#5 酒場の魔女に酔わされて
冒険者を探すなら、冒険者が集まる場所へ行けばいい。
そのくらいのことは、デイジーにも分かる。
そこで今日は、ダズリンの中心部から少し外れた場所にある酒場へやってきた。
昼間だというのに店内は賑わっていた。デイジーは店内へ足を踏み入れると、さりげなく辺りを見回した。大きな剣を背負った男と杖を持った女が報酬の取り分について言い争い、奥のテーブルでは三人組の冒険者が地図を広げている。壁には依頼書が何枚も貼られ、その前で若い戦士が腕を組んでいた。
ここは、ただ酒を飲む場所ではない。仕事や仲間を探す冒険者、護衛を雇いたい商人などが集まる、いわば冒険者たちの待ち合わせ場所だった。
「いらっしゃぁ〜い!」
明るい声に振り向くと、バーカウンターの向こうに一人の女性が立っていた。
長くウェーブがかった茶色の髪に、大きな目。すっと通った鼻筋と柔らかな笑顔が印象的な、華やかな女性だった。
噂には聞いていたけれど。
「……めちゃくちゃかわいい」
思わず声が漏れた。
「ん?」
「あっ、何でもないです!」
女性は楽しそうに笑った。
「ふふっ。好きなとこ座ってなぁ」
デイジーはカウンター席へ腰を下ろしが。
目の前の女性こそ、この店の主人、リリーだった。
酒場を切り盛りする美人店主として、街ではちょっとした有名人らしい。彼女に会うためだけに店へ通う冒険者もいるという。
ただし、良くない噂もあった。
客をその気にさせて高い酒を注文させるだとか、夢中になった客から金を巻き上げるだとか。彼女の笑顔に騙され、財布を空にされた男も少なくないらしい。
中には、彼女を「酒場の魔女」と呼ぶ者までいるという。
もっとも、噂がどこまで本当かは分からない。デイジーにとって重要なのは、この店に多くの冒険者が集まるということだった。
「お姉さん、何飲む?」
「じゃあ、チョコレートドリンクで」
「あ、かわいい」
「え? そう?」
「うん。ちょっと待ってなぁ」
リリーは笑いながら飲み物を作り始めた。その間にも、隣の客から宿を尋ねられればすぐに場所を教え、別の冒険者には翌日の護衛依頼の時間を確認している。相手が名乗らなくても、誰がどんな仕事を受けているのか把握しているようだった。
なるほど。ただ愛想がいいだけではないらしい。
「はい、お待たせ〜。チョコレートドリンクでぇす」
「ありがとう」
デイジーがカップを受け取ると、リリーはカウンターに肘をついた。
「お姉さん、この店初めてやろ?」
「うん」
「もしかして、私に会いに来てくれたん?」
デイジーは少し考えた。実際、彼女について調べてから来たのだから、間違いではない。
「まあ、そうですね」
「ほんま?」
リリーの顔がぱっと明るくなった。
「うれしい!」
そう言って、デイジーの手を両手で包み込んだ。
「……っ!」
近い。思っていたより、ずっと近い。
「どうしたん?」
「い、いや、何でも……」
これか。噂の手口というやつか。危ない危ない。
デイジーは小さく咳払いをして、話を切り替えた。
「実は、今、人を探してるんです」
「あぁ、仲間探し?」
「そう!」
「それならここ来て正解やで。仕事探してる冒険者、いっぱい登録してるから」
リリーは手を離し、カウンターの下を指さした。
「どんな人が欲しいん?」
「えっと……強い人。それから、秘密を守れる人」
リリーが片眉を上げた。
「あらぁ。そういう人がタイプなん?」
「え?」
「それやったら、私なんかどう?」
リリーは自分を指さした。
「結構強いし、口も固いで」
「いや、あの……」
「どう? お姉さんのお相手、私で」
「あ、あの! そういう人を探してるんじゃなくて!」
リリーは一瞬きょとんとしたあと、声を上げて笑った。
「やぁ〜ん、かわいい!」
「え?」
「冗談やって!」
「……ですよね」
「顔真っ赤やで」
「なってない!」
リリーは満足そうに笑うと、仕事の話に戻った。
「ほんなら、何するための仲間なん? 討伐? 護衛? 迷宮探索?」
「私は旅する吟遊詩人なの」
「へぇ」
「だから、旅の仲間が欲しいんです。最近は物騒でしょ? 一人だと心細くて」
デイジーはいつもの明るい笑顔を作った。
本当の目的は、鉄の魔女レオナ・ジョーンズを止めること。三か月後には、魔族との戦いが始まるかもしれない。場合によっては魔族領へ足を踏み入れることにもなるだろう。
そんな事情を、初対面の店主に話すわけにはいかなかった。
「そういうことな」
リリーはカウンターの下から分厚い冊子を取り出した。
「ほんなら、探そか」
「お願いします!」
冊子には、冒険者の名前や経歴、得意な武器、過去にこなした依頼などが細かく記されていた。
「例えばこの子」
リリーは一人の名前を指さした。
「若い戦士。まだ経験は少ないけど、剣も使えるし簡単な回復魔法もできる」
「へぇ」
「性格も真面目。護衛には向いてると思う」
リリーはさらにページをめくった。
「こっちは僧侶の女の子。まだ駆け出しやけど、魔力はかなりあるで」
「うーん」
「こっちは盗賊。口は悪いけど罠解除がめっちゃ得意」
「なるほど」
次々と説明を受けた。どの人物も、普通の旅なら頼りになるだろう。けれど、デイジーが求めているのは、普通の護衛ではなかった。
脳裏に、満月の夜の光景が浮かぶ。巨大な槍を振るい、何本もの矢を一瞬で叩き落とした、あの姿。
あの人を止められるほどの実力者が必要なのだ。
「……うーん」
「ピンと来ない?」
リリーが顔を覗き込んだ。
「正直に言うてええよ」
「もうちょっと強い人がいいかな」
「どのくらい?」
「ものすごく」
「ものすごく?」
「うん。報酬なら、実力に合わせてちゃんと出すよ」
リリーは少し考えると、別の棚から薄い冊子を取り出した。
「ほんなら、こっちやな」
「何それ?」
「高額の依頼とか、危険な仕事のときだけ紹介する人たち。誰にでも見せられる名簿やないんよ」
「おお! 最初から送料見せてよ!」
「だから、誰にでも見せられへんの」
リリーは笑いながら冊子を開いた。
「例えばこの人。昔、街の護衛団の隊長やってたベテランの剣士」
「強そう!」
「強いで。ただ、この前ぎっくり腰した」
「……」
「最近寒い日は特に痛いらしい」
「……次」
「判断早いなぁ」
リリーはまたページをめくった。
「こっちは元国家軍の兵士。結構上まで行った人やで」
デイジーは経歴に目を通した。悪くない。だが、レオナとは比較にならない。
その後も何人か紹介してもらったが、納得できる人物は見つからなかった。
確かに強い。普通なら十分すぎる人材ばかりだ。けれど、あの人を止めるには何かが足りない。
そもそも、そんな人間が本当にいるのだろうか。
デイジーが次のページへ手を伸ばしたとき、リリーが冊子を閉じた。
パタン、と乾いた音がした。
「……あかん。やめた」
「え?」
「ちょっと聞いてええ?」
リリーの顔から、さっきまでの笑顔が消えていた。
「お姉さん、訳ありやろ」
デイジーは答えなかった。
「旅の護衛が欲しいだけやったら、この人らで十分や。なのに、誰を見ても納得せえへん」
リリーは閉じた冊子に手を置いた。
「それに、店に入ってきたときから、入口も窓も、奥の階段も見てたやろ。お客さんが持ってる武器まで」
デイジーの表情からも笑みが消えた。
「……よく見てるね」
「仕事柄なぁ」
リリーは静かに答えた。
「普通の吟遊詩人は、そんなとこまで気にせえへんよ。お姉さん、何者なん?」
デイジーは少し迷ったあと、口を開いた。
「……デイジー・ウォーカー」
「ん?」
「私の名前。デイジーって言います」
リリーは目を丸くしてから、ふっと笑った。
「そっか。デイジーちゃんやね」
「……うん」
「驚かせてごめんな。別に、無理に聞こうとは思わへんよ」
そう言ってリリーは閉じた冊子を、デイジーの前へ戻した。
「私な、ここで何百人、何千人って見てきてん。言いたくない事情がある人なんか、珍しくもない」
リリーは店内を見渡した。傷だらけの男もいれば、顔を隠して酒を飲む者もいる。皆、それぞれの事情を抱えてこの店へやってくるのだろう。
「無理に話さんでええよ。こんな仕事してるくらいやから、口は固いし」
デイジーはしばらくリリーを見ていた。
「……ありがとう」
「その代わり」
リリーはいたずらっぽく笑った。
「めちゃくちゃ強い人が欲しいんやろ?」
「うん」
「実はな、おるねん。普通の名簿には載せられへんような……強ぉい子」
「……いるの?」
「ほら、ちょうどそこ」
リリーが店の奥を指さした。
壁際のテーブルに、一人の人物が座っていた。深緑のフードを目深にかぶり、こちらへ背を向けている。小柄な体つきで、男なのか女なのかも分からない。
「あの人?」
「うん。あの子もちょっと訳ありでな」
「強い?」
「めっちゃ」
「どのくらい?」
リリーが答えようとした、そのときだった。
ドォォォン!!
突然、凄まじい音とともに酒場の扉が吹き飛んだ。
木片が店内へ飛び散り、入口近くの客たちが悲鳴を上げる。倒れた椅子を踏みつけながら、土煙の向こうから五体の魔族が姿を現した。
いずれも人間の倍ほどある巨体に、蛇のような下半身を持っていた。手には大きな剣や斧を握り、鋭い牙をむき出しにしている。
「おい、人間ども! よく聞け!」
先頭の魔族が怒鳴った。
「今からここは俺たち魔族の遊び場とする!」
その隣の魔族も続けて話し出した。
「この前、鉄の魔女が三か月の猶予をくれたのは知ってるよな? だが、俺たちがそれまでおとなしく待ってると思ったか!」
魔族たちが下品な笑い声を上げる。
「この街には冒険者が大勢集まるって聞いたぜ。だったら、先にそいつらを潰しちまえばいい!」
先頭の魔族は壁に貼られた依頼書を剣で引き裂き、床へ投げ捨てた。
「さあ、腕に覚えのある奴は出てこい! 俺たちが相手してやる!」
客たちは一斉に後ずさった。剣を持っている冒険者もいたが、誰も動こうとしない。
「なんだ、情けねぇな!」
別の魔族が店内を見渡し、女性たちに目を留めた。
「まあ、女どもは残してやってもいいぜ。俺たちの相手をするならな!」
怯えた女性たちが身を寄せ合う。その様子を見て、魔族たちはますます笑った。
「ふざけるな!」
一人の若い戦士が立ち上がった。
先ほどリリーが名簿の最初に紹介していた男だった。
「ここはお前たちの好きにしていい場所じゃない!」
剣を抜き、魔族へ向かって駆け出す。
「おお、やっと一人出てきたか!」
魔族が笑った次の瞬間、巨大な腕が振り抜かれた。
「ぐあっ!」
戦士の身体が宙を舞い、壁に激突した。飾り棚が崩れ、グラスが床へ散らばる。
「おい! 大丈夫か!」
仲間が駆け寄ろうとしたが、魔族に剣を向けられ、足を止めた。
「見たか! これが人間と俺たちの力の差だ!」
先頭の魔族が倒れた戦士を見下ろす。
「次は誰だ? まだやる気のある奴はいるか!」
誰も答えなかった。
そんな中、デイジーはカウンター席に座ったまま、冒険者名簿を眺めていた。
その場の騒ぎなど気にも留めず、紙を一枚めくる。
「……おい」
魔族の一体が、その姿に気づいた。
「そこの女。何をのんきに本なんか読んでやがる!」
デイジーは顔を上げない。
「聞いてんのか!」
返事はなかった。
「てめぇ、舐めやがって!」
魔族が腰から短剣を抜き、デイジーめがけて投げつけた。
鋭い刃が一直線に飛んでくる。
デイジーは、ほんの少し顔を横へずらした。
短剣は頬のすぐ横を通り過ぎ、背後の壁に突き刺さった。
それでも、彼女の視線は名簿に落ちたままだった。
「……なっ?」
魔族が目を見開く。
デイジーは次のページをめくった。
「この野郎……!」
魔族が剣を振り上げた。
その瞬間だった。
ドンッ!!
鈍い衝撃音が響き、デイジーは驚いて顔を上げる。
「……え?」
五体の魔族が、宙に浮いていた。
つい今まで武器を振り回していた魔族たちが、腕も脚も動かせないまま、空中でもがいている。
しかも、その身体には見慣れない金属製の拘束具が巻きついていた。
「な、何だこれは!?」
魔族が叫ぶ。
デイジーは目を見開いた。
……何が起きた?
カウンターの向こうでは、リリーが杖を掲げていた。
先ほどまでの柔らかな笑顔は消え、魔族たちを冷ややかに見つめている。
「なぁ」
その声に、店内が静まり返った。
「私のデイジーちゃんに、何してくれてんの?」
リリーは杖を掲げたまま、ゆっくりと首を傾げた。
「せっかく楽しくお話しとったのに。人の店の扉まで壊して、えらい迷惑やわぁ」
「くそっ! 降ろせ!」
魔族の一体が身体をよじった。
その途端、拘束具が赤く光った。
バンッ!
小さな爆発が起こり、魔族が悲鳴を上げる。
「ぎゃああっ!」
「だから動かない方がいいって」
声がした。
リリーの隣に、いつの間にか一人の女性が立っていた。
顎のあたりで切りそろえた金髪に、大きな目。小柄な身体には、深緑のフードを羽織っている。
デイジーは思わず店の奥を見た。
さっきまで、あの席に座っていた人物だ。
いつの間に?
「それ、動くと爆発するから。大人しくしててよ」
金髪の女性は、手にした小さな魔道具を指先でいじりながら言った。
「何をした! このガキ!」
「ガキじゃないし」
女性が面倒くさそうに答える。
「あと、もう一回動いたら、次はもっと痛いよ」
「ふざけるな!」
魔族が力任せに身体をひねった。
バンッ!!
再び爆発が起こり、魔族の悲鳴が響いた。
「ほらね」
女性は呆れたように言った。
「もう、うるさいなぁ」
リリーが小さくため息をつくと、宙に浮いていた魔族たちが一斉に意識を失った。
杖を下ろすと、五体の巨体が床へ崩れ落ちた。
酒場中が静まり返る。
デイジーはしばらく、その光景を見つめていた。
五体の魔族が、一瞬で。
彼女はカウンターの向こうにいるリリーと、その隣の金髪の女性を見た。
二人が動いたところすら、見えなかった。
「んもぉ。せっかくええところやったのに」
リリーは杖をカウンターへ置くと、倒れた若い戦士のもとへ駆け寄った。
「お兄さん、大丈夫?」
しゃがみ込んで身体に手をかざすと、柔らかな光が広がった。
傷が少しずつ塞がり、やがて戦士がうっすらと目を開ける。
「……うっ」
「よかったぁ。気ぃついた?」
「俺……魔族は?」
「もう大丈夫やで。みんな捕まえたから」
戦士は床に倒れた魔族たちを見て、呆然とした。
「……俺、何もできなかった」
「そんなことないよ」
リリーは戦士の背中を支え、ゆっくり起こしてやった。
「お兄さん、一番最初に立ち向かってくれたやろ?」
「でも、負けた」
「そら、まだまだ修行せなあかんなぁ」
リリーは笑った。
「でもな、怖くても誰かのために剣を抜けるんは、立派なことやと思うで。お兄さんが立ってくれたから、私も勇気もらったわ」
「……あんたが?」
戦士は思わず聞き返した。
「うん。ほんまにありがとうな」
そう言って微笑むリリーを、戦士は不思議そうに見つめていた。
周囲の客たちも、まだ呆然としている。どう考えても、勇気をもらう必要があったのは彼女の方ではない。
「さあ、誰か警備隊呼んできてくれる?」
リリーが声をかけると、一人の客が慌てて店を飛び出していった。
「この子ら、しばらく動かへんと思うから。警備隊が来たら引き取ってもらお」
そう言って魔族たちを見たあと、リリーは金髪の女性へ振り返った。
「それより、オリーブちゃん?!」
「何?」
「ちょっと! 爆発させんでもよかったやん!」
「だって、暴れたから」
「そうやけど、あんな大きい音出して!」
「大丈夫だよ。威力は抑えてあるし」
「そういう問題ちゃうねん!」
リリーは壁の向こうを指さした。
「隣の家、最近赤ちゃん生まれたばっかりやねんで! びっくりして泣いてまうやろ!」
「あ……」
オリーブは一瞬、言葉を詰まらせた。
「それはごめん」
「ほんまにもう。今度から気ぃつけてな」
「はーい」
リリーはため息をつき、店内を見渡した。
倒れた椅子に、割れたグラス。壁際の飾り棚は崩れ、入口には扉があったはずの場所に大きな穴が開いている。
「あぁもう……」
リリーは頭を抱えた。
「扉、どうしよ。これ結構ええ木使ってたのに……」
「壊したの、あいつらじゃん」
「分かっててもや! 修理するんは私やねんで!」
「じゃあ、私が直そうか?」
「オリーブちゃんが?」
「うん。扉くらいなら作れるよ」
「ほんま?」
リリーの顔が明るくなる。
「材料費はもらうけど」
「ーえ? そんなん高くつくやん」
リリーはしばらくオリーブを見つめていたが、やがて何かを思いついたように手を叩いた。
「……せや!」
「何?」
「あいつらの荷物、調べて」
「ん?」
「金目のもの。修理代にするから、警備隊が来る前に急いで」
「はーい」
オリーブは当然のように頷き、倒れた魔族の懐を探り始めた。
「ちょっと待って」
デイジーは思わず口を挟んだ。
「それ、いいの?」
二人が同時に振り返る。
「何が?」
「いや……」
デイジーは口を閉じた。
「……何でもない」
この店、思っていたよりずっと危ない。
「デイジーちゃん!」
リリーがカウンターへ戻ってきた。
「怪我ない? さっき短剣飛んできたやろ?」
「ああ、うん。避けたから平気だよ」
「ほんま? ちょっと見せて」
リリーが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫だってば!」
「よかったぁ。せっかく初めて来てくれたのに、こんなことになってごめんな」
「私は平気。それより、お店の方が大変でしょ」
「そうやねん。今日はもう閉めなあかんなぁ」
リリーは壊れた入口へ目を向けた。
「警備隊の対応もあるし、片づけもせな。仲間探しの話、途中になってもうたな」
「ううん。十分参考になったよ」
「ほんま? また来てくれる?」
デイジーはリリーを見た。
先ほどまで冒険者名簿をめくりながら、誰が強い、誰が優しい、誰が最近ぎっくり腰になったと楽しそうに話していた女性。
その同じ人物が、たった今、五体の魔族を一瞬で動けなくした。
そして、店の奥でひっそりと座っていた深緑のフードの女性。
「……もちろん。また来るよ」
「よかったぁ!」
リリーが嬉しそうに笑う。
「待ってるで!」
デイジーは席を立ち、壊れた入口へ向かった。
その途中、魔族の懐を探っているオリーブと目が合った。
「……何?」
「ううん。何でもない」
「変なの」
オリーブは首を傾げると、魔族の懐から小さな袋を取り出した。
「リリー! 銀貨あった!」
「ほんま!? もっと探して!」
「はーい!」
デイジーは思わず吹き出しそうになりながら、店をあとにした。
*
酒場を出て何本か通りを歩いたところで、デイジーは人通りの少ない路地へ入った。
周囲に誰もいないことを確かめ、鞄から小さな通信魔道具を取り出す。魔力を流すと、表面の魔石が淡く光った。
「もしもし? 候補、見つけたよ」
相手の返事を聞き、デイジーは少し笑った。
「いや、一人じゃない。二人。調べてほしいんだ」
酒場のある方角へ目を向ける。
「相当強いよ。魔族五体を、二人で一瞬で制圧した」
向こうから何かを尋ねられ、デイジーは少し考えた。
「……どうやって倒したか?」
あの瞬間を思い返す。
「それがね、私にも見えなかったんだよ」
通信魔道具の向こうが、しばらく静かになった。
「うん。だから、詳しく調べてほしい。名前はリリーとオリーブ。どっちも通り名だと思う」
相手の返事を聞き、デイジーは通信を終えた。
魔道具を鞄へしまい、路地を抜ける。
「……さて」
彼女は楽しそうに笑った。
「あの二人、どうやって誘おうかな」
読んでいただきありがとうございました!
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本作はすでに最終回まで完成してます。引き続きお楽しみください!




