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永久の勇者アヴァロン  作者: アベワールド
第4章 思い出の勇者
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第一四話「姉妹勇者 有栖川ツバメ・カレン」

 ――子供達が二子玉川のゴブリンを目撃した三日後。

 デュランダルヘッドオフィスの会議室に兄妹は詰めていた。

 今、彼等のコーディネータ―・レンが、プロジェクタ―の調整を行っている真っ最中である。

 謹慎明けの唯がメモと筆記用具を手にやる気を見せる中、直人は蒼い顔で下を向き“子供はゴブリン……”という言葉を念仏の様に繰り返していた……

 二日前に行われた子供達との事情聴取の折り、彼の中で新たな性癖……ではなく新たなトラウマが芽生えたのである。


 ――午後六時。

 二子玉川のゴブリン討伐作戦のミーティングが開始された。

 レンがプロジェクターの調整を終えると、彼女のPCにあるパワポのプレゼン資料がでかでかとスクリーンに映し出された……タイトルには“二子玉川のゴブリン討伐作戦・グリーン作戦”とある。

 レンの趣味だろうか? タイトル下の“極秘資料”の文字が血塗られた書体でおどろおどろしげに踊っていた……

 レンが作戦の概要を伝える。

「さて、子供達が命懸けで発見し、我々が情報を引き出した二子玉川のゴブリンの件ですが……」

 直人はそこで「俺は何もしてない……子供はゴブリン……子供はゴブリン……子供こそがゴブリン……」という怨念のこもった合いの手を入れた。

 何と二日前からそのセリフを聞かされ続けている唯が「兄さん…………」という言葉と共に絶望的な表情で実の兄を見つめる。

 レンはそんな兄妹を見て一つ深々と溜息を付いた後、“コホンッ!”という咳払いと共に話を続けた。

「まず残念な報告から始めなければなりません……これを見て下さい!」

 レンがプレゼン資料の二ページ目を映す。

「彼等の巣が思いの他広範囲に広がっていることが分かりました……」

 その言葉は嘘では無かった。

 推定……二キロ☓二キロ四方……二子玉川の河川敷の直下に貼り巡らされた怪物の“巣”が、坑道さながらに拡がっていたのである……縦と横にパッチワーク状に組み合わされたその精巧な構造は、蜘蛛の巣の様にも人体の毛細血管の様にも見えた……

 先程まで子供とのトラウマで茫然自失状態の直人だったが、それを見て流石に我に返った……

 精巧すぎる!?

 これをゴブリン共が作ったのか??? 何て土木技術だ!?

 直人は面食らっていた。

 自分には到底作れる気がしなかったのだ。

 ……ということは。

 残念ながら人間である俺のスキルはゴブリン以下……なのか!?

 同じ物を前にして、子供である正太と直人の物の見方は真っ向から違っていた……

 そんな直人を尻目に唯がコーディネーター・レンに質問をぶつける。

「レンさん! そのゴブリンの地図の下に書かれている“総数不明”というのは何ですか!?」

「はい、良い所に気付きましたね唯さん……流石です!」

「正確な数字は現在確認中という意味ですが……予想されるゴブリンの総数は……恐らく……ですねぇ……」

 ……何か言いにくいことでもあるのだろうか?

 レンの言葉が尻つぼみに小さくなって行く。

 しかし、これは仕事だ。

 不明瞭な事実は後々になって己の首を絞めることになるのだ……つまり何事もはっきりとさせるべきなのである! 最近の唯の成長著しい胸のサイズの様に……はっきりさせるべきことは、はっきりとさせるべきなのだ!! 直人は脳内で興奮物質を大量に分泌しながら謎理論を展開させた……

「はっきり言って下さい……胸のサイズ……じゃなかった……ゴブリンの総数は一体何体なんですか!?」

 直人はレンに胸のサイズ……ではなくゴブリンの総数に関して情報の開示を求めた……しかしながら彼が本当に欲しかった情報は、勿論胸のサイズの方だった……

 ……胸のサイズ!?

 とは!?

 レンはしばしフリーズした後で何とかその口を開くことに成功した……

「ゴブリンの総数に関しては……恐らく……」

「恐らく……???」

 兄妹が口を揃えて聞き返す。

「三千弱と見られています……」

「さ…………三千!?」

 兄妹の驚きの声は完全一致でハモっていた。


 ……桁がおかしいのではないか!?

 もしくはこの歳で耳が遠くなってしまったのだろうか?

 今までスライムを一匹づつ地味に討伐して来たのは一体何だったのだ!?

 ……かつて伝説の勇者・九雅相馬は、ガーゴイル百人斬りを一人でやってのけたが。

 相手がゴブリンとは言え……幾ら何でも数が多すぎやしないか???

 兄妹の目が揃って点になっている所にレンが助け舟を出す。

「流石に二人で三千匹を倒せとは言いませんよ……」

「……………………」

「ではここでスペシャルゲストの登場です!」

 そこでレンが仰々しく会議室のドアを開けた。

「皆さんどうそお入り下さい!!」

 ――現れたのは三人の見目麗しい女性達だった。

 真打ちの登場に兄妹が揃って立ち上がる……

 ……お……大人の女性達だ……

 直人は別のモノが立ち上がりそうになるのを、なけなしの理性で何とか堪えていた……

「紹介しましょう……左からコーディネーターのラン、そして姉妹勇者である有栖川ありすがわツバメ・カレンです」

「よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 両者が完全一位で言葉を返す。

「尚、コーディネータ―のランは私の後輩にあたります。せいぜいこき使ってあげて下さい」

「先輩から紹介されたランです……ま……まあ、程々にお願いしますよ」

 ……何か弱みでも握られているのだろうか!? 俺が美晴医師に色んなモノを握られている様に……今日も直人の下ネタモードは無駄に絶好調だった。

 何を握られているのかは不明だが……俺の様にナニを裏で握られているのかもしれないが……ランはレンの一挙手一投足に注意を払っている様に見える。

「有栖川姉妹に関しては私から紹介させて頂きます……」

 そう言うとコーディネータ―のランが彼女達に関して紹介を始めた。

「有栖川姉妹は桐生兄妹と同カテゴリーの姉妹勇者で、お二人より一か月前に勇者登録したばかりの新人勇者になります。現在の勇者ランキングはナンバー九。怪物討伐数は一〇体です」

 ランが紹介を終えると彼女と姉妹勇者……見目麗しき三人の女性達が揃って頭を下げた。

 かぐわしい香水の香りが殺風景だった会議室を華やかに包み込む。

 直人はそこで一歩前に出て震える手で握手を求めた。

「勇者・桐生直人です。こちらこそよろしくお願いします……」

 断っておくが純然たるスケベ心から握手を求めた訳では多分無い……兄として、桐生家を代表する者としての立場が彼にその行動を取らせたのだ……しかしながら直人の心の三〇パーセント以上をスケベ心が占めていたのも又悲しい事実だった。

 そんな訳で兄としての立場と三〇パーセント以上のスケベ心で、握手の手を差し伸べた直人だったが内心は冷や冷やだった……直人の脳内で子供達との悪夢の様なディスコミュニケーションがフラッシュバックの様に蘇っていたのである。

 ……子供達(幼女)に引き続き大人の女性からも「やっだ~~!! 視姦勇者と握手なんかしたら子供が出来ちゃう~~!!」などと侮蔑の言葉と共にこの手を弾かれでもしたら……それはそれでかなり興奮するが……否、やっぱり否……興奮するには違いないが、その後しばらくは立ち直れないに違いない……

 しかしながら、有栖川姉妹の反応は、直人の予想と大きく異なっていた。

 有栖川姉妹はしばし直人と視線を交わした後、彼と力強く握手を交わしたのである。

 まずは姉のツバメ……そして妹のカレンが直人の手をがっしりと握り締める。

 一拍置いて有栖川姉妹は唯とも握手を交わした。

 ……一体彼女達の何が気に入らないのだろうか!?

 どことなくふてくされた感のある唯だったが……その姿はガンを飛ばし敵のヤンキーを牽制する不良に見えなくも無かった……しかしそんな膨れた唯の顔も又可愛く思える直人だった……つまり彼はどうしようもなくシスコンだったのだ!

 何はともあれしばし相手を見定めた後、唯は最終的に握手を交わした。

「それではパーティーメンバーが全員揃った所で、本作戦の詳細を伝えます!」

 レンは二子玉川のゴブリン掃討作戦・プロジェクト名“グリーン作戦”の内容を告げた。


 作戦の内容はざっと言えばこんな感じだ。

 二キロ×二キロ四方あるゴブリンの巣の片側づつをチームで分担する。

 巣の上流側を有栖川姉妹、そして下流側を桐生兄妹が担当する。

 二人の魔法使い……唯とカレンが上空から爆発系の魔法を投下する……爆弾の投下を繰り返し、奴等の巣を根こそぎ破壊して丸裸の状態にする。

 極力、この上空からの魔法攻撃で敵の殲滅を謀る。

 最後に巣から逃げ出し逃走を図るゴブリンを、直人とツバメが斬って……斬って……何はなくとも片っ端から斬りまくる!……というスプラッター映画顔負けの作戦だった。

 レンは鼻の穴を広げて今回の作戦のプレゼンを締め括った。

「二子玉川はこの日、ゴブリンの緑色(りょくしょく)の血で染め上げられて行くのですよ……ゼーハーゼーハー……良いですかぁ!?……彼等から流れ出た体液は……ゼーハー……多摩川から東京湾へと降り注ぎ、最終的には母なる海さえをも緑色に染め上げて行くのです!!」

「あ~~はっはっはっ~~! どうですかあああああああああああああああぁぁ~~~~!!」

「この私の考えたプランわあぁ~~~~!!  最っ高でしょう~~~~~~~~~~~~!!!」

「ウフフフフフフ……アハハハハハハ……ア――ハッハッハア―――――――――――ッ!! ゼーハーゼーハー……」

 直人はスプラッターマニアの変態が行うプレゼンを見た思いだった……つまりどうしようもなく気分が悪くなった……

 尚、スピーチを聞いた会議室のメンバー一同も引いていた。特にコーディーネーター・ランの顔には濃い影が射していた……やっぱり裏でナニを握られているに違いない……直人の中で変態としての直感が走った瞬間だった。

 通常レンは冷静沈着そのものだが、熱狂的な勇者の格闘オタクである彼女は、勇者の戦いともなると人格が飛ぶのである……ハイな方向へと……


 ――二子玉川をゴブリンの緑色の血で染め上げる。

 決行は三日後。

 プロジェクト名“グリーン作戦”の幕が、レンの高笑いと共にこうして上がったのである。

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