逆転
コシンスキーに、最悪の報告が入った。
「弾薬が切れました」
「そうか」
呟くと、遠くから押し寄せて来る猛獣達の方を、力の無い眼差しで見た。
「こっちも、弾切れだ」
戦車のハッチから顔を出しだイワンが、目を伏せた。頼みの航空支援も、膨大な数の獣達の前では、明らかに苦戦していた。途中からは鳥の大群も押し寄せ、その制圧に手間取り、地上の支援が後手に回り出したのだった。
「仕方ないのかな……ここまで、なのかな」
最後のマガジンをサブマシンガンに装填しながら、マルコは呟いた。
「坊主、若いのに淡白だな。戦はな、ゲタを履くまで分からないもんだぜ」
こんな時でも、アルフは明るく言う。
「そんなの関係ねぇよ、誰が見たってもう終わりなんだ!」
持っていた銃を地面に投げ付け、イワンが叫んだ。オットーは何も言わずに、微かに震えていた。誰も言葉が出なかった、アルフでさえも手にした銃の弾が切れると言葉を失う。
銃声が散発化し、やがて音が止んだ。最後は戦車の中で籠城しようとも考えたが、オルガはまだ半分以上残る他の人達のことを見ると、その考えは捨てた。
全身の血が身体の末端で止まる感覚、手足のしびれる感覚が生き残った全員に降り注いだ。
だが、次の瞬間、轟音を撒き散らした機体が上空を旋回した。頭で推測する前に機体は超低空からロケット弾を発射すると、城門を吹き飛ばし豪快に滑走しながら城に突入した。
「何、なんだアレは?」
「あれ、艦長じゃなかったか?」
唖然とするコシンスキーに、アルフも一瞬見えた影に呟く。
「後席に女の人が乗ってた、多分、マーベルさんだ」
人一倍目の良いマルコも呟く、暫くその場が解析不能で静止した。
「あれ見てよっ!」
静まる人々を、マルコの声が救う。
「何だ、赤い鎧……獣達を蹴散らしてる」
双眼鏡を取り出した、コシンスキーが目を疑った。
「ラパン達だよっ!」
大喜びのマルコが飛び上がる。確かに赤い鎧は三人で、そのシルエットには確かに見覚えがあった。
「それだけじゃないぞ! あそこ! あいつ等盗賊だ!」
横でイワンも叫ぶ。明らかに盗賊達が重戦車までも持ち出して、獣達と戦闘していた。
「あっちは海賊だな」
アルフが指差す方向には、ジョリーロジャーの旗を掲げた一団もいた。
「何で盗賊や海賊までも……」
オルガが不審な顔をするが、コシンスキーはニヤリと笑った。
「多分、艦長だ。あの人の顔の広さは半端じゃないからな」
「艦長って、何してた人なの?」
呆れ顔のマルコに、コシンスキーはまた笑った。
「ワタシも知らんよ」
「盗賊に海賊、ラパン達まで来たんだ、一気に形勢逆転だぜ!」
震えが違う意味を持ったオットーが、大空に叫んだ。空には他のコロニーの戦闘機隊と協力して、ドクロのマークを付けた機体が地上軍を援護する。
「あそこっ! 見てっ!」
遠く蒼空を指差すマルコ、その先には編隊を組んだ爆撃機の姿があった。絨毯爆撃は獣達を蹂躙し、上空を通過する時には垂直尾翼のバルバリアのジョリー・ロジャーが輝いて見えた。
『借りを返しに来た。周囲は我々が殲滅する』
トラックの通信機にアンボニーが通信を送って来た。
「バルバロスの指示なのか?」
機体を確認したコシンスキーが、少し笑いながら言う。
『私達の独断だ。父さんは関係ない』
「父さん?……」
一瞬コシンスキーの思考が止まるが、直ぐに気を取り直して通信を返す。海賊は、特にバルバリアは目的無しには決して動かない。
「見返りは?」
『……それは、その……あいつだ……』
「あいつ?」
急にアンボニーの声が小さくなった。
『パイロットのあいつだ!』
今度はメアリーの声が無線機に響く。ピンときたコシンスキーは、少し笑った。
「こればっかりはなぁ……ジュイチの方から欲しいと思わせる方が早いんじゃないか?」
『当然だ!』『当たり前だ!』
アンボニーとメアリーの声が同時に炸裂した。
「そうか……救援感謝する」
張りのある二人の声に、コシンスキーは若者の未来を見た気がした。
「バルバリアも戦列に加わったぞ!」
オットーが歓喜の声を上げた。
(助けに来たです!)
近くまで来たラパン達の笑顔に、マルコは涙が止まらなかった。
「ありがとう皆!」
「遅いぞっ!」
「もっと早く来いよ」
イワンもオットーもボロボロと泣き声を上げ、オルガでさえ鼻をすすっていた。
「ラパン! ジュウイチもエイトも城だ! 艦長もマーベル女史も一緒だ!」
アルフがラパンに叫び、コシンスキーも叫び声を被せる。
「ドーターが動き出した、大丈夫なのか!?」
城の前方でじっと戦況を見守っていたドーター達が、ゆっくりと向かって来ていた。
(ラパン達はつよいです)
(そうです)
(負けないです)
ラパンは微笑み、ラポンとラピーも同じ様に笑った。
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走り出すラパンを先頭にラポンとラピーが続く、ドーターは目測でも二十人近くいた。マルコの心臓が凍り付く、イワンの胸が締め付けられ、オットーが目を閉じる、オルガでさえ全身に汗が流れ落ちた。
三人のドーターが、先頭のラパンに襲い掛かる。赤い鎧が銀の鎧に囲まれた瞬間、マルコの瞳から涙が弾けた。刹那! 銀の鎧が砕け散った、ラパンの剣は同時に振り下ろされる剣を弾き、そのまま身体を回転させ三人の胴を薙ぎ払ったのだった。
「ラパン……」
唖然と呟くマルコの瞳に今度はラポンとラピーが映る。二人のドーターの攻撃を簡単に二本の剣で受け止めるラピー、そこをラポンが槍で同時に二人を貫いた。
「何て強さだ、ケタが違う……一瞬で四分の一を倒しやがった」
驚いたアルフが口を半開きにする、コシンスキーも目をシバシバしながら呟いた。
「同じ、じゃなかったのか?」
「同じなんだろうけど、同じじゃない」
戦うラパン達の背中に、自信を持ってマルコが言う。そこにいた全員が、その意味が分かる様な気がした。
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建物の前には十数人のドーターが集結していた。マーベル達に気付いているはずだが、動き出す気配は無かった。改めて見るドーター達は、顔付きこそラパン達と似てはいたが、表情はまるで人形のようだった。
明らかにその行動に意思を感じた、建物の中には入れさせないという意思を。
「早くしないと」
「焦るな、今方法を考えてる」
苛立つマーベルをゲイツが制すが、考え何て浮ぶはずもなかった。一個師団の重武装兵が居ても、戦うまでもなく敗北は見えていたから。全く、我ながら無鉄砲だと苦笑いするしかゲイツには出来かった。
それまで黙っていたアネッサは、段々と込み上げて来る怒りに身体を震わせていた。ジュウイチを目前に何も出来ない自分が悔しくて、自然と涙が零れていた。
どんな事をしても助けるとエイトに大見栄を張ったのに、適わない大きな力の前に動けない。動こうとしても、身体が拒否している……”怖いのか?”自問にも答えられない。
ただじっと、耐え難い時間を浪費しているだけだった。だが、ふいにジュウイチの顔が浮かんだ。初めは大嫌いだった、なのに次第に引かれる自分に気付いた。
何故引かれたなんて、自分でも分からない、気付けば引かれたいたとしか答え様が無い。
(ライバルが出来ると初めて気付くんですよ。本当の気持に……)
エリーの言葉が脳裏に蘇る。自分でも、どうしてイラつくのか分からず悩んでいた時、嬉しそうに笑ってマリーは背中を押してくれた。……ふっと息を吐き、アネッサは立ち上がる。
ドーター達が一斉に振り向く、ゲイツとマーベルが叫ぼうとした瞬間、サブマシンガンを乱射したアネッサが飛び出した。
マーベルの血が凍る、ゲイツの胸に氷の剣が突き刺さる。スローモーションみたいにアネッサが走り、二人のドーターが発射された銃弾をかわし、剣を振り上げて迫る。
アネッサは目を見開きそれでも銃を撃つが、掠めるだけで直撃は望めなかった。
鋭い剣先がアネッサの身体に振り下ろされる、切られたら痛いんだろうなと頭の左端でアネッサはボンやり考えた。
(お待たせです)
アネッサの頭の中に、聞き覚えのある可愛い声がした。目の前を赤い影がキラメくと、ドーター二人が地面に倒れた。
「ラ、パ、ン……」
呆然とするアネッサの視野が像を結ぶと、赤い鎧をまとった三人がドーター達を殲滅していた。
「呆れたな、走って間に合ったのか?」
「何でラパン達が居るの?」
大きく溜息を付くゲイツに、向き直ったマーベルが詰め寄った。
「それはその、行きたいって言うから」
「許可したの!?」
「あっ、はい」
怒られると思ったゲイツは、身を小さくした。
「でかした!」
抱き締められたゲイツは、耳まで赤くなった。ラパン達三人は肩で息をしていたが、ドーター達の動きを完全に圧倒していた。しかし、城の外から続く戦闘に、消耗の色は隠せない。
ゲイツはマシンガンを単発に切り替えると、ドーターの隙を付いて倒していく。少しでも援護をと、次第に動きの鈍る三人の背中に思った。




