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海ゆく空のアルドーレ  作者: 真壁真菜
第一章 
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強硬突入

 廊下の出来るだけ端を背を屈めて歩く、足音を立てない様に息を殺しながら。ジュウイチは構えたナイフが汗に滑るのを感じながら、同時に別の事を考えていた。まだ、リーザの元へ着いてもいないのに、自分に出来るのかと。


 あっという間に見覚えのあるエレベーターの前に出る。また端に避け、下へ行くスイッチを押した。ドアの開く音でさえ、心臓が圧迫される。そっと覗く、誰も居ないのを確認すると頭で命令する前に、身体が勝手に乗り込んだ。


 何も考える暇も無くエレベーターは到着し、ドアが開いた。素早く出ると、また壁に背中を付けた。心臓の音が、無音に近い空間に木霊した。一度深呼吸すると、不思議と心臓の鼓動が気にならなくなった。


 ジュウイチはふいに走り出した。この緊張から早く逃れたいと考えなくても、また身体が勝手に部屋を走り抜けた。


 立ち止まった場所は、リーザを見上げる場所だった。目を閉じたまま緑色の液体の中で、初めて見た時と同じ状態でそこにいた。


 焦る気持ちが状況判断を鈍らせ、ここまで一度もドーター達に合わなかった事の意味を考える余裕は無い。


 自分が息を飲む音に少し驚きながらも、ジュウイチはナイフを構えた。頭の中は真っ白だった、手にしたナイフの手触りだけが、ジュウイチの把握する感覚となる。


 だが、構えたまま固まる腕は、まるで見えない蔦が絡まった様に動かない。そのまま時間だけが経過するが、額や腕から汗が流れ落ちるだけだった。


(あなたは、何をする為に来たのですか?)


 久遠とも呼べる時間を、パウダースノーが積もる様な穏やかな声が動かした。構えていたナイフは自然と降ろされる。素直な言葉が、ジュイチの口からこぼれた。


「この状況を変える為に来ました。動物達を、元の姿に戻してやる為に来ました」


(動物達が、望まなくてもですか?)


 前にジュウイチが答えた事と同じ様に、リーザは言った。


「そうですね……でも、動物達も果てしない戦いなんて望んでない様な気がします」


(元に戻っても、また同じ事を繰り返すでしょう…… 人間は)


 ジュイチも確かにそうかもしれないと思った。だが、ココロと裏腹に言葉は違っていた。


「……でも、信じたいんです。人間のこと」


(あなたが、道を開くのですか?)


リーザの問いに、ジュウイチはふと笑みを零した。


「……そう、なるんですかね。俺は飛行機に乗りたいだけで、便利屋になりました。実際、それ以上の事なんて、考えても見ませんでした。周囲が動き出し、流されるままにしていたら、こんな事になった、ってのが事実です。戦いで多くの仲間が死にました。さっきまで傍にいた親しい人が居なくなるって、思ってたより、簡単なんですよね……戦いがあれば。だから、戦いを終わらせたいって思う様になり、山で動物と合い、その純粋さに触れ、実際に触って……その、あの、気付いたんです……同じだって、何も違わないって。だから、彼等をを元に戻してあげたいって、思う様になりました」


 何度も言葉を詰まらせ、ジュウイチは聖書を読む様な口調で呟いた。リーザは何も言わず、ジュウイチが残した言葉の余韻が、空間に漂う。


「それから――」


 ジュウイチが口を開いた瞬間、建物全体を揺るがす揺れが起こった。瞬間的に感じた、それは熱くなる胸が教えてくれる――”あいつ等が来た”と。


___________________



「あたしからの餞別だよ! ハードポイントが無いんで無理やり付けたから、命中精度は期待しないでね!」


 カタパルトに準備された機体の下で、レイラが大声で叫んだ。左右の主翼の下にはロケット弾が一発づつ吊るされていた。


「弾頭の威力は盛大じゃ、一撃で戦艦も轟沈じゃ」


 嬉しそうなドクが、ニヤニヤしながらロケット弾を撫ぜ回す。


「戦艦って……」


 マーベルの目がテンになった。


「こんな重量物ぶら下げて飛ぶのかね?!」


 嬉しそうな顔でゲイツも叫ぶ。あまりの爆音に、耳を塞ぎながらマーベルも叫んだ。


「それなら置いて行きなさいよ!」


「ハチの巣に飛び込むんだ! 丸腰は精神衛生上よくない!」


「なら、ご勝手に!」


「いいかい! マーベルさん! バックレストに頭を付けるんだ! 凄い加速だからね! 首に気を付けて!」


 レイラの叫びに愛想笑いで親指を立てるマーベル、機体は轟音を響かせアストレイアを発艦した。コクピット内にいて風防があるはずなのに、前面からとてつもない風圧みたいなものを感じて息が出来ない。


 シートに身体を押し付けられ、身体がバラバラになりそうな激振動と超爆音が容赦なく襲う、吐きそうになるのをマーベルは必死で耐える。


「最高だろ! ガハハッ!」


 歓喜のゲイツの声が、レシーバーに届く。


「バカタレ……」


 一言だけ、マーベルは返信した。加速感に慣れると、数分しか経ってない感覚なのにゲイツが大声を上げた。


「見えたぞ!」


「早っ! でも、どうやって降りるつもり?!」


「中庭は目測で五百メートル! こいつは最低でも千メートルの着陸距離がいる。だから、正面の入口から入る!」


「意味分かんない! 完全に過不足じゃないの! それにあの城門はどうすんのよ!」


 あまりの無謀さに、マーベルは悲鳴を上げた。


「ロケット弾をブチ込む! 手前から滑れば丁度いい!」


「やめてっえっっ!」


 悲鳴と同時に急旋回、入り口の城門に軸線を合わせるとロケット弾を発射。次の瞬間、地面を滑走を始めると超巨大地震並みの揺れ、一呼吸置いて前方での大爆発と閃光、マーベルは簡単に目を回した。


________________________


 取り残されたアネッサが、永遠の様に感じた時間は一瞬だった。遠く城門が大爆発すると、次の瞬間、巨大な影が轟音と莫大な土煙りを上げて猛烈に迫って来る。咄嗟にアネッサは飛び退くが、脚がもつれて地面に尻もちを付いた。


 そこを目掛けて巨大な影が迫る、悲鳴さえ上げられず身体が硬直するが直前で停止する。目をテンにするアネッサの前に、コクピットからボロボロになったゲイツが顔を出した。


「よう、元気か?」


「へっ?」


 アネッサは開いた口が塞がらなかった。


「着いたぞ、起きろ」


 後席のマーベルを揺り起こすと、眼鏡が斜めになり髪がボサボサになったまま、マーベルは声を押し殺した。


「二度と乗らねぇからなぁ」


「そんな下品な言葉遣いはよくないでしょ……」


 引きつった笑いのゲイツは完全に無視して、鬼の様な形相のマーベルがアネッサに振り向き呟く。


「エイトとジュウイチは?」


「つつ、連れて行かれた」


 思わずドモるアネッサに、続け様にマーベルの重低音の声が飛ぶ。


「どこに?」


「あの建物だと思う」


「お・も・う?」


「いえ、あそこです」


 白目にして睨むマーベルに、アネッサは背筋を伸ばした。


「おい、唐変木!」


 今度はゲイツを睨む。


「誰? それ?」


「お前だよ。準備しろ、突入だ」


「あっ、はい」


 ゲイツは積んであったバッグから自動小銃を取り出し、拳銃をマーベルに手渡すと三人は建物に向かって走り出した。


 走りながら、ゲイツがアネッサに状況を話す。アネッサの中で、複雑な感情が芽生えるが、今は敢えて胸の奥に仕舞った。


 建物の近くまで来た時、突然ドアが開きドーターが数人ゆっくりと出て来る。急ブレーキの三人は、近くの噴水の傍に隠れた。


「どうする?」


「近付かせなければ、勝機はある」


 サブマシンガンの装填を確認したアネッサが聞く、ドーターを見詰めたままゲイツは呟く。


「あなた達、援護して。私が横から回り込んで、建物に入る」


「正気か? あいつ等の脚、どんだけ速いと思ってるんだ」


 建物に入るしか頭に無いマーベルに、ゲイツは眉間にシワを寄せた。


「分かってる!」


「分かってない……敵に回したら、どれだけ恐ろしいか……」

 思わず叫んだマーベルに、アネッサの沈む声が被さった。確かに、今まで見たクリムゾン・ナイツの戦いは、普通の人間が対抗出来るモノでは無いことなんて、分かり切っていた。


 だが、自分は行かなければならない、マーベルにはそれしか考えられなかった。


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