第零章 定時帰りの白雪姫
執筆 泪月
修正 じょうろ
第零章 定時帰りの白雪姫
「…よしっ、これでいいか」
ファイルを保存し、立ち上げていたパソコンをシャットダウンし、伸びをする。
デスクワークは肩が凝るし、背筋も痛くなるから毎回伸びをしなきゃやってられない。
そしてちらりと腕時計を見る
18時…定時!
僕は今日も仕事を定時できっちり済ませ、自分のデスクを離れる。
「お疲れ様でした〜」
部長に挨拶を交わしコートを羽織り、まだパソコンのタイピング音がたくさん聞こえる部署を後にした。
エレベーターを待っている時、僕の肩をトントンと叩く誰かが。
「あっ…上山さん。」
「よ、今日も定時なんだな」
それは僕の研修の時にお世話になった先輩、上山さんだった。
「ええ…。ってかそういう上山さんも定時じゃないですか」
「俺は長年やってきてやっっと毎日定時帰りだぞこのやろう」
新人のくせにっ!などと、ぼやきながら僕を肘でつつく。
「ほんっとになんなんだよ、定時帰りの白雪姫は。仕事慣れすぎだわ」
「やめてくださいよそれ〜」
なんておちゃらけて言っているが、内心とっても嫌だ。
「定時帰りの白雪姫」
僕がこう呼ばれるのには訳がある。
まず一つ目。
「いつも定時に帰るから」
さっきも上山さんが言ったみたいに僕はほとんど毎日定時帰りだ。
新人って言っても入社2年目だし、そこそこ経験積んでる方だし。
この仕事が僕にあってるってだけだから。あ、自慢じゃないよ?
そして二つ目
名前が白神 雪羅だから。
名前の白と雪を抜かれて「白雪」になったのだ。
ま、ここまではいい。
問題は三つ目。
自分で言うのもなんだけど顔がほんっとに童顔だから。
女の子っぽいから姫がついて白雪姫。
いつもスーツを着ていくのだが、よく会社の人に女の子がスーツを着ているようにしか見えないと言われるのだ。
この顔が僕の中でいちばんのコンプレックスなのにめっちゃいじってくるからちょっと、いや、とても不快…。
という感じの理由で白雪姫と呼ばれる。
ようやくエレベーターがきて、上山さんと一緒に乗り込む。
うちの部署が結構高い階にあるからエレベーターを待つ時間がありすぎる。もっと早いのにならないかな〜
などと思いながら一階のボタンを押し、上山さんは地下一階のボタンを押した。
「あ〜、そっか。上山さん車でしたね」
「そうそう。車あると楽だぞ〜。家族と旅行も行けるしな。あ、そういえばこの前娘がな…」
でた上山さんの娘自慢。どんだけ好きなんだよこの人。
上山さんは娘を溺愛していて、一緒になる度に話してくる。最初はうんざりだと思いながらも聞いていたが、だんだんと羨ましくもなってきていた。だから今はうんざりとも思っておらず、ただ純粋に羨ましい気持ちで聞いている。
そんな話をしているうちにエレベーターは一階へと着く。
「では上山さん。これで失礼します。」
すると、去り際に上山さんが
「白神、今度うちの家に来ないか?連絡する」
となんとも嬉しいことを言ってくれた。
「‥・是非!」
僕がそういうと、上山さんはにっこりと笑みを返してくれた。
僕は暖かい気持ちのまま、会社を出た。
外はビルの灯りやら、店の明かりやらで煌めいている。いつも見る光景なのに、なぜか今日の帰りはとても綺麗に見えた。
そしてその後僕はいつも通りに帰宅をして、着替えてあるところへと足を運んだ。
* * *
「えっと、新刊新刊…あった」
僕は一冊の漫画を手にすると、大事に大事にカゴの中へと入れた。
カゴにはドラマCDに小説3冊、漫画5冊とかなりの量のものが入っていた。
しかも全部BLもの。
周りはほとんど女の子であふれているが、そんなの気にしない。なんか視線感じるけど。
そう、ここはアニメ、ゲーム、漫画が勢ぞろいしている青い聖地「アニメイト」であり、僕はそのBLコーナーに来ていた。
もうわかっていると思うが、僕は重度の腐男子なのである。
僕の住んでいる一人暮らしの家にはそういう漫画がもう150は超えてるぐらい存在している。すっかり沼に浸ってしまっていた。
ちなみに布教者は僕の姉。最初はびっくりしたが読むうちに男女の恋愛よりも儚く、そして美しい男同士の恋愛は僕の心へゆっくりと暖かく染み込んでいき、いつのまにか信者になっていたのだ。
姉とはカップリングも結構合うから仲良し。だから理想の相手は姉さんみたいな人。
…もう完全にシスコンだよなこれ。
まあ、大好きなのだ。これを後で写真で撮って姉に送って感想を近々あって語り合うのが僕がアニメイトに行った後の恒例行事。
今回はどこで感想言い合おうかな。なんて考えながら無事お会計を済まし、外へ出る。
僕の家は池袋駅にもアニメイト池袋店にも近いマンションに住んでいる。だからアニメイトへ行くのも簡単だし、どこかへ出かけるのも簡単だ。便利。
家へ帰り、まずはご飯を作ることにした。
漫画を先に読んでは食事なんて忘れてしまうためだ。本当は先に読みたいけど。
冷蔵庫を開けると、
「ええ、全然ないじゃん」
そこにはキャベツ、玉ねぎ、人参、牛乳、卵、なぜかエナジードリンクがあり、お肉や炭水化物類が全くなかった。
「買ってくるかぁ」
さっき帰って来たばかりだがこればかりは仕方ない。人間生きて行くためには食べなきゃだし。
財布だけ鞄から取り出し、近くのコンビニへと向かった。
***
コンビニで買い物を済まし、外に出ると先ほどよりも車の通りやスーツ姿で歩く人が多くなっている気がした。
「お疲れ様です」なんて、ぽつりと呟きながら家に帰宅する。
マンションの目の前の横断歩道でで一旦足を止めた。
そして信号が赤から青にかわり横断歩道を渡り始める。
半分くらい渡ったところで、急に悲鳴が聞こえた。
悲鳴の聞こえた方を見ると、ものすごい勢いでこっちに向かっていている車がいた。
だがもうその車に僕が気づいた時にはその車と僕の間は5メートルぐらいしかなかった。
…あ
キィィィィィイイィィィイイ!!!!
大きなタイヤと道路が摩擦する音が聞こえ次の瞬間
ドスッ
と鈍い音がし、視界が一気に回転する。
気づけば僕は宙を舞い地面に大きく頭をぶつけた。
どくどくと心臓は鳴り響く。それと同時に体から何かが抜かれていくような感覚が僕の体を襲った。
体から熱が奪われていく。冷たい。
最悪だ…。
まだ新刊読んでないし、姉さんとも感想を語り合ってない。
しかも、上山さんの娘さんにも会ってない。
音が、光が、五感がだんだん鈍くなっていく。
もう微かにしか音も聞こえないし、視界はほとんどぼやけていた。
…もう無理だ
そこで必死にしがみついていた糸はプツリと途切れ、真っ暗な闇の中へと落ちていった。
第零章をご覧頂きありがとうございます。
後書きを担当します。じょうろと申します。
づがれ゛だぁぁ!!!
この小説活動は私『濡れ場担当』じょうろと『設定と執筆担当』たむたむと『現実世界とかなんかいろいろ担当』泪月の3人で行っています。ておきます。
後書きには力を入れたい的ななにかなのでぼくの名前について語ろうかな
僕の名前はじょうろっていいますが別にじょうろが好きな訳でもないしぺろぺろしてるわけでもないです。
元々ネットで如月という名前で活動してたのですが『如』という字を暇つぶしにググッてたら『如雨露』って単語が出てきたんです。これ、『如雨露』と書いて『じょうろ』って読むんですよ?かっこよくないですか?厨二病心くすぐられまくりです。
じゃあ眠くなったのでやめまーす。
第零章はほとんど泪月さんが書いてくれました。あざまる水産。
次章は濡れ場あります。えっちぃに書いてるからみてね!!!!!!!