ロックウッド領の農民達
ロックウッド領内のとある村。小さな家がぽつぽつと点在しており、土地の多くが畑である。当然村にいる者も皆農民であり、日々汗をかき働いている。その農民たちが、鍬を置き話し合っている。顔はどこか暗くとても明るい話をしているようには見えない。
「長男だったシビルさん、国から追い出されたらしいだね」
「当主さんの話だと、税金の着服? ってのをしてたらしいけど、本当だかねえ。税金も下げてくれたし、あの人の嵐の予報は本当に当たるから助かってたんだがなあ」
シビルは税金の着服という汚名を被されていた。シビルはメーティスを使い、農家にとって死活問題である嵐をあらかじめ予測し、村に伝えていた。それでも被害が出た場合、手厚い補償を行っていた。
「分かる。皆、予報を信じて動いてたもんな」
「あの人が消えてからもう嵐も分からねえし、税金も上がっちまったなあ」
「やっぱり次男が駄目なのかねえ」
「有能な兄を蹴落として、とはひどい話だよ。帰ってきてくれねえかなあ」
ロックウッド領の騎士達からの評価と違い、農民たちからシビルの評価は非常に高かった。今までの領主と違い、下のことを考えた政治を行っていたのだから当然と言えるだろう。
領内で、少しずつだが着実に政治に不満が出て来ていた。最近まで良かったためなおさらだろう。特に農耕事業が途中で止められた村の不満は大きかった。
ロックウッド家の敷地内ではある男が鍛錬を行っていた。剣閃の速さは凄まじく、常人では目で追う事すらできないだろう。だが、どこか剣閃は荒れており、斬られた藁人形は荒々しい斬り口をしていた。
「あの臆病者が……とっとと死ねばいいものを……」
憎々し気に呟くと、藁人形を思い切り蹴り飛ばした。この男こそ、ハイル・ロックウッド。シビルの実弟である。綺麗な金髪を下ろしており、その相貌は整っている。大きな青い瞳に、筋の通った高い鼻はとても絵になった。だが、とても邪悪な顔つきが、整った顔を台無しにしている。弟だけあって、顔自体はシビルによく似ていた。
「農民に媚びを売って、人気取りたあ……弱いあいつらしい」
昔からハイルはシビルを見下していた。三つ下である自分より弱い。昔からロックウッド家では力こそ全てと教えられてきた。そのため自分より弱いシビルが次期当主になるなど彼からは考えられないことだった。
正直、追放など手ぬるい、処刑すべきだと考えていたが流石に弱いだけで処刑は外聞が悪いことは分かっていた。そのため配下に暗殺を命じた。だが、結果は失敗。
そのうえ、農民の中ではシビルが当主になることを望む声があることにも気付いていた。
「無能共はこれだから……。馬鹿なことを言った農民共は一人残らず殺してやる」
歪んだ笑みを浮かべたハイルが、館の中へ消えていく。この処刑は農民たちの更なる反感を生むことになる。





