午後四時十五分の映像
有馬慎吾と大津涼平は、それから丸二日、高坂早苗から渡された防犯カメラの映像を見続けた。外周道路に通じる業務用車両出入り口の映像である。
「おかしいなあ。なんで、なにも見つからないんだ?」
大津涼平は、疲れ切った顔をしている。
高坂早苗から渡されたハードディスクには、十五年前の一月七日の午前四時から、警察によってハードディスクが取り外される午後八時までの計五台の防犯カメラの映像が、コピーされていた。有馬慎吾と大津涼平は、その中の業務用車両出入り口の防犯カメラの映像に、別の日に撮られた映像が上書きされていると考えている。上書きされているのは、吉村達夫の乗った乗用車が出て行く午後四時十五分の映像である。
警察官や警察車両が出入りする午後七時以降の映像は、それが正しく録画されたものであることを全ての警察関係者が証言している。もし午後四時十五分の映像が上書きされているのであれば、それ以前とそれ以降のどこかに、映像が切り替わるわずかな痕跡が残されているはずである。そう思って、二人は鑑識も見逃した、そのわずかな痕跡を目を凝らして探し続けたのだ。しかし、まだ何も見つけることは出来ない。その日の映像は、全て連続的に撮影された正規のものであると、そう考えざるを得なかった。
「過去の映像を見て、同じものがないか、それを探した方が早いかも知れない」
大津涼平が背伸びをしながら有馬慎吾に言う。
「過去の映像?」
「そうだ。ホテルペルージュには、前の日も吉村造園が除雪のためにコテージの森に入っている。その日の映像が一月七日の映像と同じものかも知れない。あるいは、もっと前の映像か……。いずれにしろ過去のもので、一月七日と同じ映像がないかを調べるんだ」
「そんなもの、手に入るのか?」
「当時のことをよく知る秋里署のベテラン鑑識官に聞いたんだが、松本南署には過去一か月分の防犯カメラの映像が保管されていると言っていた。もっとも現物はホテルペルージュに返して、松本南署に保管しているのはコピーらしいが、それで十分だ」
大津涼平は、そのベテラン鑑識官にホテルペルージュの当時の防犯カメラの映像記録システムも聞いたらしい。それによると、ホテルペルージュでは、五台の防犯カメラで撮られた一日分の映像をそれぞれ五台のハードディスクに録画していたとのことである。
五台と言うのは、本館の宿泊客出入り口に設置された二台と、従業員通用口に設置された二台、それと業務用車両出入り口に設けられた一台の計五台である。
一台のハードディスクへの録画開始時間は、午前四時である。翌日の午前四時になると、自動的に別のハードディスクに録画が切り替わる。前日分のハードディスクの録画映像は、別のハードディスクに録画を行っている間に、画質を落としてDVDに移し替え、それが終われば、翌日の録画に備える。
DVDの保管期限は一か月であり、一月七日に警察が押収したのは、その日に録画されたハードディスクと、前日から一か月前までのDVDである。それらは全てホテルペルージュに返却されているが、どうやら高坂早苗がコピーしたのは、ハードディスクに残された一月七日の映像だけだったようである。
「慎吾。俺は今から松本南署に行って、そのコピーを借りて来る。作業は明日からだ」
大津涼平は松本南署からコピーを借りた後、今日は秋里署に顔を出すと言った。
「忘れられたら困るからな」
笑いながら大津涼平は出て行った。