寂しい山脈の冒険(part1) ~粗茶~
※初めての異世界旅行へ!!
またトンネルに入っていきま~す!?
「テクテクテクテク…」
私は、草原の一本道を黙々と歩いている。
次第に、筋肉痛も良くなったのか、杖も要らなくなっていました。
「ヒュウウウウウウウウウウウウウー」
(ああ、気持ち良い風…)
パーシャの町を出てから、そろそろ数時間が経とうとしています。
パーシャの町は、草原の向こうに霞んで見える程に小さくなっていました。辺りには、草原が広がるだけで、次の町の姿も全然見当たりませんね。
「…」(私)
…と言いますか、人とも全然すれ違いません。
一応、パーシャの町から続く、ちゃんとした道を歩いているつもりなのですが。
そして―
気付けば、あっという間に陽が暮れ始めていました。
○
「パチパチパチパチパチパチ…」
「ムシャムシャムシャムシャ…」
夜空の下で、私達は味の薄い魚を七輪で焼いて、食べていました。
時折…七輪から舞い上がる火の粉は、小さなキャンプファイアーをしているみたいに草原の闇夜をユラユラと照らしている。
なんか…
子供の頃、夏休みに友達の皆とキャンプに行った事を思い出しますね!!
あの時も、キャンプファイヤーを皆と囲んだものです。まぁ、その炎の煌めきとは、程遠いですが…その小さく揺らめく明かりは、私を少しだけワクワクとさせます。
今日は、ここにレジャーシートを敷いて、キャンプ(野宿)ですね!!
(ハハハっ!!)
「…」(私)
それはそうと…結局、今日は誰ともすれ違いませんでしたね。
あと魔獣にも…まぁ、これは無理に出会わなくても良いのですが。
なんと言いますか、とても寂しい道ですね!!
「ボク達って、どこに向かっているの~?」
七輪の灯りに照らされた、ゼニィーが聞きます。
「さぁ…?」
「私達って、一体どこに向かっているの…?」
「「えっ!?」」
「…」(私)
なんか、旅をする雰囲気というか、そうゆう流れだったので…私は、その流れに身を任せて、特に何も考えずに町を出ていました。まぁ、呪具を見つけて壊したいとは思っていますけど、正直…それもどこにあるのかも分かりませんからね。
実質、ノープランでした。
只、実際問題…
旅をしながらバリア代などのお金も必要な訳ですから、何か金策も考えないといけません。食料とかは最悪、何とかなりそうですけど、バリア代が払えなくなってバリアが使えなくなったら、死活問題ですね。このピクニック気分のお気楽な旅も、一気にいつ死んでも分からない過酷で恐怖の旅になってしまいます。
(ん~、どうしましょうか…)
「!!」(私)
「そうだ、ギルドに行こう!!」
どっかの旅のCMみたいな感じで言う私。
「あ~、ギルドね!!」
「そうそう、ギルドに行ってクエストとか受けてみたいわね!!」
「金策にも、なりそうじゃん!!」
それに折角、異世界に来たのですから、金策で無くとも前々からギルドに行ってみたいと思ってましたので。
あとですが、ギルドカードといえば―
「見て見て、ゼニィー!!」
私は、ギルドカードを取り出して、ゼニィーに見せます。
「キラキラアアアア―ン」(謎の効果音)
そのカードには、煌めく6つの星が刻まれていました!!
これは…カコシさんと闘った後に、何故かギルドカードの待ち受け画面がそんな風に変わっていました。そういえば…最初、この世界に来た時は星が1つありましたね。途中から、消えましたけど。
この星は、何を意味するんでしたっけ…?
「へぇ~!!」
「シックススターだね。凄いね~!!」
ゼニィーは、真顔で言う。
「シ、シックススター…!?」
「知らないの~?」
「シックススターはね―」
ゼニィー曰くー
シックススターとは、6つ星の冒険者の通称で、この広大な世界に数える程しか存在しない、トップランカーの冒険者との事です。因みに…冒険者には刻まれた星の数に応じて、それぞれの世間からの呼び名があるそうでして。
ゼロスター(星無し)は、半人前の冒険者
ワンスター(1つ星)は、一人前の冒険者
ツースター(2つ星)は、一人前の上の存在の冒険者
スリースター(3つ星)は、一流の冒険者
フォースター(4つ星)は、一流の上の存在の冒険者
ファイブスター(5つ星)は、英雄
…と格付けされているらしい。
そして、シックススター(6つ星)は、英雄の上の存在と呼ばれているとか。
「ふ~ん、英雄の上の存在か…」
「何となく、凄い存在なのは分かったけど、本当にそれって凄いの?」
「うん、凄いよー!!」
「そ、そうなの…」
ゼニィーは、表情一つ変えずに真顔で言っていたので、凄さの実感が全然伝わって来なかった。凄いのならば、もう少し驚くとかリアクションがあるかと思うんですけど…
「…」(私)
そして、ギルドカードにそんな星が刻まれる条件は、とにかく魔獣(害獣)を沢山倒す事らしく、この方法が一般的な星を得る条件になっているみたいです。
…そして、私がなりました『シックススター』になる為には、星の数ほどの魔獣を倒さないといけないみたいですが、今回みたいに…特別な条件を満たす事でも、ギルドカードに星が刻まれるらしい。
それは-
「その特別な条件も色々あるみたいだけど、一番有名なのは、強い魔獣を単騎で倒す事かな~!!」
「ふ~ん…」
C4以上の魔獣を単騎で倒すと、そのカテゴリーの数字と同じ数の星が刻まれるとか。
例えば…
C5とされる竜を単騎で倒しますと、その倒した冒険者のギルドカードには星が5つ刻まれて、ファイブスターとして…英雄として世間から呼ばれるみたいですね。
そう、まさにー
竜を倒せば、英雄になれる訳でありまして、実際に英雄と呼ばれたいが為に、竜と一騎討ちする人もいるそうです。
…それというのも元々、普通の竜はC5の中でも弱くて倒しやすい魔獣らしく、竜を倒す事が英雄になる為の一番手っ取り早い方法とされているからです。
まぁ、倒しやすいといっても、あくまでも国を滅ぼすとされるC5の魔獣の中での話しなので、一騎討ちをした人の多くが、命を散らしているそうですが…
「フムフム…」
で、今回のカコシについて、言いますと―
ルイアもカコシに攻撃しましたが、あれはノーダメージだったので私が単騎で倒した判定になったみたいです。…そして、カコシを倒したのは私では無く、実質ゴケンジャーなのですが、この様に召喚した魔獣で倒した場合も、召喚者である冒険者が倒した扱いになるみたいですね。
「でもカコシは、あの強さから…C7(カテゴリー7)にも片足を突っ込んでいたかもね~!!」
「そうなのね…」
(まぁ、確かにカコシはまだまだ強さが足りないと言っていましたけど…)
私は、七輪の火の灯りを見ながら、眠そうに言いますが…
すぐに、ある懸念を抱く。
「んっ、でも…」
「ギルドでクエストを受けるには、ギルドカードが必要なんでしょう?」
例えるならば…
ビデオレンタル店でDVDを借りる時に、会員証が必要である様に。
「そこでさ…英雄の上の存在といわれるシックススターである事が知られてしまったら、大騒ぎになるんじゃないの?」
「そうだね~!!」
「きっと、国中が…いや、世界中が大騒ぎになるかもね~!!」
「「えっ、そんなに!!」」
「それじゃ…クエストなんて、受けられないじゃん」
私的にそこまで騒がれるのは、ちょっと…
それに、呪具探しやこの旅自体にも支障が出る気もしますので。
いきなり、クエストを受けられない疑惑が出てきました。
「あっ、でも簡単なクエストだったら、ギルドカードが無くても受けられたと思うよ~!!」
ゼニィーは、思い出した様に言う。
「とりあえず、行くだけ行って確認してみれば~!!」
「はぁ、そうですか…」
私は、マグカップでお茶(HOT)を飲みながら言います。
そして、次第に七輪の灯りも弱くなってきましたので、私はランタンの灯りに切り替えます。
「ファ~アアアア…」
私は揺らめくランタンの灯りを見ながら、眠そうにあくびをする。
とりあえず、夜も更けてきたので、もう寝ましょうかね。
私は、そう思っていますと…
「ところで、このお茶…とても美味しいね!!」
いつも真顔のゼニィーは、微笑みながら言った。
「えっ、そこまで美味しいか…」
「こんなに美味しいお茶は、今まで飲んだ事が無いよ~!!」
「ふ~ん、そうなの…」
ゼニィーは、目をキラキラさせながら言っていた。
…このお茶の茶葉は、地球の私の部屋にあった茶葉でした。
食後のお茶として、何気なく出したのですけどね。
なのに、なのに―
「…」(私)
その辺のスーパーで、適当に買った茶葉なのに。
ゼニィー、貴方は…
とても、良いリアクションをするのね―
「そりゃ、私の故郷の味だから、美味しいに決まっているでしょ」
私は、誇らしげに言う。
「ボクが作った煎餅に合いそうだね~!!」
「フフフフ、そうね…」
私も、ゼニィーに微笑んで返す。




