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9 閑話 或る侍女の困惑




 東の空が白み始める頃、私の一日は始まる。

 夜明けと共に起き出し、同室のラナと挨拶を交わしながら身支度を整え、揃って部屋を出る。台所で湯を用意してもらい、朝のお茶と共にワゴンに乗せて向かうのは主の部屋。

 グローリア辺境伯家に勤めるようになって半年。私、エリス・メイヤーと同僚のラナ・モリスンは、最有力後継者であるディアナ・グレイス・グローリア様と、義弟君であるケイン様付きの侍女となった。元々はただのメイドとして雇われていたのだから、随分な出世だ。


 この立場に落ち着くまでには紆余曲折あったのだけれど、今は日々やりがいと誇りを持って仕事にあたることができる。


 そもそも、グローリア辺境伯家に仕えることは、北部の下級貴族や豪農の娘にとって憧れなのだ。貴族としては最底辺の騎士爵家の娘である私にとっても例外ではなかった。それだけになかなか採用されることはないのだけれど、私にとっては運良く、魔法学院を卒業後すぐに雇って貰うことができた。……グローリア辺境伯家にとっては、仕組まれた不幸による使用人の大量解雇、大量雇用だったのだからあまりおおっぴらに喜ぶこともできないのだけれど。


 幸い、私たちの主人は、邪な企みのために新たに雇用された使用人たちも、心根と仕事への態度にやましいところがなければ、古参の使用人と区別することなく重用してくださる。まだ幼いながら聡明で、公正な主人に仕えられることは望外の喜びだ。

 私の両親も、私がお嬢様、お坊ちゃま付きの侍女となったことを心底喜び、誠心誠意お仕えするようにと手紙をくれた。我が家は父も祖父もそのまた祖父もグローリア辺境伯家に仕えてきた騎士だから、私が主家の姫君や若君の侍女となったのは大変な名誉ととらえているのだ。


 もちろん、私自身もそう思っている。

 なんせお二人とも大変美しく、聡明で慈悲深い主人であるからだ。まだ幼いというのにまったく手がかからず、身の回りのことはご自分ですましてしまえるし、頑是無い子どものような我が儘を言うことはまったくない。手がかかる、ということはないのだ。他の家の子どものように。

 まだ杖や魔法剣といった補助魔法道具を手にできる年齢ではないというのに、すでに大人顔負けに魔法を扱えるディアナ様やケイン様は、グローリア辺境伯家の自慢だ。それだけではない。先日の、お父君の企てた恐ろしい陰謀を暴く勇気と胆力もある。絶対絶命の雪山で、幼子に手を貸してくださる神様と出会う強運も。


 ――ただ、別の意味で問題がないわけではないのだけれど。


「おはようございます、ディアナ様。お湯をお持ちいたしました」


 私はディアナ様、ラナはケイン様の部屋へ、それぞれワゴンを押して入る。普通なら、幼子はまだ寝ているような時間だ。朝食の時間まで三時間近くもあるのだから。


「おはよう、エリス。いつも言っていますが、こんなに朝早くから来なくてもいいのですよ」

「ディアナ様がお目覚めになった時から、私どもの業務時間でございますよ」

「……そのような雇用条件だったか?」


 ぽそ、と小さくつぶやいて、首を捻ったディアナ様は、すでに寝間着から着替えて髪も後頭部で一つに纏めている。本来なら、お着替えの補佐も、御髪を整えるのも侍女の仕事だというのに。いや、そもそもその格好が問題だ。室内用のドレスなどではなく、城下町の古着屋で仕入れた、男の子用のズボンとシャツなんていう、とうてい貴族令嬢が着るべきではない衣服なのだから。


 そんなありえない格好をしていても、ディアナ様の白く透き通るような肌も、差し込む朝日にきらきらと輝くプラチナブロンドも、宝石のように煌めく群青の瞳も、それはそれはこの世のものとも思えないほどに美しいのだけれども!

 だからこそ、こんな平民の子どもが着古した服を好んで着るだなんて、ありえないことなのだ!


 だというのに、ディアナ様は毎朝必ずその手の服を着る。そうして、私が頃合のお湯を持ってこなければ、昨夜部屋に置いていった水差しの冷たい水で顔を洗い、さっさと外へ飛び出してしまうのだ。それはケイン様も同じで、だから私たちは早起きをしてお湯とお茶を用意する。不要だと思っていても、せっかく用意されたものを無駄にすることはなさらない方々なので、最近では大人しく私たちが来るまで待って、お湯を使ってお茶を一杯飲んでから外へ飛び出すようになった。

 ……どうあっても外へ出られるのね、とがっくり肩を落とす日々。


 ディアナ様が部屋を出れば、廊下でケイン様と合流したのだろう。お二人で朝の挨拶を交わしている声が聞こえた。出て行く主人を見送って、ちらっと視線をずらせば、既にベッドメイクされた寝台が眼に入る。室内は整理整頓されているし、本当にまったく手のかからない幼女だ。そう、まだ幼女と言っていいお年頃だというのに。


 お二人揃って外で何をするのかと言えば、半時ほど一の隔の中を走り込み、残りの時間はディアナ様とケイン様で武術のお稽古だ。すっかりおなじみになった体術の稽古だけでなく、最近では騎士団の早朝訓練に混じって剣の手ほどきも受けていらっしゃる。

 これがケイン様だけならば、流石グローリア辺境伯家のご子息、と感嘆するだけですんだだろう。けれどなんだってそこにディアナ様までまざるのか! いや、むしろ何故率先して参加なさるのか!


 男の子のような格好で走り回り、騎士団にまじって剣を振り回すご令嬢など、聞いたこともない。噂では、新兵などではディアナ様にはとうてい敵わない等と言うではないか。おかしい。天才的な魔法使いの卵は、剣の道でも天才だというの? 仮にそうであったとしても、だからといってご令嬢に剣を持たせるだなんて、周りの大人は何をしているのだと言われても仕方ない。

 仕方ない、のだが――……。


(レイナード様どころか、セドリック様まで手放しで喜ぶ始末!)


 ディアナ様の後見として、当主代理であったハンス・グローリア様が罪を犯し、投獄されてから、まだそれほど時間はたっていない。セドリック様は先日、皇王陛下へ大罪人となったハンス様を引き渡し、監督不足と身内から罪人が出たことを謝罪し事態について説明をするためグローリア辺境伯家を出発された。

 その間、幼いディアナ様とケイン様だけをフレアローズ城へ残すのは心配だからと、レイナード・エヴァローズ子爵が保護者代理としてフレアローズに滞在している。セドリック様も出発前は数日をこの城で過ごしていたので、お二人の日課はご存知だ。それどころか、騎士の訓練に混ざってはどうかと言い出されたのはセドリック様である。


 普通はここで、令嬢がそんなことをするものではないと窘めるべきところだろうに! ディアナの気が晴れるなら好きにするといい。危険な眼にあったばかりなのだ。自らを守る術を身につけることも必要だろう――などとおっしゃって、直々に剣の手ほどきを始められる有様だった。正直、私は落胆した。


(生真面目で頑固な騎士と有名なセドリック・グレイ伯爵ならお嬢様の奇行を止めてくださると思っていたのにっ)


 頼みの綱の最も近しいご親戚であり、後見人となられる方々がお認めになっているのだ。あのお二方の他に、ディアナ様の行動を制限できるような方は、領内にいらっしゃらない。実質的に、フレアローズ城どころか、グローリア辺境伯家に置いて、ディアナ様が主君なのだから当然である。つまり……、そう……。ディアナ様が何をやり出そうとも、止められる者はいない。


 これで令嬢としての行儀作法が壊滅的であるならば、侍女としてなんとしても主人を諫めねばと思うところだけれど、幸か不幸か、ディアナ様は行儀作法を身につけることに積極的で、最高の教育係を見つけて欲しいとグレイ伯爵に頭を下げる程だった。


「本当に、あの方の考えることはわからないわ」


 はあ、と大きく溜息をついて、私は手早くディアナ様お部屋を掃除し、日課が終わったあとに着用していただく室内用ドレスを選ぶ。北部一の大貴族であるグローリア辺境伯家のお姫様のドレスルームはディアナ様がまだ六つの子どもであることを差し引いても数が少ない。モリー夫人が言うには、グローリア辺境伯家はもともと散財や浪費を良しとするお家柄ではないため、デビュタントすらしていないご令嬢であれば、これまでもこのくらいのものであったそうだ。そういうものかと思ったが、学院時代に聞きかじった高位貴族の令嬢たちは、子どもの頃からドレスルーム一杯にドレスがあるのが当たり前のような口ぶりだった。やっぱり少し少ないのでは? そもそもフリルやレースも最高級のものではあるけれど……。先代のご夫妻が亡くなられてからは一着も新調されていないらしいし、そろそろ春夏に向けて新たなドレスを新調なさるべきではないかしら。


 ……そうよ。お嬢様くらいの子どもは成長が早いから、去年の服はもう着れない、なんてよくあること。庶民ならば布を継ぎ足すか、成長を見越してあらかじめ大きな服を仕立てるものだけど、高位貴族のご子息がそんなことをするわけもない。常に寸法ぴったりのドレスをお召しになっているはず。

 領都フレアローズはまだ雪も溶けていないくらい寒いから冬着のままだけれど、もうそろそろ春ものを着られるはず。丈が足りなくなっているんじゃないかしら!?

 まずいわ。あまりに色んな事件が起きすぎて、こんなこともすっかり忘れていただなんて! 侍女失格じゃないのっ! あっ!? そもそもケイン様は、あまり荷物も持たずに養子として入られたのではなかった!? もしかして春物の衣類なんてお持ちじゃないのかも……!


「ラナ! ラナっ! ちょっと確認したいんだけどっ!」

「エリス? どうしたの慌ててぇ~」


 大急ぎでラナが居るはずのケイン様の部屋へ飛び込めば、ラナも掃除を終えて、ケイン様の今日の衣装を見繕っているところだった。それをいいことにクローゼットや衣装ケースの棚を片っ端から開けていく。


「やっぱり!」

「ひょわぁっ!? 何事ぉ!?」

「春服も夏服も一切ないっ!!」

「はぁっ!!」


 私の叫びに、ラナも漸く事態に気付いたようだ。さあっと表情から血の気が引いていく。


「ゆ、油断した――っ!! ここ、皇都より冬が長いからぁーっ!」

「そうなのよ、暦の上ではもう春なのよっ! それなのにっ……! ラナ、今すぐエルダ夫人に報告よっ」

「了解っ」


 ばたばたと部屋をもう一度整えて、私たちは大急ぎでエルダ夫人の元へ走る……ことはできないので、可能な限りの早歩きで向かったのだった。



 ***



 エルダ夫人は、流石だった。

 夫人はこの城に戻ってきて、ディアナ様とケイン様がエヴァローズ子爵領へお出かけになっている間に、春の衣類を手配していたのである。とっくに仕立屋の予定は抑えてあり、三日後に仕立てた服の微調整の為、城に呼んでいると教えられ、危うく膝から崩れ落ちるところだった。崩れ落ちずとも、私たちが血相を変えて夫人のところへ駆け込んだことで、今頃気付いたのかとお小言を貰う羽目になったけれど。


 ともあれ、そんなわけで、今日は仕立屋がやってくる日だ。お二方には二日前から予定を伝えている。サイズの調整に来るというだけあって、ほとんど仕上がっているのだが、飾りのリボンやボタンくらいは今からでも変更可能だとか。美しい主人をより美しく飾り立てる機会である。私もラナも、朝から大張り切りだった。


 もっとも、当事者であるお二人は、まったく興味はなさそうで、ディアナ様にいたってはうんざりとした様子すらある。おかしい。いくら子どもとはいえ、レースやフリル、綺麗なリボンに心躍らせるものだろうに。少なくとも私がディアナ様くらいの頃はそうだったし、妹たちだってそうだった。うちはあんまり裕福じゃなかったから、長女の私ですら、いとこのお下がりのドレスしか着れないことが多かったから、新しい服を仕立てるとなればそれだけで何日も前から楽しみで寝られなかったのに。


「……飾りは最小限で、動きやすければいいです」

「僕も、それでお願いします」

「そんなっ! もっとスカートをふんわりさせましょう!? 腰のところにこれみたいな、布で作った花飾りやリボンつけると可愛いですよっ」

「ケイン様もせめて外出着の上着のボタンはこっちにしましょうよぉ~!? この金ボタンかっこいいですよぉ!」


 見本を両手に持って、ラナとふたり力説するも、小さな主人達は乗り気じゃない。


「ええ……金ボタンとか、こわ……。うっかり落としちゃったらどうするんですか。これメッキじゃないですよね? 重いし」


 受けとったボタンを見て、ケイン様は眉をしかめた。確かに無くしたら怖い。怖いけど、上級貴族はそういうことはあんまり気にしない。管理に気を配るのは使用人の仕事だからだ。だけど……、そういえばケイン様は少し前までは男爵家にいたのだものね……。グローリア辺境伯家に養子入りした時にご実家から持ってきた荷物は数も少なかった。ご両親は倹約家だったのだろう。急に贅沢をしているようで気が引ける気持ちもわからなくはない。


「私たちのような幼い子どもが、あまり華美にするものでもないでしょう……」


 ケイン様に気を遣ってか、ディアナ様までそんなことをおっしゃる。ああぁ……北部一の大貴族に売り込めると大張り切りで見本を持ってきた仕立屋が困り顔だ。


「それに、先日あのような騒ぎがあったばかりです。魔獣に襲われた村の復興にもようやく着手したばかりなのだから、あまり散財するものでもないでしょう。どのみち来年にはまた成長して着られなくなっているでしょうから、最低限で構わな……」

「だっ、ダメですっ!」


 とっさに大声を出してしまった私に、ディアナ様はちょっと驚いたように少しだけ眼を見張った。ケイン様などぽかんと口を開けている。

 やってしまった。主人の言葉を遮ってしまうなど、マナーがなっていない。こほん、とひとつ咳払いをして、表情と姿勢を整えた。


「失礼いたしました。しかしディアナ様、お言葉ですが、このような時だからこそ、グローリア辺境伯家の威信を見せつける必要があるかと」

「ああ……。そうですね、わかりました」


 なんで今の一言で六歳児が理解するのよ、と言いたくなるところだけど、ぐっと口をつぐむ。


「では外出用と礼服は相応のものを用意してください。装飾は任せます。室内着はできるだけ動きやすく、装飾は少なめに。ケインのものも同じようにお願いします」

「……かしこまりました」


 後見人であり当主代行であったハンス様が引き起こした騒ぎがあっても、グローリア辺境伯家はびくともしない、健在である、と示すのは重要だ。本家のものが身につける衣類ひとつとっても、人々から注目されるだろう。あまり質素な装いをしていると舐められる。その意図は正しく汲んでもらえたけれども、やっぱりご自分で選ぶ気はないらしい。


「いいんですか? すぐ着れなくなるドレスを無駄に増やすくらいなら、村の復興費用とか河川整備とか城下町の上下水道整備に回したいっておっしゃってたのに」

「必要経費なら仕方ないでしょう。……それに、あるところがあるときに使わなければ、市場に金が流れないのだから」

「あー……。まあそれは確かに……」

「着れなくなったら、どうしたらいいのだろう。売ったら体面を傷つけることなるのか……?」

「高位貴族のそういう感覚、よくわからないんですけど……。ドレスとかは侍女に下げ渡すとか聞いたことあります」

「このサイズで着れる侍女はいないのでは……?」


 このドレスにはこのリボンはどうか、この飾りをここにつけたら……。そんな風に仕立屋と打ち合わせをする私とラナ。ディアナ様とケイン様はすっかり見学に回ってしまい、今は布や飾りの見本を大量に広げている私たちがちょっと離れたところに椅子を置いてちょこんと座っている。こっちに来て参加したらいいのに、こそこそひそひそと交わされる会話は、まったくちっとも子どもらしくない。


 最終的に、レイナード様に相談しよう、で話はまとまったようだ。今にも部屋から出て行きたそうにしているけれど、もう少しご自身が身につけるものに関心を持ってもらえないものだろうか……。いいえ、わかってる。わかってるわ。ディアナ様は一度説明されたことは絶対に忘れないから、今回仕立てるドレスや小物が、どこの産地の絹を使っているとか、職人の名前だとかまで、もう全部覚えていらっしゃるってことくらい。

 だけどそれって、自分の持ち物を管理するために覚えておくっていう意味でしかないのよね……。


 ある程度ものが決まって、サイズの微調整が終わったあとは、ディアナ様とケイン様はすぐさま退室されたけれど、二人分の春夏分の衣類という大量注文を請け負った仕立屋への気遣いは忘れなかった。急ぎで帰る必要がなければ、とお茶とお菓子を用意するよう言いつけて出て行ったのだ。

 仕立屋のマダム・カトレアと、彼女の店のお針子三名。昼頃四名で大荷物を抱えてやってきて、もう夕方に近い。店主のマダム・カトレアはともかく、お針子たちは手に職を持っているとはいえ、それほど裕福なわけではないから、お砂糖をたっぷり使った菓子などそうそう口にする機会はないだろう。

 大貴族の屋敷で、見るからに高価な茶器で、紅茶と見たこともないような綺麗なケーキやクッキーを振る舞われ、頰を紅潮させて喜んでいた。

 北部で一番の仕立屋で、いろんな貴族の屋敷を出入りしているはずのマダム・カトレアですら、こんなおいしいものは食べたことがない、と大興奮だ。


 驚くべき事に、話題の菓子類はケイン様のレシピだ。いったいどこでどう覚えてきたのか、ケイン様は料理長も知らないようなレシピをどんどん開発していかれる。料理長も研究熱心なものだから、すぐにそのレシピをものにしてしまって、さらに改良を加えていくものだから、ケイン様が来てからグローリア辺境伯家の食事はがらりと様変わりした。以前は味付けと言えば塩! という素っ気ない、無骨な印象の料理ばかりだったというのに。


 仕立屋一行が帰ったあと、部屋を片付け、私たちはディアナ様とケイン様の姿を探した。すると、代々当主が使用している執務室で、レイナード様と三人で大きな図面を囲んで何やら話し合っている。


「やはり衛生環境の改善の為にも、下水道の再整備は急務です。せっかく一部とはいえ、大ガロリア帝国時代の下水施設が残っているんですから」

「でもねぇ、これ、すっごいお金かかるよぉ? 大丈夫かなぁ?」

「でも一番かかるの人件費ですよね? 地下の掘削がもっとも大変な部分なんだから、そこは土魔法で掘っちゃえばいいんじゃないですか?」

「そうだけどね、それやってくれる魔法使いは集まらないよ。……うーん、いっそのことワシらでやっちゃうかい?」

「三人でいけますかね?」

「君たちの魔力量なら、何日かに分けてやれば、領都だけならなんとかなると思うよ。フレアローズ城だけなら一日で十分じゃないかな」

「まあ、そうですね、穴を掘るだけなら……」

「そうなると問題は、浄化槽をどうするかですよね……」


 なんだか良くわからないけれど、非常に真剣なご様子でディアナ様が訴え、渋るレイナード様を説得していたみたい。下水道って、たしかに大昔の遺構が一部残っているというのは学院の歴史の授業で習ったけど、まさかそれ? それを復活させようとしていらっしゃる?

 ドレスを選ぶのなんかそっちのけでしたかったのはそれなの?


 あまりのことに困惑する私たちに、気付いているのかいないのか。三人はあーでもないこーでもないと実に真剣かつ楽しそうに話し合っていらっしゃる。


「ねぇ、エリス」


 ぽそりと、ラナがつぶやいた。


「ウチのお嬢様たちってぇ、変わってるよねぇ」

「…………そうね」


 力なく、私は頷いた。

 だって、まったくもってその通りなのだもの。――変わってる、なんてひとことで済ませていいのかと躊躇うくらいには。





それではまた次の章にて。

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