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海ゆく空のアルドーレ  作者: 真壁真菜
第一章 
19/48

空の敵


「船体停止状態からの発進だ! 油圧五割増しだぞ! 気絶するなよっ!」


 コクピットに登って来たアルフが叫ぶ、呆れ顔のジュウイチが呟く。


「正面に、教会の塔があんだけど?」


「避けりゃいい」


「簡単に言ってくれて、真正面だぞ」


 溜息混じりのジュウイチに、後方からアネッサの怒号が炸裂する。


「モタモタするな! 後が閊えてんだぞ!」


「バカ野郎! 正面見ろ! 塔が邪魔なんだよ!」


 怒鳴り返すジュウイチに、速攻の怒号が返ってくる。


「体当たりで塔をなぎ倒しゃあ、後の発艦が楽になるだろっ!」


「さっきと違うじゃねぇかよ……」


 小声で呟いたジュウイチは、発艦準備の最中にアネッサに呼び出された事を思い出した。


(お前は、確かに飛ぶのは……上手い)


 目を逸らしたまま、最後の言葉をアネッサは絞り出した。


(何なんだよ、俺が一番機だぞ、早くしないと――)


 ジュウイチの言葉を遮り、アネッサが叫ぶ。


(ただ空を飛ぶだけじゃない! 今度のは空戦だ。いいか、よく聞くんだ。空戦空域では十秒以上は真っすぐ飛ぶな、常に機体を動かせ、撃ってる時でも見張りを怠るな、目を見開け、集中しろ……それから……落されるなよ、葬式なんてしてやらないからな!)


(アネッサ、お前……)


 強い語尾だったが、アネッサの顔は泣きそうだった。


「何だ? ニヤニヤして気味悪いな」


 計器の確認をしてたアルフが首を傾げた。


「何でもない、出るぞ」


 本当は脚が微かに震えていた、ジュウイチ自身にも何故だかは分からなかった。客観的に分析すると、アネッサに言われた通り初めての空中戦、クジラと戦った時とは確かに違う……それがプレッシャーになったのかなと、ボンヤリ思った。


 そんなコトを考えているうちに、脚の震えは止まっていた。笑顔を向けたジュウイチは、発艦クルーに合図を送った。


「まっ、がんばれ。でも体当たりはすんなよ、後片づけが大変だからな」


 笑顔を返したアルフが降りて行く。ジュウイチは溜息の後、スロットルを全開にして操縦幹を握り締める。


背中を蹴飛ばされ、首が折れそうなGに目を閉じそうになるが、コンマ数秒後に二十ミリを塔に叩き込み、殆んど同時に思い切り左のフットバーを蹴り、操縦幹を左に倒す。


 コクピットのすぐ横を飛び散る教会の残骸が、スローモーションで浮遊する。


『バチ当たるぞぉ~』


 押し殺す様なアネッサの通信に、ジュウイチはGに耐えながら叫んだ。


「うるせぃ! これで少しは楽だろうが!」


 確かにあのままじゃ発艦出来るのは、ジュウイチと自分だけだろうなと思っていたアネッサはニヤリと笑うと、後方で待機するエリー達に叫ぶ。


「障害物は無くなった訳じゃないぞ、発艦と同時の急上昇を忘れるな!」


 鳥の数は予想を超えていた。しかも亜種なのか明らかに身体の大きい個体も数多く視認出来る。


自分の二十ミリはいいが、小口径しか積んで無い機体は苦労するだろうなと、ジュウイチはアストレイア上空で発艦する機体を援護しながら考えていた。


________________________



「対空機銃、空には撃つなよ。味方戦闘機に当たる。各銃座は地上の目標を狙撃、猿と人を間違えるな、落ち着いてよく狙うんだ。二十ミリは特に注意しろ、人の近くには絶対撃つな、近くを掠めただけで肉を削ぐんだからな!」


 ゲイツは機銃座に大声で指示を出す、コシンスキーは最低限の乗員を残し陸戦隊を組織する。


「いいか、港付近の奴等に攻撃を掛ける。深追いはするな、空戦と同じだ、フォワードとバックアップ、二人一組での戦闘を忘れるな」


 港では島民と海賊の一団が獣と戦っていたが、如何せん火力は弱く、戦い慣れてない島民には多くの犠牲者が出ていた。


ラパンを除いたクリムゾン・ナイツは獣が集中する市街地に向かい、陸戦隊も不慣れな市街戦街に苦慮しながら戦っていた。


「あたし等も出た方がいいんじゃない?」


 レイナが不安そうにアルフに呟き、手にした小銃を構える。


「ダメだ、もうすぐ客が来る。その時にゲートを援護する者が必要だ。外にはトカゲがウジャウジャ居るからな」


「客って誰?」


「来たぜ、野郎ども! ゲート入りを援護するんだ」

 

 待機している整備員達に、アルフが怒鳴った。


「あれ、海賊だよ」


「ああ、でも人間だ。俺達の同胞だ。奴等は獣と戦う為に来てくれたんだ」


 唖然とするレイナに、アルフは走りながら笑った。 


____________________



『攻撃隊は大きい鳥さんを頼む! ガンポッドじゃないとダメだ!』


「だから大きいの積めって言ってるだろ」



 アネッサの通信にグレッグは嬉しそうに返答した。


「親分! 死角に回り込まれた! 下方に散開してる!」


 後席のレオが叫ぶ。上空をも覆う鳥の大群に、声とは別にグレッグは操縦幹を握る手から汗が流れ続けていた。


しかも攻撃隊の戦法はロッテではなく、編隊を組んでの一斉攻撃が基本の為、各自の空戦力は優れていても確実な戦果は少しづつだった。


「頭のいい奴等だ!」


 ジュウイチは追い掛けてる前方の集団が、一定の距離に近付くと散開するのに叫ぶ。完全に震えは止まっていた。同時に数羽はそのまま直進し、囮になる。


 追っかけると散開した集団が左右から襲い掛ってくる。その戦術で、攻撃隊にも被弾し引き返す機体が出ていた。


 ジュウイチはわざと直進した、迫る左右の鳥から吐き出された石がコクピットを掠める。直撃すれば、即死する程の破壊力だ。ラダーを蹴る、急降下のフェイントに鳥達が一瞬止まる。


 その瞬間にスロットル全開で機体を捻り込む、そのままインメルマンターン。絶対有利な上を取ると、被弾面積の上がった下方の鳥達に二十ミリを叩き込んだ。


『一度に何羽落としたの?』


 呆れた様なエリーの通信に、アネッサが怒鳴る。


「よそ見するな! 集中しろ!」


 数羽の集団ならロッテ戦法は有効だが、大集団には分が悪い。何よりディフェンスの機には敵の数が多い程飛躍的に負担は増える。


『エリー、一度離脱するんだ! 数が多すぎる』


 エリーのディフエンス、ケビンが叫ぶ。カチカチと無線機のスィッチの音だけがする。戦闘状態などの極限時には、返事さえままならない。


パイロットはその時この音で確認の意思を知らせるのだ。エリーの返信の音は、アネッサに悪寒を走らせた。


 ロッテ戦法ではオフェンスは攻撃に集中出来る、しかしそれは見張りを怠っていい訳ではない。最終的に自分を守れるのは自分だけなのだから。


「あいつ!」


 明らかな無謀、目先の敵に目を奪われエリーの見張りは完全に停止している。アネッサはスロットル全開で急降下、エリーに迫る鳥の集団を血が出る程に睨んだ。


「エリー! 回避だ! 左に回れ!」


 叫んだ瞬間、エリーの機がガクカクと揺れる。瞬時にエンジン音を確認、煙の有無を見るが異常は無い。が、機体は不規則な揺れを繰り返す。集団をブレイクした鳥の群れが、エリーの機体に迫る。


 ケビン必死の応戦も多勢に無勢、明らかに後手となっていた。自分の機体の遅さを呪い、アネッサが叫ぶ。


「バカ野郎!!」


 ケビンが撃ち漏らした二羽が迫る、回避しようとするエリーだが機体は重く、機敏な回避が出来ない。アネッサの瞳孔が開く、その瞬間、漆黒の機体が視界に割り込み一撃で二羽を粉砕した。


『プロペラをヤラれてる! 誰か付いて離脱させろ!』


 ジュウイチは間を置かずに、次の目標に機首を向けた。その声にアネッサは我に返る、ノドがカラカラに渇いて心臓がキリキリと痛んだ。


「アタシが誘導する」


 アネッサは急いでエリーに近付いた。


『隊長、ゴメンなさい』


「帰ったらお仕置きだ」


 エリーの声はアネッサを震える程に安堵させた。


「プロペラに被弾したみたいだ、スロットルは静かに動かせ、急な機動もするんじゃない」


『でも、鳥が来たら……』


「安心しろ、アタシが――」


 アネッサが言い掛けた時、エリーの機体が大きく揺れて急降下を始めた。プロペラが完全に崩壊したのだ、キリ揉み状態で墜落する。


「脱出しろっ!」


『……』


 エリーからの返事が無い、アネッサは更に叫ぶ。


「どうした! 早く出るんだ!」


『ごめんなさい……私……パラシュートは……鳥に食べられるのは……嫌です』


「あたしが守る!! 守るからっ! 直ぐに出るんだ!!」


『……隊長……アリガト』


「なら不時着しろ! 諦めることなんて教えてないぞっ!!」


 喉が裂ける程、アネッサは叫ぶ。その声に我に返ったエリーは力を振り絞り、機体のコントロールを試みる。死に物狂いの格闘で、キリ揉みはかなり収まるが安定は程遠い。


 その時、また漆黒の機体が、エリーの機をめがげ一直線に飛ぶ。機体をエリーの機に寄せると、不安定に揺れる主翼を自分の主翼で強引に支えた。


 強烈なショツク、エリーは首がどうにかなりそうだったが、次の瞬間には機体は何とか安定した。


「前方の川だ! 平行に降りろ! 止まってたら機体から直ぐに離れるんだぞ」


『やってみる!』


 ジュウイチが叫ぶ、エリーは覚悟を決めた。フラフラと惰性で川に向かう、祈る様な気持でアネッサは並走して飛ぶ。


『機首を上げろ! 左に流されてる! 今度は少し右!』


 不時着の寸前まで、アネッサは声を枯らして指示を出した。何回かの大きなバウンド、主翼が飛び散り、水平尾翼が折れ、機体は川の中で止まった。


「大丈夫か!!」


『なんとか、生きてます……隊長、ジュウイチさん、ありがとう』


 エリーの返信に、アネッサは安堵で気を失いそうになるが、声を振り絞り叫んだ。


「この近くには降りられそうな場所が無い! 救助車輌を送る! 一時間だ! 一時間だけ持ち堪えるんだ」

 


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