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リストラされたので底辺ダンジョンでひっそり配信してたら、なぜか世界中にバレた  作者: 凪乃


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黒沢常務、書面を送る

 朝、配信の準備をしていたら真凛から電話が来た。


「篠塚さん、スフィアから内容証明が届きました」


「内容証明」


「はい。黒沢常務名義です」


 手が止まった。ヘルメットのカメラを固定する途中だった。園田が横で目だけ動かした。


「何が書いてある」


「C-087の超深層に関する共同管理権の主張です。原始登録がスフィア名義だった時期に発見された深層構造について、スフィアにも管理権の一部が帰属するとする見解。法的根拠として、ダンジョン探索法第十七条の二を引いています」


「その条文、有効か」


「微妙です。個人探索権の譲渡後に発見された構造には適用されない可能性が高い。ですが、スフィア側が裁判に持ち込む姿勢を見せれば、探索を続けながら対応するのは相当な負荷になります」


 真凛の声が平坦だった。感情を入れずに、現実を報告している。


「要するに、直接取り返せないから、別のルートで絡んでくるってことか」


「はい。黒沢常務は事業として考えている人です。探索権の返還が通らないなら、管理権の共有という形で実質的にC-087に関与し続ける算段だと思います」


「厄介だな」


「ですが、この書面には一つ弱点があります」


「何だ」


「管理局への深層報告が篠塚さん名義で蓄積されていくほど、C-087の実質的管理者が篠塚さんであるという実績が法的に積み上がります。スフィアが介入するには早いほうがいい。つまり、これは時間稼ぎの書面です」


 真凛が二秒だけ沈黙した。


「時間を稼がせないことが、最善の対処です。管理局への報告を加速します」


「了解。頼む」


 電話を切った。園田がヘルメットのストラップを差し出した。何も聞かなかった。受け取って、装着した。


     *


 配信中に、コメント欄が騒いだ。


 十階層の壁面紋様を映しながら歩いている最中に、流れが変わった。


『スフィアが内容証明送ったってマジ?』

『ソースは?』

『探索者協会のリーク情報。黒沢常務が動いたらしい』

『まだやるのかあの会社。恥の上塗りだろ』

『おっさん知ってるのか、これ』


「知ってるよ。今朝届いた」


『反応が早すぎるだろ』

『おっさん冷静すぎる』

『窓口の真凛ちゃんが処理するんだろうな。有能すぎるんだよなあ』

『スフィアの法務部 vs 元スフィア企画室の久我真凛。胸熱だな』

『おっさんは壁の紋様見てるし。ブレないなこの人』


「まあ、壁の紋様のほうが面白いからな」


 本当のことだ。十階層の壁面に刻まれた文字が、奥に行くほど密度を増している。文字の配置に規則性がある。園田がそれに気づいた。


「篠塚さん、この紋様——同じ文字パターンが等間隔で繰り返されています。摩耗の具合から見て、刻まれた時期は少なくとも数百年前です」


「つまり」


「誰かがここに何かを記録した。少なくとも、この空間を使っていた知性体がいた」


 園田の声がわずかに強くなった。技術屋が発見に触れた時の声だ。興奮を抑えて、精密な言葉だけを並べている。


「記録しておいてくれ」


「もう撮ってます。画像は真凛さんにも送ります」


     *


 帰り道。吉田食堂には寄らず、アパートに戻った。真凛がテーブルに書類を広げていた。


 スフィアからの内容証明のコピー。管理局への加速報告のドラフト。対応方針のメモ。紙が何枚もテーブルに並んでいて、マグカップがその上に乗っていた。コーヒーが冷めている。


「真凛」


「はい」


「飯、食ったか」


「……まだです」


「先に食え」


「もう少しで対応方針がまとまるので」


「飯が先だ」


 真凛が手を止めた。少しだけ目を細めた。反論しかけて、やめた。


「……分かりました」


 コンビニでおにぎりを三つ買ってきた。鮭、梅、昆布。真凛が梅を選んだ。園田は鮭を取った。俺は昆布。


 三人で台所に立ったまま、おにぎりを食べた。昆布の佃煮が甘じょっぱくて、白飯に馴染んでいる。


 園田が装備のケースを床に降ろした。今日の配信で録った十階層の映像データを、夜のうちに整理するらしい。


「篠塚さん、十階層のデータ、管理局の報告に使いますか」


「使う。真凛、それ込みで報告書に組み込めるか」


「できます。園田さん、画像とログを今夜中にください」


「了解です」


 三人の仕事が、噛み合い始めている。


 スフィアの書面は面倒だ。だが、時間を稼がせなければいい。俺が潜る。園田が記録する。真凛が法と書類で守る。


 やることは変わらない。


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