ」

「・・・ええ、そうね」


 落ち着いた声で日向が顔を上げる。

『キュウゥゥ』

 ずっと側にいた管狐が寂しそうに鳴く、首には布製の頭陀袋を掛けている。

「そうね、これをテンちゃんさんに返さないとね。管狐さんでしたか?よろしくお願いします」

 日向は頭陀袋の中に白狐石をいれる、しかし管狐は納得していない反応をしている。

『キュウ!』

 管狐は宙を旋回して何かを探している、そして何かを見つけると器用に手で掴んで日向に渡す。

「これは小奈多からの手紙?」

「あ、そういう事か!」

 何かに気がついた哲夫が慌てて紙とペンを持ってくる。

「手紙だ!この袋の中に手紙を入れれば小奈多に届くって言いたいんだ!!」

『ピィイッ!!』

 管狐は嬉しそうに哲夫の周りの宙を泳ぐ。



「ばあさん」

「ん?何です?」


 浮かれる娘夫妻を横目に祖父が声を潜める。

「さっきの話は何だったんだ?」

「信太妻ですか?おそらくテンちゃんさんは小奈多の味方になって下さる方よ、安心しても良いと思うわ」

 確信めいた顔に不思議そうな顔をする。

「安倍晴明って、陰陽師の?そんな実在したかどうか分からないのに」

「それでもですよ。安倍晴明の母、葛ノ葉は自身が白い狐である事がバレてやむ無く夫と子供と別れなければならなかった。それでも2人を想い続けていたというお話よ、ずっと子供を愛しむ優しい母だった方が味方になってくれているのよ、実在したかどうかなんかより、そうあって欲しいと私は信じたい」

 非現実的で説明が不可能な出来事に祖父は頭を掻いて溜息を吐く。

「そう言えば警察に捜索願を出しているけど、どうすれば良いんだ?説明なんて出来んぞ」

 いつの間にか遠くの空が明るみ始めており、不思議な一夜が終わりつつあった。





 対話のあった夜から数日後。



「テンちゃん見て!!」

 小奈多の元気な声が聞こえてくる。

「髪の毛が火の玉になった!!」

 その手には小さな火の玉が浮いていた。

「おお、狐火ではないか!ようやく一歩前進だな」

 小奈多の妖術はゆっくりだが日々一歩ずつ成長しており天狐は目を細めていた、特に親との会話があった日から真剣に取り組むようになっていた。


「ふふふ、幼な子が妖術を操るか、()女だけに」


「えい」

「うわっ!?何で投げつける!?」

 小奈多は躊躇なく火の玉を投げつける、それを天狐は手の平で簡単に受け止める。

「くそ!私に160キロの豪速球を投げれる力があれば!!」

 簡単に受け止められて小奈多は膝から崩れて床を叩いて悔しがる、その様子に天狐は口元を引くつかせている。


「最低最悪にくだらないことを言うテンちゃん師匠に鉄槌を下さないなんて」

「おい待て、今なんか変な呼び方をしなかったか?」


 火の玉を握りつぶして小奈多の頭を鷲掴みする。

「テンちゃん師匠?」

「そう、それ!!テンちゃんの後に師匠をつけるのは言葉的におかしいと思わないか?」

 小奈多は不思議そうに首を傾ける、何が悪いか分かっていないようだ。

「テンちゃんはいらないだろ?師匠だけで良くない?むしろそれが正解だと思わない??」

「よく分かんないや」

 とぼけた顔をして天狐の拘束を抜け出す、そして懐から数枚の紙を取り出す。

「テンちゃん、読んで!」

「またか、何度目だ?」

 そう言いつつ天狐は紙を受け取る。

「今日は誰だ?」

「ママの」

 小奈多は天狐が座るとすぐに膝の上に陣取る。


「小奈多へ、こうやって手紙だけでもやり取りが出来て嬉しく思います。小奈多が大変な目にあっているのに何も助けてあげられないママを許して下さい、小奈多を助けてあげられなくてごめんなさい。でも小奈多が知らない間にとても強くなっていてビックリしてます、そんな小奈多を見ているとずっと悲しんでいるママではダメだと気付かされました。だからママも頑張って待とうと思います、小奈多が帰ってくるのをいつまでも待ってます。テンちゃんさんの言う事をよく聞いて、迷惑をかけないようにね、身体にはくれぐれも気をつけるのよ。またお話しできる日を楽しみに待ってます。ママより」


 天狐が読み上げると小奈多は体重を後ろにかけて嬉しそうに甘えてくる。

「迷惑をかけないようにと書いてあるが?」

「えへへへ」

 誤魔化し笑いをして上を向く、ちょうど天狐と目が合う。

「次はおとう!」

「仕方ない奴だな」

 そう言うと天狐は数枚ある紙から一枚手に取る。


「小奈多へ。今でも夢を見ているような気がします、小奈多がいない日が来るなんて想像もした事がありませんでした。小奈多の成長を見守れないのは残念だし、近くで守ってあげる事も出来ないのがとても悲しいです。それでも小奈多が元気でいてくれれば、お父さんも元気になります。遠く離れていても小奈多が元気でいることをいつも願ってます、帰ってくるその日までお父さんもママも待っているから一緒にがんばろうね。追伸、テンちゃんさんに迷惑をかけないように」


「迷惑なんてかけてないよねぇ?」

「ふふふ、どうだかな」

 お互い笑い合う。


 口寄せで管狐を呼び寄せ、頭陀袋の白狐石を回収しようとした時に手紙も一緒に入っていたのを見つけた時は驚いた。その父と母と祖父母からの手紙を小奈多はいつも肌身離さず持っており、こうして暇を見つけては天狐に読んでもらっているのだ。

「早く次の満月が来ないかなぁ、次は何日後?」

 次の満月になったら大好きな家族と話せる、そう思うと小奈多は指折り数えてその時を楽しみに待っていた。

「そうだな、向こうの月の周期は30日くらいだから、あと20日は待たないとな」

「うへぇ、長いなぁ」

 手紙を読む度に同じ質問をされる、それでも天狐は嫌な顔をしないで教える。遠く離れていても家族でいれる大切な時間だ、それを理解しているからこそ何度でも質問に答えていた。


「今度はちゃんと小奈多の手で手紙を書くのだろ?それならちゃんと字を書く練習をしないとな。それにこっちの文字と言葉も覚えないといけないし、妖術も覚えたいんだろ」

「ううう、やる事いっぱいだぁ、でも勉強は嫌いなんだよぉ!」

 駄々をこねるように天狐の膝の上で暴れる。

「頑張るのだろ?」

「・・・うん、頑張って絶対に帰るんだ!!」

 笑顔で宣言すると元気よく立ち上がる。家族からの手紙を手に取ると大切にしまい、紙と筆を取りに行く。


 帰れる日まであと21年10ヶ月と数日、小奈多の異世界生活はまだまだ続く。





最後までお付き合いしていただきありがとうございました。

この小説はGW恒例の色々短い小説を書いてみようと勝手に続けていたもので、今回で3回目になるのかな?

実を言うと小奈多は現在連載中の「母は生まれ変わりて騎士になる」が書き終えた後にゆるく連載しようと思っている小説でして、今回はプロローグ的な意味合いで投稿しました。

本来はここから剣と魔法の世界で、小奈多は妖術を駆使して(*ちなみに妖術のイメージは西遊記で悟空が自分の髪に息を吹きかけて分身を作ったシーンに近いです)活躍するという転移モノのハイファンタジーになる予定ですが、今回の内容的に少し違うと思ってヒューマンドラマにしました。

今後の展開はどうなるか分かりませんが、優しく見守っていただけたら幸いです。

それでは重ね重ねになりますが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。

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