そういえば、君も好きだったね
俺は嫌な予感がしつつも、すぐさま振り返る。だが、嫌な予感と言うものに限って当たるものだ。
背後に居たのはオーク達である。槍を持ったオークが三匹。
うかつだった。
メーティスにギャングプテラの戻って来る時間は尋ねてはいたが、他の魔物については尋ねていなかった。
ホワイト茸の群生地には、他の魔物はあまり現れないと聞いていたため油断していたのだ。オークの口元にはホワイト茸の食べかすがついている。
そういえば、豚ってキノコ好きなんだっけ? トリュフでも食ってろ。
「シビル、一応聞くけど……貴方、元冒険者なのよね。オーク倒せたり……」
「勝てると思うか? それができるなら俺は冒険者やってるよ……」
俺はペーパー冒険者に過ぎない。
「逃げるわよ!」
ネオンの叫びと共に、俺達はオークとは逆方向に走り出す。逃げた俺達を見て、オーク達も全力で追ってくる。
お前ら、キノコ目当てじゃなかったのかよ!
『どちらに逃げればいい?』
メーティスに尋ねるも返事はない。イエス、ノーで答えられる質問しか答えてくれないからだ。どうやら突然の襲撃にパニックになってるらしい。
走っていると、目の前に洞穴が見えた。
『洞穴に入った方がいい?』
『ノー』
あそこに入るのは駄目なのか。
「ネオン、中には入るな! どうやら駄目らしい」
「分かったわ!」
『洞穴より左に逃げるべき?』
『イエス』
「左に逃げるぞ!」
ネオンに指示を送る。木々の生い茂る森の中、草木をかき分けて駆けおりる。オークの速さはどうやら俺達よりわずかに遅い。
逃げ切れる!
そう考えていると、後ろで声が上がる。
「きゃっ!」
ネオンが駆けおりているなか、石に躓いて転んでしまったのだ。
「ネオン!」
俺もそれを見て、足を止める。だが、オークは俺達のトラブルなど考慮することも無く全力で走ってきている。
まずい、このままじゃ。
ネオンは口を震わせて、絶望に染まった顔でこちらを見ている。
俺も恐怖で足が震えている。今すぐ颯爽と助けに行きたいのに足が動かない。怖いのだ。きっとネオンも気付いているのだろう。俺達では勝てないことに。
俺は剣を握る。昔からよく剣は握っては居た。成長しなかっただけで。人を斬るのが怖かった。斬られるのが怖かった。俺は臆病者だ。それは今も何も変わっていない。
もっと鍛錬をすればネオンを悠々と助けられたのか? だがそれは無意味な仮定だ。震えは収まらない。が、震えた足を無理やり動かし、ネオンの元へ走り出す。そしてそのままネオンを抜かすと、オークの前に対峙する。
「ネオン! 立て! 時間を稼ぐ!」
俺の震えた大声を聞いて、慌てて立ち上がる。膝からは血が流れている。だが、応急処置をする余裕なんてなかった。
「シビルは!?」
「すぐに追いつく! 俺に生きててほしけりゃ先に行け!」
それを聞いて、ネオンは走り出す。
「お願い、死なないで……!」
話している間にもオークは目前まで迫ってきていた。
メーティスに聞くまでもない。勝てはしないだろう。俺は剣を握り襲い掛かった。俺は剣をオークに向かって振り下ろす。
オークは軽く躱すと、その槍で突きを放ってきた。
「ガッ!」
よけきれずに、右腹部が貫かれる。だが、これで距離はいっきに近くなった。
「文明の利器を舐めるなア!」
俺はポケットにしまっていた、赤い玉をオークの目に向けて放つ。それは見事に直撃した。
『グオオオオ!』
それを受けたオークが悲鳴と共に地面に転がった。
赤い玉の正体はギルドで買った香辛料で作られた護身用武器である。刺激物であり、目など粘膜に当たると激痛と共に、一時的な盲目状態にできる品物だ。
原材料が香辛料のため一個10,000Gもしたが、効果は中々。
仲間の突然の変貌に他のオークも動きが止まっている。
「今のうちに、それ!」
俺は地面に白い玉を叩き付ける。それにより周囲が煙で包まれた。視界が煙で埋まった隙にネオンの元へ全力で走り出した。
『まっすぐ降りればネオンに会える?』
『ノー』
『少し右?』
『ノー』
『少し左?』
『イエス』
俺は左に少し逸れながら山を下っていく。しばらく降りると綺麗な青い髪が見える。
「ネオン!」
ネオンが俺の方を振り向き、泣きそうな顔から一転くしゃりと笑う。
「シビル! 無事だったんだね!」
「ああ、なんとかな。話はあとだ。このまま降りるぞ!」
「うん!」
シビルはメーティスに魔物の位置を尋ねつつもどんどん下っていった。
日が暮れ始める頃、ほうほうのていでデルクールに戻って来ることができた。
「た、助かった……」
「本当に。死ぬかと思ったわ」
俺もネオンも助かった喜びと疲れで、地面に倒れ込む。
「まさか、ギャングプテラじゃなくてオークで死にかけるとは……」
「私もオークがあそこに来るなんて知らなかったわ。これからは他の魔物も気をつけましょう」
「ちょっと教会に手当してもらってくるわ。血収まらないし」
「その方がいいでしょうね」
俺は教会に向かい、治癒師に怪我を見せる。
「結構がっつりと怪我されましたね。この怪我なら中級治癒魔法が必要なのでお値段もかかりますよ」
「お願いします」
教会も慈善事業ではない。俺は三万Gを支払い、治癒魔法をかけて貰った。もう殆ど金がない。なんとか血が止まり、傷も塞がった。完治とはいかなかったが、これで命にかかわることは無いだろう。
「これで命に関わることはありません。しばらくは激しい運動は控えた方がよいですよ」
「分かりました」
俺は突然の出費に悲しみつつも、教会を出た。
教会の外では、ネオンが俺を待っていたようだ。
「ネオン、ホワイトオパール茸の買取どうする? 明日行く?」
「いや、まだ時間があるから今日行くわよ!」
目が完全にお金になっていらっしゃる。きっとネオンも残金があまりないのだろう。
俺はネオンに連れられて、商人ギルドへ向かった。
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