81話 村のスライムさん(後編)
その後も、スライム達との闘いは続いた。
時間は、11時過ぎになろうとしています。
私を含む村の人達は、順調にスライムを倒していきます。そして…もう大分良い感じに、スライムを倒したでしょうか。どこを探しても、スライムの姿は、見当たらなくなっていました。
それで…
姿を消すスライムと共に、討伐に参加していた村人達の姿も、ポツポツと消えていきます。どうやら、畑の方の作業に行ったらしいですね。まぁ、それもそのはず…今は、小麦の収穫時期と重なっている事もあり、とても忙しい時期みたいですから。
(スライムを倒したら、私も小麦の収穫を手伝おうかしら…?)
私は、地面に剣を突き刺しながら思っていますと。
「イブさん、午後は小麦の収穫を手伝ってくれませんか?」
「勿論、報酬は追加しますよ!!」
「はい、是非!!」
モッチ村長から、予想通りの依頼がありました。
とても、嬉しいです!!
んっ…いや、待てよ!!
小麦の収穫って、やった事が無いけど凄く大変な作業なんじゃ…?
スライム討伐で凄いクタクタなので、やっぱり…
あまり、やりたくないかも。
私は、苦い顔をしていますと。
「イブちゃんも、無事に依頼を果たせそうだし…」
「私は、そろそろ行こうかしら」
カマンヴェールさんは、言う。
「えっ…」
「もう、そんな時間ですか!?」
「…」(私)
…カマンヴェールさんは、午後には仕事の予定があるそうで、もうパーシャに戻らないといけないみたいです。今回…午前の予定が空いていたのも、本当に偶然らしく…いつもは、ギチギチに仕事の予定が詰め込まれているとか。
やはり、商人は忙しいのでしょうか。
旅のお供としては…
悩む所でしたけど『サウスヴェルくらいならば、一緒に行っても良いかな~』と残念がる私。ですが、仕方がありません。
「それじゃあ…旅、頑張ってね♪」
「また、どこかで会いましょう」
後ろを向きながら、手を軽く振って行こうとするカマンヴェールさん。
「あ、有難うござい―」
私が、そう言いかけた時であった―
「「ウワアアアアアアアア~!!」」
「「大変だアアアア~!!」」
村の外の方から、誰かの焦る声が聞こえる!!
それも、沢山の人です。
多分、畑に行っていた村人達ですかね。
その皆が慌てて、村に戻って来た様です。
「ど、どうしたんですか…!?」
「落ち着いて下さい!!」
モッチ村長は、息を切らして、青ざめている村人達に聞きます。
「ハァハァハァハァ…」
「ハァハァハァハァ…」
「畑の近くに巨大ゴブリンが出たので、急いで逃げてきました!!」
「ほうほう、巨大ゴブリンですか…」
「最近は、全然出現しなかったのに珍しいですね。このままだと…折角、実った小麦畑が荒らされてしまいますね」
「う~ん…」(モッチ村長)
モッチ村長は、しばらく考え込む。
「でも、ニック達(パチ四天王)は今、いませんからね」
「その…イブさん、流石に1人じゃ倒せませんよね…!?」
そう言って、私の方を見る皆。
((えええ―!!))
凄く動揺する私。
「…」(村の皆)
「まぁ、巨大ゴブリンじゃ、仕方がないですね」
「とりあえず、ニック達に村に戻って来る様に連絡しましょう」
「それから、SOSボタンを使いますか…」
「ベン君、ちょっと持って来てくれますか!?」
「はい、分かりました!!」
モッチ村長に言われて、何かを取りに行くベン君。
「ねぇねぇ、カマンヴェールさん…」
「SOSボタンって、何ですか!?」
私は、隣にいるカマンヴェールさんに聞く。
「んっ!?」
「SOSボタンと言うのはね―」
カマンヴェールさん、曰く-
SOSボタンとは、そのボタンを押すと近くの騎士団が、ボタンを押した村に急いで来てくるそうです。村で何かあった緊急の際に、使うみたいですね。
「SOSボタンは、全部の村が持っている訳じゃないからね♪」
「この村の害獣対策は、凄いしっかりとしている方よ♪」
「なるほど、そうなんですね…」
「まぁ、騎士を呼ぶのは有料でして、値段も少し高いですから…あまり、使いたくはない品物なんですけどね。今回は、巨大スライムよりも手強い巨大ゴブリンですし、ニック達も巨大スライム戦で疲弊していると思いますので、使いましょうか」
相変わらず、モッチ村長は落ち着きながら言う。
流石は、魔獣が頻繁に出現する世界における村の長でしょうか。
冷静な判断です。
「巨大ゴブリンならね…」
「私も魔法薬を使えば、倒せるかもしれないけどね♪」
「へぇ…凄いですね、カマンヴェールさん!!」
「只、この方法は移動の道中で、どうしようもない時に使う奥の手だからね。ここは騎士に任せるのが、一番安心な方法ね♪」
「ふ~ん、そうなんですね…」
でも、巨大ゴブリンですか。
何か…懐かしい響きですね。
「…」(私)
懐かしいけど、どんな魔獣かボンヤリとしか覚えてない。流石に、もう聞く訳にもなぁ。『本当に、騎士志望なの!?』と思われそうな気がする。今更だけど…
ん~、もう気合いで思い出せ私!!
((気合いだアアアア―!!))
「あっ―!!」(私)
私は、頭をフル回転させると何か思い出せました。
そうそう、巨大ゴブリンとは―
巨大スライムと同じC2の害獣ですが、手強さは巨大ゴブリンの方が、少し上でしたね。その理由は、巨大ゴブリンは身体が大きく、皮膚も分厚いので、体力(RPG風に言うとHP)や防御力が高い為です。なので…手練れの冒険者や騎士でないと、倒しきる事が出来ません。
因みに、巨大ゴブリンや巨大スライムは、常人ならば簡単に殺してしまう力を持っていまして、人を見ると特に理由も無く襲ってきます。
が、しかし-
その動きは緩慢なので、近寄り過ぎなければ、そこまでの危険はありません。怒らせてしまうと、動きが多少早くなりますが…常人でも、全力で走れば何とか逃げ切れる速さですからね。それとですが…何か食べ物を持っていれば、それを道に落とす事によって、そちらに興味を引かせている間に、簡単に逃げる事も出来ますよ。
害獣は、基本…
目の前の食欲を優先しますので。
なので…
道でバッタリと出会っても、慌てないで行動する事が重要になります。
「…」(私)
ですが、騎士を呼ぶのに有料とは驚きましたね!!
それも、お値段も少し高いとか。
今回のスライムエッグの件も含めて…本当ならば、害獣討伐は騎士に丸投げしても、別に良いと思うのですけどね。村人達で討伐出来る範囲と高めな依頼料の兼ね合いで、対応を判断しているので、そんな風になっているのでしょうかね。
まぁ、あとは…
折角、魔獣がいる世界に生まれたのならば、格好良く魔獣を倒したいという気持ちもあるのでしょうね。特に、男の子とかはね!!
常人ならば…C2の害獣と闘う事は死に直結する事ですが、手練れの冒険者なら、怪我をする事はあっても、死ぬ事はまず無いですからね。手練れの冒険者なら、C2の害獣と対峙した時の死亡率は極めて低いのです。C3になると、凄く跳ね上がりますが…
(フムフムフム…)
私も…モッチ村長の冷静さを見習って、冷静沈着に推察する。因みに、私はバリアが無かったら、今頃は腰を抜かして、この村から一目散に逃げている事でしょう。とりあえず…
(騎士団が到着するまで、小麦畑にバリアを張って守ってましょうかね)
そう考えていますと。
「SOSボタンを持ってきました~!!」
ボタン(ベン君)が到着する。
「さてと、じゃあ押しますか…」
「…」(モッチ村長)
「ん、あれっ―!?」




