襲来
翌日、朝から俺達四人は錬金術師ゼガルの家の前に居た。
「ゼガルさん、爆弾を受け取りに来ました」
ノックをすると、しばらくして扉が開いた。
「こっちにある。来い」
ゼガルは相変わらずぶっきらぼうに中に案内する。中には、大きな樽が置いてある。一・二メートルほどはありそうだ。
「中には爆発物がぎっしり詰まっている。この紐を引き抜いて七秒ほどで爆破する。一個が限界だ、外すなよ」
俺はその大樽を担ぐ。
重いな……これ! だけど持てない程じゃあ無い。臆病者とは言え、無駄に鍛錬はさせられていたのだ。
「大将、持てるか?」
「余裕だ、任せろ」
なんとか投げることもできそうだ。だが、俺も相当近づかないと厳しいだろうな。
「ゼガルさんは逃げないんですか?」
「逃げようかと思ったが、面倒だ。いつも通り過ごすことにするよ」
「いざとなったら逃げる準備をしてくださいね」
「分かっている」
話は終わったのか、ゼガルが席を立つ。俺達も伸鉄棒を取りに工房へ向かおうと家を出ようとすると、ゼガルから再度声がかかる。
「シビル。メイの形見を、商品なのにノモス爺に安く譲ってくれたらしいな。ありがとう。お前の勝利を祈っている」
ぶっきらぼうなゼガルなりの激励だろう。
「期待して待っていて下さい」
俺は笑いながら言った。
「まだ出来てねえだって!?」
続いて向かった工房で、ディラーが叫ぶ。それを聞いたドワーフのオヤジが顔を歪ませる。
「せかすんじゃねえよ。こっちも寝ずにやってんだ。どうしても、硬度を上げると、伸びがわるくなっちまうんだ。調整が難しい。おとなしく待ってろ」
俺は事前に知っていたが、そう言えばディラーに伝えていなかった。
「間に合わなかったら、洒落になんねえぜ? ただ口が空くのを待って投げるしかねえ。そんなの、閉じられて終わりだ!」
「うるせえ! 黙って待ってろ!」
ディラーとオヤジが喧嘩を始めてしまった。だが、メーティスさんが言うには、グランクロコダイル戦には間に合うはずだ。
これは間に合うと言えるのだろうか? と思うものの今更それを言っても仕方ない。
「ディラー、オヤジさんを信じておとなしく待っていよう」
「まあ、もうそれしかねえがよ」
俺の冷静な対応を見て落ち着いたのか、ディラーも腰を下ろす。
「大丈夫だ。ちゃんと間に合う」
「お前さんのスキルなら、これが間に合うかも分かってるのか?」
「ああ。おそらくぎりぎりだ。開戦に間に合うかは怪しい。だが、仕方ない。それまで俺達は体力を温存しよう」
俺達は工房の前で、ただ完成を待った。
デルクールの各門付近には、監視用の側防塔がある。塔の上には見張りが立っており、周囲を見渡している。勿論西門も同様である。
だが、魔物が町を攻めてくることなど、ここ何十年一度もなかった。そのため見張りも一人だけ、警戒心も低かった。
西門付近の側防塔で見張りをしている兵士も同様である。そして丁度十二時を告げる綺麗な大鐘の音が、デルクールに響く。
「もう昼か。はあ、暇だねえ。まだ門兵の方が、話し相手が居る分ましってもんだぜ」
男は暇そうに、前をぼんやり見つめていた。だが、前方から砂煙が上がっているのが見える。
「ん? 今日どっかの騎士団の受け入れなんてあったっけ?」
男は前方の砂煙は騎士団の行進かと考える。だが、段々その距離が近づくにつれ、血の気が引いてきた。
「おいおい、あれ……魔物の群れじゃねえか! 嘘だろ!? 今までそんなこと一度も……」
突然の事態にパニックになりつつも、彼は叫ぶ。
「おい! 魔物の群れだ! 今すぐ応援を呼べええええ!」
「何を言って……」
下で門を守っていた兵士達は何の冗談かと思いつつも、前方を見る。確かに砂煙が上がっていた。
「本当だ! 応援を!」
門兵はすぐさま応援のために上官の元へ走った。
魔物の群れの情報を聞いた兵舎は大騒ぎだ。近年攻められることが無かったため、素早い対応とは言えなかった。
その様子を見て、すぐさま青い顔で動いたのはイヴから事前に情報を聞いていた赤髪の兵士である。
「う、嘘だろ……!」
男はすぐさま西門に駆けると、側防塔から見える魔物の群れを見て、絶望に染まる。
「あ、あの女の言うことは……本当だったんだ! ならばあの群れのボスは、グランクロコダイル! は、早く領主様にも伝えないと! 後、王国にも応援を。俺達だけで――」
B級魔物に勝てる訳がない。その言葉だけはなんとか飲み込んだ。赤髪の兵士はもつれる足を無理やり走らせ、群れのボスの情報を上に伝えるために走った。
群れのボスがグランクロコダイルであることを知った騎士団上層部の顔は暗かった。倒す方法が見当たらない。
「もうすぐ、群れが城壁に辿り着きます!」
「領民たちを、東門側から逃がした方がよいのでは?」
「各門にもレッドクロコダイルがたかっておるわ!」
「数が多すぎる。五百じゃきかん!」
上層部は混乱の最中にあった。だが、魔物達はそれを待ってはくれなかった。
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