80話 村のスライムさん(前編)
「あっ、イブさん…お待ちしておりました!!」
村の広場にいたモッチ村長が、言います。そして、広場ではパチ四天王(パーチカの四天王の略)を始めとする多数の村人達がウォーミングアップをしていました。その中には、カマンヴェールさんもいます。
「ハァハァハァハァハァ…」
「す、すいませんでした…」
急いで、ここまで来たので、私は息を切らしていました。
スライムを倒す前に、もうヘトヘトです…
「集合時間になっても来ないから、心配していましたよ…」
「何か、あったのですか…!?」
モッチ村長は、言う。
「…」(私)
(普通に寝坊しましたとか、凄く言いにくい…)
「まさか、イブちゃん…」
「私達より早く起きて、もうスライム討伐を始めていたのね!!」
(えっ―!!)
カマンヴェールさんは、唐突に言う。
「だって、ほら…もうヘトヘトに疲れ果てているじゃないの♪」
「時間も忘れる程に、村のどこかで必死にスライムを倒していたんでしょ!?」
「オオオオ…」(驚嘆する村人達)
「…ほうほう、それは素晴らしいですね!!」
「でも、イブさん…若いからって、そんなに無理はしないで下さいよ」
モッチ村長を含む村人達は、感心しながら言う。
村人達は皆、カマンヴェールさんの言う事を素直に信じている様でした。
カマンヴェールさん…もしかして、村人達に催眠をかけてますか!?
とりあえず…
流石に、これはもう寝坊したと言える空気じゃないですね。
「まぁ、そんな、感じですかね…」
私は、ヒヤヒヤしながら嘘を言う。
「これは、俺達(パチ四天王)も負けてられないな」
「じゃあ…俺達も早速、巨大スライム討伐に出発しますか。イブさん、俺達が討伐に行っている間は、この村の事は頼みましたよ!!」
ニックさんは、言います。
「は、はい…分かりました」
「ニックさん達も気を付けて、行って来て下さいね」
「…」(私)
「でも、本当に大丈夫なんですか…?」
昨夜…見た夢が気に掛かった私は、心配して言います。
『四天王の実力は、素人に毛が生えた程度』という、夢の中でのモッチ村長の言葉が、私の頭の中に残っていました。果たして、本当に討伐が出来るのでしょうか。もしかして、騎士にお願いが出来ずに、無理をしているんじゃ…?
そんな事を思いながら―
「巨大スライムならば、何十匹も倒した事があるから心配はいらないぞ」
「倒すのも、もう手慣れたもんよ!!」
「あっ、そうなんですね」
ニックさんを含むパチ四天王は、相変わらず自信の満ち溢れた顔で言う。やはり…夢は所詮、夢でしたね。どうやら、杞憂だったみたいです。私の心の中の一抹の不安は、すっかりと消えていました。
「「ワアアアアアアアアアアアア―」」
「「行ってらっしゃい!!」」 「「気を付けて行って来てね~!!」」
「「頑張ってね!!」」 「「怪我しないようにね~!!」」
「「私達も、村のスライムを綺麗に片付けておくわ!!」」
―沢山の歓声を受けながら、パチ四天王は巨大スライムが出現した森に出発します。見送る歓声の一番手前には、モッチ村長、カリーナさん、私、カマンヴェールさんの4人が並んでいます。
4人は、ヒラヒラと静かに手を振って見送る。
そして―
その4人の真ん中にいる人?が言う。
「見送る側よりも、見送られる側の方が見栄えが良かったかもね~!!」
カリーナさんの肩に座りながら言うゼニィー。
「まぁ、それもそうね…」
何か、流れでこうなったのです。
○
「チュンチュンチュンチュン―」
「グサっ―」 「グサっ―」 「グサっ―」
「グサっ―」 「グサっ―」
「グサっ―」 「グサっ―」 「グサっ―」
(ああ~、疲れました…)
私は、澄み渡る青空の下で…
スライムをグサグサと剣で突き刺して、倒していました。村のあちこちには、スライムを潰したドロッとした液体が広がっています。もう、かれこれ数十匹のスライムを倒したでしょうか。
…チラッと腕時計を見ると10時になっていました。お昼には、まだまだ遠い時間ですが…お昼が、とても待ち遠しい私。と言いますのも、朝食を食べていませんでしたからね。凄くお腹が空いています。
(ああ~、お腹が空いた…)
「…」(私)
まぁ~しかしですが…
カコシとの闘いを終えてからの次の相手が、魔獣の中では最弱と言われるスライムだとは…なんか不思議な感じですね。ギャップが凄い。ですが…私的には、こっちの方が大変でした。カコシの時は、ゴケンジャーに全て任せて、私は1歩も動きませんでしたからね。
そして…
スライムは弾力があるので、全身全霊の力を込めて、剣を突き刺さないと倒せないのです。1匹ならば、まだしも何十匹も倒していると…かなり、腰にきますね。
更に間違って踏んでしまうと、滑って転んでしまいます。
「イブ、イブ、こっちにスライムがいるよ~!!」
「あっ、こっちにもいるよ~!!」
「あそこにも…」
「いや、ちょっとペースが速いよ…ゼニィーさん」
ゼニィーは…私にスライムがいる場所を次々と教えてくれます。
そうそう、あとですが…スライムは、暗くてジメジメした場所を好む習性があるそうで、気持ち良い日差しが、燦々と降り注ぐ開けた場所には、出て来ないみたいです。
日差しを避ける様に、何処かに隠れてしまうとか…
例えば、家と家の僅かな隙間とか、ゴミ捨て場の中とか、牛舎の藁の中とか、草原や落ち葉の中とか…なので、倒すのもですが、見つけるのにも意外と苦労します。
普段、落ちている小銭を探しているゼニィーにとっては、スライムを探す事なんて朝飯前なんでしょうか。まさに、適役!!
こんな所で、小銭を探していた事が役に立つとは…
「凄いハイペースね♪」
「あっ、カマンヴェールさん…」
「イブちゃんって、スライムを見つけるのも上手いのね…」
「まるで、誰かにスライムの場所を教えて貰っているのかしら♪」
「「…」」(私)
カマンヴェールさんは、鋭いですね。
一瞬、ドキっとする私。
「いや、流石ですね~!!」
「やっぱり、未来の騎士様は手際が良いですね」
そして、私の様子を見ていたモッチ村長も言う。
「いや、未来の騎士って…」
私は、謙遜しながら言います。
「私も…もう少し若かったら、まだまだ頑張れたんですけどね」
「見ているだけで、申し訳ないです」
「いえいえ、そんな…」
モッチ村長は昨日…スライムを倒していた時に、腰を痛めてしまったそうです。なので…今は立っているのも、やっとの状態との事だとか。因みに、若い頃のモッチ村長は、パチ四天王の1人として、パチ村を守っていたそうですね。
「イブさんの剣は、凄いですね!!」
一緒にスライムを倒している青年が言う。
「えっ、剣ですか―!?」
「はい、そうですよ」
「イブさんの剣は…スライムを何十回、突き刺しても全く刃こぼれをしていないですから。特殊な加工でも、されているんでしょうか。とても、頑丈な剣なんですね!!」
「…」(私)
そういえば、確かにそうでしたね。
私は、ハっと思い出す。
スライムのドロドロした液体は少し毒性があるのです。この世界の基本中の基本として『スライムの液体が皮膚に付いたら、よく水で洗い流せ』と言われています。じゃないと、皮膚が荒れてしまいますからね。
そして…その毒は、金属も徐々にですが溶かしてしまう性質があるそうで。普通の剣でスライムを倒していると、その内に刃こぼれが酷くなり、剣が駄目になってしまうのです。
「流石、未来の騎士様は持っている剣も違うのですね!!」
「いえいえ、そんな、そんな…」
色々と誉められて、妙な優越感に浸る私。
少しテンションが上がります!!
因みに…
彼の名前はベン君です。眼鏡を掛けた…どこにでもいる真面目な好青年って感じの人ですね。そして、カリーナさんとは良い感じの仲みたいですよ!!
「さぁ、ゼニィー!!」
「どんどん、スライムの場所を教えてちょうだい!!」
「沢山、倒すわよ!!」
(シ~ン…)
「あれっ、ゼニィーがいない…!?」
「!!」(私)
見ると、ゼニィーは不貞腐れて屋根の上で寝ていました。
「ちょっと、ゼニィー!?」
「どうしたの、手伝ってよ!!」
「やっぱり、小銭じゃないとモチベーションが上がらないだよね~!!」
やる気が無さそうに言うゼニィー。
(この気まぐれ精霊が…)
「ゼニィー、もう少し頑張ろうよ~」
「もう、疲れました~!!」
「…」(私)
【貴方…昨日の夕食、全部食べたんでしょ】
「もう、分かったよ~(汗)」
私の鋭いお願いに、また動き出すゼニィーさん。
そんな私は、もう立派な精霊使いね。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウウ―」
「モオオオオオオオオ~!!」
「モオオオオオオオオ~!!」
爽やかな風が、午前の村を吹き渡り―
チラホラと咲いている草花を静かに揺らします。
牛舎の牛も、風を受けながら気持ち良さそうに鳴いていますね。
そんな長閑な風景は―
中世ヨーロッパの田舎を、私に彷彿させます。
昔…どこぞの美術館の中で、そんな絵画を見た気がしますね。
まるで、その絵の中に入った…いや、迷い込んだ気分です。
ポカポカと暖かい日差しが、私と持っている剣を照らす。
スライムの雫が、程良く付いた剣は…
日差しに、良く反射してキラキラと煌めいています。
そして、その柄に刻まれたパーシャ騎士団の紋章は、その絵にとても良く馴染んでいる様でした。
久しぶりに…
こんなに沢山の魔獣を倒す事が出来て、剣も喜んでいるんでいるんですかね!!
「ヒュウウウウウウウウウ…」
「ヒュウウウウウ…」
「ヒュウウ…」
風が止めば、また辺りは美術館の中にいる様な静寂に包まれる。
「フウウウウ…」
(とても、長閑ね…)
これは、嵐の前の静けさでしょうか。
それとも、このまま、こんな長閑な旅が続いていくのでしょうか。
まぁ、きっと、このまま長閑な旅が続くのでしょうね。
景色を見ながら、そう思う私―




