電脳のティータ8
改稿済
手を離してくれないハイムに困って、ティータは椅子に無造作に座っているハイムの顔に、自由になる小さな手で触れた。
「私は…リム。ヒトではないから、ヒトに従うわ」
ただ妖精のような容姿のリムに憧れを抱く、気の毒なハイムに一時身を任せれば、気が済むのではないかと…思う。
「私は…そうされてきたわ。家畜以下ですもの、当然ね」
ハイムが何やら気づいて、顔を上げた。
「ティ…」
「どうぞ。お好きになさいな」
男の人は拒絶しなければ、じっとしていていれば、痛い思いはあまりしない。
ハイムが太い眉をひそめて、ほろりと涙を溢す。
「え…?」
そのままぎゅう…と引き寄せられハイムに抱き締められて、ティータは目を閉じた。
そのままじっとしていれば…そう腹を括ったティータが、力を抜いて次の行動を待っていると、ハイムが
「ティを踏みにじったの…誰だ?」
とティータの膨らみ掛けた胸に頭を付けたハイムが震える声で尋ねてくる。
「ガーランド王国の騎士…」
連れてこられた小屋でティータを犯した流れ騎士は、楽園騎士様一刀両断で始末したと聞いた。
だからフーパの屋敷にはびこっていたチロルハートが率いる遊撃騎士が、そうなのだろうと答えると、ハイムの抱き締める手に力がこもる。
「ティを辱しめたガーランドの騎士を一掃する。それまでは、友でいよう」
「とも…?」
「そうだ。ティは王様のお付きで、王様のリムだ。俺は王様の臣になるから、同じだ、仲間だ。ティも俺も王様の下で生きる無二の友だ」
ティータにはハイムの言うことが分からない。
ティータはいつもどこかに感情を置き忘れているような気が、自分自身に感じている。
最弱のリムであり、他のリムと違うような気がしていたが、ファナは
「ノーパソって言う『生きた情報電算鉄』と情報管理が繋がるために、感情が制御されているかもしれないなあ…どっかの話の受け売りだけど。ま、ティータは『電脳のリム』なんだよ」
と話してくれ、さらにティータの広いおでこをトントンとつつきながら、
「リムは火や土、風、水の自然を操るのだろうが、ティータは違う。『特別』なんだ。ファナと同じで。俺は特別二人と一緒にいるんだなあ…」
と付け加えてくれた。
ファナ様と同じで…特別…で…辺境人が等しくマスター…。
嬉しくて…泣きたくなったから、ファナが眠ったあと、一人でこっそりと泣いていた。
そして…ティータを好きだと言ってくれ、だからこそ『友』でいようと言うハイムの気持ちを知りたいと思う。
「友……ファナ様やマスターとは違う?」
ハイムが顔を上げて、涙が溜まった瞳を合わせてきた。
ジューゴと同じように黒い瞳だと思っていたのに、ハイムの瞳は焦げ茶に赤が縁取る美しい虹彩だ。
その瞳は綺麗だと、ティータは思う。
「そう、俺とティは同じところにいる友」
「リムと同じがいいなんて…。あなた…やっぱりど変態のお馬鹿さんね」
ハイムが首を縦に振り、
「じゃあ、リムはリムらしく、普通に過ごさせてもらうわ」
「もちろんだ」
「ありがとう」
部屋の中では自由にしていい…それだけでも嬉しくて、ティータはハイムから離れると、水ポンプから水を出し木桶に入れ、持ち上げようと腰を上げた。
「わっ…ティ!ちょっ…と…」
「ん?」
背後で座っているハイムから、小さな桃色袷が丸見えで、ハイムの鼻からはつ…っと、赤い血が垂れる。
「………ど…変態…だわ、あなた。」
「だってさあ、好きな女の子が、裸で目の前でよっこらしょしたらさあっ…」
あわてふためくハイムの様子が可笑しくて、ティータはそのまま、布を掛けずに夕食の準備に取りかかった。