電脳のティータ3
改稿済
風穴への道は、柔かなうねりを持つなだらかな道で、夏なのに涼しくてティータは開いた窓から森を見る。
死体の重吾とファナが前列に乗るランクルから見ていると、兎が飛び上がり雉がとことこと逃げていくのが滑稽で、ティータは口許で笑ってしまった。
「ティータ、森が綺麗だなあ」
後部座席でティータと一緒に座っているハイムが、嬉しそうに話してくる。
「そうかしら。私には普通にしか見えないわ。それより、名前で呼ぶのはやめてくれない?」
ハイムに素っ気なくするとと、
「あ…すまない……」
と、ハイムが不謹慎にもはしゃいでいるとたしなめられたと勘違いしたのか、しょぼんと身体を小さくする。
ハイムには話したほうがいいのかしら、私、嫌われることには慣れているわ。
それでもティータは迷っていた。
「お…これか?」
森は深くなり、木々が織り成すような鬱蒼とした壁に突き当たり、ランクルが停止する。
「王様、ここはアギト川の源流のはずなんだが、俺が前に見たところ、立木に蔓草が巻き付いてとてもじゃないが入れない」
高い緑の壁は棘のある蔦や蔓草で容易には上れそうもなかった。
「大丈夫、ファナ様がいるから」
ティータはランクルの中で、はっきりと告げる。
「ファナ様は風穴の緑の扉を開くことができるわ。ここはアーバー グランドの中でも時空が違うの」
ティータの頭の中には楽園全ての口伝えが入っており、何も知らないファナの支えになる知識があった。
「ファナ様、外へ」
「お、おう」
ティータはファナの手を掴むと、ランクルの前に立ち耳打ちをする。
「できそう?」
ファナが頷き仕方なさそうにポンチョを頭から脱ぎ始め、ハイムを慌てさせたが、余計なものをつけていてはモルトの力は発揮できない。
「これで…いいのか?」
不安そうなファナが両手を伸ばして緑の壁に触れ唇をつけ、
「私はモルト、お前の主、お前の中心」
そして唇を離し、胸のリムを輝かせながら、
「火土風水光闇の加護を持ち、時空を司るモルトが命じる。風穴への道を示めせ!」
と言い放った。
モルトの時空を歪ませる力に反応して、緑の壁がうねり歪み、丸い穴が開いていく。
ファナがほ…っと息を吐き、ティータに振り向いた。
「すぐに閉じるわ。ファナ様、ランクルに」
「わかった」
ファナと二人ランクルによじ登り、空間が歪んでいるのかもやもやとした蜃気楼のような空間に向かうようファナに言うと、ランクル一気に加速してその穴を駆け抜ける。
「わっ…」
「なんだこれは…」
ファナとハイムの異口の口走りの中で、ティータは目を見張った。
かなり広い所に辺境の物体不明の『遺物』が散乱しており、低い草が生い茂る真ん中には美しい湖が出現し不思議な光景が広がっている。
ランクルやトンファ、ガンクルは元々死体の重吾が持っていたから、ファナになったにしてもなついていたのかもしれない。