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エンリケ

 扉の外がなにやら騒がしい。


「お前、今度こそちゃんとしろよ! 毎回すぐクビになりやがって。余計なことは喋るんじゃねえぞ?」


「分かってますよ!」


「もう呼ばれているみてえだ! 行け!」


 なにやらおっさん達の口論の声がする。既に嫌な予感がした。

 扉を開けて現れたのは、式典で羽織るような豪奢な服を着た男だった。三十代くらいだろうか、小枝のような細い体。灰色の髪を七三分にして、丸眼鏡をつけている。

 男は堂々とした足取りで椅子の前に立つと、声を上げる。


「おめでとう、この領の繁栄は約束されました。そう、私が来たのですから!」


 男は高らかと宣言する。男は呆気にとられているこちらに気付くこともなく、話し続ける。名前も名乗ってないが、事前に手に入れた情報ではエンリケというらしい。


「皆、頭が悪そうですねえ。まあ、よいでしょう。私を雇いなさい! そうすれば成功も同然です!」


 なんだ、こいつ。やべえのが来ちまったよ。


「斬るか?」


 シャロンが剣の柄に手を置きながら、顔を引きつらせている。

 斬ってもらったほうがいいか?


「まだ何も聞いてないから」


 俺がシャロンを鎮める。


「聞かなくても分かるだろう? こんな奴雇ってられるか!」


「なぜですか? ただの貴族に私の素晴らしい英知溢れる施策は理解できないからでしょうか?」


 エンリケは本当に分からないといった表情で首を傾げる。


「お前みたいな馬鹿、雇えるか! とっとと帰れ!」 


 シャロンがしっしっ、と手でジェスチャーをする。


「まあまあ。その英知に溢れる施策とやらを聞かせてくれないか?」


「仕方ありませんね。まず一つは税制です。確かクラントン領時は税制が五十五パーセントだったはずです。ですが、これは高すぎますね。これでは農民達は日銭を稼ぐことで精一杯です。税率が下がることで余裕が出来たら、農民達ももう少し食事以外にも消費するようになるでしょう。そうなれば、領内の消費が盛んになり、産業の発展にもなるでしょう」


 先ほどまでのぼけた発言と違い、急に知性のある内容を話し始めたぞ……!

 しかもそれは俺が昔ロックウッド領で行っていた施策と同じだった。


「ほう……面白いな。何割まで下げる?」


「そうですね……三割ほどまでは下げたい所です」


「なるほど。他にはあるか?」


「そうですね……やはりグロリア領の売りはその立地を活かした交易でしょう。ここの立地は素晴らしい。だが、関税が少し高いですね。そのせいで商人達の一部がここを避けて通っています。後五パーセントほど下げるだけでここを訪れる商人は三割増えるでしょう」


『この施策は正しい?』

『イエス』


 こいつ……頭はおかしいが、馬鹿では無いらしい。


「ちなみに今までは何を?」


「残念ながら、今までの貴族は誰一人私の凄さを理解できなかったのです。仕方のないことです。私が賢すぎるが故、天才ゆえの苦悩と言えるでしょう」


 うーん、やっぱ馬鹿だわこいつ。

 その後他にも聞いたがどれも効果はある。文官としての才能はあるのだろう。


『採用すべき?』

『イエス』


「採用だ、エンリケ。よろしく頼む」


 その言葉を聞いたエンリケの顔が輝く。


「なるほど。私の凄さを見抜く力はあるようですね。後悔はさせませんよ」


 眼鏡くいっ、してんじゃねえよ。

 心配だ。上手くやれるのだろうか……。


「こやつを雇うのか……」


 驚くグスタフの肩に手を置く。


「この馬鹿の手綱を握るのは君だ。上手く乗りこなしてくれ。乗りこなせば名馬なはずだ」


「一流の騎士でも乗りこなすのが難しそうだ……」


 その後も多くの面接があった。個人面接じゃ一生終らなさそうなので途中から集団に変えたくらいだ。驚いたのは獣人の希望者が多かったこと。白虎族が俺に従っていることが獣人の中でまことしやかに広まっているらしい。

 獣人をしっかりとした待遇で正式に雇う領主軍は少ないらしく多くの獣人達が集まった。採用者の四分の一は獣人となった。

 兵士を千人、文官を百五十人新規で採用した。

 貰った支度金は多くが失われてしまった。

 こうしてなんとかグロリア領は動き始めた。

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