電脳のティータ6
改稿済
カタカタカタ…打ち込んでいく文字も分からないのに、それが正しいと理解だけは出来た。
私…どうして…。
座り込むティータの前に飛んで来た目玉がポンチョの端を掴むが無視をする。
「これで…終わり」
シムテム…正常
シンクロ…終了
右端の大きな升目をタン…と押すと、暴れまわっていた目玉が一斉に動きを止めて、ティータの元に集まってきた。
「お…わっ!」
羽目玉全部がティータの足元に降り立ち、瓦礫から抜け出たハイムがファナと一緒に来てくれ身構えたが、
「大丈夫、無害」
とティータは小さくため息を漏らす。
「ノートパソコン…ノーパソかあ。ティータ、お前…これで制御した…のか?」
「マスターの血で覚醒して生まれたてで、混乱していたのよ。システム同期して止めてみたわノーパソ…?この箱の名前…そう、あなた、ノーパソと言うの…」
「いや、あの、ノーパソってのは、ノートパソコンの略で…」
ファナが何か言いたそうだったが、
「ノーパソ、よろしくね。私…ティータ」
と、ジューゴを無視してノーパソに挨拶をする。
ノーパソは、上の光る板に
『了解、ティータ』
と自動的に文字を入れてくれ、
『私たちのマスターは、血をくれた者』
と付け加えた。
私たちのマスター…
ティータのパートナーであるノーパソを『生きた鉄』として起こしたのは、生きた死体でありファナの魂である重吾だ。
座り込んでいたティータは大きな瞳で、ファナを見上げた。
ファナは大人しくなった羽目玉を手のひらに乗せている。
「王様…大丈夫か?」
「いやあティータ。まさか、こいつが携帯電話の成れの果てとは…」
「ケータイデンワ?なんだよ、それ」
「辺境の便利通信アイテ…ティータ、どうした?」
「私…私…リムとして…マスターと呼びたい…」
マスターと唇に乗せると、胸の痣が光り出し、ノーパソの痣まで輝く。
「ティータ…リムが!」
ティータのリムの輝きを、驚きながら喜んでくれるファナのことが嬉しかった。
「マスター、唇を…」
ポンチョのリボンを外し開いた胸のリムの光を見せ、ファナの中にいる重吾のキスを待っていると、サラサラ金髪の頭をばりばり掻いたファナがそっとティータの肌に唇を寄せる。
温かい唇が触れた途端、全身が疼くような感覚で満たされ、ティータは身体が熱くなり、小さな甘いため息を噛み殺した。
これで…私もファナ様と一緒…ファナ様と一緒に生きて、一緒に死ぬことができる…ファナ様を一人にしないもの。
「この子にも…」
「え、ノーパソにもか?」
ティータが差し出すと、
「ティータを頼むよ」
とリムの刻印に唇を押し付けてくれ、ティータは安堵する。
「ファナ様、この子たちはなんですか?」
羽を閉じてじっとしている目玉は、まるで黒い桃のようなつるりとした丸い形で、大きさまで良く似ていた。
「あー…確か、王様、尻って呼んでたよな」
目を逸らしていたハイムが呟くと、ティータも思い出して頷く。
「尻…確かに、尻の形してる…さすが辺境マスター、名前まで辺境式なのね…」
「や、違うって!発音が違う!人間のケツ、尻のことじゃなくて、確かSpeech Interpretation and Recognition Interfaceの略で、ノルウェー語で「勝利へと導く美しい女性」という意味を持つ女性の名前にもなって…って、お前ら、聞いてないし!」