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辺境の死体は今日もダルい  作者: 沖田。
第七章 電脳のティータ
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電脳のティータ8

改稿済

 手を離してくれないハイムに困って、ティータは椅子に無造作に座っているハイムの顔に、自由になる小さな手で触れた。


「私は…リム。ヒトではないから、ヒトに従うわ」


 ただ妖精のような容姿のリムに憧れを抱く、気の毒なハイムに一時身を任せれば、気が済むのではないかと…思う。


「私は…そうされてきたわ。家畜以下ですもの、当然ね」


 ハイムが何やら気づいて、顔を上げた。


「ティ…」


「どうぞ。お好きになさいな」


 男の人は拒絶しなければ、じっとしていていれば、痛い思いはあまりしない。


 ハイムが太い眉をひそめて、ほろりと涙を溢す。


「え…?」


 そのままぎゅう…と引き寄せられハイムに抱き締められて、ティータは目を閉じた。


 そのままじっとしていれば…そう腹を括ったティータが、力を抜いて次の行動を待っていると、ハイムが


「ティを踏みにじったの…誰だ?」


とティータの膨らみ掛けた胸に頭を付けたハイムが震える声で尋ねてくる。


「ガーランド王国の騎士…」


 連れてこられた小屋でティータを犯した流れ騎士は、楽園騎士様一刀両断で始末したと聞いた。


 だからフーパの屋敷にはびこっていたチロルハートが率いる遊撃騎士が、そうなのだろうと答えると、ハイムの抱き締める手に力がこもる。


「ティを辱しめたガーランドの騎士を一掃する。それまでは、友でいよう」


「とも…?」


「そうだ。ティは王様のお付きで、王様のリムだ。俺は王様の臣になるから、同じだ、仲間だ。ティも俺も王様の下で生きる無二の友だ」


 ティータにはハイムの言うことが分からない。


 ティータはいつもどこかに感情を置き忘れているような気が、自分自身に感じている。


 最弱のリムであり、他のリムと違うような気がしていたが、ファナは


「ノーパソって言う『生きた情報電算鉄』と情報管理が繋がるために、感情が制御されているかもしれないなあ…どっかの話の受け売りだけど。ま、ティータは『電脳のリム』なんだよ」


と話してくれ、さらにティータの広いおでこをトントンとつつきながら、


「リムは火や土、風、水の自然を操るのだろうが、ティータは違う。『特別』なんだ。ファナと同じで。俺は特別二人と一緒にいるんだなあ…」


と付け加えてくれた。


 ファナ様と同じで…特別…で…辺境人が等しくマスター…。


 嬉しくて…泣きたくなったから、ファナが眠ったあと、一人でこっそりと泣いていた。


 そして…ティータを好きだと言ってくれ、だからこそ『友』でいようと言うハイムの気持ちを知りたいと思う。


「友……ファナ様やマスターとは違う?」


 ハイムが顔を上げて、涙が溜まった瞳を合わせてきた。


 ジューゴと同じように黒い瞳だと思っていたのに、ハイムの瞳は焦げ茶に赤が縁取る美しい虹彩だ。


 その瞳は綺麗だと、ティータは思う。


「そう、俺とティは同じところにいる友」


「リムと同じがいいなんて…。あなた…やっぱりど変態のお馬鹿さんね」


 ハイムが首を縦に振り、


「じゃあ、リムはリムらしく、普通に過ごさせてもらうわ」


「もちろんだ」


「ありがとう」


 部屋の中では自由にしていい…それだけでも嬉しくて、ティータはハイムから離れると、水ポンプから水を出し木桶に入れ、持ち上げようと腰を上げた。


「わっ…ティ!ちょっ…と…」


「ん?」


 背後で座っているハイムから、小さな桃色袷(あわい)が丸見えで、ハイムの鼻からはつ…っと、赤い血が垂れる。


「………ど…変態…だわ、あなた。」


「だってさあ、好きな女の子が、裸で目の前でよっこらしょしたらさあっ…」


 あわてふためくハイムの様子が可笑しくて、ティータはそのまま、布を掛けずに夕食の準備に取りかかった。

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