48、世界を救わなかった者とお気楽な振りをしていた魔術師の未来譚
元ハインツベルク王と話をしてからどのくらい時間が経っただろうか。
カイン王子──今はもうハインツベルク王、カイン様か……──の、国王即位祝いのパーティーが催されていて、ウィンたちはそれに出席しているはずだが、会場の様子はどうなっているだろう?
本来ならば元ハインツベルク王もそこにいたはずなのだが。思い立ったらなんとやらなのか……なぜかハルナと顔を合わせるためだけに、この日、この時間を空けたらしい。
ウィンたちと違い、賓客にならない自分はパーティーに参加しても恐らく壁の花ですらない末端の存在と化していそうだったので、ハルナとしては助かったと言えば助かったが。
そんな事を考えながらウィンの部屋までの廊下を歩いていたら、ハルナを呼び止める声があった。
「ハルナさん!」
「ケイト!」
ハルナより少し後ろのほうからケイトが小走りにこちらへ近づいてくる。
「丁度、ハルナさんたちのお部屋に向かうところだったんです」
ハルナと同じく、ケイトもパーティーには参加していない組だったが、先ほど、ウィンの使いから部屋へ来るようにと呼び出しがあったらしい。
「何でも、『いいものを見せてあげる』ってことらしいんですけど……」
「いいもの?なんだろう?」
二人して首を傾げながら、部屋の扉を潜ると、そこにはウィンとアル、そして、ユキが待ち構えていた。
三人とも予定ではまだパーティーに出席しているはずである。
ケイトに連絡を寄越していたから、ウィンはパーティーを抜け出しているだろうなと予想出来たが、アルやユキまで居るとは思わなかった。
理由を訊ねれば、ユキが「ふっふ〜」と得意気に笑う。
「実はバートランドさんのお願いで向こうからコレを持って来てまして、ハルナさんに見せたかったんですよ〜!」
『コレ』と、差し出されたのは、ペットボトルに入った透明な飲料水だった。
かつてハルナに馴染みがあったもので、つい先ほど、元ハインツベルク王と対面する際に思い浮かべたばかりのものだ。
「ハルナさんが、なに味好きか、バートランドさんの話しじゃ分からなかったんで私のおすすめなんですけど〜」
異世界から世界を救うために召喚され、聖女として元の世界への帰還を果たしたユキは。自らの恋心を捧げた運命の相手、カイン王子の国王即位祝いに合わせて、再びこの世界に舞い戻った。
帰還からインターバルを置かずこちらに再召喚する体力や気力的な消耗と引き替えに、ウィンが要求したのが、この透明な液体入りのボトルであったらしい。
ユキのおすすめというそれは、見た目はあの日ハルナが手にしていたものと全く同じだが、貼られたラベルのみあの時のものと違っている。
ユキは、梨派のようだ。
「それから、付け合わせにと思って、こっちになさそうなお菓子をいろいろ見繕ってきましたっ!」
さらに、そう言ってユキが披露したのは、口に入れるとパチパチ弾ける綿菓子やラムネ菓子やガム、それから、中央に穴の空いた棒状のスナック菓子、カツを模した衣付きの薄く平べったい菓子など、駄菓子の定番と呼べる品たちだった。
それを見たウィンが、隣で「お菓子の選択と自分で作ろうと思わなかったところが称賛に値するね〜、さすが聖女サマ!」とユキに聞こえない小声で大変嬉しそうに呟いたので、ハルナは苦笑した。
ユキの持参した飲み物とお菓子を器に移すために、ハルナが、一旦、席を立とうとすればその場にいた面子が、手伝う……と、ぞろぞろついて来ようとする。
ウィンの部屋は二人で暮らしてる空間にしては広いが、食器の置いてあるスペースは全員で揃って作業をするには向いていないし、品出しするのにそんなに人員は必要ないので、家主のウィンとハルナ以外は居間兼応接に使う部屋で待機していてもらえるよう言い付けた。
食器にお菓子を盛り付けしていると、グラスにペットボトルから飲料水を注いでいたウィンが言う。
「実は、ふっとハルナが来た日のこと思い出してさ〜、ほんとはコレ、ハルナと二人で記念日……とはちょっと違うかな……そんな感じで飲もうと思ってたんだけど」
そう思ってユキに飲み物を頼んだら、「飲み物だけじゃなくてお菓子も持ち込んでパーティーしませんか!」と提案されたらしい。
「……で、それならケイトも誘って、ついでにアルバートも呼んでやるか〜ってことで、なし崩し的にこんな感じ」
やれやれだよ……と、口にしながらもウィンはそんなに嫌がってる風じゃない。
ハルナと一緒に居るようになって、魔力の反発に対抗する手段を得たからか、浄化の旅から帰って来た後のウィンは以前よりも他人に対して険のある物言いはしなくなった。
ドラグナーやハイネ・ハインリヒに関しては、態度に特に変わりはないけれど。前者は直ぐには素直になれない複雑な気持ちの表れの様だし、後者は……まあ、仕方がないだろう。
そんなウィンの変化に自分が関われたという事実が嬉しい。
ハルナ自身の変化にもウィンが関わっているというのが嬉しい。
「ふふっ」
そんな喜びと。それから偶然にも同じものを思い浮かべていたという事に、思わず笑いが溢れた。
「急に笑い出してどうしたのさ、ハルナ?」
「あのね……」
突然笑い出したハルナを不思議そうに見返すウィンに、ハルナはたった今思った内容を教える。
するとウィンは、何かを思い付いたように、ニヤリと笑った。
「じゃあさ、今ここで、二人っきりでこっそり先に乾杯しちゃおうか」
「あの夜みたいに?」
「そう、あの夜みたいに、二人っきりで」
「だったら、何の結団式にする?」
あの時はウィンの夢を叶えるための同盟だった。
だとすると、今は……。
「これからもずっとよろしく……ってことで」
「ええ、末永く一緒に居てね?」
お互いに顔を見合せ、カチリとグラスを合わせる。
「あーーーーっ!!遅いと思ったら、ハルナさんもバートランドさんもずるいっ!!!!!」
「……聖女サマ、間がよすぎ」
そうして、ユキを筆頭に結局狭いスペースに集ってしまった一同と。後から、「仲間外れにされた」と、どう見ても拗ねながら現れた新国王とそのお付きで、ハルナとウィンの部屋は当初の予定以上に賑わう事になった。




