あいつが……
が、俺は事務作業に忙殺されていた。俺今日何時間寝たっけ? ブラック過ぎない?
エンデが亡くなった後、溜まっていた仕事を今行っているせいだ。
目の前にも多くの文官が必死で手を動かしている。
「そういえば、息子のカルロはどうなったんだ?」
俺はグスタフに尋ねる。
「……カルロ様もお亡くなりになりました。残ったのは奥様だけです。奥様も今はここを離れました」
グスタフは顔も上げずに答える。
「そうか……」
沈黙がその場を支配する。この話は止めよう。
俺は忙しい合間に手紙を書く。ある人達に男爵になったことを伝えるためだ。
ようやく、少しは恩返しができるな。
俺は手紙を配達人に手渡す。
届くといいんだけど。そうぼんやりと考えていると部屋にノックの音が響く。
「リズリー様が来られました」
久しぶりの上司の訪問だった。
「お久しぶりです、リズリー様」
リズリー様を応接間に案内すると、俺は頭を下げる。
「忙しい時期にすまないな、シビル。もう部下というより、同僚になってしまったな」
「いえいえ、リズリー様のことは上司だと思っておりますよ」
世間話をしていると、リズリーさんは真面目な顔に変わる。
「三日後に、バーナビー公爵に呼ばれているようだな」
切り込んできた。これが聞きたかったのだろう。
お前は靡かないよな、と釘を刺しに来たのだ。
「今の私は、リズリー様あってのものです。裏切ることなど、ありえません」
俺の言葉を聞いて、リズリーさんの顔から緊張感が抜ける。
「すまんな……。シビル、お前を疑っている訳ではないんだ。だが、奴のこととなると冷静さを欠いてな」
「リズリー様のために情報でも奪って戻って来るんで安心してください」
「無理はするなよ。奴は……表の顔とは別に冷酷な男だ」
そう。裏社会のドンと言われるドン・バーナビーなのだ。
「ご安心を。策はありますので」
俺はにっこりと笑った。
「そうか。お前は今まで何度も修羅場をくぐってきたものな。初めに会った時より、随分頼もしくなった。次来るときは、叙勲祝いも持ってくるよ」
「期待してます」
俺はリズリーさんと別れた後、馬車に乗りバーナビー領へ向かった。
(あいつだ……あいつが全部悪いんだ。あいつが分を弁えずに調子に乗ったから……)
グロリア領を死んだ目でフラフラと歩きまわる男の姿があった。
服はボロボロで、何をやらかすか分からないそのぼんやりとした目を見て、領民は彼を避けるように通り過ぎる。
(俺が必ず正してやる。ただじゃすまさねえ。お前は必ず俺が殺してやる。お前さえいなければ……)
男は路地裏で短剣を出し、邪悪な笑みを浮かべていた。
「ふふふ……ふふふふふ。ははははは!」
男は亡霊のように闇に溶けていった。
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